世界保健機関(WHO)が「ゲーム依存症(障害)」を病気として認定することになりました。オンラインゲーム(ネットゲーム)に没頭し、日常生活に支障をきたした人たちが「ネトゲ廃人」と呼ばれて社会問題化したこともありますが、長年、ゲーム依存症を含むネット依存の診療に当たってきた精神科医とゲーム業界関係者は、今回の認定をどのように見ているのでしょうか。

生真面目な人ほど陥りやすい

 WHOが6月18日に公表した国際疾病分類(ICD)の改訂版によると(1)ゲームの頻度や時間をコントロールできない(2)日常生活でゲームを最優先する(3)生活に支障をきたしてもゲームを続けたりエスカレートしたりする、という3つの状態が1年以上続いた場合、ゲーム依存症の可能性があるとしています。改訂版は2019年5月のWHO総会で採択され、2022年1月に発効する見通しです。

 ゲーム依存症をはじめとするネット依存の診療に携わる、成城墨岡クリニック(東京都世田谷区)の墨岡孝院長に聞きました。

Q.ゲーム依存症などネット依存の診療はいつ頃から始めたのですか。

墨岡院長「元々は、キーパンチャーの人たちの業務による障害について昭和55年ごろから治療・研究していました。コンピューターの発展とインターネットの普及に伴い、ネットに依存する症例やその治療も増えてきました。ネット依存の診療は、スマートフォンの普及もあって、3~4年前から特に増えたと思います」

Q.どのくらいの人が診療を受けていますか。

墨岡院長「ネット依存の新規患者は月に22~23人います。常時100人以上の患者さんを診療している状態です。そのうち7割くらいがゲーム依存症です」

Q.どんな年代や職業の人が多いですか。男女比は。

墨岡院長「中高生が多いです。8割が男性ですね。不登校が続いたり、昼夜逆転した生活になったり、食事をろくに取らなかったり、家から出なかったり。進級できず高校を中退し、フリースクールや通信制高校に移る場合もありますが、それもできない人もいます。

だいたい、最初は親御さんが相談に来られます。本人は自分がゲーム依存症という自覚がないし、病院に来たがらないので、親にゲーム依存症やネット依存について説明することから始めます」

Q.ゲーム依存症になりやすい人の特徴や傾向はありますか。

墨岡院長「生真面目な人や、責任感が強い人がなりやすいです。オンラインゲームの戦闘ゲームにのめり込む子が多いのですが、『自分がいないとチームが負ける』と思ってしまい、やめられなくなるのです」

Q.「ゲーム依存症」と診断する基準は決まっているのですか。ゲームをする時間の長さでしょうか。

墨岡院長「最初は時間の長さを診断基準にしていたのですが、今は違います。自分でコントロールできるかどうか。つまり、自分でゲームをすることを止められるかどうか。ゲームがなくなった時にゲームを探す『探索行動』を取るかどうか。社会生活に問題があるか、具体的には学校に行かないとか成績が下がるとか、そうしたことから診断します」

Q.治療はどのようにするのですか。

墨岡院長「ゲームをいきなり取り上げたり、隠したりしてはいけません。暴れ出す場合や、家族に暴力を振るうこともあります。

治療は1対1のカウンセリングです。日記やスケジュール表を付けてもらい、1日のうち自分がどれだけスマホやゲームに時間を費やしているかを知り、その時間を使ってできることがないか、自分が本当にやりたいことは何なのか、どんな人間になりたいのかを書き出してもらいます」

Q.治療にはどれくらいの期間がかかりますか。

墨岡院長「個人差はありますが、2週間に1回の通院で平均5カ月~半年くらいです。ゲーム依存症などのネット依存は、ギャンブル依存やアルコール依存よりは治りやすく、家族を含めたカウンセリングができれば、8割以上は回復します」

Q.治療がうまくいかない人や、続かない人もいるのでしょうか。

墨岡院長「自分自身のビジョンが持てない子は難しいです。それと、家庭環境があまり良くないと治療は難しいです。両親の仲が悪かったり、家族がバラバラだったり、会話が少なかったり。『家に帰っても楽しくない』という家庭ですね」

Q.ゲーム依存症にならないため、子どもを依存症にしないため、注意すべきことは。

墨岡院長「リアルな人間関係、友達関係をなるべく多く作ること、運動など体を動かすことですね。人間は運動系、頭脳系、両方動かさないと健全でなくなります。親は、休日に外に連れ出してレクリエーションさせたり、子どもの頃からスポーツの習慣をつけさせたりしてほしいです」

