97ドラマアカデミー賞監督賞を受賞した、「おっさんラブ」(テレビ朝日系)の東東一郎監督山本大輔監督Yuki Saito監督が撮影を振り返る座談会の後編。今回は数々の名シーンの裏側を明かす。

【写真を見る】第1話、第4話、第7話の演出を担当した瑠東東一郎監督(右)と第2話、第5話を担当した山本大輔監督(左)

(「おっさんラブ」3監督座談会・前編! 田中遣都は『たぶん本当に付き合ってる(笑)』【ドラマアカデミー賞】から続く)

■ 「演技が面すぎて、これを監督として伝えなければというプレッシャーも」(Yuki監督)

――前編ではメインキャストの魅をうかがいましたが、全員自由自在に芝居をできる現場だったんですね。それを撮るのは監督としては楽しかったのではないでしょうか。

Yuki:そうですね。毎日、現場で段取りを見るのが監督の特権という感じでした。すごく面演劇の前で見られるわけですから。その反面、その芝居をどう撮るのがベストか、事前の撮影プランは捨ててでも、集中してカメラワークを考えました。

東:それがむちゃくちゃ楽しかったです。なんというか、サッカー監督に近い感じでしたよね。俳優という選手がフィールドに出ちゃったら、あとはお任せするしかない。だかららが出来るのはその才を信じて、どんなサッカーをして試合に勝つかって事を考えるだけ。

山本:現場ではもう状況だけは作って、あとは役者さんに好きにやってくださいという感じ。芝居の面で苦労した覚えもないし、普通にサクサク撮っただけという感じもします。

Yuki田(田中)と牧(遣都)なんてカットをかけなければ、永遠にイチャついている(笑)。第6話のころになると、センチメンタルになっちゃって、「もうすぐ終わっちゃう。この2人のやりとりを一生撮っていたい。ずっと見ていたい!」と思っていました。

■ 「背景ハートになるのも手作りアナログにこだわりました」(監督)

――カメラワーク映像の美しさもドラマの質を高めていました。こだわった部分を教えてください。

東:にとっては「男と男のラブコメディーをどれだけアナログな撮影手法で撮れるか」ということに挑戦した作品でもありました。だから、CGは使っていません。特殊な機材も並木空撮したときにドローンを使ったぐらいで、基本はローテクですね。

山本:各話のタイトルバックアナログでしたよね。ガラスに「おっさんラブ」って実際に書いたり、に1文字ずつプリントしてお酒の瓶に貼り付けたり…。

東:第1話で部長(吉田太郎)が田に告白するシーンと、第4話で部長田に振られる場面では、背景の明かりがハートマークになっているんですが、あれもCGじゃなくて。で模様が出るようにカメラマンが全部手作りフィルターを作ってくれて、それを直接カメラに貼りつけて撮っているんです。

Yuki:第6話のブレーキランプで「アイテル」のサインを出す場面もそうですね。第3話おしゃれバー部長田、子(大塚寧々)が鉢合わせするところでは、ハイスピードカメラを使いました。一応、イメージとしては「M:I:III(ミッション:インポッシブル3)」のバチカンの階段の場面を意識して(笑)。3倍ぐらいのスローモーションにしたんですが、逆に送りも使いましたし、あの場面は動きがあって楽しかったです。

■ 「連ドラ版で変えたのは、田の自宅を実際にある一軒にしたこと」(監督)

――セットで印的だったのは田のです。単発版では田の自宅はマンションになっていましたが、なぜわざわざ撮影のしにくい実在の一軒にしたのですか?

