近年、女性向けゲームはたいへんな盛り上がりを見せています。 
 とはいえ、女性向けゲームが身近でない方からすると「イケメンたちが女性を萌えさせているゲームでしょ?」と、女性向けゲームの種類をひとくくりに思っているかもしれません。 

 しかし、じつは女性向けゲームは大きく「乙女ゲーム」、「育成ゲーム」、「BLゲーム」の3つに分類され、これらは異なるジャンルのゲームと考えたほうがよいものなのです。

 もちろん、これらの他にも女性をターゲットとしたゲームには、占いや着せ替えを楽しむゲームなど多々ありますが、今回は“女性ターゲット”にとどまらず“女性向けジャンル”を生み出し、牽引し続けている乙女ゲーム、育成ゲーム、BLゲームにおける、約20年の歴史とその分化や進化に触れ、振り返ってみたいと思います。

【女性向けゲームの主なジャンル】

 

乙女ゲーム
女性向け恋愛シミュレーションゲームのこと。女性の主人公(プレイヤー)が男性キャラクターたちと恋を楽しむもの。デートや結婚など、男女の恋愛にまつわるエピソードがあるのが特徴。キャラクターとの恋を楽しむ女性たちを“夢女子”、“夢子”と称する場合もある。

(画像は遙かなる時空の中で3 Ultimate その手で運命を変えるBOX | ソフトウェアカタログ | プレイステーション® オフィシャルサイトより)

育成ゲーム
プレイヤーがキャラクターを育て、成長ぶりを楽しむもの。ほぼ明確に恋愛模様は描かれない。プレイヤーキャラクターが女性のゲームが多いが、性別を限定していないものもある。

(画像は『刀剣乱舞(とうらぶ) – 公式 – DMMGAMES より)

BLゲーム
男と男の恋愛が描かれている。キャラクターどうしの恋愛模様をプレイヤーが第三者目線で見て楽しむもの(一部、プレイヤーが主人公になる作品もある)。年齢制限つきの作品が多い。BLが好きな女性たちを“腐女子”と呼ぶことが多い。

(画像はAmazon | 学園ヘヴン おかわりっ! – PSP | ゲームソフトより)

 一般的なテレビゲームがボールの打ち合いから50年近くを経て、さまざまなジャンルに分化していったように、女性向けゲームも、ひとつの起点から約20年をかけて分かれていきました。
 その間には、女性向けならではの進化も見られます。

 そして、男性をはじめ女性向けゲームが身近でない方にも、女性向けゲームを理解いただければ幸いです。

女性向けゲーム年表はこちら

文/近藤智子かなぺん


必然のように、シミュレーションの老舗から生まれた“女性向け”というジャンル

 1990年代半ばまで、いわゆるテレビゲームにはアクションゲームやシューティングゲームが多く、RPGなどに一定の女性ファン層がついていたものの、大きく見ればそれは男性市場でした。

 しかし、1994年に光栄(現・コーエーテクモゲームス)がひとつの花を咲かせます。
 花の名は、『アンジェリーク』【※】。この恋愛をシミュレートしたアドベンチャーゲームの発売によって、日本のゲーム業界に“女性向け”ジャンルが誕生しました。

※ アンジェリーク……1994年に光栄(現・コーエーテクモゲームス)から発売された、恋愛シミュレーションゲーム。女王に仕える守護聖との恋と、世界を支える女王としての使命に揺れる物語を描いた本作はスーパーファミコンで発売され、のちにプレイステーション向けに移植された。
(画像は編集部私物)

 これはおそらく、1990年代に入りPCゲームに端を発した男性向け恋愛シミュレーションゲームや恋愛アドベンチャーゲームの兆しを、いち早くキャッチしたものと思われますが、ほぼ同時期に男性向けの恋愛シミュレーションゲームとして有名な『ときめきメモリアル』があることを考えると、この着想は驚異的な早さです。

 何よりこのゲームを企画発案したのが、現・株式会社コーエーテクモホールディングス代表取締役会長の襟川恵子【※1】氏だったことが重要です。
 というのも、襟川氏の夫は日本のコンピューター用シミュレーションゲームの草分けと言える同社の『信長の野望』を制作したシブサワ・コウ【※2】氏。初めての女性向けゲーム、しかも恋愛をシミュレートしたゲームが同社から生まれたのは、ある意味必然だったと言えるでしょう。

 襟川氏は、制作にあたって女性向けゲーム開発チーム“ルビーパーティー”を社内で立ち上げ、この『アンジェリーク』を皮切りに、いまも多くのファンから愛されている“ネオロマンス”【※3】シリーズの礎を築きました。

 ちなみにこの『アンジェリーク』のシミュレーション部分はシブサワ氏が担当。ゲームとしての質の確かさも、末永く愛されている要因となったと言えるでしょう。

※1 襟川恵子
1949年生まれ。株式会社コーエーテクモホールディングス代表取締役会長。1971年多摩美術大学 美術学部デザイン科卒業。1978年に襟川陽一(シブサワ・コウ)と光栄を設立する。

※ 2 シブサワ・コウ
1950年生まれ。本名は襟川陽一。株式会社コーエーテクモゲームスの代表取締役会長。1978年に光栄を設立。1982年に歴史シミュレーションゲーム『川中島の合戦』が大ヒット。『信長の野望』、『三國志』、『決戦』などの名作を発表。シブサワ・コウはゲームプロデューサー名。

※3 ネオロマンス
コーエーテクモゲームスが女の子のために贈る女性向けゲームシリーズ。おもな当該シリーズは『アンジェリーク』、『遙かなる時空の中で』、『金色のコルダ』など。同社のゲームには、『信長の野望』や『三國志』の“歴史シミュレーションゲーム”や、『維新の嵐』の“リコエーションゲーム”など、パッケージにゲームのジャンルを表すひと言が書かれている。その流れでスーパーファミコン版の『アンジェリーク』が登場したとき、すでにパッケージに“ネオロマンスゲーム”と書かれている。

 プレイヤーがヒロインとなり、イケメン男性キャラクターたちと恋愛が楽しめる『アンジェリーク』は、当時のゲームに触れていた女性たちに衝撃を与え、“女性が没頭できるゲームがある”と評判となり、たちまち大ブームを巻き起こしました。

(画像は編集部私物 『アンジェリーク プレミアムBOX』 パッケージ裏より)

 また、ゲームの発売に合わせてオリジナルドラマCD『アンジェリーク ~光と闇のサクリア~』が発売となっています。
 新ブランドのゲーム発売の翌日にドラマCDが用意されていたという展開にも驚きますが、そもそも同社はすでに『CDドラマコレクションズ 三國志』など、自社の作品世界を音で拡げる試みに以前から挑んでいることを知れば、このドラマCDも半ば必然だったと頷けるでしょう。
 その後、キャラクターが自分の想いを歌うキャラクターソングCD『アンジェリーク FALLIN’ LOVE』が1996年に発売され、キャラクターソングは、これまでに150曲以上が発表されています。

(画像は左:アンジェリーク ~光と闇のサクリア~、右:アンジェリーク FALLIN’ LOVEより)

 いまでも女性向けゲームは、ドラマCDの発売やイベントでのドラマパート生上演など、ゲームとは違ったアナザーストーリーを楽しんだり、声優が歌うキャラクターソングを楽しむことがお約束となっています。

 これらの習慣がすでに日本初の女性向けゲームの時点からあったということは、かなり衝撃的な事実ではないでしょうか。

 こうして、光栄による女性向け恋愛ゲームは、『アンジェリーク』を筆頭に躍進し続けます。1998年に社名がコーエーとなってからは、2000年に『遙かなる時空の中で』【※1】、2003年に『金色のコルダ』【※2】が発売されました。

