際化社会といわれ、年々海外に進出する日本企業日本国内に進出する海外企業が増えている中、存在感を発揮しているのが米国弁護士です。アメリカの各州で定められた弁護士資格を持ち、英語があってアメリカに精通しているため、法務の仕事だけではなくビジネスの最前線でも活躍しています。 子育てに励みながらも、ニューヨーク州の弁護士資格を生かして働いている高法律事務所の唐真美さんに、米国弁護士仕事についてお話を伺いました。

米国弁護士の資格を生かしアート・エンタメ分野の国際案件に関わる

Q1. 仕事概要と一日のスケジュールを教えてください。

私は日本弁護士米国ニューヨーク州)弁護士の両方の資格を持っています。企業法務に関わる弁護士業務を行っていて、クライアント(依頼)は、テレビ局・出版などのメディア関係と、音楽映像演劇などのアート・エンターテインメント関係の企業が多いです。個人のクライアントは、デザイナーアーティストプロデューサーの方などです。業界の性格上、著作権をはじめとする知的財産権に関わる契約交渉や相談案件の割合が高いですが、労働問題や債権回収の相談もありますし、紛争案件も多いです。「弁護士=裁判」というイメージを持たれている方が多いと思いますが、私の場合は裁判件数は少なくて、紛争案件も多くは交渉で解決しています。

日本企業の場合、契約は自社で対応できていても、契約は自社だけで対応するのは難しい企業が少なくありません。英文の契約書を一通り理解することはできても、深く読み込んで問題点を発見し変更案を提案したり、英語で交渉することは難しいというクライアントは多いです。米国弁護士資格があることで、そのような際案件のご依頼を多く受けており、契約書の作成はもちろん、相手との会議に同席して英語での交渉のサポートを行うこともあります。
特に近年はエンターテインメント関連の際案件を扱う機会が多く、渉外弁護士(*)として際案件を長く扱ってきたことが弁護士としての自分の強みになっていると思います。


* 渉外弁護士内以外の案件に関わる弁護士のこと。

<ある一日のスケジュール
05:00 起床、自宅で仕事メール確認、書類作成など
06:30 子ども達のお弁当作り、朝食準備、その他
10:00 出勤、スタッフと打ち合わせ、会議のための準備(資料検討、リサーチなど)
11:00 クライアント会議
12:00 食、移動
13:00 社外監役を務める会社で取締役会・監役会に出席
15:00 事務所に戻る、契約に関する業務(資料検討、リサーチ、ドラフト作成など)
16:30 日本在住の外国人クライアント電話会議
17:00 相談案件の対応(リサーチ、メモ作成など)
18:00 帰宅(お迎え、買い物)
19:00 事、夕食準備、夕食、家族との時間を過ごす
23:00 自宅で書類作成、就寝


Q2. 仕事の楽しさ・やりがいは何ですか?

弁護士になる前は、「弁護士=裁判の仕事」というイメージを持っていました。裁判は、基本的には過去に起きたトラブルに対する問題解決を行う仕事といえます。
それに対して私が専門としている企業法務は、未来を向いた仕事も多いという特色があります。特に契約交渉や新規のビジネスに関する相談は、これからビジネスをするに当たってどうしたらトラブルを回避してスムーズに進めることができるか、法的な観点から考えることが仕事の中心になります。将来を向いてクライアントと一緒に考える部分にやりがいと面さを感じています。

また、私の現在の業務では、弁護士としての仕事を通して、芸術作品やさまざまなコンテンツの創作・発信やアーティストの活動に関わっていくこともできます。「見る人・楽しむ人」の立場ではなく、アーティストクリエイター側の立場に立って仕事をすることは、弁護士になる前は想像もしなかったことなので、とても楽しく興味深いです。


Q3. 仕事で大変なこと・つらいと感じることはありますか?

