おめでとう、ドラえもんハッピーバースデードラえもん
何歳になったの? ってまだ生まれてません。
2012年9月3日は、国民的キャラクター「ドラえもん」の生誕100年前! そんなドラえもんに昨日、生誕100年前記念として川崎市から「特別住民票」が交付されました(※川崎市は作者である藤子・F・不二雄先生(以下、F先生)が長年居を構えた場所であり、昨年オープンした藤子・F・不二雄ミュージアムがある、ドラえもん縁の地です)。

この特別住民票川崎市ホームページで今月30日まで無料ダウンロードできるほか、川崎市内の9つの施設でも記念に無料配布されています。その数、12万9300枚。なぜこの枚数なのか、そもそもなぜ2112年9月3日が誕生日なのか……ドラえもん豆知識としては初級編ともいえる設定なのでご存知の方も多いと思いますが、「1293」がドラえもんにまつわる数字の鍵だからですよね。
身長・体重・胸囲が「129.3cm」で統一されているのは特別住民票にも記されている有名な話。さらに掘り下げれば、ネズミを見たときのジャンプ力(129.3cm)や走る速度(129.3km/h)までも同じ「1293」です。これは連載当時の小学4年生の平均身長が129.3cmだったからであり、のび太や読者と同じ目線である、というメッセージが込められています。

といっても、当然この設定は後づけです。1995年に描かれた映画「2112年ドラえもん誕生」のコミックス版あとがきで、F先生自身が次のように記しています。

“「ドラえもん」は昭和45年新年号からの連載開始です。(中略)構想もまとまらないうちに締切りとなり、後のことは後としてとりあえず第一回をわたしました。その後の展開もかなり行き当たりばったり、26年たってかえりみれば、あちこちほころびだらけです。反省!”

では、ドラえもんの数々の設定はどのように決まったのでしょうか。これについても前述した『2112年ドラえもん誕生』に記されています。いるんですが……F先生、かなりぶっちゃけいています。あまりに潔いぶっちゃけっぷりなのでこちらも引用したいと思います。

“連載開始とほとんど同時に「ドラえもん50の秘密」などという企画ページが載るようになりました。ドラえもんは何のために未来からやってきたの?とか、しずちゃんが好きなものは?とか。本に載ったことだけではすぐに種切れです。新しくいろいろ考えねばなりません。(中略)僕は忙しかったのです。そう秘密作りばかりもやっていられない。アシスタントのKくんにもかなり手伝ってもらいました。ネコ型だったのに耳をネズミにかじられた、というのは僕が決めたこと。黄色だったのがその時青くなったというのはKくんの思い付き。作者の僕があとから知って驚いた秘密もずいぶんあります。”

“僕は忙しかったのです” いやぁ、100年後にもぜひ残したい名言です!
この「2112年 ドラえもん誕生」、F先生自身が“混乱しているドラ情報、本作が決定版です”と語っていることから「正史」として捉えていいと思うのですが、その実かなりぶっ飛んだ内容の連発なのです。例えば、
・耳がなくなったのは医療ミス!(きっかけはネズミ型ロボットにかじられたから)
・黄色から青になったのは、耳がなくなったことにショックを受けて三日三晩泣き続けたら、その“振動"で体のメッキが剥げたため。
・あげく泣き続けたことでノドがガラガラになり、あの声になった!(ってなんて大山のぶ代に失礼な設定)
などなど。あとがきでは他にも、有名な「シッポドラえもんのスイッチ」という設定も“なかったことにしました”と述べているなど、ドラえもんファンなら必見の情報が満載。ぜひDVDかコミックス版でご確認いただきたいのですが、ここまで読んで「おいおいおい、ドラえもん青いのは耳をネズミにかじられたショックで青ざめたからじゃなかったの?」と思った方もいらっしゃるのではないでしょうか。そんなあなたはかなりのドラえもん通。それこそ、F先生も語っている「アシスタントKくん」によってまとめられたドラえもんの秘密です。

ドラえもんの数々の裏設定をまとめた「アシスタントKくん」こと方倉陽二氏。小学館から出版されている『ドラえもん百科』の作者でもあります。いわゆる「方倉設定」と呼ばれる数々のドラえもん設定ですが、ちゃんと「監修:藤子不二雄」とクレジットされているので、F先生が訂正していない限りはこちらも「正史」であるのは間違いありません。
そこで、ドラえもん誕生日記念として、「2112年ドラえもん誕生」でも押さえられていない「方倉式ドラ設定」もおさらいしておきましょう。


■「ドラえもん」の「えもん」はなぜ平仮名
なぜ「えもん」までカタカナにしなかったのでしょうか。『ドラえもん百科』によれば、ロボット戸籍調査員に名前を聞かれた際、テンパったドラえもんが「エモン」のカタカナを思い出せず、とりあえず「ドラえもん」と書いたから、ということになっています。かなり間抜けな設定ですが、平仮名のど忘れって普段生活していても意外とあったりするので、ドラえもんのこと笑えません。
ちなみにこの「えもん」問題、日本テレビ「人生が変わる1分間の深イイ話」の中で、“未来から来たロボットなのに古い時代の『えもん』を付けることによって逆転のおかしさを狙ったのではないか”と藤子ミュージアム・伊藤善章館長が語っていることも知っておくとより通っぽいでしょう。

