― 連載「倉山満の言論ストロンスタイル」―

日本人イメージと異なる恐ろしいプーチンの実像とは?

 こいつ、絶対に人を殺したことがあるの顔だ!

 ロシア独裁者、ウラジミール・プーチンを最初に見た時の、感想である。

 ところが日本人の中には、「欧中国り合っている強い政治家」「柔道秋田が好きだから親日」「プーチンなら北方領土を返してくれる」という、妄想を抱く者までいる。プーチンに限らず、ロシア人が聞いたら笑い転げるか、逆に「日本人は何を考えているのだ?」と警するだろう。

 プーチンは、旧ソ連の秘密警察であるKGBの出身である。東ドイツスパイとして働いていた。スパイの活動には大きく2種類あり、一つは情報の収集と分析、もう一つは自己の意思を他者に強要する工作である。プーチン本人によれば、政治情報の収集をしていたとのことだが、本当のことをペラペラしゃべるスパイなどいるはずがない。

 ソ連ロシアに変わり、ボリス・エリツィン初代大統領の政権が末期症状となるとプーチンは台頭し、首相から大統領に上り詰める。’99年12月31日プーチンエリツィンから大統領の地位を譲されて以来、一度も権を手放していない。ちなみに、の「譲」には「最高権者が位を譲ること」という形式的な意味の他に、「最高権者に位を譲らせること」との意味合いもある。プーチンの場合は、見るからに後者だった。

 プーチン首相時代から辣腕を振るい、ロシアを悩ませてきたチェチェン紛争をずくで叩きのめした。チェチェンは、ロシア連邦内にある共和だが、その大統領には傀儡を据え続けている。まったく他民族統治に慣れていない日本人の感覚では理解できないだろうが、傀儡を据えるとは「地回りのヤクザに住民を黙らせて、みかじめ料を上納させる」のと同じことなのだ。勇猛果敢で知られるチェチェン人も、プーチンの前には今や搾取されるのみである。

 この紛争で、プーチンに反抗的な軍人は最前線に送られて戦死し、自分に媚び諂った人間だけを出世させているという。

 プーチンは暗殺の常習犯でもある。プーチン批判する演説をしていた女性が背後からび寄った何者かに注射器を刺され、途端に倒した映像世界中を駆け巡ったことがある。

 また’06年10月に、元KGBアレクサンドル・リトヴィネンコが亡命先のイギリス殺されたこともある。猛を盛られて。イギリス政府の報告書によれば、下手人はアンドレー・ルゴヴォイとのことだ。この人物は、生前のリトヴィネンコと最大の親友だった人物だ。裏切り者は一番の親友に殺させる。旧ソ連以来の手口だ。

 プーチンの政敵には、の事故死を遂げた政治家も多い。アレクサンダー・レベジもその一人で、ヘリコプター墜落事故で死去している。

 レベジと言えば、エリツィンと組んでロシアの民化を真剣に推し進めた政治家だ。この場合の民化とは、「人を殺してはならない」という価値観を徹底することである。欧日本では「民化」と報道されたが、エリツィンやレベジの意をめば、彼らが渇望したのは「法治義」だろう。

 安全保障においても、NATO日本との友好を模索し続けた。理由はもちろん、中国と決別するためである。彼らに「人を殺してはならない」という理屈は通じない。

 日本人プーチンを褒める人に会うたびに、「では、あなたはレベジをどう思いますか。彼のほうがよほど親日だったと思いますが」と聞くと、一言も返事がない。私が会ったロシア専門(と呼ぶのもおこがましい半可通)がことごとくレベルが低いだけで、本物の専門の見解は違うのかもしれないが。

プーチンがいる限り、日本ロシアとマトモな交渉ができると思うな

 プーチンを「反中」と称する人もいるが、何をしてのことだろう。中国との交渉では、3分の2を譲り渡した。それでいながら、内では半々で折半したとしか報道させない。

 そもそも、中国ロシア上海機構を結んでいる軍事同盟だ。親中に決まっている。むしろ、「媚中」と言い切っても過言ではない。内では強権を振るうプーチンも、中国に逆らったことは一度もない。

 それも当然で、プーチンの野望は旧ソ連の版図を奪回することである。グルジアウクライナも、軍事侵攻で領土を奪われた。プーチンから見れば、西で欧と喧している以上、東で中国と事を構えるわけにはいかないのだ。シベリアには中国人が大量入植しているが、見て見ぬふりである。のみならず、プーチンの故郷であるサンクトペテルブルクのような都心部にも、チャイナタウン跋扈している。

 プーチンロシア愛国者なのだろうかというと、それも疑問だ。

 ロシア憲法では、大統領は連続3選できない。そこで自らは首相に退き、最側近のドミトリー・メドベージェフ大統領に据えたことがある。今、メドベージェフは再びプーチンの下で首相を務め、忠勤に励んでいる。そのメドベージェフは、ガスプロムという財閥の会長であった。プーチン自身もガスプロムという特権企業の利益代表である。どれくらいの特権があるかと言うと、法律で重武装を認められているくらいだ。

 かつて、イギリスは東インド会社という策会社を使い、インド人から搾取した。ガスプロムはロシア人から搾取しているのだ。同胞から。

 ガスプロムの最大顧客は中国なのだから、プーチン中国に逆らえないのもうなずける。

 昨年、ドイツのゲアハルト・シュレーダー前首相が、ガスプロムの事実上の企業のロスネフチ社の会長に選任された。これ、EUの制裁対企業なのだが。シュレーダーは現職時にやたらと反日的言動が多かったが、お里が知れる。

……以上、急にプーチンの話をしたというのも、この前、師匠プーチンの話題になり、その“酔人談議”をそのまま原稿にしているだけなのだが。師匠によれば、ロシア語には「安全」という単はないそうだ。あるのは「危険」のみとか。

 先日も露首会談が行われたが、外交には「何も成果がないことが成果」「余計な結果にならなければ良し」という場合もあるのだ。

 は、アメリカ軍事同盟を強めるほかない。プーチンある限り、ロシアと交渉できると思うな。<文/倉山 満>

【倉山 満】
政史研究 ’73年、香川県生まれ。’96中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程を修了。在学中より国士舘大学日本政教研究所非常勤職員として、’15年まで同大学日本国憲法を教える。’12年、希望日本研究所所長を務める。同年、コンテンツ配信サービス倉山塾」を開講、翌年には「チャンネルくらら」を開局し、大日本帝国憲法日本近現代史、政治外交について積極的に言論活動を展開。ベストセラーになった『嘘だらけシリーズ』など著書多数

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