9月7日『dele』テレビ朝日系)の第7話が放送された。6話は“人間の裏側”を見て絶望した少女が自殺した話だったが、今回は対照的。“裏側”の掘り起こしを制し、隠し、無かったことにすることで成立する社会を描く内容である。

殺人の動機を持つ者だらけの街
依頼人・笹本隆(西ヶ谷帆澄)の死亡確認が取れ、坂上圭司(山田孝之)はファイルを消そうとする。その時、坂上舞(麻生久美子)は、隆が死刑囚・笹本清一(塚本晋也)の息子だと気付いた。清一は8年前にバザー会場でジュースに毒物を混入し、死者4名を出した罪で逮捕された男である。清一は今も無実を主張し続けている。

圭司と真柴祐太郎(菅田将暉)が調べれば調べるほど、街に暮らす人々から犯行動機となりうる“裏の顔”が次々に浮かび上がった。
犯人の候補と動機を以下にまとめてみた。

・笹本隆……前科持ち(清一)の息子という理由で街の人から酷い目に遭い、疎外された恨みがある。街の人を対象に無差別殺人を犯した?
・笹本清一……全く同じ手口の前科歴があり、あやしい。
・市議会議員の宮川新次郎(千葉哲也)……宮川の当選時の不正に関わる土木会社社長・木下が強硬に談合を要求してきていた。8年前の事件で木下は犠牲者になった。木下殺しを目的に犯行した?
・宮川茜(仁村紗和)……懇意にしていたドラッグの売人が犠牲者になった。茜と売人の間に何らかのトラブルが起こったため、売人殺しを目的に犯行?
・洋食店店主の上野兼人(Mummy-D)……娘が犠牲者になった。妻と不倫する宮川殺し、もしくは宮川と妻の不倫で生まれた可能性のある娘殺しを目的に犯行?
・商店の店主(岡部たかし)……日頃から手を上げるほど疎んでいた母親が犠牲者になった。母殺しを目的に犯行?

他にも考えられる候補(隆が児童福祉施設で仲の良かった女性など)はいるのだが、キリがないのでこれだけにしておく。

途中までは謎解きもののテイで観ていたが、途中でそうではないと気付く。唐突に、清一の死刑が執行されたのだ。こうして、圭司と祐太郎が真相追求をする理由は消滅した。
この回、真犯人が誰かはさして重要ではない。普通に見える市井の人がいかに恐ろしいかを伝えるのが目的だ。

「もう、終わった」と少女への同調圧力
清一が死刑執行されたのと同じタイミングで、街は再びバザーを開催した。「8年前の事件を乗り越える」という名目だ。

ある主婦がウォータークーラーからジュースを注ぎ、少女に手渡した。
少女 私、飲みたくない。前の時、言われたの。「飲んだら死んじゃうよ」って。
主婦 誰に?
少女 思い出せない。よそから来たって言ってた。

少女の言葉を聞き、主婦は思わず振り返った。視線の先にいるのは、宮川新次郎、宮川茜、上野兼人、兼人の妻、商店の店主。犯人の候補として考えられる5人だ。笑顔で仲睦げに会話している“全員悪人”。8年前の事件では、5人それぞれの消えてほしい人間がそのままいなくなった。

清一は最後まで無罪を主張していた。住民の証言と状況証拠、そして前科だけで犯人とされた。前科者だから疎まれた結果かと思いきや、住民それぞれが殺人の動機を抱えていた。下手をしたら自分が疑われかねない。
舞が面会に行った際、清一は「犯人はな、あの街にいるんだよ!」と絶叫した。清一は住民の保身のために、街ぐるみの生贄にされてしまった。前科のある清一はスケープゴートとして、最も適任だった男だ(清一が真犯人の可能性もある)。

バザーの会場は盛り上がっている。それぞれの持つ殺意や悪意は無かったことにされている。それらしい者は処刑され、全ては丸く収まった。
「消されたことで結論が一つになった」(圭司)
8年ぶりのバザーは、人に言えない秘密を隠し通せたことを記念する祝杯の場。こんな風に、社会は成立している。

ジュースを拒否した少女の肩を掴み、主婦は諭した。
「飲みなさい。もう、終わったんだから」
肩を掴む手に力が込められている。少女の服に跡が残るほどだ。あの事件は清一の死刑が執行されて解決した。他に犯人はいない。地方共同体の平穏を保つため、自分たちが見たい事実のみを頑なに信じる。何かを感じたとしても口をつぐむべき。地方特有の同調圧力が、肩を掴む力の強さに表れていた。
「この街も暴かれることを望んでいない。あの削除依頼の映像を消せば、今まで通り笹本が犯人だっていうことでこの件は終わる」(圭司)

主婦は一瞬、5人のほうを振り返っている。彼女は清一の他に真犯人がいると思っているかもしれない。しかし、暴くことも暴かれることも誰も望んでいない。「もう、終わった」と少女を諭しながら「もう、事件は起こらない」と自分に言い聞かせているように見えた。

今回、真犯人が明かされなかったのは必要がないから。そもそも、犯人が特定できるように作ってない。余計に現実味のある着地点である。普通の人の持つ恐ろしき悪意は、日常に普通に潜んでいる。社会の闇。人間の闇。バザーでの5人の談笑が、それを端的に表していた。
「言っていい? すっげえ気持ち悪い」(祐太郎)

deleteは“真実”にふたをすること
契約に忠実に、依頼データを開けず削除しようとするのが圭司の常だ。
「この街に限ったことじゃない。人間なんてそんなものだ。社会は人に一つの人格を望む。人格が一貫してればしてるほど誠実な人間だと捉えられる。だからみんな表向きの自分を演じて、そこからはみ出る部分を隠したがる。隠してきたものを消してやれば一貫した人生になる。反対に暴き始めれば色んなものが壊れる。だから、俺はいつも中を見ずに消してきた」(圭司)
この考え方に、祐太郎は反論する。
「でもさあ、消すことだって同じくらい恐ろしいことなんじゃないの?」(祐太郎)

圭司は言葉を返せない。祐太郎が来るまで、圭司は契約通り中を見ずデータを消していたはずだ。祐太郎との出会いで圭司に変化が起こっている。『dele』山田兼司プロデューサーはこんな発言を残している。
「彼らが生業にしている“消す”という行為の裏には、ふたをされてしまう“真実”がある。彼らの仕事そのものに内在する本質的な怖さ……そういうものが吹き上がる、そんな回を目指しました」(ザ・テレビジョン9月13日

dele』は今夜放送の第8話で最終回を迎える。削除データを開くことで圭司と祐太郎は依頼者の人生を掘り起こしてきた。次回は2人の番だ。特に、圭司と比較すると祐太郎の素性はあまりに明かされていない。
テレビジョンの取材で山田Pは、7話を「最終話に向けてこの2人が動き出す大きな“ジャンプボード”」だと明かしている。
(寺西ジャジューカ)

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金曜ナイトドラマ『dele
原案・パイロット脚本:本多孝好
脚本:本多孝好、金城一紀、瀧本智行、青島武、渡辺雄介、徳永富彦
音楽:岩崎太整、DJ MITSU THE BEATS
ゼネラルプロデューサー:黒田徹也(テレビ朝日
プロデューサー:山田兼司(テレビ朝日)、太田雅晴(5年D組)
監督:常廣丈太(テレビ朝日)、瀧本智行
撮影:今村圭佑、榊原直記
制作協力:5年D組
制作著作:テレビ朝日

イラスト/Morimori no moRi