6月12日に行われた会談で発表された共同明を見てみよう。アメリカドナルド・トランプ大統領北朝鮮金正恩朝鮮労働党委員長が「全面的かつ速に実行に移す」として署名した内容は、以下の4つのポイントに分かれている。

(1)アメリカ北朝鮮は、両民が平和と繁栄を切望していることに応じ、新たな関係を確立すると約束する

(2)アメリカ北朝鮮は、朝鮮半島において持続的で安定した平和体制を築くため共に努する

(3)2018年4月27日の「門店宣言」を再確認し、北朝鮮朝鮮半島における全非核化に向けて努すると約束する

(4)アメリカ北朝鮮は(朝鮮戦争アメリカ人)捕虜や行方不明兵士の遺体の収容を約束する。これには身元特定済みの遺体の即時帰も含まれる

 簡単にいえば、「アメリカ北朝鮮の体制を保する代わりに、朝鮮半島全非核化をす」というものであり、一定の組みで合意したこと自体は評価すべきだが、具体性に関しては不透明であり、実現性も明確ではない。

 会談後にトランプ大統領の単独記者会見が開かれ、そこで一部の具体的な内容が明らかになった。それによると、北朝鮮はすでにミサイルエンジン試験場を破壊しており、近日中に確認できるという。また、アメリカ北朝鮮への経済制裁を継続し、一定の成果が認められた時点で緩和する方向のようだ。

 日本の懸案事項であった拉致問題に関しては、トランプ大統領が「提起し、北朝鮮側と今後取り組んでいく」とのことで、安倍晋三首相は会見で「日本北朝鮮との間で解決をしなければならない問題」とあらためて表明した。また、トランプ大統領北朝鮮への経済支援について「日韓に用意がある。アメリカ支援する必要はない」と述べている。

 北朝鮮4月の時点で、核開発と経済建設を同時に進める「並進路線」から「社会主義経済建設への総集中」という方針転換を表明している。そして、会談で体制保を取り付けたことで、今後は経済発展に邁進したいという思惑がある。そのため、経済支援は喉から手が出るほど欲しい“果実”であるに違いない。逆に考えれば、日本支援をしなければ北朝鮮経済発展は難しいという構図にもなっているわけで、日本側が拉致問題など今後の対北交渉のカードに使わない手はないといえる。

 総じて見れば、「決して満足とはいかないものの、現状打破の引き金になれば御の字」という程度の成果であったといえる。トランプ大統領は、将来的に自身が平壌を訪問することや委員長ホワイトハウスに招くことにも意欲を示しており、今後も交渉は継続する見通しだ。そのため、まだまだ駆け引きは続くだろう。

安保条約締結なら中国が反発も

 実際には、「どのように体制を保するか」という点において大きな矛盾を抱えているのも事実だ。北朝鮮の独裁体制はアメリカが掲げる「自由正義」とは正反対であり、さらに人権問題も抱えている。現体制を保するということは、自由義の徴であるアメリカリーダー北朝鮮の現状を容認することにもなってしまう。

 また、経済発展についても、南北交流が進めば民の反乱などによって現体制が維持できなくなる可性も生まれる。独裁者にとって民主主義は最大の敵であるが、経済発展および際交流はその促進につながるからだ。

 さらにいえば、北朝鮮の敵はアメリカだけではない。中国ロシアとも敵対する部分があり、一部のミサイル中国にも向いているといわれていた。そこでミサイル核兵器を放棄するとなれば、中国の脅威にどう対処するかという問題も浮上する。

 方法論として考えられるのは絶対王政から立君主制への移行であり、その場合は戦後日本モデルケースとなるだろう。その上で、安全保障条約を締結して北朝鮮の安全をアメリカが保するというパターンがある。ただし、これに対しては、これまで北朝鮮の後ろであった中国ロシアが反発する可性も高く、トランプ大統領が言及した将来的な在米軍の縮小および撤収とともに、今後の焦点のひとつとなるだろう。

 いずれにせよ、ようやく端緒が開けた融和が前進することを期待したい。
(文=渡邉哲也経済評論家

米朝首脳会談でのアメリカのドナルド・トランプ大統領(右)と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(左)(写真:AFP/アフロ)