昨年公開された実写映画の大ヒットも記憶に新しい住野よるの同名ベストセラー『君の膵臓をたべたい』が、今度は色鮮やかな劇場アニメになって登場!

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本作で、他人と深く関わることを生きてきた主人公の高校生「“僕”」を演じたのはいま注目の若手俳優、高杉真宙

『逆光の頃』『散歩する侵略者』『虹色デイズ』などの話題作に次々に出演し、漫画とアニメ、ゲームが大好きと公言する彼が初めて挑戦した声の仕事とアニメ版の魅力をたっぷり語ってくれました。

君の膵臓をたべたい』は、そのセンセーショナルなタイトルからは想像できないとってもピュアな感涙ラブストーリー。

他人との関わりを避けるようにいつもひとりで読書をしていた高校生の「“僕”」が、クラスの人気者の山内桜良が膵臓の病気で余命いくばくもないことを知り、彼女の奔放な行動に振り回されながらもどんどん距離を縮めていく姿を、その心の変化とともに見つめていきます。果たして、高杉はそんな「“僕”」に“声”だけでどう臨んだのか!?

君の膵臓をたべたい』で声優初挑戦

――高杉さんは今回の劇場アニメ君の膵臓をたべたい』で声優に初めて挑戦されたわけですけど、主人公の「“僕”」役にどのように臨まれましたか?

「僕は漫画もアニメもゲームも大好きで、声の仕事は俳優を始めた時からの夢でもあったので、いちばん最初に話を聞いた時は嬉しかったし、自分の夢がまたひとつ叶ったなと思いました。

でも、現実になると、やっぱりめちゃくちゃ緊張するんですよね。

自分が趣味で楽しんでいたものを作っている人たちの世界に、仕事として入るわけですから。

緊張もするし、責任感も問われるし、いろいろな素晴らしい作品を観てきただけに、理想と現実とのギャップをどうやって埋めたらいいのかを考えなくてはいけなくて。

でも、どうやって埋めたらいいのか、その練習の仕方が分からないということがけっこう悩みの種のひとつでした」

――声を実際に録る前には、自主練のようなこともしたんでしょうか?

「声の仕事も、役作りは僕がこれまでやってきたドラマや映画、舞台と変わらないので、そこは自分で準備していくんですけど、実写とアニメでは表現の仕方が違うんですよね。

でも、いま言ったように、自分の声とアニメの「“僕”」とを馴染ませるためにどんな練習をしたらいのか僕には分からなくて。

もちろん調べたりもしたけれど、それでも分からなかったので、いろいろ実践でやらせていただいたんです。

だけど、それでもなんか違っていて。監督には『そのままでいい』と言われましたが、絵と声のギャップをなんとか少しでも埋めたかったので、自分ができる限りのことをやっていこうと思っていました」

アニメが好きだからこそ、残酷な日々でした

――「アニメが好きだからこそ、自分の理想と現実がなかなか埋まらない残酷な日々でした」と以前も言われていましたが、高杉さんが思い描いていた理想と、実際に声をあててみたときの現実がどんな風に違っていたのかを教えてください。

「声優さんがやっているように、アニメの「“僕”」と一緒にナチュラルに演技をするということが理想でした。

もちろんそれは簡単にできることではないですけど、そうなっている作品を観てきたからこそ、そういう風にできたらいいな~という願望があったんですよね。

それに、これまでの実写の仕事でもセリフが自然に聞こえるように意識したり、場合によってはセリフに頼らないお芝居を心がけてきたので、それに準ずる表現を思い描いていたんです」

――でも、アニメで生身の人間が使えるのは“声”だけですものね。

「声のお芝居の場合は少し抑揚をつけながら、分かりやすくしなきゃいけないんですけど、「“僕”」はあまり表情を変える子ではなかったので、抑揚をあまりつけ過ぎない形で、彼の感情がセリフでちゃんと伝えられたらいいなと思っていたんです。

それが理想でした。でも現実はそのバランスをとるのが難しくて……みなさんからボロクソに言われるようなことはなかったんですけど、自分の中には違うな、違うなという感覚があったから、それが悔しかったですね」

