9月22日は「秋分の日」。秋のお彼岸の中日には、全国の墓地や納骨堂を多くの人々が訪れて、故人をしのぶことだろう。

 人はいつかお世話になるが、自分の時はどのように行われるか確かめることができないのが「お葬式」だ。

 仏式ならお通夜→葬儀・告別式→出棺→火葬→骨揚げ→還骨→初七日→精進落としまでの一切を葬儀業者がプロデュースする。

 その打ち合わせは故人が亡くなった直後にバタバタと行われ、ひとつひとつのサービス料金を他社の見積もりと見比べて、ゆっくり吟味する余裕などないのがふつうだ。

 多忙な中、葬儀費用を値切るような遺族はほとんどいない。たいていは業者の言い値通りに決まってしまう。

 そのため、葬儀業者の料金体系には「不明朗会計」「遺族の悲しみにつけ込んでお金をふんだくる人たち」という良からぬイメージがつきまとってきた。

 今回は、この葬儀ビジネスについて、キャリコネに寄せられた各社の社員の口コミをもとに業界の今を分析していこう。


 
2017年には2兆円の市場規模

 葬儀ビジネスの市場規模は2010年以降拡大を続け、2015年までの5年間で8%成長すると、矢野経済研究所では予測。このペースだと2016年か2017年には、市場規模は2兆円の大台を突破するとみられている。

【葬儀ビジネスの市場規模】 葬祭業を「将来性ある成長業種」などと言うと、偏見を強めてしまいそうだが、日本では超高齢社会の到来で1年間の死亡者数がこれからも伸び続けるから、根拠は確かだ。

 国立社会保障・人口問題研究所の予測では、年間死亡者数は今後、2039年2040年まで一貫して伸び続け、2039年には2012年の1.36倍の166万人に増えるという。これは単純に言うと、葬儀の件数が今年の1.36倍に増えることを意味している。



「脱・不明朗会計」を目指す新興勢力が急成長

 矢野経済研究所の推計では、全国に約6500社がひしめく葬儀業界は、市場の約4割を燦ホールディングス傘下の公益社(大阪)に代表される葬儀専門業者、約4割を全国各地の冠婚葬祭互助会、残りの約2割を新規参入業者が分けあっているという。新規事業者はJA、生協、ホテル、鉄道などで、大手流通業のイオングループも参入している。

 また、アイデア葬儀で知られるベンチャー企業や、「生前予約で30万円」という価格破壊を売り物に米国から上陸した外資系企業もある。その中で旧来の葬儀業者が最も恐れているのは、農村部の地縁・血縁に食い込んでいるJAだ。

 さて、葬儀専門業者と冠婚葬祭互助会の業界内での位置付けを見渡すと以下のようなランキングになっている。

 葬儀専門業者では、1位の公益社(大阪)の持株会社、燦ホールディングス(HD)と、東海地方を中心に関西、関東にも営業網を広げる2位のティアが上場企業だ。

 公益社(大阪)は関西、関東、山陰が基盤で、昔から葬儀業界のトップ企業として君臨してきた。

 一方のティアは、結婚式と葬儀にお金をかけることで知られる愛知県で起業しながら、積み上げ方式ではなくトータルパッケージ型料金だ。

 同社は「脱・不明朗会計」の取り組みがメディアで話題になった新興勢力で、業界内では斬新なフランチャイズ方式を併用。2012年9月期までの6年間で売上高を1.9倍、経常利益を3.7倍に拡大する計画だ。

 そんな、実力派のトップ企業に伸び盛り企業が果敢に挑戦するという新旧対決の構図になっている。

 3位のセレモアつくばと5位の福祉葬祭は関東、4位の京都の公益社(燦HDとの資本関係なし)は、関西が地盤としている。

 一方、冠婚葬祭互助会は1位のベルコがほぼ全国区。2位の日本セレモニーは中国、九州、近畿と東北が地盤だ。

 3位の出雲殿グループは静岡県西部と愛知県、5位の平安閣グループは愛知県に特化しているが、4位のセレマは関西、中国、北陸、関東に拠点を広げている。こちらは5位までに上場企業はない。

