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 人の心の内は複雑だ。その心と行動を研究するのが心理学だ。

 脳はその記憶すらも改ざんするというし、自分が意思決定したと思い込んでいたことだって、実は何かの影響を受けている場合もある。

 一筋縄ではいかないのが人間心理だが、かつては根拠が薄弱で、偏見に富み、倫理など度外視したかのような心理学の研究が行われていた。

 以下では、物議をかもし、今では再現不可能な古典心理学の研究7つを紹介しよう。

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1. リトル・アルバート実験


J.B. Watson and the Little Albert phobia experiments

 20世紀初頭、アメリカ心理学者の間では「行動主義」が流行していた。

 これは我々の行動は自由意志とはあまり関係がなく、動物的な反射や過去の経験に基づく学習反応であるという仮説だ。

 ロシアイワンパブロフは、犬がベルの音に反応してヨダレを流すようにできることを実証した。だがジョンズ・ホプキンス大学のジョン・B・ワトソンらは同じことを人間で行おうとした。

 アルバートという9ヶ月の赤ちゃんを借り、恐怖を教え込もうとしたのだ。

 ワトソンらは、赤ちゃんが白ネズミに触るたびに、彼が泣くまでハンマーで騒音を立てたのだ。やがてアルバートネズミウサギ、あるいはサンタクロースマスクを見るだけで泣くようになった。

 1920年の発表当時、研究は高く評価され、心理学の新分野の扉を開くものとみなされた。しかしその後は倫理や方法論的な観点から激しい批判を浴びるようになった。

 アルバートは実験に同意したわけでもないのに、実験後も恐怖を感じ続けたことだろう。しかも被験者はたった1人だけで、比較する対象もないために、実験データ自体が意味のないものである。

2. モンスタースタディ

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 ウェンデル・ジョンソンにはどもりがあった。1930年代アイオワ大学の心理学者で、高名な医療言語聴覚士であった彼は、自分自身の症状の原因を突き止める研究を始めた。

 リトルアルバート実験と同じく、彼は自身のどもりが「子供の口ではなく、親の耳から始まった」のだと考えていた。

 つまり、神経や筋肉の異常なパターンはまったく関係がなく、学習されたものということだ。

 この仮説を証明するために、ジョンソンらは孤児院で暮らす普通に会話できる子供を対象に研究を行なった。

 子供たちは2つのグループに分けられた。一方のグループの子供にはどもりがあると言い続けた。他方のグループにそのようなことは言わなかった。結果は曖昧で、口調が改善した子供が2人、変化なしが2人、流暢さが低下したのが2人であった。

 60年後、ニューヨーク・タイムズが報じたところによると、当時の孤児らは州と大学を相手取り、「感情的な苦しみを与え、不正な陳述を行った」として訴訟を起こした。

 言うまでもなく、このモンスタースタディと呼ばれる実験は、子供への長期的な影響を鑑みれば再現することは許されないものだ。

3. MKウルトラ計画


Mind Control 1979 Project MKUltra documentary CIA experiments movie film

 1953~1973年CIAは極秘裏に大学や病院に対してマインドコントロールの研究を行うための資金を提供した。

 それは現在の感覚で言えば拷問に等しいものだった。スパイや戦争捕虜の心を操る方法を明らかにするために、何も知らされない人間に薬物の投与・催眠術・電気ショックなどを行ったり、感覚遮断タンクや隔離室にときには数ヶ月幽閉するといったことを行った。

 研究を支持し、実際に従事していた人物の1人が、マギル大学アラン記念研究所の精神科医ドナルドキャメロンである。

 そこでは、軽度の不安神経症のようなよくある症状で入院した患者に拷問のような手法を施し、数多くの患者が不眠・失禁・幼児退行トラウマといった症状に苦しむことになった。

 この研究にはいくつもの訴訟が起こされたほか、新たに法規制がなされ、被害者に対する補償も行われた。

 しかし当時、キャメロンは高く評価されており、アメリカカナダの精神医学学会の会長を歴任し、ニュルンベルクの医者裁判(ナチス人体実験などの関係者を裁いた)にも参加している。

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4. ロバーズ・ケイブ実験

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 ウィリアムゴールディングの小説、蠅の王が出版された同年(1954年)、ムザファ・シェリフとキャロリン・シェリフ夫妻は、コンフリクト理論の研究のために、少年22人をともないオクラホマ州のロバーズ・ケーブ州立公園を訪れ、キャンプを行った。

 3週間のキャンプでは、子供たちは2グループに分けられた。シェリフはグループに対立が生じるよう競争的なゲームを行ってもらい、次いで協力せざるを得ないような危機的な状況においた。