企業法務の中には、私も以前取り扱っていたM&A(企業の買収・合併)のように、時には10人をえるような弁護士チームで行う業務もありますが、現在の業務は、基本的には私が1人で担当しています。子育てをしながら弁護士として仕事をするには自分のペースで対応できる業務分野が適していると思ったので、第1子出産を機にそれまでの事務所から移籍して、著作権などの知的財産権分野に軸足を据えることを選びました。

でも、1人で案件を担当する場合、例えば子どもが熱を出したからといって、他の弁護士に代わりに会議に出てもらうわけにはいきません。また、契約交渉は、記者発表など企業としては絶対に動かせないタイミングに合わせて行われることも多く、弁護士のせいでそのスケジュールを遅らせるわけにはいきません。裁判は事前にある程度日程が決まるので予定が立てやすい面もありますが、企業法務の案件はクライアントの事情で急な対応を迫られることも多いため、案件が集中すると大変なこともあります。

新しいビジネスに関する相談の場合、過去の裁判例がない問題に直面するケースも多くて、悩むこともあります。法的なリスクがある場合もすぐに「やめた方がいい」と言うのではなく、どのような方法を取ればクライアント希望をかなえることができるのか、日々知恵を絞っています。

日本の法律事務所に勤めた後、留学して米国弁護士の資格を取得

2018年3月、前の事務所の先輩とともに高樹町法律事務所を開業
2018年3月、前の事務所先輩とともに高法律事務所を開業

Q4. どのようなきっかけ・経緯でこの仕事に就きましたか?

私の薬剤師資格を持っているのですが、私が子どものころは専業主婦でした。それが、ある日「もう一度働くわ」と言って薬剤師仕事を再開し、生き生きと働き始めました。その時に、女性でも資格があれば、子育てなどで仕事から離れていても仕事をしたいと思えば復帰できるんだな、と子ども心に印深く感じました。の姿を見て、私も将来は資格を取って仕事がしたいと考えるようになりました。

ただ大学入学時には法試験の他に企業への就職も視野に入れており、ゼミを決める時も、法試験受験生が集まるゼミではなく、就職に強いと評判のゼミを選んだのですが、最終的にはやはり弁護士すことにしました。サークル引退して同級生就職活動を始める4年生になる頃から、法試験の勉強を本格的に始めました。

大学卒業した翌年に法試験に合格し、1996年弁護士登録を行いました。法修習生の時にビジネス英語を学ぶ学校に通い始めましたが、当時は必ずしも米国弁護士していたわけではなく、弁護士資格プラスアルファスキルとして英語仕事ができるようになればいいなと思ったからです。
日本法律事務所に就職して際案件に携わる業務が増えてくると、留学して米国弁護士資格を取得したい気持ちが強くなったため、事務所に入って2年過ぎた後にアメリカロースクールに1年間留学しました。ニューヨーク州の弁護士資格を取得し、さらにイギリス系の法律事務所海外オフィス東京オフィス際案件の経験を積みました。その後、著作権やアート・エンタメ分野に強い日本法律事務所に移籍して13年間仕事をし、2018年3月事務所先輩と一緒に新しい事務所を立ち上げて現在に至ります。


Q5. 大学では何を学びましたか?

法学部法律を中心に学びました。3、4年次のゼミでは商法を中心に学びました。ゼミは、毎回2つの班が異なる見解に立つように定され、各班がそれぞれの見解に従って資料を検討して立論し、相手の班と議論をする形式で進められました。就職に強いという評判と教授の人柄に惹かれて選んだゼミでしたが、自分の意見ではなく定された立場に従って議論する経験は、弁護士業務でも大いに役立ちました。

法試験の勉強に本を入れるまでは、講義にに出席して試験はそつなくこなしつつも、バスケットボールバレーボール真剣に取り組むサークルに入ってスポーツを楽しみ、学園祭などで盛り上がり、アルバイトをして……と、当時のごく普通大学生活を送っていました。学生時代の気の置けない仲間との付き合いは今でも続いていて、私の人生の宝物の1つです。


Q6. 高校生のとき抱いていた夢が、現在仕事につながっていると感じることはありますか?

私は小学校から高校まである国立大学の付属学校に通いました。男女共学で、12年間男子と一緒に教育を受け学校生活を送ったので、男女関係なく大学に行き働くものだとずっと思っていたんです。
そのため、高校生の頃(1986年男女雇用機会均等法が施行される前)に、どんなに優秀でも女子学生は就職先が少ないことを知って強い衝撃を受けました。私たち女子男子べて何も劣るところがないと思って育ってきたのに、「なんで?」と思いました。偏差値が高い大学女子であればあるほど企業から敬遠されがちであるとも聞き、あまりに不合理だと思いました。質の高い教育を受けることができる環境に恵まれ、きちんと勉強してきたのだから、働いてそれを社会に還元できないのはしいと感じました。

