踊る大捜査線シリーズ「係長 青島俊作2」の脚本家・金沢達也に聞く、踊るシリーズの作法や脚本の難しさ。
後編では、君塚良一・萩本欽一という2人の師、そしてパジャマ党のことなど、欽ちゃんファミリーについてもお聞きます。(前編はこちらから)


《制約があったほうが書きやすいし、燃えます》
─── 「係長シリーズ」は、このテーマについて書こう、というものははじめからあったんですか?

金沢 「係長 青島俊作 THE-MOBILE」のとき、最初はもっと普通のドラマを書いたんですが、前回は携帯電話の小さな画面で見る、という前提があったので、もっと顔のアップの応酬にしたほうが見やすいしわかりやすいんじゃないかな、と考え直して。それで「取調室の中での物話」というモチーフができあがりました。「係長2」ではNOTTVになり、画質も良くなったので、外の景色を見せながら、ということでもう少し広げた世界にしましたね。そんな風に、媒体のことは意識しました。

─── なるほど。それで今回の「係長2」はロケシーンが増えているんですね。でも、「係長シリーズ」、それとCS放送のフジテレビNEXTの開局記念ドラマとして話題を集めた「ニュース速報は流れた」も、どちらも基本的には「密室もの」ですよね。密室劇が得意なのか、とも思ったのですが

金沢 「ニュース速報は流れた」にしても「係長シリーズ」にしても、制約があるわけですよね。CSなら予算的な問題だったり、「係長」はもともと、ケータイ動画で放映する、というのがそもそもの出発点ですから。でも、そういう制約があったほうが書きやすいし、燃えますよね。それと、元々ミステリーが好きで、「ユージュアル・サスペクツ」とかアガサ・クリスティ推理小説のような、振りが大きくて、全員が犯人なんじゃないか、みたいなものをやってみたくて、「係長シリーズ」ではあえてその逆の“誰も悪くない”というものを目指しました。

─── 得意ジャンルは、やはりミステリー?

金沢 「係長シリーズ」は2作とも「ミステリーコント」ですね。もともとコント出身なので、得意技というか、根本には「笑い」が絶対ありますね。でも、まだ脚本家になって4年なので、得意とか贅沢が言える身分でもないので、ジャンルをこだわらずに書いていますね。

─── ええ!? まだたった4年?

金沢 そうです。もちろん、君塚のおかげで、というのは大きいですが、恵まれすぎですよね。

─── たった4年で、「踊る」シリーズに関わり、月9も書くってすごいですね!? それまでは何を?

金沢 それまでは欽ちゃん劇団で放送作家をやっていました。元々は役者志望で、欽ちゃん劇団で2年間、1年364日浅草の舞台にあがっていたんですけど、3年目くらいに急に舞台にあがるのが嫌になって(笑)。でも、ただ「出たくない」じゃわがままだと思って、「台本を書きますのでそれで許してもらえますか?」とお願いしたんです。そうしたら大将が「じゃあお前、作家になればいいじゃないか。うちは放送作家事務所なんだから」と。もっと早く教えてもらいたかったですよ(笑)。そこから、萩本企画の放送作家として、バラエティ番組を担当していました。

─── それは、俗にいう「パジャマ党」ですか?

金沢 萩本企画の作家のなかに「パジャマ党」が数人いて、また別に「サラダ党」というのも数人いて、自分みたいな無所属もいます。でも、もう今はかなりあやふやで、ウチの事務所を総称して「パジャマ党」と言ったりもしますね。大将も「もうわかんないから全員パジャマ党でいいよ!」って言ってました(笑)

─── そこからはもう作家一本で?

金沢 10年くらいバラエティを担当して、それはそれで魅力があったんですが、もっと書き手としてダイレクトに勝負したいと思って、ある日君塚に「脚本を書かせてください」とお願いしたんです。君塚は厳しい人なんですけど、一回はチャンスをくれる人なので「わかった」と。そんな流れで、当時君塚が書いていた「華麗なるスパイ」のプロジェクトに加えてもらいました。それが、2009年ですね。


《萩本イズムをもっとも吸収した君塚の背中》
─── さきほど、君塚さんからは「書き方は教わらなかったけど、生き方を教わった」とおしゃっていましたけど、「生き方」ってどうやって学ぶんですか?

金沢 それは……背中を見る、ということですよね。でも、本当にカッコイイですよ、君塚も萩本も。萩本は普段からいろんな名言を残すし、一緒にいるだけで勉強になりますよね。実際には、僕はすごく後の弟子になるので、直接接している機会は少ないんですが、その分、萩本イズムを色濃く受け継いだ君塚からそれを教わっていますね。

─── おぉ!

金沢 君塚はそれこそ、大将と寝食をともにしていましたから。だから、萩本イズムを吸収して、さらに自分なりに昇華させている君塚の背中を見てれば、勉強になるどころの話じゃないですよね。

─── その生き様、イズムっていうのは、なにか具体的に言葉にできることはないですか?