 その間、研究者側は少年たちが喧嘩するように仕向け、それを煽るために道具を与えるなど、状況を操作した。

 この研究によってムザファ・シェリフは高く評価され、コンフリクト理論の形成に大きく貢献したと考えられている。

 しかし細かく調べると、この結果は意味がないとは言わないまでも、かなり怪しい部分がある。しかも非倫理的だ。子供たちも保護者も、キャンプの本来の目的は知らされていなかったようだ。

5. ハーローの猿実験


Harlow's Studies on Dependency in Monkeys

 1950年代、ウィスコンシン大学の心理学ハリー・ハーローは、孤立・別離・ネグレクトが子供に与える影響を確かめる一連の実験を考案した。

 ハーローは人間の子供は使っていない。しかし多くのアカゲザルの子供に与えた影響は悪寒を感じさせるものだ。

 彼の実験は数十年に渡り、いくつものやり方で実施されたが、最も有名な実験はサルの子供に人形の代理母を選ばせるものだ。

 その”鉄の乙女”はワイヤーで作られており、胸の部分から哺乳瓶が突き出ていた。もう一方の人形は柔らかい布で包まれているが、乳は出ない。

 ハーローは、親とは心地よさではなく、資源を与えるために存在すると考えた。この行動主義的仮説が正しければ、赤ちゃんは触り心地がいいだけの代理母ではなく、母乳を与えてくれる鉄の代理母を選ぶはずだ。

 しかし彼の予測はすぐに外れた。アカゲザルの赤ちゃんはほとんどの時間を布に包まれた柔らかい代理母と過ごし、お腹が空いたと泣き続けた。 

 赤ちゃんは空腹でどうしようもないときのみ鉄の代理母に近寄り、それ以外はそばに寄らなかった。

 ハーローの猿実験は親と子供の関係をテーマとした研究の基礎になったと考えられているが、現在の専門家は、それが猿であれ、人間であれ、二度と繰り返してはならないと考えている。

6. ミルグラム実験


Milgram Experiment - The Heist

 1960年代、イェール大学の心理学者スタンリー・ミルグラムは、当時最も深刻だった実存的な問いを実験する方法を考案した。

 すなわち、権威への服従心は、それだけで一見善人であるはずの人が一般に非道とみなされる行為を犯すよう促せるのだろうか、という問いだ。

 実験では、ミルグラムは参加者に”教師”役を割り当て、”生徒”役に徐々に電流を上げながら電気ショックを与えるよう指示した。

 生徒(じつは研究チームメンバーで、電気はまったく流れていなかった)は電気ショックが与えられるたびに、悲鳴を上げたり、止めてくれと懇願したりした。

 教師たちの中には途中で指示に従うことを拒む者もいたが、およそ65パーセントは言われるがままに最大の電圧まで電気ショックを上げた。

 ミルグラムは「この手順によって極限の緊張状態が作られる」と1963年の研究論文に記している。「そうした動揺を示すものとして、発汗・震え・どもりが見られた。また意外な緊張のサインとして、理由は説明できないが、定期的に神経質な笑いが見られた」。

 早々に実験を辞退した参加者であろうと、最後までやり通した参加者であろうと、非常に苛立っていたことは間違いない。

7. スタンフォード監獄実験

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 1971年、スタンフォード大学のフィリップ・ジンバルドー教授は、大学生を看守役と囚人役にグループ分けして、監獄に似せた場所で暮らすとどうなるか観察するという実験を行なった。

 すると、ジンバルドーにけしかけられたからではあるものの、看守役の学生はいかにも看守といった威圧的な振る舞いをするようになった。

 一方、囚人役の学生は脱落者こそいたものの、過酷な仕打ちを受け入れるようになったという。やがて、そうした状況は一層エスカレートしてしまい、最終的に実験開始から6日目にして中止せざるを得なくなった。

 この実験はある種の伝説となり、映画、ドキュメンタリー、教科書等で取り上げられるようになる。

 しかしジンバルドーの実験手法・結論・倫理を精査した結果、現在では多くの専門家がこれに言及しなくなっている。

 最近話題となった新しい報告によると、その実験は仕組まれたものだったという。

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 だがジンバルドーは、「実験開始時から、デモンストレーションであると常に伝えてきた。これが実験とみなせる唯一の要素は、囚人と看守に無作為に割り振ったことで、ここが独立した変数となっている。対照群はない。比較群もない。したがって実験たりうる基準は満たされていないのだ」と自分の行為について弁護している。

 「それでも心理学的現象の非常に強烈なデモンストレーションであり、関連性はあった」と。

References:popsci / written by hiroching / edit by parumo

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