待機児童全国最多の東京都世田谷区で7月にオープンする「そらとにじのいえ保育園」が注目を集めています。

保活を忘れママが働ける環境を!待機児童全国最多エリアではじまる「まごころ介護」の挑戦【インタビュー前編】

待機児童を減らし、高齢化に伴う介護危機を救い、地域と子どもたちに笑顔と優しさを育む取り組みについて、園を運営する「まごころ介護」代表・榎本吉宏さんに聞きました。

保育園核家族+高齢者+要介護者の交流拠点に!2020年パラ大会へ向けた準備にも

インタビュー【前編】では、東京都世田谷区全域で主に身障者の方への訪問介護事業を展開している「まごころ介護」が今年7月、同区内に「そらとにじのいえ保育園」を開設されるまでのいきさつについてお伺いしました。

――待機児童問題と介護の人材難がいかに深刻か…。驚くことも少なくありませんでしたが、最終段で榎本さんから「地域の福祉を豊かにして、みんなが暮らしやすい、外に出ていきやすい環境をつくっていかなければ、結局のところは『負のスパイラル』から抜けられない」というお話がありましたね。「地域の福祉を豊かにする」というのは、具体的にはどのようなことを指すのでしょうか。

榎本:実は世田谷というのは、待機児童数もワーストワンなんて言われていますが、65歳以上の高齢者の一人暮らしも多いんです。少し前にも、ご近所で孤独死された方がいらっしゃいました。

「まごころ介護」のスタッフもそうですが、核家族も多い。身近に頼れるつてもなく、子どもを預けられなければ復職もかないません。

地域の福祉が手薄いがために、待機児童を抱えるママも、ご高齢のおひとり暮らしの方も、また前回お話したような要介護者の方たちもみな個々に閉じ込められてしまって・・・それぞれのつながりが、非常に希薄になっているんです。

そこも「そらとにじのいえ保育園」を通じて何とかしてゆけないか、と思っています。

――「そらとにじのいえ保育園」は、いわゆる普通の保育園ですよね。果たしてどんなことができるのでしょうか。

榎本:「そらとにじのいえ保育園」に、子どもたちを中心とした地域交流スペースを作ろうと考えているんです。

まず、ひとりで子育てしているママとつながって、そこでホッとしてもらえる場所をつくりたい。例えばベビーマッサージとか、育児で孤独を感じて悶々と、どうしていいか分からないでいる方のための子育て相談会とか。

あとは「小1の壁」ですね。これは「まごころ介護」でも直面している問題なんですが、子どもが小学校に上がる段階で学童では18時までしか預かってもらえないとなると「就学前は遅くまで仕事できたのに、これまでのようには働けない!どうしよう?」となりますよね。

たとえ子どもが留守番できるにしても、ひとりでご飯を食べて待っているとか、そういう状況にならざるを得ません。

「そらとにじのいえ保育園」は自社スタッフのために遅い時間まで開けておくことにもなるので、学童が終わってから親御さんの仕事が終わるまで、子どもたちと地域の人たちが楽しく過ごせるような、例えば「子ども食堂」をしたりとか、ついでに宿題もできるような場所にもできるんじゃないかと思うんです。

――宿題、大事ですね(笑)

榎本:いま働く世代というのは日々本当に忙しいんですけど、リタイヤしているおじいちゃんおばあちゃん世代を巻き込んで、遊びにしても、食事にしても、それこそ宿題にしても(笑)、頼れる存在として関わりを作っていきたいんです。

これは、地域の防犯にもなるんですよ。子どもが登下校時に怪しい人に声を掛けられたりした場合、通学路に普段からかわいがってもらっているおじいちゃんおばあちゃんの家が何軒もあれば、遠慮なく逃げ込めますから。

また逆に、おじいちゃん世代は仕事以外のコミュニケーションをどう取ったらよいか分からず孤立しやすいということもあるので、そのような方々と地域社会との接点にもしていただけたら。

例えばこの辺りでもNPOで、シニアの男性向けに料理教室をして地域の人たちに振る舞ったりしている団体があるのですが、そんなイベントも誘致できればと思っています。

「まごころ介護」のスタッフにも核家族が多いというお話はしましたが、ご近所にちょっとでも頼れる存在があれば、自分たちの働く世田谷の町が、もっと暮らしやすくなると思うんですよね。

幅広い世代と触れ合う機会が育てるものって?

