今の日本社会は、テクノロジーがどんどん発達し、とても便利になっています。しかし、それは、必要な人たちすべてに行き渡っているわけではありません。

フランスでの子育て体験記から見えてきた「日本のママがやたら大変な理由」

たとえば、障害を持つ子どもや、その家族。

テクノロジーの力さえ使えば簡単にできることなのに、固定概念に囚われているためにそれに気づかず、労力を使い続け、不自由な思いを強いられている・・・ということはよくあります。

また、子どもが障害を持っている、持っていないにかかわらず、日本はとても『子育てがしづらい社会』のようです。

「人の命が肯定される、優しさで回っていく社会にしたい、そして、もっと多くの人に生きることを楽しんでほしい」という思いをもとに、今年『こどもエンターテインメント』という会社を立ち上げた女性、みうらうさんにお話を伺いました。

障害を持つ子どもや家族にエンターテインメントで希望を与える『こどもエンターテインメント』の活動とは

『こどもエンターテインメント』は、現在、主に障害を持つ子どもやその家族にエンターテインメントを届け、子どもたちの可能性を未来へつなげる活動を行っています。

代表のみうらうさんは、13年前に一人の男の子を出産しました。現在中学2年生のたけひろくんです。彼は先天的な心臓疾患を持っており、計3回の心臓手術を乗り越えてきました。

歩くことはできますが、長距離の移動は心臓に負担がかかります。

なので、オリィ研究所の分身ロボット『OriHime』を使って出かけることも多いそうです。

分身ロボット『OriHime』には、カメラ・マイクスピーカーが搭載されています。行きたいところに置き、インターネットを通して遠隔操作ができます。

周囲を見回したり、手を挙げたり、会話もできます。

みうらさんテクノロジーが日々すごい進化を遂げている今の社会は、意識を変えればできることがたくさんあることに気づきます。

『OriHime』を使えば、障害があって自由に出かけられない人も、行きたいところに行けます。家や病院で学習・仕事(リモートワーク)も可能です。

できないことは、テクノロジーの力を代用すればいい。そうすれば、やりたいことやできること、得意なことに力を注ぐことができる。それぞれ、社会に活動や活躍の場は、あるはずなんです。

しかし、努力や根性などを美徳する考えや、固定概念に囚われていて、しなくてもいいことに労力を使い続けている人がとても多い。テクノロジーの力を使えばできることなのに活用しないのは、視力の悪い人が、「努力すればなんとかなる」という理屈で、眼鏡やコンタクトを使用せずに裸眼で生活をしているようなものだと私は思います。」

『こどもエンターテインメント』は、今年6月には、大阪の児童デイサービスにて、民間企業とコラボして、CG絵本展と写真撮影会を行いました。

最初は撮影に関してそんなに乗り気じゃなかったママたちも、出来上がった写真を見て、「子どもたちのこんな良い表情が撮れるなら、もっと撮ってあげたい!」と、とても喜んでくれたと言います。

みうらさん「国の制度を変えるのは、時間がかかりすぎます。それに比べて、民間企業は物事を進めるスピードが段違いに早い。素晴らしい技術を持った民間企業と協力しながらだと、より早く多くの人に役立つサービスを届けられる。」

みうらさんの活動の根底にあるのは、「人の命が肯定される、優しさで回る社会にしたい」という思いです。

みうらさんは、各地で講演の依頼などがあったら積極的に引き受け、ひとりひとりの意識を変えるための活動も行っています。

アメリカと日本、母親に対する考え方の違いとは

子育て中のママへのサービスも視野に

みうらさんがやろうとしていることは、多岐にわたります。

今の日本は、『子育てがしづらい社会』だと、みうらさんは感じています。

みうらさん「まず、子どもを産んで当たり前。

そして、母親は、子どもの世話をして当たり前。
母親は、料理や洗濯、掃除をして当たり前。

さらに、これに加えて、仕事に就くことも求められます。

そう、母親に課せられている負担が、大きすぎるのです。

世間には、夫が他界し、子どもも独り立ちをして、『自慢の手料理を食べてほしいけど、食べてくれる人がいない』と満たされない気持ちを抱えている年配の女性がたくさんいます。

