都内のカフェでKさんと初めて会った時の印象は、すらりとした爽やかイケメン。「もうすぐ28歳になります」と教えてくれたが、10代と言っても通じるような少年ぽさを宿していた。

Kさんは普段、地方で会社を経営している。6月の金曜日夜、東京にいたKさんが向かったのは新宿2丁目。ゲイの男性が集まる場として知られている街だ。Kさんにとって、男性は恋愛対象。この日、友人男性と良い雰囲気になり、新宿・歌舞伎町ラブホテルに入ろうという流れになった。しかし、高鳴る心はホテル側の「男性同士はダメです」という宿泊拒否の一言で一気に冷えてしまう。

今年1月、厚労省は「旅館業における衛生等管理要領」を改正、ホテルや旅館が同性カップルなど性的マイノリティ(LGBT)であることを理由に宿泊拒否しないよう明記した。施行は6月15日Kさんが宿泊拒否されたのはそれから1週間も経っていない日だった。Kさんは「普通の恋愛がしたいだけなのに…」と話す。Kさんが語るその日の夜からは、いまだなくならない差別の現実が浮かび上がった。(弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)

●部屋のカギまで渡された後に「男性同士のご利用はできません」

Kさんは、自身の恋愛対象が同性であることに気づいたのは、中学生の頃。以来、家族にも言えず、今も限られた友人にしかカミングアウトしていない。そのため、地元ではゲイであることを明かさずに過ごしているが、仕事で東京を訪れた際にはゲイのコミュニティがある新宿2丁目によく足を運ぶという。

「新宿2丁目では仲良くなった人たちのコミュニティがあって、みんなでバーベキューしたりして遊んでいます。その日もちょうど金曜日だったので2丁目に飲みに行きました。そのコミュニティでお互い知っている人がいたのですが、2人でお酒を飲んで、一緒にクラブに行って……。男女の恋愛でも同じですよね、フィーリングが合う感じ。彼から誘われて、僕も好意を持っていたので、自然にそういう流れになりました」

しかし、金曜日の午前0時をまわっていた。新宿・歌舞伎町にあるホテル街のラブホはどこも満室。なかなか入れず、3、4軒目でやっと空きがあるところが見つかった。

「彼がフロントの人に聞いてくれました。僕は少し離れたところにいて。フロントは小さな窓がありましたが、お客さんの顔は見えなかったと思います。そこは前払い制で、彼がカードで決済して部屋のカギも渡してもらった後、僕が彼に話しかけた声色で男性カップルだとわかったみたいでした。

フロントの年配の女性から、『ちょっと待ってください』『男性同士のご利用はできません』とはっきり言われました」

宿泊拒否だった。Kさんは男性カップルであるという理由で宿泊を拒否することは、旅館業法に違反すること、違反すれば指導を受けること、6月15日から宿泊拒否しないよう明記された「旅館業における衛生等管理要領」が施行されていて、全国の自治体にも通達されていることを丁寧に説明した。

「でも、残念ながら拒否されてしまいました。色々説明しても、『ダメです』の一点張りで、具体的な理由も言ってもらえなかった。結局気分が落ち込んでしまったし、彼とも気まずくなってしまい、そのまま帰りました」

Kさんは帰りの電車の中、これまでも同じようにホテルに拒否されたことを思い出し、涙があふれた。「僕は、普通の恋愛をしたいだけなのに、何かいけないことをしてるのかなと思ってしまって…」

●「男同士だぜ」と異性カップルから後ろ指をさされたことも

実は最近、ゲイの人たちがTwitterで話題にしていたのが、「旅館業における衛生等管理要領」の改正だった。これにより、「性的指向、性自認等を理由に宿泊を拒否することなく、適切に配慮すること」と明記され、厚労省から自治体へ周知のための通達が出されていたのだ。

以前から、旅館業法第5条では、「伝染病の疾病にかかっていること明らかに認められるとき」「とばく、その他の違法行為又は風紀を乱す行為をするとき」などをのぞいて、宿泊拒否することを禁じている。

しかし、男性カップルやLGBTの人たちに対して宿泊を拒否する違法行為は、当たり前のように行われていた。2015年には池袋のラブホテル街を抱える東京都豊島区内の宿泊施設で約半数が宿泊拒否している実態がわかり、区議会で問題視されて行政が指導に乗り出したこともあった。

今回、「性的指向」や「性自認」といった文言がきちんと要領に書かれたことは、自治体の指導をより促すものであり、これまで宿泊拒否されてきた人たちの間では、もう差別されることないという期待をもって受け止められていた。

「今までホテルでは何度も嫌な思いをしてきましたが、今回は安心感がありました。6月15日以降であれば、大丈夫だろうと。でもダメでした」

Kさんがまだ21歳の時、男性とホテルに入ろうとして、とがめられたことがあった。

「そこもフロント式で、見えないから大丈夫だろうと思っていたら、部屋に入った途端、フロントから電話がかかってきました。出たら、『失礼ですが、男性同士ではありませんか?』と聞かれて…。

男性同士は拒否されることは知っていたので、『いえ、違います』ととっさに言いました。何度も確認されましたが、『いいえ、違います』と繰り返して。でも、嘘をついているので心にひっかかってしまうんです。その後の雰囲気も悪くなりますよね」

その時の恐怖心から、Kさんはホテルを利用する時は用心を重ねてきたという。事前に同性カップルが受け入れてもらえるか調べたり、相手に先に入室してもらって自分は後から行くなど一緒に出入りしなかったり。宿泊リストに女性名を書き、手が震えるくらい罪悪感を覚えたこともある。それでも、廊下で異性カップルから「男同士だぜ」と後ろ指をさされ、悲しい思いを何度もしてきた。

「恐怖を感じてしまいます。他の人たちに何か迷惑をかけているのだろうかと悩んでしまいました」

歌舞伎町のホテル、4分の1が「同性利用可(女性)」のみ

今回、Kさんを宿泊拒否したホテルは、ラブホテル検索サイトでも「同性利用可(女性)」と表記し、男性カップルの利用は不可としていた。弁護士ドットコムニュース編集部では、管轄する新宿区保健所に取材、Kさんの事例を伝えたところ、翌日に担当者がホテル側に事実確認の上、指導を行った。

保健所によると、ホテル側は違法行為であることを認識しておらず、今後はそのようなことがないように求めたという。また、「今後、もしも違反行為があった場合は、保健所に知らせてほしい」と話していた。

このホテルも登録されていたラブホテル検索サイトで、歌舞伎町のホテルを調べると、72軒中、「同性利用可(女性)」として男性カップルの利用を事実上不可としているホテルは約4分の1もあった。男性カップルも利用可能とするホテルは約4分の1、残りは表記がなかった。

厚労省から自治体に通達が行っているはずなのに、こうした宿泊拒否がまだあるのは、どうなのだろうと思います」とKさん。「ただ、書類を送るだけでなく、お客さんに接するフロントの人まで、きちんと行政には指導してほしいです」と強く訴える。

Kさんはこれまで、LGBT関係の運動に参加したことはない。「活動している方たちは本当にすごいと思います」としながら、「僕は普通を求めているだけです。いつも通りに暮らしたい。LGBTという言葉も一般に浸透してきました。そろそろ、日常的なものとして、とらえてもらってもいいんじゃないかなと思っています」

Kさんが語る言葉には、何度も「普通」が登場した。お互いの多様性を認めるには、お互いの「普通」を許容しあっていくことが大事なのかもしれない。

(弁護士ドットコムニュース)

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