※1 遙かなる時空の中で……2000年にコーエー(現・コーエーテクモゲームス)からプレイステーションで発売された、女性向け恋愛シミュレーションゲーム。異世界を舞台に、ヒロインである龍神の神子と八葉と呼ばれる男性たちとの恋愛を楽しめる。みずから戦う凛々しいヒロインが、イケメンキャラ顔負けの人気を誇っている。これまでにシリーズで6作品が展開されている。
※ 2 金色のコルダ……2003年にコーエー(現・コーエーテクモゲームス)から、PC向けソフトとして発売された女性向け恋愛シミュレーションゲーム。これまでに大きく4作品が発売されている。普通科と音楽科が併設された星奏学院という学園を舞台に、ヒロインが恋に音楽に努力する。

(画像は編集部私物『遙かなる時空の中で』『金色のコルダ』)

 驚くべきは、この3つのシリーズはコーエーテクモゲームスとなった2018年のいまも、恒常的にシリーズが展開され続けている【※】ことです。

 一度好きになったキャラクターは、プレイヤー自身が成長しても、ずっと好きでいるものです。女性たちのキャラクター愛は、シリーズを長期タイトル化するのに一役買っているのではないでしょうか。 

※ シリーズが展開され続けている
同社の『信長の野望』シリーズが1983年から、『三國志』シリーズが1985年から展開され続けていることを考えると、ネオロマンスシリーズの魅力もさることながら、「シリーズの終了でファンを裏切ることのないように」という同社の姿勢が窺い知れる。

 さらに今では当たり前となりましたが、声優が登場するオンリーイベントの先駆けとなったのも、ネオロマンスシリーズです。2000年の時点ですでに「アンジェリーク・メモワール2000」というイベントが、同社の所在地である横浜の国際的なコンベンションセンター、パシフィコ横浜で開催されています。

 以降、ネオロマンスのイベントはパシフィコ横浜で開催されることが多いことから、パシフィコ横浜は“聖地”とファンたちから呼ばれ、愛され続けています。

 このように長い歴史を築き上げたネオロマンスシリーズですが、当時初代『アンジェリーク』を楽しんだ女性たちは現在30〜40代前後。この20年で結婚や出産を迎えた女性たちも少なくありません。

 いまでは“親子2世代”のネオロマンサー【※】も増え、イベントには親子での参加が多いのも特徴。これはほかの女性向けゲームシリーズには、なかなか見られない現象と言えるでしょう。

※ネオロマンサー
ネオロマンスシリーズが大好きなファンの総称。

最新技術を搭載してリアルさに踏み込んだ『Girl’s Side』が超絶ヒット

 2000年前後になると、コーエーの一強時代から、各社が女性向けゲームを多数発売する時代に移ります。

 1998年には富士通からPC用ソフトとして『Fantastic Fortune』が、イースリースタッフからプレイステシーョン用に『卒業M 〜生徒会長の華麗なる陰謀〜』が、2000年には富士通からPC用に『ファーストライブ』が発売されます。

 このように盛り上がる市場に合わせて、ゲームを楽しむ女性をターゲットとした雑誌『B’s-LOG』(2002年/エンターブレイン(当時))や『電撃Girl’s Style』(2003年/アスキー・メディアワークス(当時))が創刊されたのもこのころ。

 これらの雑誌は、ゲームのシステムを紹介したり攻略したりするだけに留まらず、描き下ろしのキャラクターイラストや声優インタビューを掲載し、“女性向けゲームの雑誌といったらコレ!”という確固たる地位を築き上げました。

 女性向け恋愛シミュレーションゲームが“乙女ゲーム”という総称に落ち着いたのも、このころではないでしょうか。

画像左:「B’s-Log」2018年6月号(画像は「B’s-Log」公式サイトより)
画像右:「電撃Girl’sStyle」2018年4月号(画像は「ガルスタオンライン」公式サイトより)

 この状況下の2002年には、女性たちに「おのれの“人生”そのもの」とまで言わしめた恋愛シミュレーションゲーム、『ときめきメモリアル Girl’s Side』【※】がコナミ(現・KONAMI)からプレイステーション2向けで発売されることになります。

(画像は編集部私物『ときめきメモリアル Girl’s Side』)

 このゲームで注目したいのは、まずセリフがすべてフルボイスだったこと。

 それに加え、キャラクターがプレイヤーの名前を“ボイスつき”で呼んでくれるEVS2(エモーショナルボイスシステム2)が搭載されていたことも画期的でした。
 これらのシステムにより、キャラクターと親しくなるにつれ、自分の呼ばれかたが、「苗字」から「あだ名」に、そして「名前呼び」へと変化。

 「愛しの彼がマイネームを呼んでくれるなんて、ずっとボイスを流し続けたい!」とキャラクターへのゾッコン度は深まり、世の女性はメロメロになりました。
 ボイス付きで呼んでもららえるため、名前登録画面では“本名”と“ハンドルネーム”どちらで登録すべきか……。女性たちは本気で悩みました。

(画像はときめきメモリアル Girl’s Sideの公式サイトより)

 プレイヤーにとって印象深かったのは、なんといっても『ときめきメモリアル Girl’s Side』は恋が成就するまでの道のりがハードなことでした。

 『ときめきメモリアル』で蓄積された同社のノウハウが発揮されているのか、恋愛だけでなく、勉強はもちろんアルバイトやショッピングをしながら、自分の魅力をパラメーターとして管理。ときには、女性キャラの友達が恋のライバルになってしまうという超展開もありました。
 彼に気に入られる女性を目指したにもかかわらず“フラれる”こともあり、恋が実った瞬間との人生を手に入れた!」とファンは感涙したものです。

(画像はときめきメモリアル Girl’s Sideの公式サイトより) 

 さらに、2010年にニンテンドーDSで発売されたシリーズ3作品目『ときめきメモリアル Girl’s Side 3rd Story』が2012年にPSPに移植された際、Live2Dシステムをいち早く導入します。

 キャラクターが目パチ、口パクをすることに加え、自然な感じでヌルヌルと動くという表現方法。女性たちは「彼がそこにいる」と感動しました。

 このように『ときめきメモリアル Girl’s Side』シリーズは、女性ファンをより取り込むには“甘いシナリオ”だけでなく、“最新のシステム”で演出するキャラクターの“リアルさ”が重要であることを知らしめたのです。

 ファンたちから『GS』と呼ばれて愛されたこのゲームを手掛けたのは、ゲームプロデューサーの内田明理【※】
 内田氏が作り出すゲームの世界にハマった女性の多くは氏を「内P」と呼び慕い、以降、氏が携わるゲームのコアなファンとして、変わりゆく業界の荒波に飲み込まれながらも、まさに人生を捧げ続けていくことになるのですが……それはもう少し先のお話です。

※内田明理
1969年生まれのゲームデザイナー。2015年まではKONAMIで『ときめきメモリアル Girl’s Side』シリーズ、『ラブプラス』シリーズなどの開発に携わった。現在はユークスにてAR技術を用いたアーティストの“AR performer”をプロデュースしている。

BLゲームが百花繚乱『すきしょ!』『学ヘブ』、アダルト恋愛ゲーム、そしてフィーチャーフォン……

 2000年代前半は、女性向けゲームの種類が多種多様に拡散した時期でもありました。

 男性どうしの恋愛を描く歴史は1970年代に始まると言われ、「耽美」や「やおい」と呼ばれ、1990年代に入ってから「ボーイズラブ(BL)」という言葉が浸透。

 2000年前後には、女性向けゲームの一角を“BLゲーム”が占めるようになりました。

 商業的なBLゲーム初の作品と言われているのが、キングレコードより1999年にPC向けで発売された『BOY×BOY 私立光稜学院誠心寮』【※1】。全年齢対象の学園アドベンチャーゲームでした。
 全寮制の男子高校が舞台となっており主人公が友人たちとスリリングな学園生活を楽しむストーリーでした。

