五感をフル活用しながら絵を描いたりオブジェを作ったりする「臨床美術」というアートセラピーが、認知症の予防や改善につながることが分かりました。2025年には65歳以上の5人に1人が発症するともいわれる認知症。臨床美術で脳の働きを活発にし、認知症の治療や予防につなげようという取り組みが、福祉や医療の現場で広がっています。

認知症予防・改善の切り札に? 五感をフル活用する「臨床美術」とは

臨床美術とは、描く対象を五感で自由にとらえ、絵やオブジェなどのアートを形作ることで脳を活性化する手法のことです。1996年に彫刻家の金子健二氏が創作活動を通じて脳の働きを活性化できないかと考案。認知症患者の64%に認知機能の維持、16%に改善が認められました。

認知症の予防や改善を目的とする「芸術」としては、すでにアートセラピーや作業療法が一般的です。アートセラピーは、主に患者が描いた絵を分析しカウンセリングする心理療法で、作業療法は「指先を使用した訓練が効果的」という考えから、主に塗り絵折り紙などが機能訓練の一環として行われています。

一方で、臨床美術は患者の「感性」に働きかけ、五感をフル活用するのが特徴です。例えば、リンゴを描くときは、リンゴテーマにした歌をうたったり、リンゴにまつわる思い出を話したり。実際にリンゴを切って、触って、食べて、実物の手触りや香り、味、食感などを感じ取り、そこからイメージしたものを形にしていきます。

実際に挑戦! 五感をフル活用してリンゴを描いてみよう

では、実際に臨床美術で描くためにはどのようにするのでしょうか。まずは実物のリンゴを見て、触って、嗅いで、五感を刺激することからスタート。冷たいのか温かいのか、重いのか軽いのか、どのような香りがするのか、みずみずしさや、張り感、いろいろな感想をどんどん言い合います。

そして見たままの色ではなく、味や香りのイメージで色を選びます。「甘い味がしたからピンク」「甘酸っぱい感じがしたから黄色」など、自分の感性に従って色を選んだら、実際に描いてみます。想像力をより働かせるために、輪郭からではなく、目に見えない果肉の部分から描き始めます。

臨床美術の指導に当たる臨床美術士が増えている

このように描いてみると、リンゴを表面的に見ただけとは異なる、色の選び方や描き方になります。実際に臨床美術が取り入れられている現場では、臨床美術士が創意工夫を高めるために独自のカリキュラムを作成して患者の創作意欲を引き出し、声かけや指導を行います。

臨床美術を取り入れたケアは年々増えており、自治体が介護予防事業として行っているところもあるそう。認知症の予防・改善以外にも、子どもの情操教育や、社会人向けのメンタルヘルスケアなどに活用されており、多くの学校や企業でも取り入れられています。指導に当たる臨床美術士の数も、2010年500人から、2015年には2,000人に増えています。今後も、ますます活躍の場は増えていくことでしょう。
臨床美術を学んでみたいという人は、リハビリテーション・作業療法・理学療法を学べる福祉系・医療系学部を検討してみましょう。臨床美術士養成講座を設けている学校もありますので、進学先を選ぶ際の参考にしてみると良いでしょう。


【出典】
認知症フォーラム.com認知症の人はどれくらいいるのですか?
https://www.ninchisho-forum.com/knowledge/kurashi/003.html

エイジングスタイル認知症予防・改善の切り札になるか? 患者と家族を救う「臨床美術 ...
http://agingstyle.com/2016/03/30001000.html

特定非営利活動法人日本臨床美術協会|臨床美術とは
http://www.arttherapy.gr.jp/about_theraphy/

芸術造形研究所|臨床美術とは
http://www.zoukei.co.jp/courses/

NHK|「臨床美術」で脳を活性化 認知症の治療・予防に
http://www.nhk.or.jp/shutoken/miraima/articles/00094.html