「森友問題」の公文書改ざん、自衛隊イラク派遣時の日報発見で、日本中が揺れている。

官邸の指示だったのか、現場の忖度だったのかという議論は別にして、政治家や官僚が「不都合な事実を隠ぺいする」ことに対して厳しい目が向けられている。

2017年7月28日、当時の稲田朋美防衛大臣、黒江哲郎防衛事務次官、岡部俊哉陸上幕僚長の3人が揃って辞任した。
南スーダン国連平和維持活動(PKO)の日報隠蔽疑惑について、防衛省自衛隊の幹部らが組織ぐるみで隠蔽に関与していたことの責任を取ってのことだった。

その問題の全貌をうつし出す『日報隠蔽 南スーダンで自衛隊は何を見たのか』集英社刊)は、日本で日報隠蔽問題を追いかけるジャーナリスト・布施祐仁さんと、アフリカから南スーダンの現場を伝える朝日新聞記者・三浦英之さんの2人によって書かれた一冊だ。

隠蔽問題の実態とは? 自衛隊が現場で見ていたものとは? そして、日本はどこに向かおうとしているのか? 著者の一人である布施祐仁さんにお話をうかがった。

前編では三浦さんとの出会い、そして森友公文書改ざん問題との共通点を語ってもらった。

(聞き手・文・写真:金井元貴)

■SNSを通じて出会った2人のジャーナリスト

――布施さんと三浦さんはこの問題を追求する前からお知り合いだったのですか?

布施:いえ、そうではないんです。2016年8月頃から、日本政府が南スーダンPKOに派遣している自衛隊に、2015年に成立した安保関連法に基づく新任務を付与しようと動き出していました。2016年7月には、自衛隊が活動する南スーダンの首都ジュバで政府軍と反政府軍の大規模な戦闘が発生し、内戦が再燃していましたから、僕は新任務を付与できるような状況ではないのではと疑問を持っていました。そこで、南スーダンの現地メディアの情報をチェックしたり国連のレポートを読んだりして、内戦の状況をツイッターで発信していたんですね。
ちょうど時を同じくして、三浦さんは南スーダンの現地で取材し、そのリポートをツイッターで連続投稿されていたんです。

――その三浦さんによるツイッターの投稿が目に留まった。

布施:そうです。三浦さんは現地で撮影した写真も一緒にアップしていて、それが目に留まりました。書かれている内容は、やはりジュバで激しい戦闘が発生し、その後、南スーダンが内戦状態に逆戻りしていることを伝えていました。

私は、ジュバで戦闘があった時に自衛隊がどんな状況に置かれたのかを知りたいと思い、現地の部隊が作成した日報を防衛省に情報公開請求しました。2016年12月防衛省から「既に廃棄しているため存在しない」という旨の通知が届いたんですね。でも、それから約2か月後の2017年2月初めに、防衛省は「もう一回探したら見つかりました」と言って日報を公表しました。その日報には「戦闘」という文字がたびたび出てきます。それまで安倍晋三首相は「南スーダンで戦闘行為はなかった」と一貫して主張し、現地に派遣している自衛隊に強引に新任務を付与していたのですが、実態はそうではなかった。

そして国会では、当時の稲田大臣が「日報には戦闘と書いてあるが、戦闘行為と言うと憲法9条の問題になっちゃうので、国会では武力衝突と言い換えている」というニュアンスのわけの分からない答弁をしたり、言葉遊びのような議論が続いていたんですね。

――実際、南スーダンの現場ではどうなっていたのですか?

