“あの有名人と、もしも恋に落ちたなら”。きっと誰しもが考えたことのある、生産性ゼロでくだらない空想。今夜は、巻き込み事故で世間を騒がせた噂の彼との恋。ちょっとでいいから語らせて。

第2回「もし船越英一郎が往年の恋人だったら」

華麗なる芸能一族に生まれながらも、バカな女には手を出さず、基本は玄人好み。育ちがいいせいか、遊び方が粋で、いつもふわっと大人の男の香水を身にまとい、夜の街を華麗に飲み歩いていたあなた。夜の蝶たちは口の堅い女ばかり。それでもあなたが大人の恋の駆け引きに疲れたとき、ふっと漏らすため息に、私は惚れこんだ。

2時間ドラマが多かったころは、地方ロケで必ず銘菓を買ってきてくれた。駅で買えるようなモノではなくて、本店に出向かないと買えないような、高級ナマ菓子。貴金属よりも花束よりもうれしかった。たとえマネージャーが買っていたとしても。そして、会えるのが月イチだったとしても。

自らサスペンスに巻き込まれていくあなた

その逢瀬が急になくなり、行動すべてが怯えに支配されるようになったのは2000年代前半。粋な夜遊びも一切なくなり、何かに魂を吸い取られてしまったあなた。それもそのはず。自ら地獄の釜のフタを開けちゃったんだもの。浮名を流したあなたも、根は真面目。きっちりと家庭運営できるあの人との生活に、希望を抱いたのでしょう。私は掃除と金勘定が苦手。そこは潔く負けを認める。あの人の夫になるあなたを、泣きながら送り出した。

この十数年の悪夢のような経験は、まるでサスペンス。「あの人の夫」としての地位を築き、いい夫婦として世間に認められたあなたが、まさかこんな劇場型騒動に巻き込まれるなんて。私は選ばれなかった自分を不憫に思う前に、「そらみたことか」とほくそ笑んでしまった。お父様の勘は正しかった。近づいてはいけない女のトップクラスに君臨するあの人。そこを読み取れなかったあなたの落ち度。読み取らせなかったあの人の勝利。闘いは続いているようだから、そっと見守るけれど。

ドラマ『黒い十人の女』では、出ていないはずのあの人が画面のどこかにいるんじゃないかって、毎回探してしまった。だって、生霊くらい飛ばせそうだもの。あなたが困惑顔で画面に映るたび、背後にあの人がいるような錯覚に。

ノートも手紙も、私が全部捨ててあげる

NHKの午後の顔になってからのあなたは、さらに真面目に拍車がかかってしまった。段取り重視で、アソビとゆるさをスタジオ内に発揮させない空気感。もちろん、あの一件があって、そこには一切触れない・触れたくなかった気持ちはよくわかる。番組自体は大苦戦で、すっかり年寄り向けのご隠居番組みたいな立ち位置に。でも無事に離婚成立。心からお祝い申し上げます。そして、また私と会ってくれるようになって、待った甲斐があった。もう私もいい年なんで。

世間が噂して検索するほど、あなたはまだ枯れる年齢じゃない。ヘアスタイルメイクへのこだわり、誰にも触れさせない美学、色気とダンディズムを貫きたい、そんなあなたのプライドは、私も徹底して守るつもり。朝8時入りのときは5時に起きて、自らヘアスタイルを固める。いつか私にもその髪に触れさせてほしい。

そのための部屋が、渋谷に近い、このマンション。掃除も極力するようにした。ルンバブラーバをフル稼働。棒は使わない。ほぼ毎日、パンツの裾をロールアップするあなたのために、くるぶし専用保湿クリームも買ってあるから。

そうそう、ノートにいろいろ綴るのもやめたほうがいい。「せめてクラウドに保存しておけば?」と言ったら、あなたは笑ってごまかした。どんなに若作りしても、そこは58歳アナログ世代。信条や目標を書き記しておきたい、生真面目な役者魂はわかるけど、今後は気をつけて。直筆手紙も要注意。誤解を生むような変なマークが書いてある手紙なんてもってのほか。私が全部捨ててあげる。

もう全面戦争だけは勘弁して

今のあなたは本当に自由。肩の荷が下りたどころか、全身に撃ち込まれた散弾銃の弾がようやく抜け切った状態。満身創痍ってこういうことだと痛感。そんなあなたを私はどうしたら癒せるのか。手料理や掃除、財テクじゃないことはわかっている。あの人は糟糠の妻として、あなたをスターにのしあげた。連ドラの主演を張り、もう二世俳優と言われなくなり、経済番組にまで登場する。そんなあの人の輝かしい功績と禍々しい記憶を、どうしたら払拭できるのか。

あなたにとっては過去の惨劇・忘れたい記憶であっても、そこにすら嫉妬する生き物、それが女なんです。あの人の残した爪跡はあなたにとっての黒歴史。そう簡単には消えないけれど、あの人予備軍はどこにでもいる。そこ、忘れないで。

今日も私は渋谷のマンションで、あなたを待っている。そろそろ京都ロケが始まっているはずだから、麩饅頭がいい。日持ちしないナマ菓子をその日のうちに持ってきて。固くなる前に、食べさせて。

(妄想・文・イラスト:吉田潮)

もし船越英一郎と付き合ったら、恋愛もまるでサスペンスな件