ドラえもんドラミちゃん、ロボットなのに「兄妹」ってどういうこと?
そんな間抜けでおっちょこちょいなロボット・ドラえもん。「2112年ドラえもん誕生」の中でもロボットオーディションでどこからも引き取り手がないほどの劣等生として描かれ、結果的に赤ん坊だったセワシくんが間違えてボタンを押したおかげで「野比家」にやってくることになります。
そんなドラえもんとは対称的に、原作でもアニメでも常に優等生キャラとして描かれているのが妹のドラミちゃんです。出来の悪い兄と出来のいい妹、とは「男はつらいよ」でもお約束の設定ですが、同じロボットで、しかも兄妹なのにこの違いはどこに起因するのでしょうか? というか、そもそもロボットなのに兄妹ってどういうことでしょうか?
ドラえもん百科』によれば、同じオイルを使っているから、というのが兄妹たる由縁。しかし、油は長期間放置しておくと軽い部分が上に浮かび上がり、濃度の濃い良質な部分は下に溜まります。結果、先に作られたドラえもんには上澄みの軽い油が使われ、後から製造されたドラミちゃんに下の良質な油が使われたことが、2体のロボットの性能の違いになったのです。

ドラミちゃんがリボンを着けているのは「思いやり」
ちなみにドラミちゃん。猫型ロボットですがドラえもん同様、耳がありません。アタマについている耳っぽい物体はリボンです。おなじ兄妹でも、耳があるとドラえもんがいじけるだろう、という思いやりから、ドラミちゃんにも耳がなく(かわいそう!)、その代わりにリボンが着けられたのです。そんなドラミちゃんの誕生日は2114年12月2日。2年後はドラミちゃんの「生誕100年前」もちゃんとお祝いしましょう!

■意外とちゃんと「ロボっぽい」ドラえもん
ドラえもんはお風呂に入る必要がありません。なぜなら、全身に「極微反重力コーティング」が施されており、ゴミや泥は軽くふき取るだけできれいになるから。また、ドラえもんが土足でも問題ないのは、「反重力装置」でほんの少し浮いているから。浮いているのに足音がするのは、ドラえもんの体が重いので走ると空気圧で音が出る、というちゃんとした設定が『ドラえもん百科』にまとめられています。
なぜわざわざ浮いている設定にしたのか、というと、アニメ「ドラえもん」が放映されたとき、保護者からドラえもんが土足のままで家にあがることについてクレームがついたからだと言われています。夢のないクレームに対しての切り返しとしては実に見事な設定ですね。

ドラえもんのエネルギーは……原子力
さて、そんな“ロボット”ドラえもんの体の中にはなんと「原子炉」が組み込まれています。何を食べても分解液で細かくされ、この原子炉で原子力エネルギーに変換されるのです(そのため、トイレにいくこともありません)。
ちなみにどら焼きが大好物なのは、映画では、ドラえもんの初恋相手、ネコ型ロボット・ノラミャー子からプレゼントされた「初恋の味」だから、なのですが、方倉設定によるとドラ焼きの成分がドラえもんのエネルギー源に最適だから、と記されています……原子力なのに?? この原子力設定、今の世にF先生がいれば、現在の原発問題を受けてどう解釈し直すかって読んでみたいなぁ。


今回紹介したこの『ドラえもん百科』、1巻が昭和54年、2巻が昭和55年刊行だけあって全体的にとてもおおらか。ゲッターロボC-3POR2-D2など他作品の有名ロボットとの身長比較やパワー比べ、知性比べがあったりと、いまならとても世に出せるものではありません。古本屋で見つけた際にはぜひ購入をオススメします。

ドラえもんの設定には今回紹介した他にも、アニメだけで描かれた設定や、コミックスの中で描かれて忘れられた設定、シッポスイッチのように“なかった”ことになっている設定も数多くあります。それらを語らい、議論するのもまた「ドラえもん」の楽しみのひとつです。数々の設定が正しいのかどうかはあと100年生き延びて、ドラえもんの誕生を待って確かめるほかありません。
100年待てない!という方には、Googleのスマートフォン向け音声検索サービス「みらいサーチ」もオススメします。「ドラえもーん」と呼び掛けることで、検索結果ページの上部に「はい、タケコプタ~」といったひみつ道具のリンクが表示され、ドラえもんひみつ道具とともに、現在の最先端技術で作られた“現在のひみつ道具”を紹介したページが表示されます(期間は10月5日まで)。

実は昨日9月3日ドラえもんの誕生日であるとともに、昨年同日にオープンした川崎市 藤子・F・不二雄ミュージアムの1周年記念でもありました。記念式典にも出席した阿部孝夫川崎市長は「100年後もこの場所で誕生祝いをするために必要なことは?」と記者から質問され、次のように答えていました。
ドラえもんをはじめ、パーマンなどの藤子作品は、人間の本筋を描いています。だからこそ100年後も愛され続けるでしょう。これからも将来の子供たちを、未来の「のび太」を勇気づける作品として読み継がれるのは間違いないと思います。あとは建物が何年持つかだけが心配ですが……」
って市長、老朽化したら現在の最先端技術で建て替えをお願いします!
オグマナオト)

川崎市 藤子・F・不二雄ミュージアムで行われた「ドラえもん 特別住民票交付式」。 阿部孝夫川崎市長から伊藤善章館長に手渡された特別住民票(画像下)は川崎市役所のホームページからダウンロードできるほか、川崎市内の9つの施設で12万9300枚無料配布されます。 (c)Fujiko-Pro