「白の美術館」(テレビ朝日/BS朝日)で、自身のアートシリーズ「REACH OUT」の新作を完成させた木梨憲武に独占インタビュー! 後編では、円いキャンバスに描いた新作を写真付きで公開するとともに、番組で初めて挑戦した画法を自ら解説。さらに、アーティストとしての創作への取り組み方、さらに今後の展望にも肉迫!

「白の美術館」で新作アートの制作に挑む木梨憲武

■ 前日にチェックするべきなんだけど、それだと面白くないから、本番一発勝負でやっちゃいました

──今回の「白の美術館」では、よくホットドッグなどに使う、ケチャップマヨネーズの容器を画材として使っていましたよね。ケチャップの代わりに絵の具を入れて、キャンバスに吹き付けるという描画法には驚きました。

「使ったのは初めてなんです。知り合いのお好み焼きの店のアニキが、この容器を長年使ってるんだけど、使い方がプロ中のプロで。お客さんの前で、大きく振りかぶりながらマヨネーズを出すっていうパフォーマンスをして、お客さんが『キャー』って喜んでお好み焼きを食べるんですよ。それがかっこよくって、『俺もやってみたい!』って思ったんです。で、さっそく合羽橋にこの容器を買いに行って。本来は、前日に絵の具の出具合をちゃんとチェックするべきなんだろうけど、それだと何か面白くないから、本番一発勝負でやっちゃいました。まぁ、絵の具が出たり出なかったり、うまく行かないっていうのも、それはそれでありだと思うんで。

結果的に、色も線も、いい感じに仕上がりましたね。テレビ番組だから、本当はお店のアニキみたいに、もうちょっと振りかぶって高い位置から“ぴゅー”って出したかったんだけど、手のひらの形を描きたかったから、そこを意識するとなかなかコントロールが難しくてね。でも逆に言えば、あのアニキも、さすがにお好み焼きに手のひらは描けないだろう、と(笑)。とにかく、いい方法を見つけたなと思ったんで、今後しばらく、アトリエでもこれで遊んでみようと思ってます」

──テレビカメラが入ると、一人でアトリエで描いているときの感覚とは違ってくるものなんでしょうか?

「う~ん、ちょっとは違うんだけど、何か今はもう平気になっちゃいましたね。スタッフがそろそろ撤収したがってるなぁっていうのも何となく分かるし(笑)、だいたい4時間までは付き合ってくれるだろうな、とかね。まぁ、カメラが入ってても入ってなくても、とにかく“やり過ぎ注意”ってことですかね。調子に乗ってガツガツ描いていって、『あのへんでやめておけばよかった』となると、またゼロから始めなきゃならないし、そのさじ加減の判断をするのは自分なんで。逆に、今回みたいな番組収録だとスタッフの意見も聞けたりするから、助かることもあるんですよ。アトリエで一人でやるときは、ヘタすると自分で記録しなきゃならないから。一応記録を取るために自分でビデオカメラを回すこともあるんだけど、カメラをセッティングして、録画のスイッチを入れて、キャンバスのところに行って描き始める、この一連の動きが悲しくてね(笑)。それこそYouTuberみたいにカメラに向かって『今から描かせていただきます』って言ってみたりして」

──なるほど、ギャラリーがいた方が創作のペース配分ができるのかもしれませんね。

「そうですね。例えば今回なら、『みんな(差し入れの)お団子を食べたいだろうから』ってことで、いったん作業を止めたり(笑)。番組としてどんな画が求められてるのかとか、どういうムードを作ったらいいのかとか、けっこうスタッフ目線で考えちゃうんですよね。われわれ、AD生活が長かったもんで(笑)」

■ “表現する”っていうことにおいては誰もが自由。自分で決め付けちゃうと、それ以上の進歩はないですから

──そういえば以前、秋元康さんのラジオ番組(「今日は一日“秋元康ソング”三昧20185月3日放送、NHK-FM)に出演されたとき、秋元さんが「憲ちゃんは将来、鶴瓶さんになる」とおっしゃっていて。笑福亭鶴瓶さんのように、ファンからも共演者からも愛される国民的タレントになる、という意味の発言だったと思うんですが。

「いやいや、そういう話は要らないですから(笑)。いや、鶴瓶さんみたいに、あんな素敵で優しい先輩はいないですよ。とにかく懐が深いじゃないですか。どんなにイジられても怒らないし、『ええかげんにせえや~』って言いながら、それを番組とかライブで、ネタとしてしゃべって(笑)。テレビに出ているときも、普段一緒にお酒を飲んでいるときも、鶴瓶さんは全く変わらないですから。確かに、自分もあと10年したら、あんな優しいおじさんになりたいなと思いますけど、それはもちろん鶴瓶さんだけじゃなく、水谷豊さんも、所ジョージさんも、あんな人になりたいっていう憧れの先輩はたくさんいますよ」

──思いつきでライブをやったりするところも、鶴瓶さんと憲武さんの共通点かもしれませんね。

「何らかの表現をできる場所は欲しいですよね。今考えてるのは、お客さんの前で、素敵な音楽をかけながら俺がひたすら絵を描いていく、みたいなライブができないかな、とかね。客席まで絵の具が飛び散るだろうから、お客さんは汚れても大丈夫な格好で来てね、みたいな。何かイメージが湧くと、すぐにやりたくなっちゃうんですよ。ケチャップの容器でのパフォーマンスも、もっと華麗にできるように練習しておこうかな(笑)」

──では改めて、今回ご自身が出演される「白の美術館」の見どころをお願いします。

「この番組に限らず、世の中ではいろんな人が何らかの形で表現活動をしていると思うんですよ。だから、この番組が、自分で何かを表現してみようと思うきっかけになったらいいなって思いますね。『絵なんか描いたことがないから』とか『絵が下手だから』とか、自分で決め付けちゃうと、それ以上の進歩はないですから。いろんな人が、いろんな表現をしているこの番組を見て、表現することって面白そうだなと思ってもらえたら。表現するっていうことにおいては誰もが自由なので」

──それでは最後に、アーティストとしての今後の展望をお聞かせください。

「若い人は、センスよく、かっこよく、っていうところを目指して、いろんなことができるんだけど、俺はもう56歳なんでね、膝が痛いとか、アミノ酸を飲まないとダメだとか、点滴打ちに行かなきゃとか、いろいろと補いながらやっていくことがこれからの課題です(笑)。そんな中で、今回は『白の美術館』という番組のおかげで、“白一色の部屋”っていう世界に入り込んで、一つの到達に近付けたかなと思いますね」(ザテレビジョン

きなし・のりたけ=1962年3月9日生まれ、東京都出身