 互助会は前受金のシステムに法的な問題があるとされて会員数が頭打ちになっている。そして、現在は大手による中小の合併で生き残りを図っている。



心ない言葉を投げつけられ「奮起するか」「すねるか」「辞めるか」

 葬儀に先立って遺体を清めて棺に納める「納棺師」が主人公の映画「おくりびと」がアカデミー賞外国語映画賞を受賞したのは2009年2月だった。

 だが、この映画がハリウッドで「世界のクロサワ」以来の大絶賛を浴びても、日本人の葬儀業者への偏見はほとんど改まっていない。

 ティアの冨安徳久社長はかつて異業種交流会に出席して参加者と挨拶を交わした時、「縁起が悪い」と言われてその場で名刺を破られたことがあるという。

 経営トップでさえ、そんな無礼な仕打ちを受けるのだから、現場の社員が世間からどんな目で見られ、肩身の狭い思いをしているか、推して知るべしだ。

 「隣近所に知られたくないから、自宅や実家の近所の葬儀から自分を外してほしい」と言っている社員もいるという。

 そのため、入社面接では家族は反対していないかや、この仕事に抵抗感はないかなど、覚悟のほどを必ず聞かれているようだ。

 「冠婚葬祭、特に互助会・葬祭業のイメージが強いので、抵抗感がないか(特に家族の反対)かなりつっこんで聞かれた」(冠婚葬祭互助会のくらしの友)

 「『ご遺体に接する事は大丈夫か?』と聞かれた」(サン・ライフ)

 業界の人によると、損傷の激しい遺体を見た時のショックなどは仕事を続けていけばいつかは慣れるが、職業差別による「言葉の暴力」のショックは尾を引くという。

 その悔しさが奮起を促し、社員の団結が強まったり、やる気のエネルギー源になってサービスの質の向上につながればいいのだが、実際はすねたり、斜に構えたり、居直ったりする人が大半らしい。

 それでも仕事を続けてくれれば望みはあるが、面接で「この仕事で頑張りたい」という熱意を伝え、やる気満々だった素直でまじめな若手社員ほど、あからさまな差別で心がポッキリ折れて姿を消すという。

 いわゆる「悪徳企業」や「ブラック企業」とはまた違う意味で業界のイメージが悪く、社員が定着せず、将来を担う人材が育たない。それは葬儀業界の大きな悩みである。



葬儀会社は黒い喪服と喪章で仕事する“ブラック企業”になるのか?

 最近では「葬儀は成長分野」と知れ渡り、新規参入が増加。競争が激化。寺院や病院や企業とのコネクションから安定的に葬儀の仕事が入ってきたのは過去の話で、受注環境は厳しさを増している。

 昔は利益率の高い仕事だった「社葬」もリーマンショック以降、企業の経費節減の影響をもろに受けた。

 こうした背景から、葬儀件数は増えても葬儀単価は下がり、利益率は思うように高まらないという現象が起きている。

 コスト削減は人件費の部分にも食い込む。そして、後輩社員の定着率は悪いので、一人ひとりの仕事の負荷はいつまでたっても軽くならない。

 そうやって、「ワンマン経営者」と並び、ブラック企業の特長である「利益なき繁忙」に近づいていく。

 「長時間の労働を余儀なくされる。これは同業他社でも言えることだが、この体質をかえていかないと優秀な人材を確保できないと感じる。顧客満足度を重要視しているが従業員満足度も向上させる取り組みが必要と思われる」(セレモアつくば、20代後半の男性社員)

 「葬祭の仕事のため不定期になるのは仕方ないとしても、その労働条件に見合う給与ではない。真夜中の12時~朝の5時の間に故人のお迎えの連絡が入り、仕事が終わるのは日付が変わった真夜中、そして次の出勤が朝の6時というのがザラだった」(ベルコ、30代後半の男性契約社員、年収100万円)

