全国でも残り少なくなった「モノコックバス」という古いタイプの車両が、北海道士別軌道で通常の路線バスとして運用されています。2018年現在で38年目というバス目当てで全国からファンが訪れますが、その整備や運転には並々ならぬ苦労もあります。

路線バスとしては現存4台

北海道北部の士別市を拠点に路線バスを運営する士別軌道が、ある貴重な車両を保有しています。それは、いまでは珍しくなった「モノコックバス」。全国からその車両を目当てにバスファンが訪れるほどです。

モノコックとは、クルマのボディそのものに強度を持たせ、フレームがない構造のこと。鉄板を貼り合わせてボディが形成されており、負荷を分散させるため車体が全体的に丸みを帯び、至る所に鉄板を留めるリベット(留め具)が打たれているのが特徴です。対して現在のバスは、細い鋼管でボディの骨格をつくり、そこに外板を貼る「スケルトン」構造が中心で、より直方体に近い形となっています。

かつてモノコックバスは各地で走っていましたが、2018年8月現在、路線バスとして残っているのは全国で4台のみ。そのなかで唯一、学休日を除き通常運行されているのが士別軌道の車両です。現在は士別駅と風連駅(名寄市)を結ぶ「中多寄線」の一部区間で、朝1便のみ運用されています。

モノコックバスが使われる便は士別方面行きです。ただし風連からではなく「30線西3号」というバス停から7時50分発、8時15分に士別着という短い区間での運行。30線西3号には、士別から7時20分発の風連行きに乗車するとちょうどよい時間に到着できます。

定刻前になると、広大な農地の向こうから「ブルブルブルブル」とディーゼルエンジンの地響きが聞こえ、赤と白に塗られたバスが走ってきます。そしてバス停横の道に入り、農業倉庫横の転回場で方向を変え、士別方面へ発車。「31線」「32線」「33線」(いずれもバス停名)……と進みます。

車内には近隣の人も乗っていますが、バスファンと思しき乗客もちらほら。士別駅前に到着した便は、そのまま市内の高校への送迎バス(時刻表に記載なし)として走ったあと、車庫へ戻ります。

維持も操作も大変 部品を求めて全国へ…

バスの耐用年数は、車両タイプや使用状況にもよりますが、10~20年といわれます。一方でこのモノコックバスが製造されたのは1982(昭和57)年。2018年現在で36歳の大ベテランです。このバスは日野自動車製の「K-RC301P」という型式で、もともとは士別市に隣接する和寒(わっさむ)町で自家用車として使用されていました。そのため、路線バスとしての設備は後からつけたものだそうです。

実際、降車ボタンがサッシからはみ出ていたり、床や座席の色がところどころ違ったりと、苦心の跡がうかがえます。また、車内は2人掛けシートが主体ですが、前部の進行方向左側の座席は1人掛けシートとなっています。この部分のみ色や形が異なるため、後から交換したものでしょう。

いまや貴重となったモノコックバスですが、その維持管理は並大抵の手間ではないといいます。運転手さんによると、古くなった部品を入れ替えようにも、製造元で残っておらず、ツテを頼って全国を探し回っているそうです。また、運転中の諸操作もかなりの部分が手動で、車内放送8トラックカセットテープを手動で再生・停止しています。ウィンカーを点灯させたあとも、いまでは珍しい「戻す操作」が必要となり、ベテランの運転手でも戻し忘れそうになるのだとか。

このように整備も乗務も対応できる社員が少ないため、運用回数は限定せざるを得ないのです。最近、バスを主題とする映画撮影のために長期間貸してほしいという要望があったそうですが、撮影期間がかなり長かったうえに、貸し出しとなると運転手や整備員込みとなり通常業務に支障をきたすため、やむなく断ったといいます。

とはいえ、近年はこのバスに乗るために士別を訪問するバスファンも増えています。バスを使用したツアー旅行も不定期で開催され、廃止されたバス路線を再現して走ってみたり、同様に廃線となったJR深名線(深川~名寄)の駅跡や、1日1本しか列車が来ないJR札沼線 新十津川駅新十津川町)へのツアーに使われたりと、その存在はもはや観光資源となっています。

2018年には期間限定でもう1往復運用を増やし、9時40分士別駅前発の便と、その折り返し便である10時40分病院前(風連側の始発バス停)発の便もモノコックバスが担当することになりました。これらの便ならば、いつもの運用より長くモノコックバスに乗車できます。5~6月の第1期は終了しましたが、9月1日(土)から10月14(日)までのあいだで、第2期の増便が実施されています。さらに、観光シーズンには士別軌道の車庫でモノコックバスが敷地の端に置かれ、士別駅付近からもバスが見られるようになっています。

ちなみに、士別軌道はその社名から想像されるとおり、鉄道事業をルーツとしています。1920(大正9)年から1959(昭和34)年まで、士別~奥士別間で軽便鉄道(JR在来線などよりも線路幅が狭い鉄道)を運営していました。

※記事制作協力:風来堂、OleOleSaggy

日本で唯一、路線バスとして毎日運行されている士別軌道のモノコックバス(OleOleSaggy撮影)。