モヒカン

(XiXinXing/iStock/Thinkstock)

昨今は転職も一般的になっているが、新しい環境が飛躍のチャンスになりうる一方で、入ってみたらとんでもない職場だったことが後からわかることもある。

GPSを使って残業時間の証拠を自動で記録できるスマホアプリ『残業証拠レコーダー』を開発した日本リーガルネットワーク社に寄せられた体験談の中から、転職にまつわるブラックエピソードを紹介しよう。

■転職でブラック企業の罠に

元々ホワイトでゆるい感じの会社に9年勤務していたケネさん。しかし、業績悪化と将来性の不安のため転職したところ、ブラック企業にはまってしまったという。

「離職率が非常に高く、『退職者しか知らない情報』が多々出てきたため、その尻ぬぐいに奔走する日々でした。

また、業務量が多すぎて上司は会社に宿泊するなど会社をホームにしており、自分もいつかはそうなるのかとビジョンを考えるだけでモチベーションが低くなっていました(私自身は、会社で泊まるほどになるまでに何とか辞めることはできましたが)」

業務量が多いにもかかわらず、残業は認められづらかったそうだ。

「業務量は多いのにもかかわらず『あまり残業するな』という風潮があり、自宅で進められる作業は自宅に持ち帰って行う『隠れ残業』が常態化していました。

ちなみに定時は18時でしたが残業代がつくのは20時以降で、20時以降に労働する場合は紙で残業申請書が必要になります。余談ですが試用期間を過ぎるとタイムカードを使わなくなるので、正確な労働時間は不明でした」

■「サイヤ人は死にかけたら強くなる」

ブラック企業には、必ずと言っていいほどブラック上司がいる。ケネさんの会社にもとんでもない発言をする上司がいた。

「私は仕事一つ一つに丁寧に対応したかったのですが、それが追いつかなかったため歯がゆい思いをし続け、危うく精神を病むところだったかもしれません。仕事が破綻していたと思います。

仕事が破綻する根底にあるのが、上司が大事にする精神論だったように感じます。上司の名言で、「ドラゴンボールサイヤ人は死にかけたら強くなる。それは間違ってない!」というのがあり、私も納得していたので、今にして考えれば私自身もおかしくなっていたかもしれません。

ただ、この会社での厳しい経験が自身の成長につながったのは間違いないので、仕事は一つではないですし、病気になる前に辞められれば、長い人生の中で苦労した経験があっても悪くなかったと前向きに考えられます」

ケネさんは、最近その会社を退職し、新たな道を探しているという。

■弁護士の見解は…

早野述久弁護士(©ニュースサイトしらべぇ

こうしたケースに対して、鎧橋総合法律事務所の早野述久弁護士は、

早野弁護士:ケネさんが働いていた会社は、(1)離職率が高い、(2)長時間労働(特にサービス残業)が横行している、(3)経営陣が精神論をとなえているという点において、ブラック企業の典型といえるでしょう。

まず、定時が18時であるにもかかわらず、20時以降の残業時間にしか残業代が支払われなかった点については、労基法37条違反が成立します。会社が労基法37条に違反した場合には、6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金が科せられることになります(労基法119条1号)。

■会社には労働時間把握の義務が

また、タイムカードを使わないのは、会社側の違反にあたるという。

早野弁護士:また、使用者は、裁判例において、労働者の労働時間を管理する義務を負うと解されており、厚労省も、使用者労働者の労働時間を適正に把握する義務があることを明確にするとともに、労働時間を適正に把握し、適切な労働時間管理を行うため、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」を策定しています。

ケネさんが働いていた会社では、試用期間期間が過ぎるとタイムカードを使わなくなり、正確な労働時間を把握していなかったようですが、これは使用者としての労働時間把握義務違反となります。

こうした会社に勤めている場合は、働く側の自己防衛も必要だ。

早野弁護士:もっとも、会社が労働時間把握義務に違反していたとしても、直ちに会社に対する罰則が課されるわけではありません。

そこで、タイムカードを導入していないブラック企業で勤務している場合には、労働者側がGPS記録などご自身の労働時間を証明するための客観的な証拠を確保しておく必要性が高くなります。

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(取材・文/しらべぇ編集部・タカハシマコト 取材協力/日本リーガルネットワーク

「サイヤ人は死にかけると強くなる」 ブラック上司の許しがたいトンデモ発言