東:最初にマンションも探したんですが、マンションではどうしても田が33年間暮らしてきた生活感が感じられなかったんです。すると、制作部がすごくいい一軒写真を持って来てくれて。一発でこれで行こう!と。

山本:そこは東さんが見事だなと。お母さんが出ていった後、田が自立できていない感じが出ていていいなぁと思いました。

東:玄関にかごがあるのは、田は子供っぽさが残っている人だから少年時代のものを置きたかった。そこで、美術さんが玄関にカゴと取り網を用意してくれて。絶妙でした。苦労したのはが狭いから、(モニターなどを置く)撮影ベースは玄関の外に作るしかなくて、もしが振ったら“終わる”っていうこと(笑)

Yuki:2階の牧の部屋もめちゃめちゃ狭いので、そこに寝ている牧を撮るときは廊下から。入り口にいる田を撮るときはベランダにカメラを置き、を開けて撮りました。

■ 名場面プレーバック:第2話のキャットファイトと“でこチューシーン秘話(山本監督)

――ここからはおひとりずつ名場面の裏話を教えていただければと思います。第2話、不動産の屋上部長と牧が田を取り合ってケンカするシーンはどうでしたか?

山本はもう「好きにやってください」と言ったのみだったんですが、部長と牧が言い合いを始めたら盛り上がっちゃって、さんが止めるのも本気でやらないと止まらないぐらい(笑)。最後に部長が「仕事に戻るぞ!」と言った後も、本番では鋼太郎さんが上着を脱いでバーンと地面に投げつけ、そのまま帰っちゃった。遣都くんがその上着を拾ってもう一回バーンと投げつけて、さんがオロオロしながら上着を拾うという…。尺の都合で泣く泣くカットしたんですけど、それぐらい盛り上がっていました。

――第2話ラスト公園で牧が田のおでこキスをする“でこチューシーンは、美しい映像が好評でした。

山本:あの場面はちょっと凝って撮りました。脚本があえてベタな少女漫画のような作りになっていたので、映像もベタベタにと思って(笑)キスしたとき強いライトが当たってシルエットになるのは芝居の流れとは別に撮り、キラキラ感を意識しましたね。若い美男美女がやるようなラブシーン男性同士で真剣にやるからこそ、いいんじゃないか…と。反を見たら、恋愛ドラマとしてときめいていただけたようで、うれしかったです。

■ 名場面プレーバック:第6話でみんなが涙したせつない別れの場面 (Yuki監督)

――第6話は、職場でのカミングアウト、牧の実家へのあいさつ、そして、牧が田に「別れましょう」という場面など盛りだくさんですが、別れる場面はどのように撮影したのですか?

Yuki:第6話の台本をもらったとき、奮すると同時に半端ないプレッシャーを感じました。世間でドラマが注されているのも感じていた頃ですし、「これはテレビ史に残る回になるぞ」と思いました。本当に見どころがたくさんあるんですが、やはりラストの別れのシーンは勝負だなと…。ここを最上級にせつなくして最終話バトンを渡さないといけない。

撮影前日、遣都くんに「牧と田それぞれワンカットの長回しで行くから、どちらが先がいい?」って聞いたら、答えは「くんならきっとを先に撮ってくれと言ってくれると思います」。それを受けてさんに、「ワンカットで遣都くんから撮るから」と告げたら「もちろん当然でしょう」と言ってくれましたね。やっぱり、あの場面は牧が泣きながら言ったことを田が受ける場面だから、遣都くんを集中させたかった。結果本番で遣都くんは、みんなの思いに応えてあの素晴らしい演技を生み出してくれたので、さんは台本にはなかったけれど、もう自然に涙が出てきた感じでした。

お恥ずかしいんですが、プロとして失格だなと思いながら泣いてしまって、カットをかけて背後を振り返ったら、スタッフがみんな泣いていた。さんと遣都くんも「全てを出し切った」という感じでいい顔していました。

■ 名場面プレーバック:第7話、田から牧へのプロポーズシーン (監督)

――最終エピソードの第7話、田が牧に「結婚してください」と言うシーンはどうしてあのロケ場所(江東区)になったのでしょうか? また、台本には抱き合った後、少し会話がありましたが、放送ではなくなっていました。

