京王線「八幡山」駅から徒歩10分のところに、マスコミ関係者や学生などが利用する「大宅壮一文庫」がある。評論家の大宅壮一が亡くなった翌年の1971年に創立した雑誌図書館で、大宅が遺した雑誌コレクション約17万冊を引き継ぎ、現在では明治以降の資料を約78万冊所蔵する。

紙の書籍や冊子を好むひとにとっては、この上なく居心地の良い場所だったりするが、大抵は調べものをするために訪れる。そんな大宅壮一文庫にZINE(フリーペーパー)が置かれている。



70〜80冊はあるだろうか。同文庫の入り口に設置されたラックには、東北大学病院の広報誌『hesso(へっそ)』から、佐賀と長崎が共同で手がける観光情報誌『SとN』まで全国のZINEが並ぶ。しかも無料で持ち帰っては申し訳ないほど、どれもクオリティーが高い。そしてラックを見回すと、初見のZINEがいくつもある。

このラック、一利用者である筆者が見かけるようになったのは、ここ最近である。なぜ、ZINEを置くようになったのだろうか? 大宅壮一文庫の事務局長 富田さんと同文庫職員の岡さんに伺った。

大宅文庫来館者へのサービス
富田「ZINEを置き始めたのは昨年の6月ごろです。無料ですし、来館される方にも楽しんでいただけるだろうということで置くことになりました」

ネットで検索が容易にできることや出版不況で利用者が減り、近年大宅壮一文庫は経営難に陥っていた。同文庫は運営内容を一部変更、クラウドファンディングで支援を募るなど、様々な対策を講じてきた。ZINEの設置を提案したのが職員の岡さんだ。もともとZINEが好きで、普段から本屋や駅のラックなどに注目し手に取っていたという。

岡「うちは資料の館外貸し出しをしておらず、持ち帰れるのはコピーのみです。ZINEなら持ち帰っていただけますから」



富田「私はフリーマガジンをあまり読んでいなかったのですが、見ると『へぇ〜』と感心しています。無料で配布しているものですが読み捨ててしまうにはもったいないレベルで、良くできているものが多い。例えば地域のPR誌は、『自分たちのことをもっと知ってもらいたい』『地域を元気にするんだ』という熱気にあふれています。読み物としても面白いと思います」

岡「そうなんです。地域のPR誌はレベルが高いんですよ。有料の雑誌と比べても遜色のないものがたくさんあるんです。企業・団体の広報誌にも素晴らしいものがあります。学生さんが作る雑誌なども制約がない分、自由で魅力的なものが多いですね」

岡さんが置くZINEは、文芸、科学と学術的なものからアイドルテーマにしたものまで、ジャンルは様々。多様性を意識してセレクトしているそうだ。

岡「ZINEを補充する時に、なくなった冊子のジャンルでその日、どんな方が来館したのか想像できるんですよ」

富田「置くようになって気づいたのですが、新宿区の情報誌『新宿plus』はなくなるのが早いんです。東京に在住しているなら新宿について知っているものだと思っていましたが、意外に需要があってそうでもないんだなと」

岡「(大宅壮一文庫には)新宿を経由して来る方も多いですからね」

思いがけない出会いを提供したい
最後、お二人にZINEを提供することについて、今後の展望を聞いてみた。

富田「こういったフリーペーパーは、駅のラックなどに置いてあって、地域も限定されていることが多いですよね。それらが一カ所に集約する価値はあると思います。

もし、フリーマガジンを作っていて置いてほしいという方がいればぜひ連絡をください。私たちも助かりますし、当館はマスコミ関係者などが訪れる場所なので、そういった方の目に入るきっかけにもなると思います」

岡「大宅壮一文庫は情報提供をする施設としてこれからも、情報収集をする方のお手伝いをしていきたいと思っています。ZINEとの出会いもその一つになればいいですね。資料のコピー(同文庫ではスタッフが担当)を待つ時間や、館内へ出入りする時に、思いがけない出会いが提供できればと思います。本当はもっと置きたいZINEがあるのですが、スペースの問題で出せていないものもあるんです。随時内容は入れ替えていくので、気になった方はたまに新しいものが出ていないか、チェックしてみてください」

当初ラックは一つだったが二つに増やしたそうだ。ZINEはマニアックな話題やその地域の人でしか気づけない情報の宝庫でもある。岡さんがセレクトした全国選り抜きのZINEのラックを見渡せば、好みの一冊と出会うことができそうだ。
(石水典子)

大宅壮一文庫の職員 岡さん