布施:現場では、南スーダンの政府軍が一般市民を虐殺したりレイプするといった考えられない事態が起きていました。国連も「ジェノサイドの危険がある」と警告していたのですが、まさにその実態を三浦さんが自分の足で取材をして、現地の人に話を聞いて、その様子を文章にして、ツイッターに投稿されていたんです。

それは、戦闘とか武力衝突とか言葉の問題ではなく、内戦状態の危険な場所に自衛隊がいるということが強く伝わってくるもので、私はこの現実をみんなに知ってほしいという気持ちでリツイートをしていたのですが、三浦さんも日報隠蔽問題が明るみになってから、私に対してエールを送るようなツイートをしてくれたんです。

とても嬉しかったのと同時に、日本とアフリカアプローチは違うし、面識もないけれど、政府が隠そうとしている事実を明るみにするために共同作業をしているような感覚がありました。三浦さんが言っている「連帯」ですね。

――その「連帯」が本として結実したわけですね。

布施:そういうことです。実際に本を作り始めたのは2017年の夏で、三浦さんからメールをもらって、その時もまだ面識はありませんでしたが、すぐに電話をして。初めて話した感じはしませんでした。

この日報隠蔽問題を本にするにしても、日本国内だけの話にはしたくありませんでした。南スーダンの内戦の現実を描かなければ、政府や自衛隊がなぜ大きなリスクを冒してまで日報を隠そうとしたのかがリアルに見えてこないと思っていたので、現地を最もよく知っている三浦さんと一緒に書くことができて良かったです。日本の国際貢献のあり方まで議論を踏み込まないといけないと思っていましたから。

――南スーダンはどんな国なのですか?

布施南スーダンという国は2011年に、北のスーダン共和国から分離独立したばかりの世界で最も新しい国家です。それまでずっと内戦状態で、読者の皆さんがイメージする「国家」とはまったく違う国家だと思っていいでしょう。政府軍といっても、内戦時代のゲリラの寄せ集めで、先進国のような規律正しい軍隊ではありません。

日本政府は自衛隊に新任務を付与するにあたって「南スーダン政府が自衛隊の受け入れに同意しているから、自衛隊が政府軍と戦闘になることはあり得ない」と説明していましたが、南スーダンのような国では、こんなロジックはまず通用しない。政府軍であっても少年を兵士に徴用するわけですから、何をしだすか分からないんです。

私が情報開示請求で入手した自衛隊の文章には、それがはっきりと書かれています。だからこそ、諸外国が平和になるように和平の働きかけをするんですけど、南スーダンは政府も反政府勢力も、本気で平和にする気がないように見えます。

――その内戦で犠牲になるのは子どもであったり、一般市民であったり、と。

布施:私は南スーダンには行ったことがありませんが、以前、戦闘状態が続いていたアフガニスタンイラクは取材に行ったことがあるので、その経験を踏まえてお話します。こういった内戦状態の国々と日本の日常の何が違うかというと、私たち日本人は明日のこと、週末のことを自由に想像できますよね。ほとんどの人は、少なくとも明日や今週末は「この日常が続いていく」と漠然と思っているはずです。

でも、そういった(戦闘が起きている)国では、明日どころか一時間後でさえも想像できない。死んでいるかもしれない。生きている保証はどこにもないんです。

また、自衛隊員にとっては、殺される可能性が高いというのはもちろん、自分が人を殺さなければいけない可能性が高いというのも、心理的な負担になります。特に南スーダン政府軍、反政府軍ともに少年兵が多いですから、もしかしたら自分の戦う相手が子どもかもしれない。そこで引き金を引けるだろうか、と。

――普通に考えれば「引けるわけないじゃないか」と思いますよね。

布施:それは日本で生きている人の感覚です。自分が引き金を引かないと、自分が殺される。もしくは、自分が守るべき難民や市民を危険にさらすことになる。だから、そういう時になったら躊躇なく引き金を引けるように、日本で何度も何度も反復練習をして体に覚えさせてから現地に向かいます。でも、自衛隊隊員は、いざという時に本当に引き金を引けるだろうかという葛藤を抱えて、現地・ジュバで任務にあたっていたと思います。その精神的負担は大きかったでしょう。

ましてや、自衛隊はこれまで一度も実戦経験がありません。おそらくジュバの自衛隊宿営地は、これまでで最も戦場に近い場所にあったのではないかと思います。それは三浦さんの報告からもよく理解できるはずです。

