「『自分がおもしろいと思うことをやるのは簡単。みんなが興味のあるものを作ろう』という姿勢が局全体で貫かれているんです」と語る戸部田誠氏
「『自分がおもしろいと思うことをやるのは簡単。みんなが興味のあるものを作ろう』という姿勢が局全体で貫かれているんです」と語る戸部田誠氏

2014年から4年連続で「視聴率3冠」を獲り続けている日本テレビ(以下、日テレ)。バラエティで無類の強さを誇り、『THE 鉄腕DASH』『世界の果てまでイッテQ』『行列のできる法律相談所』『しゃべくり007』など、多くの高視聴率番組を持っている。

そんな日テレの落ちこぼれ時代を丹念に描いたのが『全部やれ。日本テレビ えげつない勝ち方』だ。作者は「てれびのスキマ」こと、戸部田誠氏。自他共に認めるテレビっ子で、『笑福亭鶴瓶論』(新潮文庫)、『タモリ学』(イースト・プレス)などの著書でも知られる彼の最新作は、意外な言葉で始められていた。

* * *

―この本の冒頭で「僕は日本テレビバラエティが苦手だ」と告白されていたのが印象的でした。

戸部田 多いと思うんです、苦手な人。

―正直すぎて笑いました(笑)テレビ好きほど、日テレのおもしろさを認めたくないというか。

戸部田 日テレってストレートに欲望を刺激してくるんです。それはもちろんマーケティングに基づいたものですけど、日テレは恥ずかしげもなくやってくる。でも、なんだかんだで多くの視聴者はそういうものを見るんですよ。

バラエティに限らず、例えば夕方のニュース番組は毎日30分くらいおいしいお店とか惣菜屋のネタを流しますよね。

戸部田 日テレの人たちは自分たちのことを「俺たちは所詮(しょせん)テレビ屋だから」って言うんです。ほかの局の人はそういう言い方はしないし、むしろ、「俺たちはクリエイターだぞ」って意識が強い。逆にその意識がないからこそ、日テレはおもしろい企画ができていると思うんです。

日テレの番組ってなんていうかズルいですもんね。『マツコ会議』とか特にあざとくて、「利尻島キャバクラ」とか「セクシー白衣専門店」みたいな放送回のときは絶対見てしまいますもん(笑)。 

戸部田 「自分がおもしろいと思うことをやるのは簡単なんだ。みんなが興味のあるものを作ろう」っていう姿勢が局全体で貫かれているんですよね。

―そこまで会社一丸となれるのはどうしてでしょう?

戸部田 元社長の氏家齊一郎(うじいえ・せいいちろう)さんの存在が大きかったと思います。1992年に社長に就任すると、評価基準を視聴率だけにしたんですよ。それまではいくら数字が大事といっても、「テレビは文化だから」という理由でいいものを作れば評価しようと考えられていたけど、その考えを捨てた。

彼が新聞記者出身というのも大きかったと思います。新聞はテレビより先に厳しい状態に陥った業界ですから、「数字を残さないとダメなんだ」ということを敏感に察知していたんだと思います。

―実際、数字が示すように日テレの番組が軒並み高クオリティなのは間違いないですよね。

戸部田 ロケに時間をかけるのも日テレの特徴です。昔からほかの民放に比べて長いし、その手法も優れています。例えば、『はじめてのおつかい』は1000本近く撮って採用になるのはわずか6本程度だそうです。そういう考えが浸透しているから、誰も"空振り"を恐れない。

日テレは素人イジりもうまいですよね。

戸部田 『月曜から夜ふかし』なんかは素人を相当イジってますけど、あれが炎上しないのはいろいろとケアしているからじゃないですかね。取材も編集もギリギリのラインをわきまえている。不快に感じられるとクレームになりますが、おもしろさが勝つようにうまくコントロールしていると思います。

―『笑ってコラえて!』は素人イジりがうまい日テレの元祖的な番組のような気がしますが、局内でそういったノウハウは蓄積されているんでしょうか?

戸部田 よくいわれるのは、『24時間テレビ』で各番組のトッププレイヤーが集まることで作り手の情報共有がされるということ。意外と日テレの人たちは仲がいいんです。一年に1度そういう交流の場があるのって、モチベーションにもつながるし、ほかの局にはない強みだと思う。なんだかんだで視聴率も毎年ちゃんと取っていますしね。

―一方、フジテレビの『27時間テレビ』は批判や視聴率の低迷が原因なのか、昨年思い切ったリニューアルをしました。でも、いざふたを開けてみたら、それまで散々叩かれていたのに「前のほうが良かった」という声が多かったという......。

戸部田 声を上げない多くの人はそこまでリニューアルを望んでいたわけではなかったのかもしれませんね。サイレントマジョリティの嗜好をとらえきれなかった。その点、その層をちゃんとつかんでいるのが日テレだと思います。『24時間テレビ』も最近は世間の風当たりが強いですが、昨年の放送では歴代2位の高視聴率を獲得しました。素直にすごいなと思いますよ。

―とはいえ、フジのように一気に凋落する可能性もある。

戸部田 もちろん、その可能性は大いにあります。特に今の日テレは全体的にどの番組も成功しているがゆえに、新しい番組をスタートさせにくいという問題があります。もともと少し数字が落ちた程度で入れ替える文化でもないですし。

―うれしい悲鳴ですね。

戸部田 それと、最近は「日テレ的な演出」にアレルギーを持つ人が増えていると思います。隙間なくテロップナレーションを入れる、日テレ独自の演出に拒否反応を示すというか。

わかります。「えーっ」って驚く声がいちいち入ってくるとか(笑)

戸部田 今は視聴習慣が根づいているので強いですけど、だんだんそういったひずみは生まれてくるのではないかと思います。とはいえ、日テレの人もそういう危機感は持っていると思いますけどね。

日テレ自体が大きく変わる時期もそう遠くないかもしれませんね。

戸部田 でも、テレビの炎を消さないために日テレの人たちがなりふり構わず奮闘しているのはすごいことだと思いますよ。この本は『週刊文春』での連載が元なんですが、タイトルを決めるときに話していたのは「日本テレビ週刊文春に置き換わっても成立する」ということ。

週刊誌は終わったメディアとされていますけど、文春はいま週刊誌の中ではえげつない勝ち方をしている。文春にも通じる「強さ」を日テレに感じているんです。

●戸部田誠(とべた・まこと
1978年生まれ。2015年いわき市から上京。お笑い格闘技ドラマなどを愛する、テレビっ子ライター。別名義は「てれびのスキマ」。『週刊文春』『週刊SPA!』『水道橋博士のメルマ旬報』などで連載中。主な著書に『笑福亭鶴瓶論』『1989年テレビっ子』『タモリ学』など

■『全部やれ。日本テレビ えげつない勝ち方』
文藝春秋 1550円+税)
4年連続で視聴律3冠を獲得し、絶好調の日本テレビ。しかし、80年代は在京キー局のなかで3位が定位置になり、「落ちこぼれ」扱いされる時代があった。そんななか、社長に就任したひとりの男によって改革が次々断行。やがて、30代を中心とした新世代の作り手たちが原動力となり「逆襲」が始まり、フジテレビを追い抜く。失敗を重ねてきたテレビ屋たちは、いかにして絶対王者を破ったのか。多くの証言からその奮闘の軌跡を追った一冊

「『自分がおもしろいと思うことをやるのは簡単。みんなが興味のあるものを作ろう』という姿勢が局全体で貫かれているんです」と語る戸部田誠氏