海上自衛隊の船といえば、おそらく大きくて武装も強力な護衛艦を想像されるでしょう。しかし、海上自衛隊にはそれよりずっと小型でしかも船体は木材でできた船がある、と聞けば驚く人もいるかもしれません。

21世紀に木造船の運用、もちろんワケあり

木造船舶と聞くと、漁船や帆船を思い起こさせるような、どこか懐かしい言葉の響きを感じます。しかし、海上自衛隊には2018年7月現在も活躍する現役木造船が存在します。それが、掃海艇です。

掃海艇」とは、海上を進む船舶や海中に潜む潜水艦などをターゲットにする海の地雷、いわゆる「機雷」を処分して味方の艦艇や民間船舶が通るための道を確保することを任務とする船で、まさに海上自衛隊の縁の下の力持ちともいうべき存在です。では、なぜそんな爆発物である機雷と対峙する危険な任務についている掃海艇は、頑丈な鋼鉄製ではなくもろい木造なのでしょうか。

実は機雷には様々な種類があります。一般的なイメージの機雷は、球体にユニコーンの角のような突起物がいたるところに生えているような物体かと思いますが、これは船と機雷が直接接触することによって起爆する「触発機雷」と呼ばれるもので、機雷としては最も古いベーシックな種類のものです。これを処分するだけならば鋼鉄製の掃海艇でも何の問題もありません。

しかし、問題となるのはいわゆる「磁気機雷」の処分です。磁気機雷は、海中に設置された機雷の上を通過する船舶が帯びる磁気によって生じる、周囲の磁場の乱れなどを感知して起爆するもので、仮に鋼鉄製の掃海艇で処分しようとすると、鉄が磁気を帯びるという性質上、処分しようと近づいた途端に機雷が起爆する危険性が高まってしまいます。そのため、こうした磁気機雷対策として掃海艇の船体にはいまだ木材が使用されているものがあるのです。

ところが、木造の掃海艇は船体の腐食などの影響で運用期間をさほど長く設定できないといった問題もあり、現在海上自衛隊では2012(平成24)年から就役を開始した「えのしま型掃海艇」以降、より軽量で長期間運用できる繊維強化プラスチック(FRP)製の掃海艇にシフトしつつあります。いま現在の海上自衛隊掃海艇戦力は「すがしま型」や「ひらしま型」など、木造船体の掃海艇が数の上での主力となっていますが、今後はその数を徐々に減らしていくことになりそうです。

実はバラエティーがある機雷 その種類と処分方法

先ほども触れたように、実は機雷にはさまざまな種類があります。触発機雷や磁気機雷以外で現在知られている代表的なものとしては、船舶が航行する際に発生する音や水圧を感知して起爆する「音響機雷」や「水圧機雷」、さらにこれらをひとつに組み合わせた「複合機雷」、そして目標が近づくとロケットなどによって海中から急速に上昇して起爆する「上昇機雷」や、カプセルに収納された魚雷を射出する「ホーミング機雷」などが挙げられます。また機雷自体の種類に加え、その設置方法による区別も存在していて、水面にぷかぷかと浮かぶ「浮遊機雷」、下に沈むおもりと係維索と呼ばれるロープのようなものでつながれ、任意の水深に設置される「係維機雷」、海底に設置される「沈底機雷」などが代表的です。

では、このようにバラエティーに富んだ機雷をいかにして処分していくのでしょうか。機雷の処分には大きく分けてふた通りのやり方があります。

ひとつは、掃海艇ヘリコプターが音や磁気などを発生させる装置を引っ張りながら航行して音響機雷や磁気機雷を爆発させたり、あるいはカッターなどがついた掃海索と呼ばれるロープ状の器具を引っ張りながら航行して係維機雷の係維索を切断し、浮かび上がった機雷を機関砲などで射撃して処分したりする方法です。

もうひとつは、海中にある機雷をソーナーなどによって探知し、専門のダイバーや無人潜水艇を使って機雷の近くに爆薬をセットして爆破処分する方法です。

実は日本の戦後史を形作ってきた掃海部隊

実は、日本の戦後史にとって、掃海部隊は非常に重要な存在でした。第二次世界大戦中、アメリカ軍爆撃機潜水艦を使って日本の周辺に大量の機雷を設置しました。そして、それらの多くは終戦を迎えても無力化されることなく日本の周辺海域を漂い続けました。そのため、戦後復興に必要な物資を海上から安全に運ぶことが非常に困難になっていたのです。そこで、旧日本海軍の軍人で構成された掃海部隊が、多くの犠牲をともないながらもまさに命がけで機雷を処分し、この状況を打ち破って戦後復興を支えたのです。

このような背景もあり、戦後に発足した海上自衛隊は機雷を処分する能力が非常に重視され、現在では世界でもトップクラスの掃海能力と規模を誇る組織に成長しました。

さらに、自衛隊史上初の海外における任務を実施したのも、実は海上自衛隊の掃海部隊でした。1991(平成3)年の湾岸戦争に際して、イラクはペルシャ湾に大量の機雷を設置し、これによって石油を運ぶタンカーなどが安全に航行できない状態となりました。そこで、日本を含む9カ国の掃海部隊による、機雷処分活動が実施されました。そして、中東という厳しい環境の中で、海上自衛隊の掃海部隊はひとりの犠牲者を出すこともなく、無事に任務を完了しました。

これから先も消えない機雷の脅威

このように、戦後日本は機雷の脅威と戦い続けてきました。しかし、まだまだその脅威は消え去りそうもありません。現在、尖閣諸島問題などによって我が国とのあいだに緊張が高まっている中国は、実は兵器としての機雷の価値を高く評価している国のひとつです。

機雷は、ミサイルや戦闘艦艇に比べて安価で大量に設置でき、しかも一隻数百億から数千億円もする高価で高性能な軍艦を沈めることができる恐ろしい兵器です。そのため、そこに機雷があるかもしれないという情報だけで、敵の海軍の動きを大きく制限することもできます。

中国は、こうした機雷の特徴に注目し、戦争が起きた際に敵の軍隊を自国周辺に近づけない、自由に行動させないためのツールとして、さまざまな機雷を保有しているとされています。また、機雷を設置するための手段も数多く保有していて、軍艦や爆撃機はもちろん、漁船からも機雷を設置することができるとの分析もあります。

もしも、中国が九州や沖縄の周辺に大量の機雷を設置すれば、アメリカ軍海上自衛隊のみならず、民間の船舶も安全に航行することができなくなり、日本や世界の経済に大きな影響を及ぼしてしまいます。こうした事態に対処するためにも、今後とも海上自衛隊の掃海部隊は、機雷の脅威に立ち向かっていくことになりそうです。

【写真】掃海ヘリMCH-101から降下するEOD(爆発物処理)ダイバー

ひらしま型掃海艇「ひらしま」。海自最後の木造船で、同型は3隻建造された(画像:海上自衛隊)。