男性と同じように仕事を持って長く働きたいと思う一方で、結婚して子どもを産むことも当然のように考えていたので、そのためにはどうすればいいのか考えた時に出てきた選択肢の1つが、弁護士仕事でした。薬剤師と同じように国家資格に支えられた仕事ですし、弁護士なら結婚しても出産後のブランクがあっても仕事を続けられそうだと思ったのです。
そして実際、弁護士米国弁護士資格を取って、結婚出産を経た現在資格を生かしながら仕事を続けていられるので、高校生のときの夢が現在につながっていると思います。仕事庭の両立を支えてくれている家族事務所メンバーにも、心から感謝しています。

米国弁護士の資格は希望の仕事に就くためのファストパス

いつも持ち歩いている仕事道具。手帳は仕事や家族の予定でいっぱい
いつも持ち歩いている仕事具。手帳は仕事家族の予定でいっぱい

Q7. どういう人が米国弁護士に向いていると思いますか?

まず、英語読み書きにアレルギーがないことは前提条件だと思います。とはいえ、法律英語ボキャブラリーが限られていて、文法的にもきちんとしているので、資格取得のためにネイティブ並みの英語が必要なわけではありません。

次に、私のように米国ロースクールに留学してすぐに法試験を受けるパターンであれば、短期集中ができる人が向いていると思います。ロースクールの授業の合間にBar Exam米国弁護士試験)の準備をしている余裕はなく、試験直前の約2カの勉強で相当な量の知識を詰め込み、論文や書類作成の練習をすることになるからです。
また、論理的に考え、短時間で論理的な文章の作成ができることが非常に重要です。知識面はある程度論理的に整理して覚えなければ覚えきれる量ではないですし、論文試験も文書作成試験も、論点を見つけてそれぞれに結論を出し、相手に伝わるように論理的に組み立てた文章を書く必要があるからです。

米国弁護士資格を取ろうと考えている日本人の多くは、アメリカで法廷に立つことをしているのではなく、米国弁護士資格を強みにして日本弁護士として活動したり、あるいは際的な仕事を扱うビジネスパーソンとして活躍することを考えていると思います。つまり多くの場合、米国弁護士資格が何らかの仕事の必須条件となるわけではなく、米国弁護士資格を取りさえすれば収入に結び付くわけでもありません。
その一方で、米国弁護士資格を取得するには相当な費用と時間が必要となるので、とりあえず資格を取れば役に立つだろうと考えるのではなく、「自分はどんな仕事をしたいのか」「その仕事をする上で、米国弁護士資格がどのような価値を持つのか」という点を十分に考えておいた方がいいと思います。


Q8. 高校生に向けたメッセージをお願いします。

私は現在際案件を多く取り扱い、英語によるコミュニケーションの機会も多いですが、基本的には日本弁護士として仕事をしています。弁護士として際案件を扱うために米国弁護士資格が必ず必要なわけでもありません。それでも、米国弁護士資格を持っていることで、内外のクライアントから際的な案件を扱う資質があると見てもらえて、その結果として仕事チャンスが広がっている側面が確実にあると感じています。

また私の場合、1年間の米国留学よりも、むしろその後に外資系法律事務所で英の同僚弁護士と一緒に際案件にどっぷりと漬かって過ごしたおよそ5年間の経験を通じて、英語仕事をするが鍛えられたと思います。そのようなグロバル環境で経験を積むチャンスを得られたのは、アメリカロースクールに留学し、米国弁護士資格を得ることが予定されていたからに他ならないと思っています。
このような自分の経験を振り返ると、際的なビジネスに携わることをしている全ての人にとって、米国弁護士資格は、自分が希望する仕事くたどり着くためのファストパスとしての価値が十分にあると思います。興味のある方は、ぜひチャレンジしてみてください。


米国弁護士資格を取得して資格を生かした仕事をするためには、アメリカ法律に関する知識だけでなく、高いレベル英語コミュニケーションが必要です。論理的思考を武器にして際的な交渉案件に携わったり日本海外ビジネス渡しをしたりするスキルはニーズも高く、困難を乗り越えて案件がまとまった時の喜びも大きいはずです。
世界を舞台にビジネスで活躍したい」「弁護士として専門性の高い仕事がしてみたい」と考えている人は、米国弁護士資格の取得をしてみてはいかがでしょうか。


profile】高法律事務所 弁護士ニューヨーク弁護士 唐真美

法律事務所 http://www.takagicho.com/

取材協:高法律事務所

取材日:2018年4月3日