Q.ゲーム依存症の問題点は。

墨岡院長「ゲームのしすぎで、前頭葉を中心に脳の細胞が死滅しているという報告もあります。これについては検証はまだですが、何らかの障害が考えられます」

Q.ゲーム依存症をWHOが病気と認定します。その背景は。

墨岡院長「実際に依存症が増えています。ゲームについても、長くプレーするほど点数が上がっていく仕組みなど、依存症に陥りやすい仕組みがあります」

Q.病気と認定されることで変化は。

墨岡院長「保険診療の申請がしやすくなると思います。病気であるということは、治療対象になるということですから。これまでも可能ではありましたが、WHOが認めたことでさらに申請しやすくなるでしょう」

Q.ゲーム産業についてどのように見ておられますか。日本では大きな産業の一つになっています。

墨岡院長「ほどほどに楽しむ分には良いと思いますが、時間をお金に変えるゲーム、つまり長時間続けるほど有利になるようなゲームは控えるべきだと思います。ビジネスとして仕方ないのでしょうが、健全ではないと思います。今のオンラインゲームは終わりがなく、延々と続きます。そういうゲームは少なくしたほうがよいですね」

Q.最近、ゲームを競技として行う「eスポーツ」が注目されています。アジア大会の種目になったり、専門学校にコースができたりしています。

墨岡院長「それはそれで良いと思います。志を持って、自分でコントロールしてゲームをする人たちですから。将棋や囲碁もそうですよね。一方で、ゲーム依存症の人がeスポーツのゲーマーになることはありえません」

業界団体「啓発さらに強化」

 WHOの認定を受けて、ゲーム業界はどう対応するのでしょうか。

 コナミバンダイナムコなどゲーム業界大手の幹部が役員に名を連ねる、一般社団法人「コンピュータエンターテインメント協会」(東京都新宿区)の富山竜男専務理事と山地康之事務局長に聞きました。

Q.WHOがゲーム依存症を病気と認定することが決まりました。協会としてどのように捉えていますか。

富山専務理事「医学的な見地からの認定でしょうから、医学的な根拠を持たない我々は、反対や何かを言う立場にありません。ただ、ゲーム依存症と言われることの実態については、知らなければいけないと思います」

Q.認定を受けての対応は。

富山専務理事「情報収集を始めています。これまでも、ゲームの楽しみ方については啓発活動をしてきましたし、自主規制もしてきました。『ゲームを安心・安全に楽しむために知ってもらいたいこと』という小冊子では、適切な利用時間を家族で話し合うことや有料コンテンツの使い過ぎを防ぐ方法などを説明しています。こうした啓発活動は、さらに進めたいと思います」

Q.複数の医療機関で、ゲーム依存症で日常生活に支障をきたしている人の数が増えているとのことです。どのように考えますか。

富山専務理事「増加に関しては、診療に当たっている先生も話しておられますが、ゲーム依存症は親が治療に連れてくるので、エビデンス(証拠、根拠)が取りやすいという面があると思います。ゲームユーザー自体が増えている面もあると思います」

Q.「長時間ゲームをさせる仕組みが依存につながる。いつまでも終わらないゲームの仕組みが問題」という医師の指摘があります。

山地事務局長「ゲームが進行する中で新しいシナリオを提供するのは、飽きずに楽しめるようにするためです。我々としては、長時間ではなく、長期間楽しんでいただきたいと思っています。また、家庭用ゲーム機では、ゲームの時間を保護者が制限できる機能もあります。スマホ対象のゲームは、すき間時間で楽しめるものが増えています」

Q.ゲーム依存症の問題が指摘される一方で、eスポーツの認知度が広がっています。

富山専務理事「非常に素晴らしいと思います。国体の行事の一つにもなりますし、日本eスポーツ連合は日本オリンピック委員会(JOC)加盟もにらんでいます。長時間ゲームをすることとの関連でいうと、eスポーツのゲーマーは1日10時間ゲームをしていますが、彼らは競技大会に出る、そこで優秀な成績を取るという目標があります。

チーム競技では連携も大切ですし、それは社会生活にも必要なものです」

山地事務局長「eスポーツのゲーマーは、筋トレもしています。納税義務もあるプロとして活動しています」

Q.ゲーム業界としての今後の取り組みは。

富山専務理事「今までもゲームの適切な楽しみ方の啓発活動をしてきましたが、強化していきたいと思います」

山地事務局長「ゲームを健全に楽しく遊んでもらうのが第一です。広報活動が不足していたとすれば、今後さらに力を入れていきたいと思います」

報道チーム

ゲーム依存症について語る墨岡孝院長