 「葬祭業の宿命と言うべきか、お客様がいつ発生するかわからないため、24時間体制で仕事をしなければなりません。休日返上で仕事をしても終わらないこともあり、徐々に肉体が蝕まれて行きます。このまま何歳まで続けていけるか不安になることもあります」(サン・ライフ、20代後半の女性社員)

 「売上の低迷、葬儀の低価格化に伴い、年々会社が厳しくなっています。いくら頑張っても互助会(生前予約)がとれなければ仕事をしたと認めてもらえません。ノルマがきつく、社員の中には友達、家族親戚と根こそぎ加入するように言われます」(博全社、30代後半の男性社員)

 黒い喪服と喪章を身につけて仕事をするブラック企業なんてシャレにもならないが、各社の社員の声を聞くと、すでに、その状態に片足を突っ込んでいるかのような実態が語られている。



業界が目指すべきは「エンディングプランニング」

 葬祭業であっても、サービス業に携わる者の喜びは共通している。それはお客さんから感謝の声をかけられることだ。

 「葬儀後は、まず感謝されます。当然ながら、結婚式でも感謝されます。御祝儀や粗品もかなり頂きました」(アルファクラブ武蔵野、40代後半の男性契約社員

 「遺族の方々(お客様)から感謝の言葉を掛けて頂いた時は達成感を感じることができる。反面、クレームを受けることも多々ある。憤りという面ではお客様より社内に対しての方が感じられる」(セレモアつくば、20代後半の男性正社員

 こうして、感謝の言葉を糧として、社員はさまざまなストレスを克服しながら経験を積んでいく。

 その先のロールモデルの一つとしてあるのが「エンディングプランナー」だろう。

 結婚式にウェディングプランナーがあるように、「よりよい人生の終わり方」をプロデュースするのが「エンディングプランナー」だ。

 具体的には、亡くなってからではなく、生前、本人にコンサルティングして、葬儀のやり方やお墓の場所などいろいろなことを事前に決めてもらうのが仕事になる。

 依頼者も生前であれば、予算の面でも納得がゆくまでプランを練り直す時間がある。お坊さんと懇意になり寺院に多少の寄進でもしておけば、お布施や戒名料が安く済む可能性もある。

 プランナーは弁護士のアドバイスを受けて遺言を書いて遺産相続でもめないよう勧めるのも必須だ。

 依頼者も過去にトラブルがあった親戚や知人に連絡して和解しておけば、自分の葬儀の最中にケンカが始まって、愁嘆場が修羅場に一変するような由々しい事態も避けられる。

 そのほか、「寿陵(生前墓)」の建立や「生前葬」はもちろんのこと、私物を整理して生前に「形見分け」を行う、自分史を書いて残す手伝いをする、「思い出あるこの地で死にたい」という希望に応えて適切な施設(死に場所)を探すといったサービスも考えられる。

 それは準国家資格の「葬祭ディレクター」よりもずっと広範囲な仕事になるだろう。

 そうした「エンディングプランニング」は葬儀業者にとっても今後、目指したい方向に違いない。葬儀を巡るさまざまなトラブルやクレームは、生前に決めておけば防げたケースが少なくないからだ。

 顧客満足度の向上、新しい収益機会の創出、突然入るやっつけ仕事の「やらされ感」でいっぱいの社員のモチベーション向上、競争相手に差をつけられる強みを持つという点も効果がある。

 そして何よりも、葬儀業界のステータスを高め、社員が職業差別に苦しむことが少なくなり、社会から一定の敬意を払われるようになるだろう。
 そうなれば、定着率も上がり、一人当たりの仕事の負荷も減少。生産性が上がり、経営体質は強化され、仕事の中身に見合った報酬が払われ、優秀な人材が集まってくるようになるだろう。

 イノベーションを取り入れて変革するチャンスは、市場規模が右肩上がりで成長している今しかないはずだ。

 

 

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