12日にシンガポールで開催された、米国トランプ大統領北朝鮮金正恩朝鮮労働党委員長の会談について解説する。

1.トランプ大統領の政策予測
 
 一般的にトランプの言動は予測不といわれるが、私は「極めて予測しやすい人物である」と思う。トランプが歴代大統領と異なるのは、極めてい段階に次期大統領選挙への出を表明している点である。通常1期大統領は周りの様子を見て、就任3年か4年に次期大統領選への出表明をする。しかし、トランプは就任初日から出の意向を表明している。

 すでにトランプは次期大統領選に向けた対策チームを立ち上げ、接戦が予想される州に頻繁に出かけている。この選挙チームの特徴は、徹底したマーケット・リサーチ(大統領選に関する世論調査)を行い、これに基づき行動しているという点にある。「徹底したマーケット・リサーチに基づき行動をする」ことが、前回の選挙における勝利につながり、その時のマーケット・リサーチ責任者を現在選挙チーム責任者に据えている。

 トランプは、このマーケット・リサーチの結果から外れる行動はあまりとらない。トランプの行動が一貫性のない印を与えるのは、世論動向を探るためにアドバルーンを上げる的で過的発言をしてみるからだ。この過発言は、その後に出る世論調査で支持されないために一貫性を欠く印を与えるが、最終的には世論に一致させるので、ダメージは負わない。

2.会談前の世論の動向

 まず、トランプ政権内は必ずしも会談に積極的でない。分類してみよう。
 
・会談に積極ポンペオ務長官
・会談に消極的―ペンス副大統領ボルト国家安全保障担当補佐官
・中間―マティ防長官
 
 そして、会談に積極的といわれるポンペオ務長官ですら、「全で検証、不可逆的な非核化(CVID)が、受け入れられる一の結果だ」としていた。しかし、北朝鮮から見れば、米国から全に体制保障をする約束を取りつけない限り、CVIDを受け入れることは「どうぞ攻めてきてください」という自殺行為にふさわしい。現トランプ政権が、北朝鮮に具体的なかたちで体制保障することはない。とすれば、会談前から米国側が標点とみなしたCVIDの合意は難しいと予想された。それにもかかわらず、なぜトランプ会談に踏み切ったか。

トランプは世論動向を見て行動する」という物差しで見れば、当然の行動だ。チャールズ・コッホ研究所が6月4~6日実施した世論調査は次の通りだ。

【問】トランプ金正恩と会うべきか否か

【調結果】70:会うべき、18:会うべきでない、12%:不明

3.会談の成果

 トランプ金正恩が12日にシンガポールで署名した共同明の全文は、次の通りである。

ドナルド・トランプ大統領北朝鮮金正恩委員長2018年6月12日、初めての歴史的な首会談をシンガポールで行った。トランプ大統領委員長は、新たな関係の確立と、朝鮮半島における持続的で強固な平和体制の構築に関連する諸問題について、包括的で詳細、かつ実な意見交換をした。トランプ大統領北朝鮮に安全の保を与えることを約束し、委員長朝鮮半島全非核化への確固で揺るぎのない約束を再確認した。

 新たな関係の確立が、朝鮮半島世界平和と繁栄に寄与すると確信し、相互の信頼醸成によって朝鮮半島の非核化を促進できることを認識し、トランプ金正恩は次のことを言明する。

(1)米国北朝鮮は、両民が平和と繁栄を切望していることに応じ、新たな関係を確立すると約束する
(2)米国北朝鮮は、朝鮮半島において持続的で安定した平和体制を築くため共に努する
(3)2018年4月27日の「門店宣言」を再確認し、北朝鮮朝鮮半島における全非核化に向けて努すると約束する
(4)米国北朝鮮は(朝鮮戦争米国人)捕虜や行方不明兵士の遺体の収容を約束する。これは身元特定済みの遺体の即時帰も含まれる
 
 史上初の会談が両間の何十年にもわたる緊状態や敵対関係をし、新たな未来を切り開く上で大きな意義を持つ画期的な出来事だったと認識し、トランプ大統領委員長は共同明の規定を全面的かつ速に実行に移すと約束する。会談の成果を履行するため、米国北朝鮮マイクポンペオ米国務長官と北朝鮮の担当高官が導して、できるだけい日程でさらなる交渉を行うと約束する。トランプ大統領委員長は新たな関係の発展と、朝鮮半島世界平和と繁栄、安全のために協すると約束する>(共同通信報道より)

 会談の評価としては、想定された範囲を下回る合意といえる。北朝鮮は「2018年4月27日の『門店宣言』を再確認し、北朝鮮朝鮮半島における全非核化に向けて努すると約束する」と、標を設定したのみで、新たな合意はない。同じく米国側も「トランプ大統領北朝鮮に安全の保を与えることを約束し」とあり、特に具体案に言及はない。

 米国ポンペオ務長官は「CVIDが受け入れられる一の結果だ」としていた。事前協議でも直前まで、米国CVIDを強く訴えた。これに対し北朝鮮は「米国も体制保に関する具体的な期限や方法を示すべきだ」などと抵抗していた。

 しかし、12日の共同明は「朝鮮半島全な非核化」との表現にとどまった。正恩氏が5月9日ポンペオ氏と会談した際、「余すところなく非核化する」とったのとべて進展があったとはいえない。

 さらに「朝鮮半島全な非核化」と裏表の関係にあるのが、「北朝鮮の体制保障」である。事前では「朝鮮戦争の終結」が盛り込まれるのでないかと想定されたが、それはなかった。

 米国北朝鮮問題専門クリングナー(元CIA、軍情報局)は、今回の会談は従来より後退しており失望した、として次のツイート投稿した。

This is very disappointing. Each of the four main points was in previous documents with NK, some in a stronger, more encompassing way. The denuke bullet is weaker than the Six Party Talks language. And no mention of CVID, verification, human rights.>

4.今後の交渉の見通し

会談の成果を履行するため、米国北朝鮮マイクポンペオ米国務長官と北朝鮮の担当高官が導して、できるだけい日程でさらなる交渉を行うと約束する」としているが、北朝鮮の場合、なんらかの新たな進展を見せるには、金正恩の積極的介入が必要である。今回、金正恩が前面に出てトランプと会談したが、「2018年4月27日の『門店宣言』を再確認し、北朝鮮朝鮮半島における全非核化に向けて努すると約束する」以上に進めなかった。

 今後、ポンペオ米国務長官と北朝鮮の担当高官の話し合いでこれをえる事態がくる可性は低い。つまり、北朝鮮が「核兵器絶」に向かう可性は低い。

 では、トランプ政権がそう判断した時、米国はどう行動するか。再度、チャールズ・コッホ研究所が6月4~6日実施した世論調査を見てみよう。

【問】北朝鮮が核開発プログラムを排除しなかった時の対応

【調結果】
62-外交的協議の継続
56融的制裁の継続
48北朝鮮軍事行動を抑止するため韓国における通常軍事核兵器の優位性を維持
36北朝鮮世界に開かせるため、経済政治から分離
17北朝鮮の核施設を破壊するため、爆撃ミサイル攻撃を実施、
13陸上北朝鮮に侵入し、各施設を破壊するか握し、政権交代を図る

 おそらくトランプは、「外交的協議の継続」「融的制裁の継続」「北朝鮮軍事行動を抑止するため韓国における通常軍事核兵器の優位性を維持」を選択するであろう。
(文=孫崎享評論家、元外務省情報局長

米朝首脳会談 両首脳、シンガポールで初対面(写真:AFP/アフロ)