2人の若者がオリンピック金メダルを獲得するまでの姿が描かれた、戦後のイギリス映画史を代表する名作『炎のランナー』(81)。その主人公の一人エリックリデルの波乱に満ちた生涯を明かす『最後のランナー』が7月14日(土)より公開される。『炎のランナー』と『最後のランナー』、2作を通してリデルが辿った栄光と苦難の生涯に迫りたい。

【写真を見る】エリック・リデルの『炎のランナー』後の物語が明かされる!(『最後のランナー』)

■ 信仰を貫いたエリックリデルの栄光の瞬間

1924年パリ・オリンピックの模様を再現した『炎のランナー』は、イギリス代表として陸上競技に参加した2人の若者、ユダヤ人青年ハロルドエイブラハムスとスコットランド人宣教師の息子リデルにスポットを当てた実録スポーツドラマオープニングエンディングに流れるヴァンゲリス作曲の荘厳なテーマ音楽や、選手たちが浜辺でランニングする姿を捉えた映像美と共に、観る者にしばし忘れえぬ印象を残す。第54回アカデミー賞では作品賞、脚本賞、作曲賞、衣装デザイン賞の4冠に輝いた。

とりわけ胸を打つのは、敬虔なキリスト教徒のリデルが神の教えを理由に、安息日の日曜日に行われる100メートル走への出場を辞退するエピソードだ。最終的にリデルは400メートル走に種目を変更して金メダルを獲得するのだが、その野性味あふれる疾走シーンとストイックな生き様は日本の映画ファンの心も熱く揺さぶった。そして『炎のランナー』はリデルの“その後”の消息を伝えるごく短いテロップで幕を閉じるのだが、その内容を覚えている観客は決して多くないだろう。

■ 栄光を捨て、生まれ故郷の中国・天津へ

『炎のランナー』から実に35年の時を経て作られた『最後のランナー』は、まさしくリデルの“その後”を映画化したヒューマンドラマである。実は『炎のランナー』の劇中でもちらりと触れられていたのだが、リデルスコットランド人でありながら、宣教師である両親の赴任先の中国・天津で生まれた。パリ・オリンピックで金メダリストとなったこのイギリスの国民的ヒーローは、その直後に潔くアスリートの世界から身を退き、1925年に宣教師として中国へ渡ったのだ。

■ 苦難に満ちた中国での収容所生活、そして…

しかし、リデルの新天地における第2の人生は波瀾万丈だった。折しも1937年、日本軍リデルの赴任地、天津を占領。リデルは妻子をカナダに避難させ、自らは人道支援のため現地にとどまることに。しかし、中国における外国人を取り巻く状況は悪化し、リデルは大勢の欧米民間人と共にウェイシン収容所に送られてしまう。リデルの“その後”の痛切な物語に日本軍が絡んでいたという史実は、観る者に複雑な思いを抱かせるが、映画はリデルの“信仰”と“走る”ことに焦点を絞り、彼の高潔な人物像をドラマチックに浮き彫りにしていく…。

『炎のランナー』から『最後のランナー』へ、固い信念を貫いて走り続けた男の知られざる軌跡がここにある。(Movie Walker・文/下川秋男)

金メダリスト、エリック・リデルの苦難の生涯を描く『最後のランナー』は7月14日(土)より公開