――ママやパパだけでなく、もっと上の世代と触れ合う機会があるというのは、子どもの教育にもいいかもしれませんね!

榎本:子どもの教育ということでいえばもうひとつ、僕ら「まごころ介護」という介護事業者だからこそできることとして、障害を持っている方と出会える機会を提供していきたいとも思っています。

障害のある人と会ったことのない人、交流したことのない人って案外たくさんいるんですよね。

「まごころ介護」ではたまに、会社の飲み会にご利用者さんを呼んじゃうこともあるんですけど(笑)、僕やスタッフの子どもも度々参加しています。

そうすると子どもたちは自然に「この人はひとりでご飯が食べられないんだ」とか「トイレに行くのに助けがいるんだ」とか、そういうことを理解するんですね。

うちの子どももそういった機会をつくるまでは、僕が仕事に行く時でも「行かないで!」、「遊んでよ!」と言っていたんですけど、いまではどうしてパパが仕事に行くのか、行かなければならないのかを分かってくれて、笑顔で「行ってらっしゃい」って送り出してくれるようになりました。

そこで「そらとにじのいえ保育園」でも「園児とおつかいプロジェクト」をしてみようかな、と。

――園児とおつかいプロジェクト

榎本:保育園って、お散歩があるじゃないですか。その時に、あらかじめ「まごころ介護」のご利用者さんから必要なものを聞いておいて、地元の商店街でそれを買ってお届けしたりとか。これは「まごころ介護」のご利用者さんに限らず、地域のケアマネジャーさんからご要望を聞いてみてもいいですね。

人とのつながりが一番必要なのに周りとつながれていない要介護者の方と地域をつなぐ、それは介護事業者だからこそできることだと思うんです。

商店街のお店にとっては、デリバリーという販路を試してみる機会にもなりますし。

子どもたちの教育としても、その人たちの生活を自分が支えているということで優しい気持ちを育てられるかなって。困っている人を助けるっていうのが当たり前になっていくような教育というか、そのお手伝いができるんじゃないかと。

2020年には、東京でパラリンピックもあります。身障者と触れ合って理解を深めようにも、現状では拠点がなければ大人でもなかなかそんな機会はつくれないと思うので、そういった意味でも「そらとにじのいえ保育園」を活用していけたらと思っています。

――「そらとにじのいえ保育園」が、待機児童問題と介護の人材難を解決しつつ、地域の福祉を豊かにするモデルケースになったらいいですね!

榎本:もっと大きな会社がやってくれたら、ずっとインパクトもあると思うんですけど(笑)

でもまず、とりあえず僕ら「そらとにじのいえ保育園」からスタートします!

そして「そらとにじのいえ保育園」を中心に、活動の輪を広げていきたい。保育事業を軸に、すでに動き始めているほかの待機児童対策もあるので、新たな可能性を探っていきたいですね!

――エッ!ほかにも待機児童解消プランがあるんですか?

問題が“他人事”になってる!?

保育園開設を通じて地域福祉を豊かに!みんなが“自分事”として考えられる社会を

榎本:これはまだ形になってはいませんが、地域の複数の保育園が連携して、働きたいのに働けない保育士さんたちに、互いにお子さんを預かり合うことで復職してもらえる仕組みづくりなども画策しています。

実は「そらとにじの保育園」の保育士さんを募集した時に、待機児童を抱えている保育士さんが僕らの趣旨にご賛同くださってお問い合わせをくださいました。聞けば彼女のお友だちにも「子どもの預け先が確保できれば保育士として復帰したい」という方がいらっしゃるそうで、ここにも介護事業に重なる問題があると感じたんです。相互の預け合いの取り組みはすぐに実現することは難しそうですが、待機児童対策の一手になると思います。

――対策が、次々と生まれていますね!榎本さんの手腕には脱帽ですが、ご苦労などはありませんか。

榎本:いやいや・・・(笑)

もちろん、大変なこともなくはないです。

保育園の土地探しでも、門前払いみたいなところもありましたし。「そういうの困るんだよね」って眉をひそめられて「そういうのって何ですか」って聞いたら「ただ人と人とをつなげて、後でトラブルになったりするヤツ」って言われて、カッチーン!とか(笑)

――榎本さん、顔は笑ってますけど、目は怒ってますね・・・。

榎本:だって、誰だって人にちょっとぐらい迷惑を掛けたり人の手を借りて生きてきただろうに、まるで“他人事”だっていうのが悲しいじゃないですか!

