レスリングアメリカンフットボールスポーツ界の不祥事が次々に発覚するなか、極めつけといっていいのが日本ボクシング連盟をめぐる問題だ。助成金の不正流用、不正判定への関与、暴力団とのつながり――これらについて問われても、会長山根明氏は強気な姿勢を取っていたが、鈴木大地スポーツ庁長官が辞任を促す事態に発展すると、8月8日に辞任を表明した。

 その強キャラクターが印的な山根氏のファッションと振る舞いを、個人向けスタイリストで『できる男になりたいなら、を見ることから始めなさい。』(CCCメディアハウス)の著者という立場から読み解いていきたい。

78歳で鮮やかなピンクを着こなす山根

 山根氏のファッションを一言で言うと「ワル」だろう。故・野村沙知代氏を彷彿させる薄く色の入ったサングラスが「非カタギ感」を演出している。あのようなサングラスは、「若者より高齢者のほうが似合うファッションアイテム」の代表といっていい。「若者のほうがなんでも着こなせる」と思われがちだが、年を取ったほうが似合うものもあるのだ。

 また、山根氏はなかなかの落者だ。特に秀逸だったのが、インナーに着ていた鮮やかなピンクのシャツだ。メディアに出る際に数回着用しており、お気に入りだったのかもしれない。

 私は、個人向けのスタイリストとして、個々人に似合う色の診断や提案などを行っているが、色に関する誤解のひとつに「高齢になったら、渋い色のほうが似合う」というものがある。実際は決してそんなことはなく、「人による」のだ。渋い色が似合う人は子どもの頃から渋い色が、鮮やかな色が似合う人は高齢になっても鮮やかな色がしっくりくる。

 山根氏は、鮮やかな強い色が似合うタイプだろう。別のニュース映像ではくすんだグレーのシャツを着ていたが、そちらでは全に「おじいさん」という印だった(78歳なので仕方ないのだが)。いずれにしろ、似合う色を選べば若く見える。「これを着ると、元気がなかったり、疲れたり、老けたりして見える」というがあれば、それは色が自分に合っていない可性が高いのだ。

チョイ悪ファッションは逆に弱い?

 ピンクのシャツも堂々と着こなす山根氏のファッションだが、その弱点は強みと表裏一体だ。つまり、「ワルがすぎる」のである。たとえば、日本ボクシング連盟会長という権を持つ人間がおどろおどろしいサングラスを着用していたら、それだけで下の人間は萎縮してしまう。下を委縮させて組織を運営するスタイルが長期的に見れば高い確率で腐敗することは、歴史明している。

「組織の長が癖のあるファッションをする」というのは、「私はワンマンで聞くを持たず、この組織も自分の好きなように動かします」と言っているようなものだ。そして、このスタイルは、追いが吹いているときであればいいが、向かい風はとことん弱い。

 逆時の装で大切なのは実さや清潔感を前面に出すことであり、チョイ悪などもってのほかだ。仕事にしても人生にしても、常に追いノーミスというのはあり得ない。個人的には、ミスをしたときに備えて普段からソツのない装で過ごすことを推奨する。普段は細身のスーツった革靴などの“チャラい恰好”が好きなビジネスパーソンも、取引先を怒らせたときに備えて、スタンダードで癖のないスーツと靴は持っておくべきだろう。

芝居がかった山根発言に見る「プレゼン

 8日には、山根氏を告発した日本ボクシングを再する会の記者会見も開かれた。「問題の発覚から今回の発表まで、ずいぶん時間がかかったように思える」という質問にもごまかさずに回答するなど、冷静な怒りが伝わる良い会見だったと思う。しかし、話すというよりは事前に用意した原稿を「読んでいる」ケースも見られた。

 確かに間違えられない状況であり、さらに「記者会見に出る」という経験など、一般の人間にとってはまずない。たくさんのフラッシュるなかでカンペなしでは不安になる気持ちは、よくわかる。

 しかし、「ものすごくいい内容のカンペを読む」のと「内容はないが、情感を込めてしゃべる」のでは、時として後者のほうが聞き手に強い印を残すこともある。発言内容はあきれるほど責任でだが存在感は抜群の山根氏などは、まさに後者の典だ。

 以前、外国人による英語のプレゼンを聞いたことがある。内容は「ちょっと何言ってるかわかんない」だったが、その「顔芸」はかなりしく、刺さるようなアイコンタクトや情感にあふれたり口、ふんだんな間の取り方に「わからないのに、言いたいことはなんとなく伝わる」という不思議な体験をした。当然、話者はカンペを使っていなかった。日本ボクシングを再する会の会見でも、最後のメッセージだけはカンペに頼らず、まっすぐ前を見据えて伝えれば、再の強い意志がより伝わったのではないだろうか。

 一般のビジネスパーソンにとって、記者会見をする機会は皆無だろうが、プレゼンを行うような機会はあるはずだ。しかし、パワーポイントなどでつくった文字だらけの資料をボソボソ朗読するだけの“クソプレゼン”をしている人は非常に多い。

 プレゼンをする以上、「読む」のではいけない。それなら、資料を配布すればいいからだ。ただし、「聴衆の心を動かすプレゼンをする」のは、多くの日本人にとって、とてつもなく高いハードルだろう。そういう教育を受けたり実践をしたりする機会がないまま社会に出る人がほとんどだからだ。

 そういった意味でも、山根氏のり口は異質のものであった。もちろん、発言内容は選手に対する配慮や良心が抜け落ちていて、まったく共感できない。さらに、「山根明が~」と一人称フルネームにすることに代表される芝居がかった言動は、日常生活では胡散臭さが鼻につく。しかし、プレゼンの場では、山根氏のような芝居がかった振る舞いは、むしろプラスに働くこともある。

 ブームを巻き起こした世界的講演会「TED Conference」を見るとよくわかるが、プレゼンの間は「日常」でなく「ショー」だ。百貨店の店頭販売で、店員日常と変わらないテンションと口調でモノを売っていたら、足を止める人はいないだろう。

 山根氏は、妻から「会長、あなたは世界一の男や」「あなたが生きてる間、私はどんなことをしても面倒見ていくから、男のだけ、正々堂々として生きてください」と言われたことを涙ながらにっていた。妻の言葉もまた芝居がかっているように感じるが、それをあえてメディアに流すという行動は、まさに“山根劇場”といえるだろう。すべてを模倣するのは危険だが、プレゼン下手なビジネスパーソンは参考にするのもいいかもしれない。
(文=石徹未亜/ライター

日本ボクシング連盟の山根明元会長(写真:日刊現代/アフロ)