フェラーリといえば、いわずと知れたイタリアを代表する高級スポーツカーブランド。そんなフェラーリエンジンを搭載したセダンとして、現在人気なのがマセラティクワトロポルテです。しかし1980年代にも、他メーカーなのにフェラーリエンジンが載ったセダンが存在していました。それが、ランチア テーマ8.32です。文・西山昭智

ランチアは、フェラーリと同じイタリア自動車メーカー歴史フェラーリよりも古く、1906年に設立されました。

戦前には、1922年に世界初のモノコックボディを採用したラムダ1937年には実験によって設計されたボディと、狭V4エンジンを積んだアプリリアを世に送り出し、自動車シーンにおいてランチアの名をゆるぎないものにします。しかし、同じ年に創業者であるヴィンチェンツォ・ランチアが死去。息子ジャンニが、会社を引き継ぐことになりました。

戦後ジャンニの率いるランチアは、世界初のV6気筒エンジントランスアクスレイアウト採用したアウレリアを生み出します。同時に、レースシーンにも進出、ミッレ・ミリアル・マン、さらにF1など意欲的に活動を行っています。

しかし1955年には経営の悪化によって倒産。新しい経営者のもと、FFのフラヴィア、フルヴィア、FRのフラミニアといったモデルを発表するものの経営は軌に乗らず、1969年にはフィアット下に収まることになりました。

さまざまなブランドを有していたフィアットのなかで、ランチアは高級部門という位置づけで、1972年にはフィアットエンジンを搭載したベータ1974年ストラトス1979年に5ドアハッチバックデルタが誕生。同年のヨーロッパカーオブ・ザ・イヤーに見事選出されています。

このフィアット期には、ストラトス、037ラリーデルタ インテグラーレに代表されるWRCに加え、ル・マンを始めとしたロードレースでも々しい成績を残しますが、現在ブランドこそ残されているものの、販売される車両は、同じクループのクライスラー製となり、当時のきを全に失ってしまったようです。

ランチア テーマ8.32

そんなランチア黄金期であった1984年デビューしたのが、ガンマの後継版となるテーマです。ジウジアーロ率いるイタルデザインスタイリングを手がけたアッパーミドルグレードのセダン(後にステーションゴンも追加)で、1994年まで生産され続けた息の長い人モデルでした。

テーマの内装の一部は、イタリアの名門高級メーカーポルトローナ・フロウが担当、さらにファッションブランドエルネジルド・ゼニアの生地やアルカンターラを使用するなど、高級感あふれる仕上がりで評判を集めました。

テーマは、フロントエンジンを搭載するFFレイアウトで、のちに2.0L NAのほか、2.0LターボやV6ディーゼルモデルなどが、ラインナップされていました。そのようなラインナップに追加されたモデルが、テーマ8.32でした。

テーマ8.32とは
ランチア テーマ8.32

1986年にトリノショーで発表されたテーマ8.32は、3.0L V型8気筒エンジンを搭載するモデルで、名前の由来は8気筒32バルブというもの。その変わった名前のつけ方からも分かるように、このエンジンフェラーリ308クワトロバルボーレと同じものが使われています。フェラーリも同じようにフィアット下だったということから誕生したスペシャリティな1台が、このランチア テーマ8.32の正体です。

排気ガス規制を受けて、キャブレターからインジェクションに変更された308V8エンジンを、フロントに横置き(308はミドシップ)で搭載された308V8エンジンは、排気ガス規制を受けてキャブレターからインジェクションに変更されたもの。ヘッドカバーにはLANCIA by Ferrariという文字がしっかりと刻まれています。

ベースグレードのテーマ120psだったのに対し、テーマ8.32の最高出210ps。重量のあるV8フロントに搭載したことで重量バランスが崩れたため、グッドイヤーが新しくタイヤを開発したというエピソードもあるほどです。

ほかにも、のホイールデザインや格子状グリルなどフェラーリの意スタイリングの随所にちりばめたほか、格納式のリアスポイラートラクリッドに配置。さらに、内装材にはローズウッドを使うなど、あらゆる面でスペシャルな仕上がりになった8.32は、そのぶんだけ高額で、ベースグレードの倍近い額でした。

ランチア テーマ8.32

一見すると、品の良いミドルクラスサルーンにしか見えないボディに、フェラーリと同じエンジンを搭載したテーマ8.32。このモデル1992年に生産が終了され、その後のフラッグシップには、アルファロメオV6エンジンが採用されています。

フィアットという巨大自動車メーカーが存在し、フェラーリランチアという特別なブランドフィアット下に収まっていたからこそ、この化学反応が生まれたのかもしれません。

フェラーリの心臓を宿したセダン。謎の車ランチア テーマ8.32とは?