
SNS上で「アロマ(芳香)」が動物に与える影響が話題となっています。「飼っていたオカメインコが、部屋でたいていたアロマが原因で死亡した」などの体験談や「ペットショップに来る時は天然アロマ成分を含む香水をつけてこないでください」という、店員からの警告も。これに対し「知らずに使っていた」「動物カフェや動物園に行く時にも注意しないと」「動物の種類によるのかな」など、さまざまな声が上がっています。
「香り」が動物に与える影響とは、どのようなものでしょうか。オトナンサー編集部では、新著に「動物進化ミステリーファイル」(実業之日本社)がある、どうぶつ科学コミュニケーターの大渕希郷さんに聞きました。
精油は毒になりうる
まず、SNS上などで注目された「アロマが原因でインコが死亡しうる」という件ですが、これについて大渕さんは「はっきりと因果関係を特定することは難しい」と話します。何が「毒」になりうるかは、アロマの種類とその成分、動物の種類と体調など、さまざまな条件とその組み合わせによって変わるそうです。
ただ、アロマに使われる「精油(エッセンシャルオイル)」が、動物の体調に悪影響を与える可能性は高いといいます。
「精油は植物が作り出す成分です。植物自身が空気中に拡散させることで、病気や有害昆虫、草食動物から身を守ったり、逆に有用昆虫を呼び寄せたりする役割があります。もともとの役割を考えると、鳥やその他の動物にとって毒になりうる可能性は高いのではないかと思われます」(大渕さん)
ちなみに、人体に影響はないのでしょうか。
「人間でも、妊娠中の人などに、毒とまでいかなくとも良くない作用を引き起こすことがあるようです。アロマとして利用する程度であれば害はありませんが、それでも高濃度で使用すると体調が悪化することがあります。精油を使用する場合、年齢や状況(妊娠など)によっては注意が必要です。特に、誤飲した場合は死亡する可能性もあります。精油は間違っても飲んではいけません」
アロマテラピーで人気の高いオイルの一つに「ユーカリ」があります。ユーカリはオーストラリア原産の樹木です。この精油はさわやかな香りが特徴で、リフレッシュや集中力アップなどの心理的効果だけでなく、風邪やインフルエンザの予防、防虫などの効能もあるとされています。
「一部を除くユーカリの精油の主成分は、『1,8-シオネール』、別名『ユーカリプトール』と呼ばれるものです。もともとこの成分は、ユーカリが病原体や虫から身を守るために作り出しているもの。ユーカリ精油に感染病予防や防虫の効能があるのはこのためです」
ユーカリといえばコアラの食料としても有名ですが……。
「コアラはある意味で、その毒を逆手にとって進化してきた動物といえます。皆さんよくご存じの通り、オーストラリアはコアラ以外にもたくさんの動物が生息する地域です。コアラは、ユーカリの毒素を分解できるように独自の進化を遂げたことで、食料を他の動物と奪い合うことなく暮らせるようになったと考えられています。ちなみに、コアラはおとなしく、あまり動かないイメージがあると思いますが、それは食料のユーカリに栄養があまりないからです」
コアラのように独自の“耐性”を身につけた動物もいるようですが、室内で動物を飼育している場合は、精油を含むアロマや香水の使用は避けた方がよさそうです。
「ただし、精油に関しては、ペットケアに使われる精油があることもまた事実です。精油の種類の多さを考えると、アロマテラピー資格を有する方に所有する精油の正しい知識や使用方法を確認することがまずは大切でしょう」
最後に、動物カフェや動物園など、動物と触れ合う施設を訪れる際に気をつけるべき「香り」について、大渕さんに聞きました。
「『過ぎたるは猶(なお)及ばざるが如(ごと)し』というように、毒と薬は表裏一体であることが多いです。例えば、少量のお酒は良い効果を及ぼすこともありますが、過ぎれば毒でしかありません。
多くの動物は、人間よりも感覚が敏感です。フッ素樹脂加工の調理器具やオーブンレンジを加熱した際に発生する無臭の化学物質が、インコを死に至らしめた例もあります。濃度によっては人間も体調を崩しますが、インコの方がはるかに感受性が高いようです。
香りも化学物質に他なりませんから、同じことです。原則として、香水や整髪料、柔軟剤など強い香りをまとって動物と触れ合うのは避けるべきでしょう。また、もし慣れない香りによって動物が興奮するようなことがあれば、動物にとっても人間にとっても危険です。動物と触れ合う際には、香りあるものを身につけるのをできるだけ避け、触れ合う直前には手を洗うようにしてください」
<主な参考文献>
和田文緒「アマテラピーの教科書」(新星出版社)
船山信次「毒 青酸カリからギンナンまで」(PHPサイエンス・ワールド新書)
公益財団法人日本中毒情報センター「保健師・薬剤師・看護師向け中毒情報【ユーカリ油(シオネール系)】Ver1.00」
神奈川県ホームページ「フッ素樹脂加工したフライパンのテスト」(ライフスタイルチーム)

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