 翌2000年に、プラチナれーべるからPC向けで発売された『好きなものは好きだからしょうがない!! ~First Limit~』【※2】は、“プレイ対象18歳以上限定”(いわゆる18禁)というスタイルでBLファンたちに衝撃を与え、「すきしょ!」の愛称でブームを巻き起こします。
 ドラマCD、コミックはもちろん、2005年にはBL作品として地上波初のアニメ化とメディアミックスに成功しました。

※1 BOY×BOY 私立光稜学院誠心寮……1999年にキングレコードからPC向けで発売されたボーイズラブゲーム。全寮制男子校として名高い光稜学院高等部2年の早坂晶が主人公。好奇心旺盛な晶は、さまざまなトラブルに巻き込まれ……。幼馴染の生徒会長、後輩、謎めいた留学生や教師たちが、晶をめぐって多様な人間関係を見せていく。
※2 好きなものは好きだからしょうがない!!−FIRST LIMIT−……2000年にプラチナれーべるからPC向けで発売された18禁ボーイズラブゲーム。学校の校舎から転落して入院した主人公の羽柴空が退院後に学校へ行くと、寮の同室となる藤守直が転校してくる。いわく幼馴染とのことだが、空は直のことをまったく覚えておらず……。幼いころの暗い過去のせいで直の記憶をなくしてしまっている空は、出会う友人たちと自分の過去の謎を解いていく。
(画像左:BOYxBOY(ボーイ・ボーイ) 私立光稜学院誠心寮 、右:好きなものは好きだからしょうがない!! Vol.1 −First Limit−。いずれも画像はAmazonより)

 以降この“BLゲームは18禁PC向け”という流れは奔流を生み、2002年にSprayから『学園ヘヴン BOY’S LOVE SCRAMBLE!』【※1】、Alice Blueから『俺の下であがけ』【※2】、2005年にNitro+CHiRALから『咎狗の血』【※3】が発売され、“女性だって18禁のゲームをプレイする”ことが浸透していったのです。

※1 学園ヘヴン BOY’S LOVE SCRAMBLE!……2002年にSprayからPC向けで発売された18禁ボーイズラブゲーム。強運だけが取り柄の主人公が超エリート学園へ入学。しかし、「入学の許可がそもそも手違いのため、退学してくれ」と言われ……。個性的なキャラクターたちとの恋模様が繰り広げられる。
※ 2 俺の下であがけ……2002年にAlice BlueからPC向けで発売された18禁ボーイズラブゲーム。消費者金融「クロサキ・ファイナンス」を経営する企業家の主人公・黒崎壱哉は、新しい支社ビルが立つ場所へ視察に赴く。その地で出会った3人の男たちに、さまざまな方法で高額な借金を背負わせ、返済ができなくなると奴隷として買い上げていく。
※3 咎狗(とがいぬ)の血……2005年にNitro+CHiRALからPC向けで発売された18禁ボーイズラブゲーム。THE 3RD DIVISION(第三次世界大戦)で壊滅的なダメージを受けたニホンの、無法地帯となった一角“トシマ”が舞台。そこでは命懸けのバトルゲーム“イグラ”が開催されていた。無実の罪を着せられた主人公が無罪放免を目的にイグラに挑む、愛と狂気が入り交じる物語。
(画像左:学園ヘヴンPC版 、中央:俺の下であがけ、右:咎狗の血 通常版。いずれも画像はAmazonより)

 さらには女性向けに、18禁の男女の恋愛を描くゲームも登場。2003年に美蕾-MIRAI-からPC用として『星の王女』【※】が発売され、アダルトシーンを含む男女の濃厚な恋愛を描くゲームとして、新境地を開拓していきました。

※星の王女……2003年に美蕾-MIRAI-からPC向けで発売された18禁恋愛シミュレーションゲーム。ある日、両親の死という悲劇に見舞われた主人公は、さらに唯一の肉親であった兄にも倒れられ……。実家を買収しようとする筋者に執拗につけ狙われるなか、主人公は自分を支えてくれる男性たちと出会う。
(画像は美蕾-MIRAI-公式サイトの製品一覧より)

 一方、女性向けモバイルコンテンツ事業に力を入れ始めていた会社ボルテージが、恋愛ドラマアプリ【※】の提供を2006年にNTTドコモ専用のiモードで開始し、『恋人はNO.1ホスト』を皮切りに配信。

 このフィーチャーフォンによるゲームスタイルは、「ゲーム機がなくても楽しめる!」、「寝る前に軽く読める」と、これまで恋愛ゲームをプレイしていなかったライトユーザーの獲得に成功しました。

※恋愛ドラマアプリ
2006年にボルテージが配信を開始した、モバイルで楽しむ女性向け恋愛シミュレーションゲーム群のこと。「日常のときめき」を提供することをテーマに掲げており、これまでに90タイトル以上が配信されている。

 こうして、女性向けゲームもプレイヤーの好みに添うように、さまざまなジャンルに分岐をし始めました。そしてプレイヤーが“作品を選べる”時代を本格的に迎え、この後さらに発展していきます。

『薄桜鬼』が乙女ゲームのメディア露出を加速化させて大躍進

 次に女性向けゲームに起きた大きなムーブメントとして語られるべきは、SNSが隆盛した2010年前後です。2004年に始まったmixiがネット上にアクセス容易なコミュニティ文化を構築、2006年末に動画サービス「ニコニコ動画」が始まると替え歌やMAD動画が流行し、同年に始まったTwitterなどによって、全国各地のファンがインターネット上で気軽に交流できるようになりました。

 そんな折、2008年にアイディアファクトリーグループの女性向けブランド“オトメイト”から、プレイステーション2で乙女向けのアドベンチャーゲーム、『薄桜鬼 ~新選組奇譚~』(以下『薄桜鬼』)【※】が満を持して登場しました。

※ 薄桜鬼 〜新選組奇譚〜……2008年にアイディアファクトリーから発売された、女性向け恋愛アドベンチャーゲーム。江戸時代末期の文久3年、蘭学医の娘・雪村千鶴は行方不明の父を探しに、男の身なりをして江戸から京の街を尋ねる。“新選組”をモチーフとしながら“羅刹”と名付けられた鬼や吸血鬼の要素が組み込まれている。これまでに多数のゲームシリーズが発売されているほか、アニメ、舞台、劇場版、ドラマCDなど幅広く展開されている。
(画像は編集部私物『薄桜鬼 〜新選組奇譚〜 限定版』)

 これまでにも、歴史をモチーフとした乙女ゲームは多々発売されていましたが、『薄桜鬼』はとにかくシナリオがボリューミーなうえ、秀逸。幕末という乱世に翻弄されながらも、新選組の隊士たちが武士としての生きざまを貫きつつ、女性であるヒロイン(=プレイヤー)との恋愛に悩み、超常的な“力”と引き換えにすり減った命を賭して私を守ってくれる。当然、全女性が号泣し、彼らの愛にシビれました。
 恋愛要素のほかに、心に突き刺さる重厚な歴史ロマンを感じさせたこの作品は、2010年に放映されたテレビアニメ版『薄桜鬼』をきっかけに、乙女ゲームを遊ばない男性にまでファン層を広げたものとして有名になりました。 

(画像は薄桜鬼 新選組奇譚 | ソフトウェアカタログ | プレイステーション® オフィシャルサイトより)

 2010年には舞台化。「大衆演劇界の天才」と呼ばれる俳優の早乙女太一【※】氏(以下、早乙女氏)を主演に据え、『薄桜鬼 新選組炎舞録』が上演されました。

 早乙女氏の起用はゲーム業界以外からの注目も集め、『薄桜鬼』がテレビをはじめ、多くのマスメディアで取り上げられるきっかけとなり、“若い女性たちが乙女ゲームに夢中になっている”という文化を世に見せつけたのです。

