こうの史代原作松本穂香演の日曜劇場『この世界の片隅に』。太平洋戦争さなかの広島県呉市を舞台に、主人公すずと周囲の人々が織りなす日常を描く。

先週は原作者・こうのの「ゴッドマーズ」発言が話題を呼んだが、たしかにドラマ版は「戦時下のホームドラマ」として独特のスタンスを保ちつつある。先週放送された第4話のキーワードは「居場所」と「代用品」だった。

子どもを産む「義務」を果たせなければ「居場所」はない?
昭和19年8月すず松本穂香)がの北いできて半年が経っていた。すずの軍港をスケッチしていたところをスパイ行為だと勘違いした憲兵川瀬陽太)に見つかって叱責される。戦中はそれだけ自由がない世界だということ。サン(伊藤)、径子(尾野千子)も一緒に謝りして、なんとかその場は収まるが、すずショックで寝込んでしまう。

体調が優れないすずに対し、子どもができたのではないかと言う円太郎田口トモロヲ)。子どもへの期待より、円太郎へのひんしゅくが少し上回るところが面い。の跡継ぎであり、兵士となる男子への期待がとてつもなく大きかった時代の中で、北はちょっと変わっているのかもしれない。

結局、すず妊娠していなかった。栄養不足と環境の変化によるストレス生理が遅れていただけだったのだ。婦人科からの帰り道すずは遊にいるリン二階堂ふみ)を訪ねる。妊娠していなかったので家族をがっかりさせるのではないかと率直にすず家族や近所の友人たちにも言えない本音がリンには言えるようだ。

すず子どもを産むことを「義務」と言う。「出来のええ跡取りを増やさんと、それがの務めいうか、義務じゃろ?」。すずの考え方は、この時代の人の標準的なものだ。「産めよ殖やせよ」は昭和16年に政府が閣議決定した人口政策確立要綱のスローガンである。個人の自由を否定し、「生産性」を高めよ、というものだ。昨今の政治家の発言とも通じるものがある。

「義務が果たせんかったらどうなるん?」とリンに、すずは「居場所がないんかもしれんね」と答える。それに対してリンは笑いながら、

子どもでも、売られても、それなりに生きとる。でも、何か足らんくらいで、この世界に居場所はのうなりゃせんよ。すずさん」

りかける。リンのこの言葉は、このドラマが現代のわれわれに向けて発信しているメッセージのひとつ。かが考え出した「義務」を果たしていないからといって、つまはじきにされることはない。人間には生きる権利があるし、居場所だってある。

佐野亜裕美プロデューサー原作を読んで、「閉塞感溢れる現代を生きる私たちと地続きのところにある、『居場所をめぐる物語』」だと感じたとっていた(公式サイトより)。

強気な径子(尾野千子)も、近所の友人の志野(土村芳)もいだときは居場所を見つけることができなかった。径子は息子の久夫が授かって居場所ができたが、子がいない志野は居場所がないままだ。志野たちの優しさがしみる。

代用品ノイローゼに陥ったすず
「すいとんで代用しようかね」
「だいよう?」
「うん、ほんまは違うほうがええんじゃけど、仕方ないけえ、これでこらえてもらうんよ」

物資不足を補うため、美(稲垣)と一緒にすいとんをつくるすず。もう一つのキーワードは「代用品」だ。

「あのとき、一時の気の迷いで変な子に決めんで本当よかった」。夫・周作(松坂桃李)の親戚の言葉を聞いて、すずは心が乱れる。

納屋で見つけたリンドウの柄の碗、周作の「いつか、わしのさんになる人がつかやあええ」という言葉が、リンの着ていたリンドウの柄の着物リンが長ノ木を知っていたこと、リンが言っていた「字を書く仕事」などと重なり合う。そしてリンが持っていたノートの切れ端と、周作の破れたノート完全一致――。周作が前に結婚を心に決めていた相手はリンだった。

夫にとって自分はリンの代用品なのではないか……。妊娠していなかったことで居場所を失ったと感じているすずだったが、夫の情への信頼もゆらぎはじめていた。すずの憤りを竹槍訓練につなげる演出の軽さがドラマの救いになっている。

すいとんをつくりながら「代用品か……うちもそうなんかね」とつぶやくすず。すいとんを食べながら家族が言う「やっぱり代用品は冴えんね」「しょうがないじゃろ、代用品なんじゃけ」「ほうよね、代用品でも、あるだけぜいたくやね」という言葉もいちいち胸に突き刺さる。

「そんなに代用品、代用品、言わんでください」

、周作のめを拒むすず。不思議がる周作に、すずはこう答える。

「代用品なんかな思うたら……」
ん?
「いえ……」

火鉢に入れた炭団(たどん。炭の粉をかためた燃料)の代用品が失敗で部屋が煙に包まれると、咳き込みながら「ダメですか、代用品」とつぶやくすず。もはや代用品ノイローゼだ。

「代用“品”」というすずの物言いは、この時代のが人というより物として考えられていたことを示している。そうでなければ言われるまま、見知らぬ人のもとへいできたりなんかしない。それでも人は人として生きていかなければならない。そのためには居場所が必要なのだが、居場所をつくるには他人との心のつながりが欠かせない。心のつながりが網ののようになって、人を受け止めるのだ。だが、周作とリンとの関係を知ったすずは、周作の心のつながりが断ち切られそうになってしまっていた。

に居場所をなくしたままのすずが、ある日、出会ったのが……幼馴染の哲(村上郎)! すずと哲、そして周作のエピソードは本日放送の第5話でじっくりられる。あと、第4話は現代編がなかったけど、このままなくてもいいんじゃないかという気がすごくする……(第5話ではあるみたいだけど)。今9時から。
大山くまお

「この世界の片隅に」
TBS系列
原作こうの史代双葉社刊)
脚本:岡田
演出:土井裕泰、吉田
音楽久石譲
プロデューサー佐野亜裕美
製作著作:TBS
原作上巻