北宇治高等学校吹奏楽部でオーボエを担当する鎧塚みぞれ(CV:種崎敦美 ※崎は立つ崎)と、フルートの傘木希美(CV:東山奈央)は、中学時代からの同級生。
周囲と関わることが苦手で、ずっと一人ぼっちだったみぞれは、明るくクラスの人気者だった希美に誘われて吹奏楽部に入部。
その時から、みぞれにとっては、希美だけが世界のすべてになった。

最上級生となった二人は、高校生活最後のコンクールの自由曲「リズと青い鳥」で、オーボエフルートが掛け合うソロのパートを任されることに。
ところが、親友同士で、技術も部内トップレベルなはずの二人の演奏は、なぜかかみ合わず……。

武田綾乃の小説『響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第2楽章』を、3年生のみぞれと希美の二人にスポットを当てる形で劇場アニメ化した『リズと青い鳥』

たまこラブストーリー』、映画『聲の形』と名作映画を立て続けに生みだしてきた京都アニメーション。スタッフたちは、本作でも緻密で繊細な映像や音を丁寧に積み重ね、捉えどころのない少女たちの心と繋がりを一本の長編映画として描き抜いた。
4月21日に公開されたばかりだが、すでに高い評価を集めている。

監督は、『たまこラブストーリー』、映画『聲の形』でも監督を務めた京都アニメーション山田尚子
両作品の上映時に大好評だったエキレビ!の山田尚子監督インタビューが今回も実現。

前編では、本作が生まれるまでの経緯など、ネタバレ無しのテーマで語ってもらった。

みぞれと希美の存在感もすごくって、ぜひ描きたいなと思った
──『リズと青い鳥』は、テレビアニメにもなった『響け!ユーフォニアム』ではサブキャラクターだったみぞれと希美を主人公に配し、単独の物語として成立する内容になっています。2人が初登場したのは原作小説の2巻(『響け! ユーフォニアム 2 北宇治高校吹奏楽部のいちばん熱い夏』)ですが、2人に対しては、どのような印象を持っていましたか?

山田 なんて面白いんだと思いました。こんな切り口でキャラクターを立ち上げていかれる(原作者の)武田先生の着眼点に感動して、みぞれと希美の関係性にすごく夢中になったのを覚えています。同時に、ものすごく業の深い話だとも思いました。それなのに、ものすごく透明で、向こう見ずで……。とにかく魅力的に感じました。自分からは、絶対にこの切り口は出てこないです。そのくらい面白かったので、ずっと気になっているキャラクターたちでした。

──では、どのような経緯で、その二人の物語を独立した長編映画として作ることになったのですか?

山田 最初に『響け!ユーフォニアム』で映画を作るという企画がまずあって。そのシナリオ会議の時、原作者の武田先生がこんな新作を書かれていますということで、(『響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第2楽章』の)プロットを読ませていただいたんです。(主人公の黄前)久美子たちの物語がありながらも、みぞれと希美の存在感もすごくって、何かを訴えかけられている。これは見て見ぬふりはできないなというくらいに魅力的なお話で、ぜひ描きたいなと思いました。(テレビシリーズの)石原(立也)監督は、久美子の話を描くと決めていらっしゃったのですが、久美子の話と一緒にみぞれと希美の話も描くとなると、けっこうなボリュームになってしまう。なので、それぞれの話がこれだけ立っているのであれば、個別の作品に切り離すことも可能なのではないかと思って。もし可能なら、切り離しても良いですかという提案をさせてもらいました。

──監督として、みぞれと希美の物語を描いてみて、二人の印象などに変化はありましたか?

山田 テレビシリーズには「シリーズ演出」として参加していたのですが、私自身はあまり二人に触れることができてなかったんです。それもあって、ますます興味があったし、なんとか(二人の物語を)形にしたいと思っていました。実際に向き合ってみると、みぞれも希美もすごく繊細ありながら、がんこで図太い部分もある。いろいろな面があって、本当に楽しかったです。

髪の毛の一本一本、まつ毛の一本一本を取り逃がさないようなデザイン
──『リズと青い鳥』のキャラクターデザインである西屋太志さんには、どのようなオーダーを伝えたのでしょうか?

山田 具体的な言葉はあまり覚えてないのですが、女の子たちのちょっとした動きもすくい取っていくような作品になるので、髪の毛の一本一本、まつ毛の一本一本を取り逃がさないようにしていきましょうというお話をして。西屋さんが出してくださった答えがこのデザインでした。

──デザインはすんなりと決まったのですか?

山田 西屋さんの中では、最初から「こうじゃないかな」と思っていたみたいです。その良し悪しを判断するために、一応、まったく違う方向に振り切ったデザインも描いてもらったのですが、私も「こっちが良いな」ということになって。その後は、顔が少し丸いとか尖っているとか、手や脚の長さなど、ほぼ微調整だけでしたね。でも、今回のデザインだと、目の大きさが線一本分違うだけでも、印象はかなり違ってくるんですよ。

──西屋さんが描いたデザインについては、山田監督も最初から良いなと思っていたのですか?