(画像はPONYCANYON INC公式サイト、DVD情報より)

※早乙女太一
大衆演劇集団“劇団 朱雀”二代目。2003年に北野武監督の映画『座頭市』に出演。2008年2月に16歳で新歌舞伎座史上最年少記録の初座長を務めた。「100年に1人の天才女形」との呼び声も。

 さらに2012年からは、マーベラスによりミュージカル化され、“ミュージカル『薄桜鬼』斎藤一篇”が上演開始となり、以降はキャラクターごとの公演が定期化。
 「薄ミュ」という愛称で親しまれました。
 2018年4月には「新生」と銘打った新たなミュージカルとして上演されています。

 ゲームやアニメの原作を舞台化する“2.5次元”の先駆者といえば、2003年から始まったミュージカル『テニスの王子様』です。ゲーム原作であれば2008年の『遙かなる時空の中で』の舞台などがありますが、この「薄ミュ」の大ヒットで、女性向けゲームは2.5次元化したらヒットの証拠と感じさせる流れを作っていきます。

 実際、2018年のいまも、ヒット作品の舞台化はお決まりのパターンとなっています。

据え置き機から携帯ゲーム機へ。アイドルゲームの金字塔『うた☆プリ』発売

 ここまでに登場したおもな女性向けゲームは、『ときめきメモリアル Girl’s Side』も『薄桜鬼』もそうですが、家庭用ゲーム機の据え置き機、とくに2000年代に入ってからはプレイスーション2を軸として発売されていました。

 ところが2010年にニンテンドーDSの国内累計販売台数は3000万台、プレイステーション・ポータブル(PSP)は1500万台を突破します。「いつでも推しキャラと一緒にいたい」という乙女心や、非常にパーソナルな“恋愛”というテーマとの親和性が高かったこともあり、2010年ごろから女ゲームのハードは据え置きから携帯機へと移行していきます。

 そんな2010年に登場したのが、ブロッコリーからPSPで発売された、アイドルブームの先駆者となるアドベンチャーゲーム『うたの☆プリンスさまっ♪』(以下『うた☆プリ』)【※】でした。

※うたの☆プリンスさまっ♪……2010年にブロッコリーから発売された、PSP用の女性向け恋愛アドベンチャーゲーム。ゲームジャンルが“キスよりすごい音楽って本当にあるんだよADV”と記載されて話題に。芸能専門学校である早乙女学園に入学したヒロインの七海春歌は、学園で出会った男子学生たちとともに、卒業式に行われるオーディションを目指して日々の学園生活を送っていく。現在に至るまでに多数のシリーズが発売され、アニメや舞台などに跨って幅広く展開されている。
(画像は編集部私物『うたの☆プリンスさまっ♪ 初回限定 シャイニングBOX』)

 『うた☆プリ』はアドベンチャーゲームの中に定期試験と称したリズムゲームが搭載されており、友達とスコアを競い合い、やり込むプレイヤーが続出。

 乙女ゲームファンの女性のみならず、音ゲーファンの女性もこぞってプレイすることとなりました。

 しかも、これまで多数の乙女ゲームが発売されていましたが、意外なことに“アイドル”というテーマは、ないに等しい状況でした。

 恋愛禁止の学校で愛する人ができ……彼が目指すのはアイドル。アイドルになったらこの恋はどうなるの? そんなハラハラした状況と甘いストーリーが女性たちの感情を狂おしくくすぐったのです。

 さらに、『うた☆プリ』は2018年現在も続いている“アイドル育成ゲーム”のブームの流れを生み出しただけではなく、アイドルキャラといえば“この設定”という指針を作り上げたといっても過言ではありません。

【『うた☆プリ』が構築したアイドルキャラの基本設定】

 

●センター男子キャラは赤髪風のハツラツ系
●児童養護施設出身者がいる
●外国の王子がメンバー入り
●御曹司の跡取りが家の反対を押し切りアイドルへ
●フェミニストなモテ男
●病気を抱えている
●“背が低い(チビ)”が禁句のキャラがいる
●多重人格
●ちょっぴり野蛮
●過去の自分に“かなり”囚われている
●女装家
●実家が没落した元御曹司
●じつはロボット
●キャラクターごとに“テーマカラー”がある

 これらのキャラクター設定は全て『うた☆プリ』の主要メンバーに採用されており、現在リリースされている多くのアイドルゲームのキャラクター属性に反映されているといえます。

(画像は、うたの☆プリンスさまっ♪ Shining Live(シャニライ)公式サイトより)

 2011年7月にはアニメ化。オリジナルストーリー『うたの☆プリンスさまっ♪ マジLOVE1000%』は、放映されると瞬く間に女性のあいだで大ブームに。 
 ブロッコリーは大ヒットを受け、2012年2月末の株主配当で「うたの☆プリンスさまっ♪記念配当」を実施。普通配当の1株当たり2円に加え、1株当たり1円50銭を上乗せしました。

 この一報は、女性たちに“メーカーの株を購入し、作品を応援する手段がある”ことを自覚させたのです。
 「メーカーの株を買うのは、投資というより応援。銀行に貯金するぐらいなら、株にしたほうが役立っている」と愛ゆえに株式投資を学ぶ女性が増えていくきっかけをも作りました。

 もちろん、株の保有者はファンの女の子ばかりではありません。しかし、以降、ブロッコリーの株価は、アプリのリリースをはじめとした『うた☆プリ』の動向で大きく変動しています。

【ブロッコリーの株価(2010年6月〜2018年3月末)】

(画像は(株)ブロッコリー【2706】 2010/06/01~2018/04/01 – 期間指定チャート | 株式投資サポート【カブサポ】より)

① ゲーム『うたの☆プリンスさまっ♪』発売(2010年6月24日)
② 記念配当のニュースが流れる(2012年1月11日)
③ ライブ『うたの☆プリン スさまっ♪ マジLOVELIVE1000%』開催(2012年1月15日)
④  ゲーム『うたの☆プリン スさまっ♪ All Star』発売(2013年3月7日)
⑤ アプリ『うた☆プリアイランド』Twitter開設(2013年12月1日)
⑥ アプリ『うた☆プリアイランド』iOS版配信(2014年6月26日)
⑦ アプリ『うた☆プリアイランド』配信一時中断(2014年7月1日)
⑧ アプリ『うた☆プリアイランド』配信再開(2014年12月30日)
⑨ アプリ『うた☆プリアイランド』サービス終了発表(2016年1月7日)
  KLabとブロッコリーが業務提携に合意(2016年1月8日)
⑩ アプリ『うた☆プリアイランド』サービス終了(2016年3月31日)
⑪ アプリ『うたの☆プリンスさまっ♪ Shining Live』開発発表(2016年5月11日)
⑫ アプリ『うたの☆プリンスさまっ♪ Shining Live』Twitter開設(2017年6月23日)
⑬ アプリ『うたの☆プリンスさまっ♪ Shining Live』配信開始(2017年8月28日)

 さらに『うた☆プリ』は、2012年に東京・五反田のゆうぽうとでライブ「うたの☆プリンスさまっ♪ マジLOVELIVE1000%」を開催し、次々と規模を拡大。2016年はさいたまスーパーアリーナ、2017年はメットライフドームといった会場を埋め尽くすほどファンの心を掴みました。

 応援している作品が人気になれば“ドーム公演が実現する”と身をもって体感した女性たち。この出来事はまさに、リアル世界でアーティストをドームに連れていくファンの気持ちと同じなのです。

