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 つい先日、カナダのセイリッシュ海を子供の遺体を背負ったまま泳ぐシャチの母親が話題となっていた(該当記事)。タレクゥアやJ35と名付けられたこのシャチは、17日間亡骸を背負い続けた末についにそれを諦めた。

 これは海の動物が見せた悲しみとしては最も長い事例の1つだ。

 動物は仲間の死をどう感じているのだろうか?
 その死を理解し、悲しんでいるのだろうか?

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専門家の間でも意見が相違する「動物の悲しみ」について

 シャチの母親の行動は、子を失った本物の悲しみからなのか、それとも死に対する単なる複雑な反応だったのか?専門家の間でも意見の相違が見られる。

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・生まれてすぐに死んでしまった我が子を頭に乗せて泳ぐシャチのお母さん : カラパイア

 たとえば動物学者のジュール・ハワードは、「J35が悲しみを表現していたのだと考えるなら、それは先入観によって事例を作り上げているも同然」と論文で述べている。

 しかし生物学者のジェシカ・ピアースの意見は逆だ。人間以外の動物が死を認識し、悲しむという科学的証拠は増えてきていると述べる。彼らは死者のために葬儀を行うことすらあるというのだ。

きちんと見ようとしなければ見えてこない

 動物が悲しむことについて懐疑的な見解はある点において正しい。つまり人間以外の動物が感じる悲しみなど、彼らの死に対する反応についてそれほどよく分かっていないからだ。彼らが自分や仲間の死についてどのように感じているのか、詳しく調べた学者は少ない。

 しかし、それを知らないのは、見ようとしないからだ。

 死やそれに関連する行為について研究する“比較死亡学”とでも呼べそうな分野は、これまでそれほど注目を集めてこなかった。

 これはおそらく動物が仲間の死を気にかけるかもしれないという可能性すら人間が想像してこなかったことが原因だろう。

 多くの科学者や哲学者らは、限りある生を自覚するのは、人間だけが持つユニークな特性であると考えてきた。

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果たして動物は死を理解しているのか?それを悲しむのか?

 しかしさまざまな種で、死に関連した悲しみのような反応が見られるという報告は増えている。

 このことから、動物も死を知っているのではないだろうかという疑問が専門家の間に生まれ、それを研究するための手法が考察されるようになってきた。

死を悲しむ動物たち

・ゾウ
 たとえばゾウは、仲間の骨に強い関心を抱いたり、死を悲しむことで知られている。

 2016年にある博士課程の学生がアフリカで撮影した映像はそれを鮮明に捉えている。その映像では、メスのリーダーの遺体に仲間だった3頭のゾウが近づいて、臭いを嗅いだり、触れたりしながら、ウロウロする姿が映されている。


Rare Footage: Wild Elephants “Mourn” Their Dead

チンパンジー
 チンパンジーもまたこうした場面が何度も目撃されている。

 ある事例では、飼育されているグループの仲間が、高齢で死んだパンジーという名のメスを注意深く観察していたという。

 彼らはパンジーの体を調べて生きていないか確認したり、毛皮についているゴミを取ったりしながら、死後数日はそこから離れようとしなかった。

 また別の事例では、チンパンジーが道具を使って遺体を綺麗にしたという報告がある。

 2017年、ザンビアの研究者が、母親が乾燥した草で死んだ息子の歯からゴミを取る姿を撮影した。つまり、チンパンジーは死後も仲間との絆を感じており、遺体に何らかの情感を感じているらしいことが窺えるのである。


Remarkable Video Captures Chimps Cleaning Deceased Member's Teeth In Apparent Ritual

カササギ
 さらにカササギが草で遺体を埋める場面も目撃されてきた。動物行動学者のマーク・ビーコフはこれを「カササギの葬式」と呼んでいる。


死んだ仲間に集まるカササギたちMagpie Death Ritual 

・ヘソイノシシ
 最近の印象的なものとしては、8歳の少年が撮影したヘソイノシシが仲間の死に対して示した行動がある。ヘソイノシシは仲間の遺体を何度も訪れては、匂いを嗅いだり噛んだり、さらには横で寝たりもした。


'Skunk Pigs' May Mourn Their Dead, Footage Shows | Nat Geo Wild

 カラスは不協和音の集団(cacophonous aggregation)を形成する。仲間が死ぬと大勢が集まってギャアギャアと叫ぶのだ。

・仲間の死を悼み大声で鳴き叫ぶ。「カラスの葬式」の謎に迫る(米研究) : カラパイア

 これらは数多くある事例のほんの一例に過ぎない。

動物の悲しみを科学的に研究するのは難しい

 専門家の中には、こうした行動を人間の感情の悲しみと同じととらえるべきではないという意見もある。

 科学者は動物の行動を観察することはできるが、どのような感情が元になってそうした行動を引き起こしているのかを知ることは非常に難しいからだ。

 だがそれは、動物に感情があり、悲しむ気持ちがあるかどうかを科学的に分析できないだけの話で、動物に悲しみの感情がないとは言い切れないのだ。

 我々は、まだまだ動物について知らなければならないことがたくさんある。問題は「動物は悲しむか?」ではなく、「動物はどのように悲しむか?」を知ることなのかもしれない。

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References:Do Animals Grieve Their Loved Ones? / written by hiroching / edited by parumo

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