2018年5月12日と13日にわたって、デジタルアートの祭典『LIMITS World Grand Prix 2018』が渋谷のヒカリエホールにて開催された。LIMITSは、決められたテーマを元にして20分という競技時間内にPCと液晶タブレットでアートを制作して勝敗を決めるバトルエンターテインメントアーティスト同士が1対1で戦い、画力やテクニック、制作のスピードや発想力が試されるイベントとして2015年5月に大阪で誕生した。決勝戦が行われた13日の様子をレポートする。

母の日をテーマにしたスペシャルエキシビション

『LIMITS World Grand Prix 2018』には、日本だけでなく韓国、台湾、アメリカイギリスベネズエラオーストラリアなど各国のクリエイター16名が参加している。12日にトーナメント1回戦が行われ、13日の準々決勝には8名がコマを進めた。そこから勝ち上がったのはベネズエラ出身にて大阪在住経験もあるREIQ、大阪出身で『LIMITS World Grand Prix 2017』チャンピオンのアオガチョウ、世界最速と名高いライブパフォーマンス名古屋出身jbstyle.、アメリカ出身のアーティストAhmed Aldooriの4名。

準々決勝後にはスペシャルエキシビションとして、LIMITSの前身「DLP-バトル」初代チャンピオンKENTOOと、YORKE. (OLDCODEX)によるコラボレーションパフォーマンスが行われた。決められたテーマは「星」と「謎」。母の日にちなんで、花束を持つ羽の生えた小悪魔のようなキャラクターを描くKENTOOと、そのキャラクターを抱える両手を描いたYORKE.。制作の途中にYORKE.は客席から少年を招き入れ、「お母さんありがとう」のメッセージを描いてもらうなど余裕のあるパフォーマンスを披露した。

作品の完成後にYORKE. (OLDCODEX)は「普段はペンキで絵を描いているので、デジタルアートは難しく感じたけれど、KENTOOさんが引っ張ってくれたので助かりました。これからもステージには上がりたいと思います。みんなの歓声が励みになりました」と話した。

「異なる種族の友情」がキーとなった準決勝第1試合

準決勝の第1試合はREIQ対アオガチョウ。テーマは「命」と「親友」。ベネズエラ出身のREIQが描くのは、巨大なリーゼントをしたまさかのヤンキー。そのポップタッチで、ヤンキーと愛犬が高層ビルバックにした街中で抱き合う作品を完成させた。鮮やかなブルーの着物に身を包んだアオガチョウは、森の中での鹿とリスのふれあいを描く。完成直前にはアニメーションで雪を降らせ、幻想的な雰囲気となった。

『LIMITS World Grand Prix 2018』では審査員と一般ユーザーからのジャッジにより勝敗が決定される。まったく毛色の異なる作品対決を制したのはアオガチョウ。審査員の金山淳吾は「レベルの高い対決でした。アオガチョウの作品は季節の変化がある。キレイな雪が降っていて、そこに感心しました」と評した。

「和」と「洋」の対照的な作風の対決となった準決勝第2試合

続く準決勝第2試合はjbstyle.とAhmed Aldooriの対決。テーマは「階段」と「約束」。スピーディなパフォーマンス定評のあるjbstyle.は開始早々ペンを走らせていく。下描きを進めるAhmedだが、ここで機材トラブルが発生。LIMITSでは試合開始から3分以内のトラブルは時間を止めて対処されることになっている。しばらくの中断の後、試合は再開されたが、Ahmed Aldooriはゼロからの再スタート。それを見たjbstyle.は自分の絵をすべて消して1からやり直す男気を見せる。

洞窟のような空間で甲冑に身を包んだ武士を描くjbstyle.の和風の作品に対し、Ahmedは大きな翼を持ったドラゴンが登場する西洋チックな作品を完成させた。モノトーンで和のテイストを強く出した前者と、黄昏時の色使いが印象的な後者。激闘を制したのはAhmed Aldooriの作品となった。

審査員のリム・チーワは「Ahmedの作品は色の使い方が某有名ゲームを思わせますね。ラストドラゴンが出てきたのが、とてもドラマチックでした」と語った。

「自然の驚異の瞬間」を捉えた力作がぶつかる決勝戦

決勝はアオガチョウとAhmed Aldooriの戦い。テーマは「自然」と「瞬間」。両者、ダークブルーを基調にして絵を進める。船の上で本を読んでいるような人物を描くアオガチョウと、ぼんやりとした人影のようなものを描くAhmed Aldoori。ここで、準決勝に続くまさかの機材トラブルがアオガチョウに発生。数分で復旧したが、今回は試合開始から3分を経過していたためストップはかからず、アオガチョウにとっては手痛いタイムロスとなった。

制作を再開したアオガチョウは、最初とはやや構図を変えて絵に取りかかる。船の上で片手を挙げた人物のシルエットが指すのは北極星と思われる星。Ahmed Aldooriが描くのは深い森にたたずむ少女。後半になると、アオガチョウの作品で星と思われていた光は巨大な首長竜の目と判明し、Ahmed Aldooriの作品で少女の後ろにあるのは木ではなく大蛇であることが判明。まさに、自然の驚異の瞬間を表した力作同士の対決となった。

両者は決勝戦の作品に対して以下のように説明する。

「自然と瞬間がテーマということで、星を頼りに進んでいたら怪物に遭遇したという冒険中の恐ろしい瞬間を描きました」(アオガチョウ)

「自然は美しい反面、危険な面もあります。木が蛇に変化することで、それを表しました」(Ahmed Aldoori)

激闘を制したのはAhmed Aldoori。スコアにして78対79というわずか1点差の勝利となった。惜しくも2連覇を逃したアオガチョウは「連覇は無理だったけど、よい結果になったと思います」と素直な喜びを表明。新王者は「なにが起きたのか、まだ自分の中で消化できていません。いろいろな場所から人が集まるこの空間にいられて本当に嬉しい。感謝しかありません」と、抑えられない喜びを語った。