 『薄桜鬼』と『うた☆プリ』が立て続けに大ヒットしたことにより、2010年に女性向けゲームは一種の全盛期を迎え、女性向けのみを扱ったイベント“アニメイト ガールズフェスティバル”がこの年から毎秋に東京・池袋サンシャインシティで開催となります。来場者統計が初めてとられた2014年の参加者は約37000人でしたが、2017年には86000人以上が来場するまでに規模が拡大しています。

 2010年ごろの女性向けゲームは、メディアミックス展開が急速に広がった時期でもあります。

 コミカライズ、ノベライズ、CD化、アニメ化、舞台化、ライブ開催を含めた声優イベントに加え、ファッションブランドとのコラボ、2012年にはアニメイトが運営する「アニメイトカフェ」、アイディアファクトリーのブランドオトメイトによる「オトメイトカフェ」がオープン。

 このような展開により、ムーブメントが大規模で多彩に広がっていくのが普遍化し始めました。

(画像はメニュー | オトメイトカフェ 秋葉原店のスクリーンショット)

 こうして女性向けゲームが多彩化し、普遍的な地位を獲得したその一方で、PigeoNation Inc.の『はーとふる彼氏 〜希望の学園と白い翼〜』(2011年)ではリアルなとの恋愛が楽しめるなど、一風変わった作品も登場し、支持を集めました。

 これはネタをネタとして楽しみ、商品化できるだけの余裕が女性向けゲーム界隈に現れた、ひとつの証拠と言えるのかもしれません。

(画像ははーとふる彼氏 公式サイト より)

女性はPS Vitaに移行しなかった? スマホアプリの台頭

 コンシューマーゲームが盛り上がりを見せる一方、スマートフォンによるアプリゲームが2008年以降じわじわと台頭し始めています。

 2010年にはサイバードがGREEのプラットフォームでプレイできる『イケメン大奥◆恋の園 for GREE』、ボルテージが『恋人はキャプテン for GREE』、2013年にはサイバーエージェントがスマホでプレイが楽しめる『ボーイフレンド(仮)』を配信。

 これらは、シナリオがマニアックすぎず手に取りやすいこと、複雑な操作を必要としないことなどから、これまでゲーム機で乙女ゲームを遊ぶ習慣のなかった働く女性や学生など、10代〜20代前半の若い層にゲームに触れるきっかけを作っていきました。

(画像左:『イケメン大奥◆恋の園』公式サイトタイトル一覧、右:『ボーイフレンド(仮)』公式サイトより)

 そして2013年、かつて『ときめきメモリアル Girl’s Side』を手掛けたゲームプロデューサー内田明理氏が、スマホアプリゲーム『ときめきレストラン☆☆☆』【※】(KONAMI/2014年にコーエーテクモゲームスに移管)を発表。

 『ときめきメモリアル Girl’s Side』シリーズと同じ“はばたき市”が舞台となっており、設定がリンク。『GS』に人生を捧げていたプレイヤーたちからの熱烈な支持に加え、スマホアプリという手軽さから、新規の層に至るまで急速に普及しました。

※ときめきレストラン☆☆☆
2013年にKONAMIからリリースされた、女性向け恋愛シミュレーションゲーム。プレイヤーが経営するレストランには、隣にある芸能プロダクション“Prince Republic”に所属するアイドルたちが訪れる。レストランのレシピを増やしてお店を拡大しながら、アイドルたちとの恋愛が楽しめる。2014年8月7日より運営がコーエーテクモゲームスへ移管されている。

 そんなおり、発売から10年目を迎えていたPSPが2014年6月で国内向けの出荷を完了させました。この出来事は、女性向けゲーム業界の風向きを大きく変化させます
 というのも、PSPの後継機としてPS Vitaが2011年の年末にすでに発売されていましたが、乙女ゲームプレイヤーたちの所持率が高くなかったのです。

 なぜ、女性たちはPS Vitaを購入していなかったのでしょうか。

(画像は編集部私物)

 それは乙女ゲームは操作が単純だったからと推察されます。アドベンチャーゲームであれ、シミュレーションゲームであれ、物語を楽しむシナリオ部分はオートモードで進むため、基本的に操作が不要。

 たまにシナリオを分岐させる選択がある程度だったため、そもそもゲーム機が高性能である必要がなかったのです。なかにはリズムゲームやバトルプレイが必要となるゲームもありましたが、たとえばシューティングゲームほどの難度のものはありませんでした。

 PSPの出荷停止が発表されるより少し前の2014年3月。アイディアファクトリーのオトメイトは、2014年9月以降の新作を全てPS Vitaで発売すると発表。オトメイトタイトル “PlayStation Vita”展開のお知らせに関する特設サイトを作り、PS Vitaが“高画質と高音質”で“動作が快適”などの利点をファンに伝えました。

(画像はオトメイトタイトル “PlayStation Vita”展開のお知らせ│YouTubeより)

 もちろん、PSPよりPS Vitaのほうが高画質で高性能であることは、ユーザーたちも理解していました。
 ですが彼女たちが楽しみたいのは、シナリオを通じたキャラクターとの触れ合いが中心。スマホアプリが台頭しはじめるなか、高価なゲーム機に、あらためて購入するほどの魅力を見出せていなかったのだと思われます。

 そして迎える2015年は、激動の1年となりました。


激動の2015年、『刀剣乱舞』がすべてを変えた! 

 2015年1月14日、DMM GAMESとニトロプラスが手掛ける、刀が擬人化された“刀剣男士”の育成シミュレーションゲーム『刀剣乱舞-ONLINE-』(以下『刀剣乱舞』)【※】がサービスを開始しました。
 ここから女性向けゲームは、育成シミュレーション黄金期へ突入していきます。

※刀剣乱舞-ONLINE-
DMM GAMESとニトロプラスによる、2015年サービス開始のPCブラウザゲーム。西暦2205年、歴史を守る使命を与えられたプレイヤーの「審神者(さにわ)」が最強の付喪神「刀剣男士」を育て、ともに歴史改変を目論む“歴史修正主義者”と戦う。公式Twitterのフォロワー数は70万人を超える。

 女性向けゲームのジャンルの中でも男女の恋愛がテーマの“乙女ゲーム”は、男性どうしの愛を好むBLファンには馴染みの薄いものでした。

 ところが『刀剣乱舞』は推しキャラを育てる育成ゲーム。プレイヤーとの恋愛要素が描かれていないため、BLファンには妄想を無理なく楽しめる仕様だったのです。

 また、女性オタクが大好きな“歴史がモチーフ”というポイントもしっかりと押さえた作品。

 その結果、乙女ゲーマーやBLファンに加え、歴史好きの女性オタクが一堂に集結かつてない規模と勢いのファンダムを作り上げます。

『刀剣乱舞』ファンがこの3年間で巻き起こした覇業を振り返る。107万円の公式Blu-Rayに約70件の申し込み、刀1本の展示で経済効果が4億円、幻の日本刀復元に4500万円を調達!