東:まず場所ですが、にとっては単発版あっての最終話なので、田と牧が抱きしめあったのは、単発版のラスト田と長谷川(落合モトキ)がキスした場所とほとんど同じエリアと鼻の先のところを選びました。やはり「おっさんラブ」という同じ世界観というか、そこに意味を持たせたかったんですね。

台本にあった抱き合った後の会話は、現場でまず田が「牧が好きだー」と叫ぶ場面を撮影し、を渡って次のセリフを…と思っていたら、さんがものすごい感情的な芝居で突然遣都くんにぶつかっていって。まだカメラも構えていなかったけれど、そこにいるみんなが心を持っていかれたんです。あんなプロポーズされて抱きしめられたら、もう牧は何も言えないよね。「ただいま」「おかえり」だけでいいじゃんって、自然にすごくシンプルになりました。

――教会から走ってきた田は片方の靴が壊れてしまい、その靴を持って走ります。「シンデレラ」がひとつのモチーフとなっているのでしょうか?

東:おっしゃる通りです。「シンデレラ的な、2000年代9やトレンディドラマ的な、王道シーンをきちんとやりたい」とのことだったのですが、女性ハイヒールだけど、男性で靴底が壊れるって普通ありえないじゃないですか(笑)。そこは難しかったんですが、どうしたら面く撮れるかなと考えました。「結婚してください」の場面では「田が靴をいつ離すのか」という問題があったんですけど、そんな事がどうでも良くなるくらい、心が動く芝居になったので、気付けば結局さんは最後まで靴を手に握りしめたままでした(笑)

■ 「男性同士のというテーマについてキャストスタッフみんなで一個の答えを出した」(山本監督)

――今回、最優秀監督賞を受賞されましたが、めてこの作品で成し遂げたことはなんだと思いますか?

東:脚本作りから撮影現場、編集作業まですごく密度の濃いものを作っているという感覚がありました。テーマとしては絶対的な“人間”があって、それをどう表現するかは難題でしたが、スタッフが1つになることでこうして視聴者に何かが伝わるんだという達成感がありました。

山本プロデューサーや脚本の徳尾さん、さんを始めとする俳優部、そしてたち監督というみんなで一個の答えを出したことに、感動を覚えます。らはただ男性同士のラブコメとして撮ったけれど、BL(ボーイズラブ)好きな人にもそうでない人もダブルで拒絶される可性もあった。それがこんなに多くの人に受け入れられたというのは、本当に奇跡ですよね。

Yukiも最初に企画を聞いたときは「BLは撮ったことないけど、撮れるかな?」とびっくりしました(笑)。でも実は全然そうじゃなくて、これは主人公田が自分の新しい可性を開いていく物語。ものすごくピュアに人が人を好きになり価値観えていくドラマになったと思います。

東:男性男性恋愛ということについては「まっすぐ撮る」という答えしかなかったですね。島Pが「女が男なだけでしょ。あと何が違う?」というポジティブな姿勢しかなくて、その価値観に準じるがあって笑いがある。だから、も傷つけることがなかったのかな。

山本さんのすごいところは、メインの登場人物に嫌な人がいないんです。としては悪者がいないというのはちょっと不安でもあったけれど、それでちゃんとドラマが盛り上がった。

東:いわゆるファンタジーじゃないですか。今回はそこをやり切ったのすてきだなと思っています。ドラマブレイクするときってどこかが時代にフィットするものだろうし、そういうものがめられていたのかもしれません。

Yuki:とにかくクリエティティ(創造性)が優先されている現場で、自由に楽しく撮らせていただけました。また、視聴者の人たちに育ててもらった作品でもあって、Twitterなどの感想を見ていても、演出についてのコメントも多かった。さらに今、たちが撮っている作品も追っかけてくれて、「おっさんラブ」をきっかけにみなさんが演出に興味を持ってくれたのがうれしいですね。(ザテレビジョン・取材・文=小田慶子)

「おっさんずラブ」3監督が名場面の裏側を語る!