Credit: NASA/ESA/G.Bacon, STScI
Point
・量子もつれ現象の観測結果を何らかの古典的な理論と未知の変数で説明するための抜け穴の一つに「自由選択の抜け穴」がある
・実験者の選択の余地をなくすために、条件の設定を数十億年前の遠い過去のクエーサーに任せる
・それでもやはり量子もつれは観測されたため、自由選択の抜け穴が使われたとは考えられない

ウィーン大学による研究で、遠くに離れた78億年前のクエーサーと122億年前のクエーサーから放射された光を使って、量子もつれにある光子対の測定条件を決めました。これにより、量子もつれの正確性が深まった形になります。さらに3万対以上の光子で相関が見られており、これは古典的な理論の枠を超えているとさえ考えられています。

Cosmic Bell Test Using Random Measurement Settings from High-Redshift Quasars
http://dx.doi.org/10.1103/PhysRevLett.121.080403

2つの量子がもつれたエンタングル状態にある時、その粒子同士が宇宙の両端に位置していたとしても、片方の状態が確定すると、もう一方の状態もわかるようになります。この情報伝達速度は光速を超えており、古典的な理論では説明できず、アインシュタインをして「奇妙な遠隔作用」と言わしめました。

1960年物理学者ジョン・ベルが、量子もつれの奇妙な遠隔作用の正しさを検証する不等式を提唱しました。しかしこの不等式にはそれを回避する抜け穴の存在が指摘されており、その一つが「自由選択の抜け穴」です。観測に影響を及ぼす可能性のある変数として「観測者の選択」が考えられ、それによって「実際は量子もつれなど起きていないのに、それがあるかのように影響してくるの」というわけです。

この抜け穴の影響を消すため、昨年の2月にMITのチームが、600光年先の星の光を条件の設定に使った実験を行いました。つまり条件の設定が600年前に行われたことになり、実験を思いつくよりもずっと前ということになります。

そして今回発表された研究では、自由選択の時期をさらに巻き戻すことに成功しました。今度は78億光年先、そして122億光年先のクエーサーの光を条件の選択に用いたのです。

測定は量子もつれ状態にある対になった光子を逆方向に飛ばして、偏光板を介して検出器で検出するというもの。偏光板によって電磁場の向きを知ることが出来ますが、この偏光板は角度を変えることが出来ます。それぞれの光子の電場の角度による結果を比較し、光子が量子論に基づいた相関関係を示しているか否かがわかるのです。

研究者たちはこの実験にもう一段、独特の方法を組み込みました。それぞれの偏光板の角度を決める方法として、遠い距離、そして遠い昔の天体の光を用いたのです。望遠鏡を使って観測した光の波長が、基準より赤くなったら、ある角度まで偏光板を傾け、青くなったらまた別の角度に傾けました。角度の決定をクエーサーに任せたのです。

クエーサーの観測に用いられたのは、カナリア諸島の山岳にある4メートルの望遠鏡です。数キロ離れた2つの望遠鏡でそれぞれの天体を観測しました。それらの望遠鏡の中間点で、量子もつれ状態の光子を作っての観測が行われました。偏光板の角度の調節はクエーサーの光を元に自動で行われます。そのタイミングは非常に難しかったと言います。マイクロ秒単位での正確さが求められました。

測定は15分を1ラウンドとして2ラウンド行われました。ラウンドごとに別のクエーサーのペアが使われています。それぞれの観測で、17,663と12,420の量子もつれが検出されました。この結果は、ベルの不等式を破っており、古典的な理論での説明を超えていました。古典的な理論で説明できる可能性は10のマイナス20乗という、驚くほどの低さです。

研究者たちは次の研究として、さらに遠くのビッグバン直後の残滓である、宇宙背景放射を使って実験できないかと考えているとのことです。

 

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via: Science Daily/ translated & text by SENPAI

 

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