 この時期に『刀剣乱舞』が大ブームを巻き起こした要因のひとつとして、専門のゲーム機を必要としない“PCブラウザゲーム”だったという点が考えられます。

 『刀剣乱舞』のリリースは、PSPの国内出荷が完了してから半年後で、それまでPSPに流れて込んでいた乙女ゲームプレイヤーが行く先を失っていた時期に当たります。一方、そのころ台頭し始めていたスマホ用のアプリゲームは、iOSとAndroidで同時期に配信されるとは限らなかったうえ、とりわけAndroidでの対応機種の幅があまり広くありませんでした。

 そんな状況の中で登場した『刀剣乱舞』はブラウザでプレイ可能。つまり全方位の女性が同時期に楽しめる仕様だったのです。

(画像は『刀剣乱舞(とうらぶ) – 公式 – DMMGAMES より)

 これにより、SNSを覗けば誰かが『刀剣乱舞』の話をしている状態に。そこから興味を持った人がさらに手を出してみて、またつぶやく……といったループが巻き起こり、プレイヤーが増えていきました。

 また、育成要素のあるゲームは、2014年より配信されていたバンダイナムコエンターテインメントの『アイドルマスター SideM』【※1】、2015年配信開始のHappy Elementsの『あんさんぶるスターズ!』【※2】、バンダイナムコオンラインの『アイドリッシュセブン』【※3】が大人気となりました。

 女性たちのあいだで急速に“推しキャラクター”を育てて応援するという風潮が広がっていったのです。

※1 アイドルマスター SideM……2014年にMobageコンテンツとしてスタートしたアイドルを育成するカードゲームの体裁で、男性向け『THE IDOLM@STER』の世界と基盤を共有している。プレイヤーは芸能事務所“315プロダクション”所属のプロデューサーとして、アイドルに転職した男性たちをプロデュースする。元医者、元教師、元フリーター、元自衛官、元パイロットなど、キャラクターのバックボーンや年齢が多岐にわたる。
※2 あんさんぶるスターズ!……2015年にHappy Elementsから配信されたスマートフォン向けアプリゲーム。プレイヤーは、男子アイドルの育成に特化した“私立夢ノ咲学院”のプロデュース科に、初めて転入した女子学生となり、個性豊かなユニットメンバーを成長させる。2017年6月からメインストーリーがフルボイス化された。現在は小説、漫画、舞台、ライブとメディアミックスで展開されている。
※3 アイドリッシュセブン……2015年にバンダイナムコオンラインから配信されたスマートフォン向けアプリゲーム。キャラクター原案に少女漫画家の種村有菜を起用。メインストーリーのフルボイスが話題となった。小鳥遊紡(=プレイヤー)は、父親が経営する芸能事務所「小鳥遊事務所」に入社。新人アイドル“IDOLiSH7”のマネージャーを担当することになる。(画像は左:アイドルマスター SideM 、中:あんさんぶるスターズ!オープニングムービー、右:アイドリッシュセブン公式サイトより)

 このように2015年は、主流のゲームが“乙女ゲームから育成ゲーム”へと変化した大きなターニングポイントとなりました。
 しかし、さらに衝撃的な出来事がこの年は続きました。

 3月15日に『ときめきメモリアル Girl’s Side』シリーズ3部作や『ときめきレストラン☆☆☆』を世に送り出した、明理氏がKONAMIを退社したのです。

 2012年にシリーズ10周年を迎え、続編が遊べる日を心待ちにしていたファンにとってこれほど心が沈む展開はありません。
 内Pワールドに心酔していたファンたちは、「どこまでも、内Pについていきます!」と氏の次なる活動を期待しつつも、SNS上で「人生が終わってしまった……」と嘆き悲しんでいたのです。

 さらに10月。乙女ゲームブランド“QuinRose”を展開するアートムーブが事業を停止しました。『ハートの国のアリス 〜Wonderful Wonder World〜』など多くの乙女ゲームを世に送り出し、劇場版の制作、オンリーイベントを開催していたほどのレーベル停止は、ショッキングな事件として記憶に残ります。
 ただひとつ救われたのは、事業停止となる寸前にPSPで発売されていたタイトル群が、こぞってPS Vitaに移植されていたこと。ファンたちは「事業停止を前に、移植してくれたのかな?」と涙を流したのです。

(画像は新装版 ハートの国のアリス 豪華版 | ソフトウェアカタログ | プレイステーション® オフィシャルサイト より)

 ブラウザゲームとアプリゲームが大躍進した2015年、女性たちは「電車で移動中にプレイ」、「たくさんのアプリゲーをやっているから、難しいのは困る」、「昼休みに軽く」と“やりこむ”ゲームから“スキマ時間に楽しむ”ゲームを好むようになっていきました。
 バンダイナムコエンターテインメントはスキマ時間にゲームを楽しむ女性をターゲットとした「#すきま女子」プロジェクトを2017年に始動。いかに“手軽にゲームができるか”がヒット作への道となっていきました。

 さらに、キャラクターを愛でる女性向けアプリゲームには、美麗なイラストが必須。そのイラストを手に入れるためにいわゆる“ガチャ”が受け入れられていったのです。

 「推しキャラのイラストは、いくらかけてでもコンプリートしたい」という女性たちの気持ちが、ますます女性向けアプリゲーム市場を発展させていきました。

『A3!』のヒット……そしてアプリからコンシューマーへの新しい潮流

 育成ゲームブームから2年。2017年に入って大きく話題となったのは、リベル・エンタテインメントが1月に配信を開始した役者育成ゲーム『A3! (エースリー)』(以下、『A3!』)【※】です。

※A3!(エースリー)
2017年にリベル・エンタテインメントから配信されたスマートフォン向けアプリゲーム。イケメン役者たちを育成し、公演を成功させる育成ゲームの体裁。物語の舞台は、借金を抱え潰れかけている劇団「MANKAIカンパニー」。立花いづみ(プレイヤー)は行方不明の父を探して、劇団を訪れる。劇団の再建を託され、監督に任命されてしまったいづみは、ヤクザにも目をつけられた劇団を救うことができるのか? 2018年6月から2.5次元舞台「MANKAI STAGE『A3!』」の上演が予定されている

 2017年になると、育成ゲームはもはや戦国時代。ただ作って“ヒット待ち”をしているようでは、次から次へと作品が現れるマーケットの中で、作品が埋もれてしまう状態になっていました。

 そんな中、『A3!』は事前登録期間中に、主題歌とキャラクターボイスが収録されたCDや缶バッジの無償配布などを行い、リリースに先駆け、コンテンツの魅力を伝えたのです。

 結果、このタイトルは事前登録で50万人を達成し、配信から3日間で80万ダウンロード、そして2週間経たずに150万ダウンロードを突破。この成功により親会社であるアエリアの株が一時ストップ高となりました。

 ライバルが多い育成アプリゲームは、美麗イラストや豪華声優の起用だけではもはや潜在的なファンには届かず、届けるためにはテレビをはじめとする広告など、ブームを巻き起こすための戦略が求められる時代にたどり着いたのです。

 一方、2015年の育成ブーム以来、スマホアプリに押されてしまったコンシューマーゲームがどうなったかというと…。やはり2015年から発売タイトルの数は減少傾向にありました。しかしコンシューマーゲームには、“シリーズそのものについた根強いコアなファンたち”がいます。

 女性向けゲームというジャンルを切り拓いたコーエーテクモゲームスのネオロマンスシリーズは、2015年に『遙かなる時空の中で6』、2016年に『金色のコルダ4』と人気シリーズの続編を連発。

  さらに、同業のライバルとファンたちから目されていたアイディアファクトリーとともに、2017年に最新作『ネオ アンジェリーク 天使の涙』を発売し、乙女ゲーマーたちを驚かせました。

 そして、PS Vitaでリリースするだけでなく、スマートフォンでプレイしたい女性向けに、人気ゲームのアプリ版をリリースするという多面的な展開をするスタイルを導入しました。

 アイディアファクトリーのオトメイトは、大ヒット作品『薄桜鬼』の前日譚や過去に発売されたファンディスクの内容を加え、新たな攻略対象キャラクターが追加された『薄桜鬼 真改』を2016年に発表します。
 これは、すでにスマホゲームが隆盛を極める時代でしたが、PS Vita版だけでなく、より大画面でも楽しめるプレイステーション4版を発売し話題となりました。

 ところが、2018年2月。PS Vita版に加え、プレイステーション4版でも発売を予定していた新作において、プレイステーション4版での発売予定を取り下げました。“手軽に持ち運ぶ”があたりまえの今、据え置き型でのプレイスタイルが身近ではなくなり、移行が難しかったのかもしれません。