金沢 さっきも言いましたが、とにかく「ズルをするな」ということですね。それは、当たり前というか、一番最初に覚えたことです。それともうひとつ、印象的だったのは、日本の脚本家の地位やレベルを今以上にあげたい、ということですね。そのためにまず、君塚のように表に出ている脚本家が、「カッコいい」「素敵だな」と思われなきゃならないと言って、服装とかにすごく意識を向けているんです。それがすごく格好いい。僕は大学までずっとサッカーをやっていたので色んなことをサッカーに例えてしまうんですが、サッカーも、Jリーグができて、そこに憧れることで競技人口が増えて、レベルもあがりましたよね。それと、同じだと思うんですよ。

─── 確かに、カズも同じようなことを言っていましたね。第一人者こそ、憧れられる存在でなければならない。

金沢 こんなこと言うのは変かもしれないですけど、君塚はやっぱり超人です。先日モントリオール映画祭にも出品した映画「遺体 ~明日への十日間~」も見せてもらったんですが、これは素晴らしい映画ですよ。来年公開ですけど、楽しみにしていただきたいですね。


《萩本・君塚と続いた系譜を受け継いでいきたい》
─── 今後も放送作家ではなく、脚本家として勝負していくんですよね。ドラマ、映画、舞台といろいろあると思いますが、どれに興味がありますか?

金沢 今は……映画ですね。90分の物語をしっかり作ってみたいですね。またサッカーの話になりますけど、サッカーって前後半45分の計90分。だいたい映画の長さなんですよね。サッカーも筋書きのないドラマで、毎試合様々なことが起こるじゃないですか。その、90分の中での山の作り方っていうのがすごく参考になる。前半の立ち上がりの難しさとか、後半の逆転劇のリズムとか、そういう体に染み付いているものを出せるようになりたいですね。あと、書くことって、体力とスピードが大事だな、っていうのも最近よく感じるんです。最後まで書ききるってすごく大変だし、スピードというかリズムよく書くのもすごく大事。サッカーと脚本作りは通じる部分が多くて、その辺が自分にあっていたのかもしれないですね。

─── ほかに、書く上で心がけていることはありますか?

金沢 なんだろう……「係長シリーズ」でも「ニュース速報は流れた」のときも意識していたことは、自分も裏切る、ということですかね。次の一行は、自分で書いても「え? 何だコレ!?」と思えるようにしようと。そんな一行を続けていって、最後に辻褄をあわせると、複雑怪奇なものができあがる。もちろん、あんまりそれに固執すると、キャラクターが死んじゃう場合もあるので、その辺のバランスは難しいんですけど。

─── 伏線は最初に用意する方ですか? あとから伏線にしてしまうタイプですか?

金沢 これはね、両方ありますね。もちろん、ある程度最初に考えているものもありますけど、途中で自分を裏切って勝手な伏線にしたててしまって、後からなんとか回収する。でも意外と、伏線をはると他のキャラクターも勝手に動き出して、物語が前に進むんですよ。「こいつがウソついたら、こっちの登場人物のさっきの発言も辻褄があわないな。じゃあ、こいつもウソをついているのか!」と、どんどん話が進みだす感じはありますね。そこが、自分でも面白いです。

─── 今後、書いてみたいテーマは具体的に決まっていますか?

金沢 そうですね……スポ根ものとかもやってみたいですが、それよりも、萩本の流れをしっかりと表現していきたいと思いますね。欽ちゃんファミリーって昔は「笑いのオックスフォード」と呼ばれていて、そこで学んだ人たちが、お笑いの世界で羽ばたいていく……という流れがあったと思うんです。その中で、突然変異的に現れたのが君塚なんですね。

─── 君塚さんは最初から脚本家志望だったけど、嫌々、萩本さんの下で笑いを覚えさせられ、それが今や武器となっている、というのは、『「踊る大捜査線」あの名台詞が書けたわけ』という本の中にも書いてありました。

金沢 そうなんです。だから僕は、その萩本・君塚と続いた系譜を受け継いでいきたいな、って思います。「踊る」は壮大なお祭りだったし、もう終わってしまいますけど、萩本イズムは、まだまだこれからも続けていかなければならないと思っています。
オグマナオト)

<金沢達也 プロフィール> 脚本家。萩本企画所属。萩本欽一が主宰する欽ちゃん劇団に入団後、放送作家に転身。様々なバラエティ番組を手がける。その後、舞台などの脚本を手がけ、2009年に日本テレビ「華麗なるスパイ」で連続ドラマデビュー。2010年には『踊る大捜査線 THE MOVIE3 ヤツらを解放せよ!』に脚本協力として参加。スピンオフ「係長 青島俊作 THE MOBILE 事件は取調室で起きている!」「係長 青島俊作2 事件はまたまた取調室で起きている!」では、単独で脚本を務めている。