世の中全体がいま、子どもを産んで育てることが「申し訳ない」みたいな空気になっていますよね。職場で産休や育休を取るというのが言いづらいとか、ありますよね。

ほんとは、みんなが喜ばしいことなのに。

なんかもうちょっと、みんなで喜べたらいいんじゃないかなって思うんです。

会社としても「心配することないから、ボンボン産みなよ!」って環境をつくれたらうれしいです(笑)

――(笑)

榎本:「そらとにじのいえ保育園」という名前には、空のようにのびのび、虹のようにそれぞれ個性的な子どもたちが育つように、という願いを込めました。

最後の最後に自分の話になってしまいますが、僕は学生時代、農業大学で途上国支援について勉強していました。

それで海外への渡航費用を稼ぐために、どうせするなら人の役に立つことをと思って介護のアルバイトを始めたのですが、卒業間際にはものすごい人数の障害のある方にお世話になるようになっていまして。皆さんを置いて途上国へ行くのが本当にいいことなのかな、と感じたのが介護事業を立ち上げるきっかけだったんですね。

介護の現場にある者として率直なところを言ってしまえば、高齢者が増えて子どもが減って、さらに担い手不足は顕著になっていくと思います。

じゃあロボットに任せればいいのかといえば、やはり人間がやらなきゃならない部分もある。

話が逸れていくようで恐縮なんですけど、では人材をどこに求めるかといえば海外しかない。

そうするとどうしても英語を母語とする国々や給料が高い国が圧倒的に誘致しやすくて、非英語圏のドイツなんかは積極的にアプローチをしているんですが、日本は「だって途上国の人たちはみんな日本に来たいんでしょ?」くらいに構えていて、永住権も取りづらい。

移民に対する考え方を他国から学ばないといけないと思います。

そしてゆくゆくは「まごころ介護」でも、途上国からの介護人材誘致に関わっていけたらと思っています。

話が大きくなっちゃったように聞こえるかもしれませんが(笑)

自分に関わってくれる人たちの未来を考えていくと、介護を必要としている人と、そこで一緒に働く人が無理なくやっていきながら、子どもたちも、地域も笑顔になることが欠かせない。つまるところそれが僕の結論であり、原動力なんです。

僕らの活動を応援してくださる方には、感謝の気持ちしかありません。実は先日もあらためて園周辺地域の皆様に説明会をさせていただいたのですが、激励の言葉をたくさん頂戴しました。ありがたいことです。そんな仲間たちと、共に頑張っていきたい。

繰り返しになりますが、これはほんと、みーんなに、みーんなが関わることですから。「待機児童」も「介護」も、「地域のつながり」も。だからこそ一緒に手を取り合うことで「負のスパイラル」を打破したい。

「そらとにじのいえ保育園」を新たなきっかけに、地域福祉の豊かな社会を一歩一歩、目指していきたいと思っています。

【取材協力】榎本 吉宏(えのもと よしひろ)さん

「私のおじいちゃん、おばあちゃんを安心して任せられる“孫心の介護”」をコンセプト2007年東京都世田谷区で「まごころ介護」を創業し、現在も代表を務める。

兼「そらとにじのいえ保育園」経営代表。「そらとにじのいえ保育園」は当初、区内に多く存在する空き家を活用する方向性でスタートしたため「一般財団法人世田谷トラストまちづくり」が主催する「空き家活用ゼミナール」プレゼンテーション審査にも参加し、企画の社会的意義が高く評価され最優秀団体にも選ばれている(その後、児童への最良の環境を求め新築物件で開業することになるが、この選考をきっかけに支援・賛同の輪が広がったとか)。

そのほかにも地域社会の福祉を豊かにする取り組みとして、区からの委託を受けて就労困難者の就労支援事業を行う「ぷらっとホーム世田谷」と「世田谷区立男女共同参画センターぷらす」が共同で開催した「ママさん応援ジョブフェア」に出展し複数名を雇用する等、積極的な活動を展開している。プライベートでは4児のパパでもある。