芸人にとってキャラクターは大事。ネタの面白さのみで売れるに越したことはないが、なかなかそうもいかない。例えば、おぎやはぎ加藤浩次アドバイスで“Wめがね”というフックを身につけ、物珍しさから注目を浴びやすくなったという。劇団ひとりも、当初は“泣き芸”というキャラクターを持っていた。彼は2月10日放送『ゴッドタン』(テレビ東京系)で、以下のような発言を残している。

ニュートラルに売れたいっていうのは、最初はどの芸人も思うこと。でも、俺で言ったら“泣き芸”とか何か一個を(収録へ)お土産に持っていき、それを入り口に隙間で『こういうコメントができます』と自分の価値を上げていく。最初、呼ぶ側は誰を呼んでるかわからないんだから」

■「ローカルはメリットだらけ」(U字工事)

 人気芸人がさまざまな会社を訪ね、ビジネス講座を開く番組『芸人先生』(Eテレ)は、7月2日、9日と2週にわたって山田うどんを訪問した。

 ちなみに、うどん業界において同社は、店舗数ランキング4位というポジションにある。とはいえ、3位のなか卯が460店舗で、4位の山田うどんは167店舗。大きく水をあけられているのが実情だ。

 まず、第1週目に講義を行ったのはU字工事の2人。彼らは同社社員に「山田うどん」の印象を尋ねた。これが、散々だったのだ。

山田うどんは普通。悪く言えば、うまくもなければまずくもない。普通の味を提供している店。人に『山田うどん、いいよ』って勧める時の言葉が難しい」

山田うどん自体にダサい、垢抜けないイメージがある。埼玉自体にも、都会にも田舎にもなりきれない垢抜けないイメージがある」

 補足だが、山田うどんの本社は埼玉県所沢市にあり、チェーン展開の大部分は埼玉県内に偏っている。山田うどんは、俗に「埼玉のソウルフード」と呼ばれているのだ。

 ローカルでダサいと自虐する山田うどんに、U字工事はシンパシーを感じているよう。益子卓郎は吐露する。

「俺らも漫才がうまいわけでもないし、何かしゃべれるってわけでもないし、ギリギリでテレビ出られてる」

 当初、彼らは標準語で東京寄りの漫才を行っていたそう。でも、全然うまくいかなかった。その後、浅草キッド主催の漫才イベント「浅草お兄さん会」に出場した際、水道橋博士から「栃木訛りを前面に押し出したほうがいい」と助言され、現在のスタイルへ到達。ローカル色を武器に、世に出ることができた。

「漫才が上手な人はいっぱいいるし、ましてや大阪の上方漫才をブワーッてやられたら圧倒されるわけです。そこで戦うのが、ローカルだったんです」(益子)

 要するに、今回2人が説くのは「ローカルメリットだらけ。埼玉代表になれ!」である。なるほど、“普通”の山田うどんには適したアドバイスかもしれない。

 しかし、山田うどん社員の反応が芳しくない。「埼玉って住んで寝るところ」「埼玉色を出すのは恥ずかしい」と、会社だけでなく県そのものを自虐する社員までいるのだ。

「なんで、恥ずかしいんですか! 我々が埼玉だったら、すぐ(ローカルの)ネタをやりますよ」(益子)

 U字工事は地域の特産品などをネタに織り込むことで、オーディションに受かり始めた。2人は、その手法を山田うどんにも勧めている。例えば、埼玉は深谷ねぎが全国生産1位。そういったローカルの特徴も、メニュー表で押し出すべき。これは、実体験に基づくアドバイスだ。

お笑いもそうだもんなあ。特徴があったほうがオーディションにも絶対受かりますし、『なんであんなに漫才がうまいのに、もっと出てないんだろう』っていう方がいっぱいいるんですよ。『俺ら、出てていいのかなあ?』ってくらいの人がいっぱいいて」(福田薫)

■「“カロリーのK点超え”を売りにしろ!」(カミナリ)

 第2週目の講師はカミナリ。2人は「ウリという名のインパクトが大事」だと、山田うどん社員に説いた。

 そういえばカミナリには売りが2つある。1つ目は茨城訛りのツッコミ、2つ目は「どつき漫才」だ。ツッコミの石田たくみは解説する。

「どつき漫才は昔からある文化ですけど、僕のは『こんなに思いっきり叩くか?』ってくらい強く叩いているから衝撃を与えてると思うわけです」

 しかし、山田うどん社員は自社の売りがわからない模様。「山田うどんの売りは?」と質問されても、「売りは……ない(苦笑)」と頼りのない返答である。

 いや、ある。まず、「やわらかいうどん」。同店が提供するうどんは、驚くほどやわらかい山田うどんを応援する書籍『愛の山田うどん 「廻ってくれ、俺の頭上で!!」』(河出書房新社)には、さぬきうどんの全国進出により「うどんにはコシがなくっちゃ」という論調が拡大、山田うどんの評判が下降した状況が記されている。いや、そんな異端だからこそ、“売り”になり得るのではないか? それが、カミナリによるアドバイスだ。

 2つ目の売りは、「カロリーのK点越え」。実は、山田うどんセットメニュー1000キロカロリーを超えるものばかり。こちらも、やはり世の流れに反している。だが、これもアピールポイントになるのでは? 逆を突く発想を一貫してカミナリは提案するのだ。営業コンサルタントの和田裕美氏は、この手法を評価した。

「個性を生かしてほかがやってないことをやると、必ず好きな人がいるんです。サイレントマジョリティというか、言葉を発しない消費者がいるんですね。カロリーを気にする人がいる半面、実はカロリーオーバーしても食べたい人もいる。言葉を発しない消費者に向けて物を作り続けると、ほかは負けていても、そこは絶対勝ち残る」

 自らが世に出るために取った戦略を、そのまま伝授した2組。くすぶる時期の自分たちを山田うどんに重ね合わせたか? 芸人が売れるための戦略とビジネスの戦略は、相通じているということだ。

 ちなみに山田うどん、意外と言っては失礼だが、たまに食べるとすごくおいしい。さぬきの食感に慣れた我々に、あのやわらかさは逆に新鮮。カミナリが言うように、売りにしてしかるべき特徴だと思う。

(文=寺西ジャジューカ)

撮影=後藤秀二