そんな女性とマッチングして、子育て中のママに手料理を届けるサービスや、引退した保育士さん、資格はあるけど今は働いていない看護師さんに、気軽にベビーシッターや子どもの世話をお願いできるサービスの提供も、これから『こどもエンターテインメント』としてやっていきたいことのひとつです。

また、子育ての大変な気持ちをただ聴いてもらえる、肯定してもらえる、そういった場の提供もしていきたいです。」

ワンオペ育児”という言葉もありますが、夫や実家の助けなく独りでがんばりすぎているママはたくさんいます。

子育て中のママが、気軽に食事やベビーシッターをお願いできる。子育てのしんどさや辛さを聴いてもらえて、肯定してもらえる場がすぐそばにある。そんな社会になったら、子育てをより楽しめるママが増えるのは間違いないでしょう。

アメリカと日本の母親に対する考え方の大きな違いとは?

みうらさんが子育て中のママのためのサービスを充実したいと考えた最初のきっかけは、たけひろくんを産んだときに、アメリカの医療とかかわりを持ったことでした。

みうらさんは、たけひろくんの手術に際し、アメリカのとある子ども専門病院にセカンドピニオンをとりました。

このとき、アメリカの病院と日本の病院のホスピタリティ、そして、母親に対する考え方の違いに衝撃を受けたそうです。

みうらさん「アメリカの子ども専門病院は、“Mr.タケヒロとその母親のために5人の専門家チームを用意する”と言いました。

主治医看護師長、息子のカウンセラー、私(母親)のカウンセラー、そして事務手続きや通訳などを母親の代わりにすべてやってくれる人間です。

日本では、病院に提出する書類や、国・自治体に提出する書類など、子どもの世話をしながらすべて母親が揃えたり書いたりしなくてはいけません。なので、受けられるはずの支援や福祉などが後手に回ってしまったことが何度もありました。」

アメリカの子ども専門病院のその対応に感動し、そのことを伝えると、「逆に日本のその状況が信じられない」と言われたそうです。

みうらさん「“日本の病院は、母親の扱いがあまりにひどいではないか。母親は『命を産み出してくれた人』だ。大切にして当たり前じゃないか。”と言っていました。

この言葉を聞いて、日本は母親を大切にしない社会だということ、そして、母親は『子どもを産んで当たり前』、『がんばって当たり前』という社会なんだということに初めて気づかされました。」

入院中、そして退院後、日本で社会生活を送る中で、必死の思いで子どもを産んだママが、ヘトヘトになりながらいろんなことを独りでこなしている姿を幾度も目にし、よりその思いは強まっていったと言います。

当たり前だと思っていたことが、視点を変えてみると当たり前じゃなかった・・・。みうらさんのお話を通じて、気づいた人も多いのではないでしょうか。

「人は、生きているだけで価値がある」・・・みうらさんはインタビューの中で何度かこの言葉を口にしていました。

しかし、本当にそう思える社会とは程遠いのが、今の日本です。

個性は押しつぶされ、他人と足並みを揃えた状態でいることを求められます。
必要以上にがんばること、努力することが求められます。

みうらさんの言う「人の命が肯定される、優しさで回る社会」。

そんな社会に近づけば、子育てをもっとのびのびと楽しめるようになるのではないでしょうか。そして、子どもたちの可能性はもっと広がっていくのではないでしょうか。また、もっと素敵な国になるのではないでしょうか。

みうらうさんやたけひろくんについて、『こどもエンターテインメント』の活動についてもっと知りたい方は、ぜひホームページ・ブログをご覧ください。

【取材協力】みうら ゆう さん:こどもエンターテインメント代表。 

【参考】オリィ研究所

分身ロボットOriHime

みうらうさんのブログ

『こどもエンターテインメント』HPより