■森友問題と日報隠蔽問題、その共通点とは

――ここからは「隠蔽」についてお話をうかがっていきます。先日「現代ビジネス」の記事で布施さんは、森友問題と南スーダンの日報隠蔽が重なるとご指摘されていましたがどのような部分で重なるのでしょうか。

布施:共通点の一つは、官邸が直接関与していたのか、それとも官僚の忖度だったのかという論点はありますが、本来国民に対して開示されるべき政権の不都合な情報が隠されているという点です。もっと言うと、これは加計学園問題や、厚生労働省の裁量労働制のデータ捏造にもいえることです。

情報公開や公文書管理は民主主義にとって根幹をなす制度です。民主主義は選挙で選ばれた政治家がやりたい放題できる制度ではありません。政治家の判断が正しいかどうか確認するには情報が必要なわけで、もし情報が開示されなければ、国民はその判断すらできないですよね。

この本で言うなら、あのような状態で駆け付け警護の任務を遂行すべきかどうか。もし、「ほとんど内戦状態です」という実態が事前に分かっていれば、多くの国民が新任務付与に反対し、政府は断念していたかもしれません。

公表された情報をもとに議論され、政策に反映されていくことが民主主義ですから、情報が国民や国民の代表者たる国会に開示されないのはおかしいことです。これでは民主主義が成り立たなくなってしまう。

――だからこそ「民主主義の危機である」と。

布施:結局、この日報隠蔽事件は、全容が解明されないまま2017年7月に当時の稲田防衛大臣、黒江事務次官、岡部陸上幕僚長が揃って辞任するという事態になりました。このことが事の重大さを物語っています。

このとき安倍首相は「政府の長は私である」と言って、国民にお詫びをしているわけですが、それから1年も経たないうちに森友学園の公文書改ざん問題が表出しているわけで、これまでの反省がまったく生かされていません。

――この2つの問題の原因が官僚の行き過ぎた「忖度」だとするならば、なぜこうしたことが起きてしまうのでしょうか。

布施:第二次安倍政権になり、内閣人事局が設置されて各省庁の幹部官僚の人事を官邸が一元管理するようになりました。人事を握られると、官僚は官邸の意向に沿う形で行動をします。それが日報隠蔽や公文書の改ざんを呼んだ可能性がある。つまり、問題が起きたときに安倍首相や官邸を守らなければいけないという過剰なまでの「忖度」が発生するわけです。

ここが議論の分かれ道で、はたして官邸を守るために自分が懲役刑になるようなリスクを犯すだろうか、と。公文書改ざん(有印公文書偽造罪)は場合によっては懲役1年以上10年以下の刑法罰になりますから。

いずれにせよ本来官僚や公務員は憲法15条にあるように、時の権力に奉仕するのではなく、国民に奉仕するのが仕事です。だから国民から情報開示を求められたら、法令に則って開示をしないといけません。でも今はそうはなっていない。

――その点に隠蔽が起こるメカニズムがありそうですね。

布施:根本にあるのは、政府の姿勢にあるのだと思います。特に安倍政権になってから、「一強多弱」と呼ばれる政治状況の中で、官邸主導の「結論ありき」の行政が横行しています。南スーダンPKOでいえば、現地では内戦状態になっているのに、派遣を続けたいからといって事実を隠したりねじ曲げる。政府がそういう姿勢では、部下の官僚や自衛隊隊員たちが「事実はこうです」と言えるわけがありません。

後編に続く

【参考記事】
森友文書問題と自衛隊「日報隠ぺい事件」の、驚くべきほどの共通点(現代ビジネス
布施祐仁さんTwitterアカウント(@yujinfuse)
三浦英之さんTwitterアカウント(@miura_hideyuki)

『日報隠蔽 南スーダンで自衛隊は何を見たのか』の共著者の一人、布施祐仁さん