山田 はい。ただ、今回のデザインは、けっこう大人っぽいですよね? 私、どちらかと言えばロリコンなので……って、私は何を言っているのでしょう……(笑)。

──より可愛いらしいキャラクターが好きということですか?

山田 あ、そうです、そうです! 言い方が分からなくてストレートに言っちゃいました(笑)。「思っていたよりもお姉さんぽいな」と一瞬だけ思ったのですが、西屋さんが描かれたデザインは絵の力もすごくあったので。自分の性癖で選んじゃダメだなって、すぐに考えを改めました。

──みぞれと希美の物語の合間合間には、劇中劇という形で、童話「リズと青い鳥」の物語も描かれていきます。その登場人物のリズと、青い鳥の少女は、女優でフィギュアスケート選手でもある本田望結さんが一人二役で演じていますが、キャスティングの狙いなどを教えて下さい。

山田 今回、リズと、青い鳥の少女をどなたかに一人二役でやってもらいたいということは、心の中で決まっていたんです。でも、誰にやっていただけば良いのかは全然思いつかなくて、ずっと考えていました。本田さんのお声は聞いただけで本田さんだと分かるぐらい特徴的で、元々、大好きだったのですが、本田さんにお願いするというアイデアは想像もしていなかったんです。でも、キャスティングについてプロデューサーと話していた時、突然、ポンと出たと言うか。「もしかして本田さん?」「ですね!」という感じになったんですよ。本田さんのお声の透明感や無垢な感じがすごく合っていると思いました。

二人だけを編み込んでいくような構造の作品に挑戦したかった
──繊細な物語を描くにあたって、特に大事にしていたことはありましたか?

山田 みぞれと希美の関係を描くのは、すごく力加減が難しくて。会話の一個一個、言葉尻のかけ方ひとつで全く違う印象になってしまいそうで。この二人の思いに、ただただ忠実でありたいと思いました。すごくリスキーな物言いになってしまうのですが、私たち作り手が観てもらう人に「この二人はとっても仲良しです」と無邪気な説明をしてしまうようなものを作らない。彼女たちの尊厳を守るため、(描かれていることに)嘘が無いように、見世物っぽくしないことを常に大事にしました。

──繊細な心情を言語化して、アニメーターをはじめとしたスタッフたちに伝えるのは難しかったのでは?

山田 京都アニメーションにはこういった繊細な感情を汲み取って積み上げていくのが得意なアニメーターが多いと思います。だから、一見、舵取りがすごく難しそうに見える作品かもしれないですが、スタッフが「なんですか、これ」って、きょとーんとする顔は、あまり見ずにすみました(笑)。

──以前、お話も伺った『たまこラブストーリー』と、映画『聲の形』では、メインキャラの二人にスポットを当てながら、周りのキャラクターもできる限り描きたいという意思を感じました。しかし、『リズと青い鳥』では、みぞれと希美、二人の女の子に集中している印象を受けます。

山田 はい。完全に二人に集中していました。二つの物を編み込んでいくような構造の作品を作るのは、かねてから挑戦してみたいことだったんです。今回、それにチャレンジができて、すごく嬉しく思っています。もう一つ、自分としてのこの作品の課題は、「少女を撮り切る」ということでした。まばたきをしたり、息を吸ったり吐いたりといった細やかな表現も腰を据えてやってみたかったんです。テレビシリーズの30分の中では、なかなかやりきれないというか。それをやって(物語があまり展開せず)「続きは来週」とやったら、翌週も見てもらえるか少し心配になりますが、映画だったら、お客さんも腰を据えて最後まで観てもらえるかなって(笑)。音楽や音などにもすごくこだわっているのですが、劇場で観て頂いた時に最大のパフォーマンスを発揮する作品となっているので、ぜひ映画館で観ていただきたいです。
(丸本大輔)

4月25日朝10時公開予定の後編に続く )

リズと青い鳥
4月21日より公開中

【スタッフ】
原作:武田綾乃(宝島社文庫『響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章』)
監督:山田尚子
脚本:吉田玲子
キャラクターデザイン:西屋太志
美術監督:篠原睦雄
色彩設計:石田奈央美
楽器設定:高橋博行(※高ははしごたか)
撮影監督:高尾一也(※高ははしごたか)
3D 監督:梅津哲郎
音響監督:鶴岡陽太
音楽:牛尾憲輔
音楽制作:ランティス
音楽制作協力:洗足学園音楽大学
吹奏楽監修:大和田雅洋
アニメーション制作:京都アニメーション
製作:『響け!』製作委員会
配給:松竹

(C)武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会

『リズと青い鳥』のキービジュアル。演奏するみぞれと希美の後ろには、リズと、青い鳥の少女が描かれている。(C)武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会