実写&小説の表現方法と違ったところ

――実写の表現方法とそこが違ったわけですね。

「違うと思います。監督がそのときに言われた、『キャラクターと声が一緒に演じるような形なので安心して。逆にキャラクターと声を半分、半分で分けて考えている』という言葉も新しい感覚のものでした。

僕は映画もドラマも監督のもので、役者は駒のひとつだと思っているんですけど、監督に『違う』と言われたり、怒られるまでは自由に、自分が考えてきたものを一旦やってみるようにしているんです。

そういう意味では今回もたぶん自由にやらせてもらったような気がしますが、キャラクターと一緒に演じていくということがどういうものなのか僕には想像がつかなかったので、最初はすごく戸惑いました」

――先ほど「「“僕”」はあまり表情を変える子ではない」と言われましたが、彼をどんなキャラクターととらえて演じられましたか?

「役作りをする時に僕はノートにそのキャラクターの性格や特徴などを書き出すんですけど、台本と小説を何度も読んで考えた「“僕”」はとても複雑な子だったから、そのノートを見直さないと彼のことが分からなくて。

彼の感情を思い出すのにも、すごく時間がかかるんです。ただ、さっき思い出したんですけど、「“僕”」が小説をいつも読んでいるような子だったので、そこから、彼がそうやって自分の殻に閉じこもっているのは人と関わるのが怖いからなんだろうな、人に深く探られたり、深く探るのが怖いんだろうなというのがだんだん見えてきて。

怖がりな子だから、自分の殻を破ってくる桜良にどんどん惹かれていくんだなという風に考えたんです。

ただ、小説と本作の「“僕”」のキャラクターはけっこう違っていて。

小説では桜良とボケとツッコミの応酬をけっこうやっているんですけど、アニメ版では少し大人っぽいキャラになっているので、桜良がポンポン何か言ってきても制するぐらいの感じで止めていて、彼女との距離の取り方も少し強めにしてあるので、僕もそこは意識してできたらいいなと思っていました」

――台本と小説をそんなに読み込まれたんですね。

「そうですね。じゃないと、本当に理解できない子でしたから。この子はまったく何なんだ~? と思いながらやっていたので、すごく悩まされましたけど、やっていて楽しかったですね」

――具体的には、どんなところで楽しいと思ったんですか?

「家で自分が考えてきたものを現場でぶつけるのも大事なんですけど、現場でできあがっていく感情の方がやっぱり強いんですよね。

今回は特にそこを大事にしたいなと思ったし、それがたぶん自分にできる演技だったんだなと思っていて。実写の映画やドラマの現場とは違う場所で、声優さんたちとそういう演技ができたことが楽しかったんです」

アニメ制作の裏側でテンション上がった瞬間

アニメ制作の裏側を見て、テンションが上がった瞬間

――一アニメファンとして、アニメ制作の裏側を見て、テンションが上がった瞬間もあったんじゃないですか?

「アニメがどんな風に作られていくのか? そんな、自分がずっと気になっていたり、調べたりしていたことが目の前で起きていたので、やっぱり、すごくテンションが上がりました。

それこそ、僕以外の声優さんたちが、待機している僕の前でセリフのかけ合いをしていた時なんて、眼をつぶれはアニメなんですよ!」

――ああ!

「その光景を目の当たりにした時に、僕はいちばん泣きそうになりました。ああ、自分はいまその場所にいるんだと思ったし、声優さんたちってやっぱりスゴいなと改めて思いましたから。

それに、作画をしている場所を見学させていた時も、自分が普段純粋の楽しんで観させてもらっているアニメはこんなにたくさんの人たちの手によって作られているんだなということが分かって、新鮮な驚きがありましたね」

――アニメの観方が変わりそうですね。

「いや、作っている人たちのことを大事に思いながら観るというのはたぶん違うと思うんですよ。

僕は大変そうなんだなと思われながら見られるのは嫌なので、これからも純粋に楽しみながら観させてもらいますけど、アニメを作っている人たちの世界を肌で感じることができたのはよかったですね。

アニメの仕事をしたいということではないんですけど、僕はアニメの仕事にも興味があって。知りたいことが単純にいっぱいあったから、すごくテンションが上がりました」

演じる際には実写版を意識したのか?

