今年、3月末、神保町の『とんかついもや』が、惜しまれつつ約60年の歴史に幕を閉じました。界隈の学生やサラリーマンに安くてうまくて高カロリーな揚げものを提供してきたあの名店です。

 その跡地にオープンしたのは、これまたとんかつ専門店の『イマカツ 神保町店』。「ミシュラン東京 2015」にも掲載された六本木、銀座発祥の実力店です。そんな超人気店だとはつゆ知らず、ふらりと訪れた筆者……

初のイマカツ体験に悲鳴!

 人生の中で、美味しすぎて大声を上げることはそうそうありません。ところが、5月16日神保町にオープンしたばかりの『イマカツ 神保町店』に筆者と友人が訪れた際、お客さんたちの、文字通り“美味しい悲鳴”をたくさん聞いてしまったのです。

水道橋からも神保町からも徒歩5分ほどの場所に、今年5月16日にオープンしたばかりです
水道橋からも神保町からも徒歩5分ほどの場所に、今年5月16日にオープンしたばかりです
『イマカツ 神保町店』のお昼のメニュー
『イマカツ 神保町店』のお昼のメニュー

 入店してみると、多くのお客さんたちが“名物”という「ささみかつ膳」1,100円を注文しているようでした。常にダイエット中といっても過言ではない我々に、「ささみかつ」はうってつけ。早速オーダーします。

 登場した「ささみかつ」の断面は、まるで赤ちゃんの肌のようにうっすらピンク色で、みずみずしく、見るからにタダモノではないことがわかりました。

 卓上の塩につけて食べてみると、「何これ!」と思わず友人と声を揃えてしまうくらい、ふわふわでしっとり。

 私たちだけではありません。前方、後方のお客さんたちも同様に「うわ~、やわらかい!」と声を上げているのです。隣の女子大生らしき二人連れは、声も出せずに、目をまん丸くして顔を見合わせています。

 さらに、追いかけるように、ささみの甘みと旨みもじわりじわりと感じます。「美味しいね」と店中のお客さんが言っているような、妙な一体感が店中に漂い始めました。

国産のコシヒカリを使ったご飯もカツにぴったりで美味!
国産のコシヒカリを使ったご飯もカツにぴったりで美味!

 しかし、ここで、筆者の悪いクセが出てしまいました。「ささみがこんなに柔らかくなるはずがない」「ささみに、一体なにをしたんだろう?」と疑心暗鬼になり、友人に「絶対、何か裏がある」と宣言。その秘密を暴くために後日、取材に伺ったんです。

ささみかつを柔らかくするヒミツ

温度差と蒸らすのがポイント

ささみ」といえば、鶏の胸の内側にある2本の紡錘形の部分のお肉。ムネ肉よりもさらに“高たんぱく低脂質”なので、スポーツ選手やダイエット中の人に特に人気の食材。ですが、脂肪分が少ないため、火を通すと水分が抜けて、硬くなりやすいのが難点です。

こちらでは、岩手の契約農場の銘柄鶏を使用しているそう
こちらでは、岩手の契約農場の銘柄鶏を使用しているそう

 そんなささみを、あんなに柔らかく、しっとりさせられるなんて、きっと何か柔らかくするための魔法の「粉」でもふりかけてるんじゃないか、と睨んだのです。

 そこで、『イマカツ神保町店』店長の執行拓麿(しぎょう・たくま)さんに、「ささみに何かをかけているんですか?」といきなり直撃。すると「いえいえ、何もかけてませんよ」と笑われてしまいました。

ラード・ヘッドを独自ブレンド。高温(180℃)と低温(160℃)の2つをスタンバイしています
ラード・ヘッドを独自ブレンド。高温と低温の2つをスタンバイしています

「うちはささみだけではなく全てのカツを、高温・低温の油(ラード・ヘッド)で使い分けて、じっくりと火を入れ、さらに油から上げてからもすぐに切らずに蒸らしの時間も設けているんです。それであの柔らかさになるんです」

 いやいや、本当かな?

 というわけで、作っているところも見せてもらいました。

ロースかつも絶品だ!

 確かに調理を見せていただくと、冷蔵庫から岩手産の鶏のささみを取り出して、すぐに小麦粉、卵、パン粉を1回だけつけて揚げる、一般的な工程。

ささみを卵にくぐらせた後、ほんのり甘みをつけているという特製パン粉をつけます。やさしく包むように念入りにつけています
ささみを卵にくぐらせた後、ほんのり甘みをつけているという特製パン粉をつけます。やさしく包むように念入りにつけています
素材によって蒸らし時間も変えています
素材によって蒸らし時間も変えています

 しかし、執行店長が言うように、高温、低温の順でじっくりと揚げ、その後、5分程度、蒸らしていました。

「揚げたては、お肉の中心まで火が入っていないんですが、余熱でじんわり火が入っていくんです。ですから素材によって蒸らし時間も微妙に変えるんですよ」

 つまり、あの絶品の柔らかさは、素材の良さと、計算されたテクニックによるものだったんです。

「ロースかつ膳」1,240円
「ロースかつ膳」1,240円

 せっかくなので、「ロースかつ」もいただいてみました。ささみかつ同様、お塩でいただくと、こちらも衣はサクッとしていますが、お肉がふんわりと柔らかく、口の中に脂の甘みがじゅわ~っと広がります。ささみもいいけど、ロースも最高!

ロースかつも薄いピンク色
ロースかつも薄いピンク色

「豚肉は岩手の“やまと豚”を使用しているんです。特に“ヒレかつ”は、そのお肉の旨み、甘みも存分に味わえますよ」

 では、ヒレも……

 もう、“イマカツ”が止まりません。トンカツの名店が去って、また名店が誕生とくれば、嬉しい悲鳴が止まりませんね。

 神保町という学生街で気軽に行きやすいので、みなさんもまずはランチの「名物 ささみかつ」から衝撃体験をしてみてください。

(撮影・文◎土原亜子)

●SHOP INFO

イマカツ 神保町店

店名:イマカツ 神保町

住:東京都千代田区神田神保町2-48
TEL:03-5357-1299
営:11:00~16:00(15:30LO)
  18:00~22:00(21:30LO)
休:なし

昼の「ささみかつ膳」1,100円 | 食楽web