
9月21日、iPhone5の一次発売がアメリカ、日本、イギリスなど世界9ヵ国で始まった。14日の予約開始から24時間で予約台数200万台を突破し、連日メディアで最新情報が報道されるなど、iPhone人気は絶大だ。
このiPhone5の発売でちょっとした話題となっているのが、韓国が28日からの2次発売国リストからも外されていること。これにより韓国でiPhone5が発売されるのは、早くても10月以降になるとみられている。これは、現在続いているアップルと韓国サムスン電子の訴訟合戦と無関係ではないだろう。
デザインや特許侵害などで互いに訴え合っている両社だが、8月24日に米カリフォルニア州北部連邦地裁で下された評決では、アップルが全面勝利。サムスン製品はアップルの模倣品と認定され、約825億円という巨額の賠償金支払い命令が下された。さらにアップルは、対象となるサムスン製スマホの販売差し止めの仮申請処分も行なった。
イメージダウンと巨額の賠償金――、サムスンのダメージはこれだけではない。韓国メディアによると、今回のiPhone5の製造において、サムスン製の部品が大幅に削減されてしまったというのだ。つまりサムスンは今回の訴訟によって、最大手の取引先も失ってしまったことになる。
大手証券アナリストのA氏は、こう語る。
「アップルはサムスンにとって一番のお得意さまだったはず。アップルのiPhone4SやiPadが搭載するプロセッサの製造を委託されているほか、メモリーやディスプレーを供給しています。iPhone4Sの部品コスト全体では25%以上がサムスン製の部品。そんな相手と本気でケンカするなんて、日本人的な感覚では信じられません。いまさら言っても始まりませんが、アップルとだけは戦ってはいけなかった」
部品供給だけなら、アップルという業界ひとり勝ち企業の甘い汁を吸うこともできたはずのサムスン。それが、スマホ本体での勝負を挑んでしまったため、返り討ちに遭ってしまったということか。
家電ジャーナリストのじつはた☆くんだ氏が、今後のサムスンについてこう推測する。
「アップルとサムスンの争いは、よくリンゴとキムチの争いにたとえられます。おなかいっぱいの人(高所得層)はデザートのリンゴを選び、腹が減った人(低所得層)は(腹の足しになる)キムチを選ぶというもの。実際、安くてデザインの派手なサムスン製品は、世界的に低所得層に好まれる傾向にあり、それにますます拍車がかかるでしょう」
今後のサムスンは、アップルと同レベルのブランドイメージで戦うのは難しくなるという。
「しかし、中国、台湾勢と価格勝負を続けるのもなかなか大変ですよ。自ら選んだとはいえ、薄利多売というイバラの道を歩むことになってしまいますね」(前出・じつはた氏)
現時点ではアップルとの係争で引く様子はなさそうなサムスン。しかし、振り上げた拳の落としどころを間違えたら、大きく転ぶ危険性は決して否定できない。
(取材・文/近兼拓史)

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