――『君の膵臓をたべたい』は昨年実写版も大ヒットしましたが、演じる際には実写版を意識しました?

「僕、敢えて観なかったんですよね。観たら、余計緊張しそうな気がしたから」

――緊張?

「原作自体がすでに素敵な評価を得ていたし、実写版の映画の評価もすごく高かったですよね。

でも、だからこそ、自分は今回そことはまったく関係ないところでやらなきゃいけないと思っていたんです。観たら、やっぱり実写版の影響を受けちゃいますしね。

ただ僕は、現場によってオリジナルや以前に作られた同じ原作がベースの作品を観る場合と観ない場合があって。

今回は観ないという選択をしましたが、観ていたら「“僕”」のキャラクターがどう変わっていたのかちょっと気になります(笑)」

――高杉さんはそもそも、小説や漫画の実写化やアニメ化については肯定的な考えをお持ちなんですか?

「中学生の時は実写化に違和感がありました。アニメ化でさえ気にさわるようなところがあったんですけど、いまはその感覚がないので、小説や漫画の実写化やアニメ化に対して異を唱えている人たちの気持ちが全然分からなくて。

僕自身がそういう作品に出演するようになったからかもしれないけど、作品やキャラクターに対する人それぞれの解釈があっていいんじゃないかなと思うんです」

アニメ版『君の膵臓をたべたい』ならではの見どころ

――それでは、アニメ版の『君の膵臓をたべたい』ならではの、原作小説や実写版にはない魅力や見どころは何だと思います?

「アニメは光の加減を繊細に調整できるので、映像がすごく美しいんですよね。

小説を読んで“本当に美しい世界なんだろうな”と想像していたものがちゃんと具現化されていたし、逆にアニメならではの距離感で桜良と「“僕”」の関係が儚く見えたり、小説を読んだ時には想像しなかったアニメではこういう表現になるんだ!?

という驚きもあって。アニメのキャラクターだからこそできる感情の描き方もしているので、そこを楽しんで欲しいですね」

――それにしても、いい企画、いい監督との仕事が続いていますね。

松居大悟監督の『君が君で君だ』ではクズっぷりが最高でしたし、入江悠監督の『ギャングース』(11月23日公開)では犯罪者ターゲットに窃盗、強盗を繰り返すロン毛のアウトロー少年を演じられているというので、楽しみです。

「自分は単純に、楽しい演技、楽しい仕事ができたらいいなと思いながら必死にやってるだけなんですけど、そう言っていただけるのは嬉しいですね。

今後もこれまで通り、いい監督、いいスタッフさん、いいキャストのみなさんと出会っていけたらいいなと思います」

普段からあまり感動したり、興奮したりしないようにしている。ブレたくないから

――以前の取材で「普段からあまり感動したり、興奮したりしないようにしている。ブレたくないから」と言われていたのが、すごく印象に残っています。

「もともとそんなに感情の起伏が激しい性格ではないんですけど、そうですね、意識してしないようにしています」

――それはなぜですか。

「単純に、そこにエネルギーを使いたくないんだと思います。役ではそこがたくさん出たらいいなと思うんですけど、素の自分がそれをやるのは恥ずかしいとうのもありますね(笑)」

――その話を聞いた時に、「食事の内容や変化でイライラしないように」同じものをルーティーンで食べ続けるイチロー選手に似ているなと思いました。

イチロー選手もそうなんですね。でも、確かに最高のパフォーマンスができるように、という意味では同じかもしれないです」

初めて挑戦した“声”の仕事の喜びと苦悩を、その世界が大好きな人ならではの言葉で語ってくれた高杉さん。

その素顔は、スマートで柔らかなスタンスや表情とは違って、けっこう頑固なのかもしれないし、その常に「ブレない」ことを意識した生き方は『君の膵臓をたべたい』の「“僕”」とも重なるような気がする。

アニメの「“僕”」と“声”で共演し、可能性をさらに広げた高杉真宙は、今度はどんなパフォーマンスを見せてくれるのか? 今後の活躍がますます楽しみだ。

撮影:稲澤 朝博