 とはいえ、オトメイトは年間で多くのタイトルを発表し、女性の恋心を満足させてくれるのが特徴。その姿勢はスマホアプリ時代になっても一切緩むことなく、『ニル・アドミラリの天秤 帝都幻惑綺譚』、『花朧 ~戦国伝乱奇~』、『白と黒のアリス』などをリリース。ファンの心を捉え続けていきました。

 さらに、オトメイトはアプリゲームとして人気を博していたサイバードの『イケメン戦国◆時をかける恋』【※】をコンシューマーゲーム化。2018年にPS Vita用ソフト『イケメン戦国◆時をかける恋 新たなる出逢い』として発表しました。アイディアファクトリーは“アプリからコンシューマー”への移植という、新たな流れを生み出したのです。

※イケメン戦国◆時をかける恋
2015年にサイバードからリリースされた、iOS/Android用女性向け恋愛ゲーム。戦国時代にタイムスリップしたプレイヤーが、戦国時代の武将たちと恋愛を繰り広げていく。2017年にはアニメが放映されている。

 以前にもアプリからメディアミックスを経てコンシューマータイトルとなったコンテンツはありましたが、アプリから直接コンシューマに至るこの流れは2017年から2018年にかけて一段と盛んになり、アプリゲー『アイドリッシュセブン』も、アプリでは描かれなかったストーリーを綴った『アイドリッシュセブン Twelve Fantasia!』(バンダイナムコエンターテインメント)をPS Vitaで発売しています。

 「ボリュームのあるシナリオは腰を据えて楽しみたい」というコアなプレイヤーの要望と、「アプリでいつでも手軽に楽しみたい」というプレイヤーのどちらにも応えるこのスタイルは、今後もしばらく続いていくのではないでしょうか。

2Dだけじゃ物足りない! VRとARでリアルな感覚の追求へ

 2016年、東京ゲームショウの話題は男性向け女性向けを問わず、VRコンテンツ一色。この流れをいち早く取り入れたのが、ボルテージでした。

 VR用のゴーグルを着けて椅子に座ると、やってきたイケメンキャラクターから壁ドンならぬ“椅子ドン”をされるという画期的なシステムを搭載したショートプログラムを披露。

椅子ドンVR「キスだけじゃ……物足りない!」 ボルテージブースで私、体験してきました【TGS2016】

 「キャラクターをより身近に感じられる!」と男性向けゲームも含めたビッグタイトルのあいだにあっても、この年のショウを象徴するもののひとつとして大きな話題となりました。
 椅子ドンVRは、愛しいキャラクターはモニターの向こうにいる“2次元彼氏”ではなく、目の前に存在する“リアル彼氏”へと進化する時代になったと知らしめたのです。

 2017年には、アプリゲームとして2016年の配信から人気を集めていた『囚われのパルマ』【※】が、全国のカプコン系アミューズメント施設で“VR面会”を実施。

※囚われのパルマ……2016年にカプコンから配信された、iOS/Android用のガラス越し恋愛アプリゲーム。孤島に連れてこられたプレイヤーは、収容所に収監されている記憶喪失の青年ハルトと出会う。プレイヤーが本土へ戻る条件はハルトの記憶を取り戻すこと。スマートフォンの画面が面会場所のガラスに見立てられており、手のひらや額をスマートフォン画面に添わせるなどしてゲームを楽しんでいく。また、ゲームがプレイヤーのメッセージを記憶し、記憶喪失のハルトがプレイヤーを次第に認識していくというシステムが搭載されている。
(画像は囚われのパルマ VR面会より)

 スマートフォンのタッチパネルをプレイヤーとキャラクターを隔てるガラスに見立て、「監禁されているキャラクターと面会する」というユニークな設定の『囚われのパルマ』は、もともとキャラクターがプレイヤーのすぐ近くにいるような雰囲気を感じさせるタイトルでした。

 ところがこれがVRになったことで、「触れられそうなほど近い距離にキャラクターがいる」という圧倒的な存在感を見せつけました。
 作品と非常にマッチした“VR面会”は「ついに、私……物語の中に入り込んじゃった。次元の壁を超えたかも」と女性たちを虜にしたのです。

 さらに、2017年12月にコーエーテクモウェーブは、VRゲームを遊べる多機能筐体“VR SENSE”の稼働を開始。『DEAD OR ALIVE Xtreme SENSE』など男性に嬉しいタイトル群に『ときめきレストラン☆☆☆』を加えました。

(画像は12月21日プレイ開始!『VRセンス スパークリングブルー』ゲーム説明│YouTubeより)

 もともとVRに対して「彼が近くにいても、息遣いや香りがなくて、どこか物足りない」という感想を抱いていた女性たちでしたが、VR SENSEはそんな違和感を香り、温度、風圧などが体感できる多彩なギミックで拭い去ります。
 さらに『ときめきレストラン☆☆☆』では、曲に合わせてペンライトを振って得点を競ったり、アイドルとふたりきりになってファンサービスタイムを堪能できるという、濃密な密閉空間を生み出しました。

 この多機能VR筐体の発案者が、ほかでもない、女性向けゲームというジャンルを生み出したコーエーテクモホールディングスの襟川恵子会長だったということは、非常に示唆的です。

 「女性が、女性プレイヤーが潜在的に何を求めているか」を的確に捉え、持ち前の行動力でビジネスとして動かし、なかった需要を掘り起こす。女性を新境地へ連れ去るのはいつでも、第一線で活躍し続ける女性、すなわち襟川氏じゃなければできなかったことと言えるのかもしれません。

夫(社長)の反対を押し切りVR筐体を開発!? 異例の社内ベンチャー設立経緯から世界平和の野望まで、“名物夫人(会長)”のゲームへの深い愛【コーエーテクモ:襟川恵子インタビュー】

 このようにVRが存在感を示すなか、AR(拡張現実)技術も女性向け市場に流入
 アイドルものを軸に、リアルでのライブが展開されていきます。

 2016年に、ライブ会場でファンとコール&レスポンスやトークを楽しむデジタルキャラクター「AR performers」【※】が活動をスタートします。もちろん彼らの歌やダンスはリアルタイム。ファンにとって彼らはキャラクターではなく“パフォーマー”や“メンバー”という存在です。上演ごとにメンバーどうしの掛け合いや、歌のアレンジが変化するなど“そのときだけしか楽しめない”空間、そしてそこで生まれるライブの興奮は、人間のアーティストと遜色がありません。

※AR performers
ユークスが手がけるバーチャルプロジェクトであり、所属するアーティストの総称。パフォーマーと呼ばれるメンバーはSHINJI、REBEL CROSS(ダイヤとレイジ)、LEÓNの4人3組。2017年3月にエイベックスよりメジャーデビューし、所属アーティストになる。

 AR performersは、ファンの呼びかけにリアルタイムで反応するだけではなく、ファンと自由に会話を楽しみ、さらに名前を尋ねて呼んだりすることから、「メンバーが“私という個体”を認識する時代がやってきた!」と大いに話題となりました。
 そしてこのコンテンツをプロデュースしている人こそ、かつてKONAMIで『ときめきメモリアル Girl’s Side』や『ときめきレストラン☆☆☆』シリーズを手掛けた内田氏だったのです。

キャラと会話し、名前を呼んでもらえる時代がついに到来! 『ラブプラス』お義父さんの新プロジェクト『ARP』は二次元が三次元にやってくる夢の様なコンテンツだった

 ライブの開催時、ファンが贈ったフラワースタンドにメンバーがサインしている様子がSNSなどを通じて公開されると、「スタンドに触れてる、揺れている? つまり、メンバーが存在している! 一生、内Pについていきます。私の人生をありがとう!」と、ファンたちはさらに内田ワールドに心酔していくことになります。

