夫や妻の死後もそのまま夫婦で暮らしていた住居に住み続けることができるよう、政府は3月、「居住権」の新設を盛り込んだ民法改正案を閣議決定した。長年の介護や家事を担ってきた高齢の配偶者を保護する目的がある。成立すれば、相続に関する民法改正は1980年以来、38年ぶりとなる。

これまで、住居は例外なく相続の対象だったため、夫や妻が亡くなって夫婦以外の第三者に相続された場合、先立たれた配偶者が退去を迫られることも少なくなかった。また、配偶者が住居を相続した場合でも、預貯金などその他の遺産の相続分が少なくなることから、貧しい生活を強いられるケースもあった。

では、この「居住権」が新設された場合に、配偶者には具体的にどのようなメリットが生じるのだろうか。また、居住権に基づいて配偶者が住む住居の価値は減少、本来の住居の相続人にとってはデメリットが大きいのではないだろうか。今回の柱である「居住権」の意義について、相続問題に詳しい高島秀行弁護士に聞いた。

●夫の遺言で自宅の相続がなくても、子どもに追い出されないメリット

「居住権」が新設された背景を教えてください。

「これまでは遺産が自宅しかないようなケースで、遺産分割協議をすると、配偶者が他の相続人に対し、代償金を支払えるだけの預貯金を持っていればよいのですが、持っていない場合は、自宅を売って、相続分に従い分けざるを得ませんでした。

当然、売って分ける場合には、配偶者は自宅から出て行かざるを得なくなり、引越を余儀なくされることとなってしまいます。

また、遺言書で、自宅を配偶者以外の者に相続させた場合は、その相続人から立ち退きを求められると、配偶者は出て行かなければならない可能性がありました。

今回の配偶者の居住権は、高齢の配偶者が住み慣れた居住建物を離れて新たな生活を始めることは精神的にも肉体的にも負担になると考えられ、それらを防止することを可能にしました」

●「短期居住権」と「配偶者居住権」

「居住権」新設によって残された配偶者や子どもたちの相続はどのように変わるのでしょうか?

「今回の改正案では、配偶者には、『短期居住権』と『配偶者居住権』が新設されました。

短期居住権は、相続発生後、あるいは、遺産分割により所有者が確定したときから6か月は、配偶者は建物に住むことが可能となる権利です。これで、前記の遺言書等で配偶者以外が建物を取得した場合でも、配偶者はすぐに立ち退かなくてもよいということになりました。

また、配偶者居住権という制度も認められました。遺言書や遺産分割で、建物自体は、配偶者以外が取得する場合でも、配偶者に建物の居住権を認めることができます。

遺言書もなく、遺産分割協議でも、配偶者に配偶者居住権が認められなかった場合でも、配偶者の申立により家庭裁判所が配偶者居住権を認めることができます。これにより、高齢の配偶者が居住している建物を離れて住む必要は少なくなったと思います。ただし、他の相続人からすると、配偶者が亡くなるまでは、土地建物を売却することは難しくなるということにはなります」

「居住権」は事実婚夫婦や同性カップルでも認められるのでしょうか?

「居住権は、相続権のある配偶者に認められることが前提となっており、事実婚の配偶者や同性カップルには、相続権がありませんから、今回新設された居住権は認められないこととなると思います」

弁護士ドットコムニュース

【取材協力弁護士
高島 秀行(たかしま・ひでゆき)弁護士
「相続遺産分割する前に読む本」「訴えられたらどうする」「企業のための民暴撃退マニュアル」(以上、税務経理協会)等の著作があり、「ビジネス弁護士2011」(日経BP社)にも掲載された。相続ブログ弁護士高島秀行の遺産相続・遺留分の解決マニュアル」を連載中。
事務所名:高島総合法律事務所
事務所URLhttp://www.takashimalaw.com

夫や妻の死後も「わが家」にそのまま住める「居住権」、子ども世代に影響も…相続分野の民法改正案