船に名前があるように、飛行機にも機体固有の愛称が付けられているものがあります。かつて日本の航空会社の旅客機でもよく見られましたが、昨今ではとんと目にしません。どのようなものがあったのでしょうか。

かつてメディアでも使用された旅客機の「愛称」だが…?

かつて日本の旅客機には、1機ごとの固有の愛称がついているものがありました。たとえば「よど号」のように、メディアにおいても機種名ではなく愛称で報じられていました。しかし、いつのころからか旅客機の愛称を聞かなくなって久しいのではないでしょうか。

ICAO(国際民間航空機関)に加盟する国の民間機は、機体記号を付けることが義務付けられているものの、機体名を命名することは国際法や日本の法律、条例などでも特にうたわれていません。なおこの機体記号とは、国別の国籍記号と登録記号の組み合わせで表されるもので、たとえば日本の飛行機は、国籍記号「JA」を頭に続く4ケタの数字またはローマ字の大文字が機体に記されています。たとえるなら、クルマのナンバープレートの数字のようなものです。

愛称を付けていた理由について、JAL日本航空)とANA(全日空)に確認してみましたが、さすがに古い話であり、確たる証拠資料や証言などは得られませんでした。JALの担当者は「当時の慣習からと考えられますが、それを裏付ける文書は残念ながらありませんでした」といいます。

一方で、なぜその愛称を付けたのか、というエピソードは、両社からいくつか聞くことができました。

ANAのYS-11はなぜ「オリンピア」?

1機ごとの愛称ではありませんが、ANAのYS-11には「オリンピア」という愛称がありました。これは1964(昭和39)年に開かれた「東京オリンピック」における聖火輸送にちなむものだそうです。このときANAはYS-11のメーカーである日本航空機製造から同機の試作2号機を借り受け、那覇から千歳まで聖火の空輸を行いました。この試作2号機はそののち、日本国内航空(のちのJAS〈日本エアシステム〉)に納入され、同社において「聖火号」と命名されています。

JALのMD-11が日本の希少野鳥の名前になった経緯

JALが1993(平成5)年に導入したMD-11の愛称である「J-Bird」は、就航開始時に整備部門のボランティアグループが「機体をJ-Birdと呼ぶこと、そして1機ごとに野鳥の愛称をつけること」というアイディアを提案したといいます。そして、その案が採用され、個別の愛称は日本野鳥の会のアドバイスにより、日本国内で数少なくなった野鳥から付けられることになりました。

これまでどんな愛称が付けられていた?

では具体的に、どのような愛称が付けられていたのでしょうか。

まずJALですが、戦後営業を開始した1番機のマーチン202には「もく星」、DC-3には「金星」、DC-4には「てんおう星」など星の愛称がありました。社有1番機のDC-4には「高千穂」、DC-6の1番機は「City of Tokyo」、DC-7の1番機は「City of San Francisco」と名付けられていました。

ジェット機の時代となりDC-8は「富士」、「鎌倉」、「箱根」などの観光地、コンベア880は「桜」、「松」、「楓」などの植物、ボーイング727は「利根」、「淀」、「木曽」などの河川の名が付けられていました。

「白鷺1号」から「うれシーサー」号、「手羽先」号まで

このほかJALグループ各社の旅客機として、以下のような愛称が挙げられます

JALグループの旅客機の愛称
ボーイング777スタージェット」:シリウス/ベガ/アルタイル など
ボーイング737-400「フラワージェット」:コスモス/リンドウ/ハイビスカス など
JTA ボーイング737-200「スカイシーサー」:うれシーサーバンザイシーサー/ハイサイシーサー など

JALと経営統合したJASでは、YS-11に「摩周」、「霧島」、「徳之島」など全国各地の地名が付けられ、ボーイング777には「レインボーセブン」という愛称も付けられていました。

一方のANAですが、前身である日本ヘリコプター輸送時代の所有機デ・ハビランド DH-114に「ヘロン(鷺)」という愛称があり、これにちなんだ「白鷺」という愛称がつけられ、1号から3号までがありました。ANAとなってからは、前出の「オリンピア」のような機材へのネーミングや、「ポケモンジェット」のような特別塗装機へのネーミングはありますが、基本的に1機ごとの愛称はつけなかったといいます。

このほか、のちにANAへ統合された藤田航空のDH-114には「ミス八丈」と「ミス大島」という愛称が、同様にANAへ統合されたエアニッポンDHC-8には、「つばき」「ひまわり」「すずらん」といったものがありました。

このように、日本では機体ごとに愛称を付けるケースは見られなくなりましたが、海外のエアラインでは2018年現在もそうした事例が見られます。

インドのエアインディには「パンジャブ」「ラジャスターン」「ゴア」など地名が、タイ航空には「チャオプラヤ」「ムクダハン」など地名や人名が、KLMオランダ航空のボーイング787には「ラベンダー」や「ハイビスカス」など花の名前が付けられています。面白いところでは、香港のLCC、香港エクスプレスにおいては食べ物の名前が付けられています。「春巻」「えび餃子」の中華料理に加えて、日本にちなんだ「手羽先」や「讃岐うどん」もあります。

国内の航空会社では1機ごとの愛称は使われなくなりましたが、たとえば特急列車に見られる名前のようなものがあれば、愛着が沸くのではないでしょうか。

【写真】「春巻」「えび餃子」「讃岐うどん」、共通点は「旅客機」

JALのダグラスDC-8-33型旅客機「KAMAKURA(鎌倉)」号(画像:JAL)。