(画像はAR BOYS公式Twitterより)

 AR performersのリアルARライブは都度会場にステージを設けるため、準備期間を長めに必要とするコンテンツですが、2015年に完成したホログラフィック劇場“DMM VR THEATER”【※】で過去のステージをみせる“リワインドライブ”を2017年から開催。

※DMM VR THEATER
最新鋭の映像表現である、「ホログラフィック」によるステージ演出ができる世界初の常設劇場。横浜駅西口に2015年オープン。3Dメガネなどを必要とせず、肉眼でリアルな立体映像ステージを楽しむことができる。

 さらに、実際の街並みを歩くキャラクターの姿などの日常をインスタグラムで公開し、ファンの心を潤しています。もはや、“アイドルキャラクター”ではなく“リアルアーティスト”として存在していることが、女性のハートを虜にする重要なポイントとなる時代になりました。

 なおDMM VR THEATERで最初にライブをした女性向けキャラクターのアイドルグループは、『ときめきレストラン☆☆☆ 3 Majesty ×X.I.P. LIVE -Triple Road/TRICK★STER-』(コーエーテクモゲームス)です。

 2017年にはアニonstation 秋葉原で『コール&レスポンスStage〜ドリフェス!』(バンダイ)、東京・仙台・名古屋・大阪の各ライブハウスで『あんさんぶるスターズ! DREAM LIVE ~1st Tour “Morning Star!』(Happy Elements)、2018年にはVR ZONE SHINJUKUで『IDOLiSH7 PRISM NIGHT』(バンダイナムコオンライン)など、アイドル作品がキャラクターを動かし、ライブを続々と展開するようになります。

 普段から目にするキャラクターが動いて歌う……という体験をした女性たちは、もはや2次元と3次元との区別がつかなくなっていきます。2次元アイドルは2.5次元で戦国時代を迎え、「彼らの存在を実感できる」、「リアルタイム感が味わえる」、「キャラクターがファンを個別に認識する」といったことがヒットへのキーポイントとなってきたのです。

 2018年現在、女性向けゲームのファンたちは、もはや2Dでは満足できなくなってきています。日進月歩のVRやARの技術……。リアルを追求する先に、いったいどのようなステージが待っているのでしょうか。

アプリのサービス終了、業績悪化。栄枯盛衰は続く……

 これまでお話をしたように、2015年以降、女性向けスマホアプリゲームは、育成ゲームを軸に大きな盛り上がりを見せていますが、一方で乱立するタイトルの数のため、日本国内において苦しい状況を強いられている現実もあります。

 IR情報によると、恋愛ドラマアプリや椅子ドンVRで話題を博したボルテージは、2018年6月期第2四半期決算において、日本語向けの女性向けゲームの減少が続き、前年同期比32%と発表されていました。
 『幕末カレシ』などの恋愛シミュレーションゲームを配信しているフリューのゲーム事業は、2018年3月期第3四半期決算によると、配信開始するタイトルへのゲーム開発投資の影響から、前年同期に比べ営業損失の拡大が報じられています。

(画像はIR情報 |フリュー株式会社のスクリーンショット)

 さらに、少し前まで収益の多くを担っていた“美麗なイラストをガチャで引かせるシステム”は、「ガチャ課金」、「廃課金兵」という言葉の流行とともに、以前のように無条件で受け入れられなくなり始めている一面もあります。

 こうした停滞を脱し、新たなファン獲得のために、アプリゲームを有する各社はアプリのみに留まらず、アニメ、2.5次元舞台、キャラクターソング、モーションライブなど、さまざまなコンテンツの展開が必須となっています。

 そうした中、2018年に入るとサービスが終了するコンテンツも出始めました。

 バンダイが展開している、2次元キャラクターと3次元のアイドルによる5次元作品『ドリフェス!』【※】は、5月31日をもってアプリのサービスを終了と発表。サービス期間は2年1ヵ月となります。

※ドリフェス!
バンダイナムコグループと芸能プロダクションのアミューズが2016年よりプロデュースする、2.5次元アイドル応援プロジェクト。2次元のキャラクターゲームとそれを演じる3次元のキャストによるライブなどで多面的に活動を展開。ゲームアプリは2016年4月に配信され、2017年には5次元アイドル『ドリフェス!R』としてリニューアルした。2018年5月1日にサービス終了予定。

 同様に、スクウェア・エニックスが提供するアプリ『君と霧のラビリンス』【※】が、6月14日でサービスを終了する旨を発表。
 VRを一部に搭載した女性向けRPGとして話題をあつめ、事前登録者数は25万人以上。華々しくアプリが配信開始されましたが、サービス期間はわずか11ヵ月でした。

※君と霧のラビリンス
スクウェア・エニックス初の女性向けアプリ(一部VR対応)として、2017年7月14日に配信を開始。謎の霧により外界から切り離された学園島に迷い込んだプレイヤーが、そこで出会った生徒会メンバーとともに、霧の中から現れる脅威“フォグ”に立ち向かうという姫になれるRPGゲーム。2018年6月14日にサービス終了予定。

 これら大手のゲーム会社から配信されていたアプリゲームの終了は、プレイヤーたちに大きな衝撃を与えました。
 ソフトの買い切りが基本となるコンシューマーゲームは、1本ごとにシナリオが完結しています。しかし、継続した運営をベースに作られたアプリゲームには、エンディングらしきものが明確にはありません

 この違いによって、アプリゲームは、ある日突然サービスの終了が発表されると、その時点から物語が急遽エンディングに向かい始めるのです。

 いつまでもともにいられると思っていたキャラクターたちが、ふといなくなる恐怖……。そうならないように……と、関連CDやDVDを複数枚買い、ガチャを回し続け、グッズをたくさん購入し、ゲーム会社の株を保有するなど、たくさん欲しいという前提はあるものの、女性たちはあらゆる方法で推しキャラ存続のために応援を続けています。

 「いくら私が好きであっても、収益が見込めなければ、突然その世界が消えてしまう。私の好きなこのアプリの収益は大丈夫かしら?」。いくら拭っても拭いきれない不安が、現在、女性プレイヤーたちを襲っているのです。

(画像は編集部私物)

 2018年現在、時代の進化とともに女性向けゲームの市場は拡大し、より濃厚に、より手軽に、そしてリアルになり、ゲームだけに留まらず、ゲーム発の作品として超えられなかった壁をどんどん飛び越え、舞台やライブなど、あらゆる方面で楽しめるようになりました。

 これはつまり、同じIPであっても、受け手が自分に合ったスタイルを選んでコンテンツを楽しめるような時代になったというわけです。
 価値観やライフスタイルが多様化した時代において、ひとりでも、皆でも、現実でも、バーチャルでも……いろいろな形で楽しめる女性向けゲームの未来は、今後ますます多彩になっていきそうです。

 はたして次なる革命は、いつ、どのような形で起こるのでしょうか。

女性向けゲーム年表はこちら

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 編集部による『刀剣乱舞』ファンが巻き起こした伝説まとめもお楽しみください。推しを持ったファンたちのケタ外れの熱意は、ケタ外れの経済効果を生み出していた……!

著者
AAAからインディーズ、乙女・育成ゲーまで遊ぶゲームがないと生きていけない人。好みのイケメンキャラが死にやすい、乙女ゲームですぐバッドエンドに直行してしまうのが悩み。『Gamer』、『4Gamer』ほかで、IT/ビジネス系やサブカルなど幅広いジャンルの記事を執筆中。
編集
コスプレ雑誌の編集部を経て、電ファミ初の女性スタッフとなった編集者。乙女ゲームと育成ゲームをこよなく愛し、BLゲームを嗜んでいる。2.5次元舞台の観劇とコスプレ撮影が趣味。アニメに影響されフィギュアスケートを習っている。