ジェイソン・ステイサムでかいサメと戦います!」と言われて、あなたは何を想像するだろうか。安心してほしい。『MEG ザ・モンスター』は、今あなたが想像したことを大体全部やってくれる。

今度のステイサムはダイバー! 海底から蘇ったメガロドンと戦うよ!
とうとうステイサムもサメと戦うようになったか……と感慨深い。最近サメ映画サメ映画界隈でブームになっているというのは聞いていたものの、まさかステイサムまでもがそのムーブメントに乗っかるとは思わなかった。しかも製作と配給はアメリカのワーナー・ブラザース・ピクチャーズと中国のグラヴィティ・ピクチャーズが共同で行っている。サメは中国でもウケるのだ。まさにステイサム×中国×サメの三つ巴。どんな状況だよ。

今回のステイサムは優秀なレスキューダイバーである。ステイサムは沈没しかけた原子力潜水艦の救助に向かうも、現場で謎の巨大生物に遭遇。多くのクルーを助けたものの、仲間数人を見殺しにすることになってしまった。巨大生物について報告するも誰もステイサムのいうことをまともに受け取らず、そのまま半ば引退状態になってしまった……。

数年後、上海の沖合に建設された巨大な海洋研究所に話は移る。この施設では、深海のそのさらに深いエリアへ探査船を送り込む実験を行うところだった。真面目そうな中国人学者ミンウェイ・ザン博士とその娘スーイン、出資者の金持ちモリスジャックスやDJといったスタッフや、潜水艇のクルーたちなど、様々な国籍のスタッフが実験に参加し、潜水艇は無事海底のその先へと潜り込む。

しかし実験が成功したところで、潜水艇は謎の動作不良に陥る。潜水艇に乗っていたローリー(ステイサムの離婚した妻である)は腹にドライバーが刺さって重傷を負い、実験は中止に。動作不良の原因が謎の生物による襲撃であることを突き止めた実験チームはタイで隠遁生活を送っていたステイサムを呼び寄せ、救出作戦に参加させるが……。

というわけで、最初の30分でサメ(正確にはメガロドン)が登場してからは、ステイサムVSサメのバトルである。一難去ってまた一難、潜水艇からクルーを救助した後サメを一体どうするのか、そして太古の海から浮上してきたサメは果たして一匹だけなのか。

MEG』のすごいところは、観客の期待を一切裏切らない点である。というのも、ボケッと見ているだけで「あ、こいつ死ぬな~」というのがなんとなくわかるし、事実そいつは死ぬ。その死に様も仲間のために体を張ったり、サメがいないと思って海に落ちてからもヘラヘラと油断していたところを襲われたりとバラエティに富んではいるものの、「ひどい死に方をしてくれ!」と思ってた奴はやっぱりひどい死に方をする。

観客の期待を裏切らないということは、つまり観客の想像の範疇を一歩も出ないということでもある。『MEG』は、それはもう清々しいほどに予想の範疇を出ない。お前は引きこもりかというくらい出ない。これはなかなか勇気の必要なことだ。なんせ「意外性のある展開で客をビビらせる」という方法が使えないのである。「こうなってほしい」という客の願望をちゃんと拾って実現するという点で、『MEG』という映画にはプロレスのような面白さがある。筋書きがちゃんとあるフィクションだからこそ、我々は「やった~! また死んだ~!」と面白がることができるのだ。偉大なことである。

しかし、プロレスは観客の願望に忠実である一方で、プロレスラーたちはリアルな肉体を使って痛みや技の凄さを表現する。ではこの映画においてリアルな肉体での表現を担当しているのは誰か。もう誰もが予想していることだと思うが、それはステイサムなのである。

ただの筋肉バカには出せない、『白鯨』を思わせる格調
ジェイソン・ステイサムという人は、アクションスターにしてはちょっと不思議な見た目だと思う。わかりやすい筋肉ゴリラではなく、やや細マッチョ寄りのシャープな体つきをしている。そして目に知性の光がある。あの独特のしゃがれ声も渋いし、前の方からハゲていったであろう丸刈の東部からも、なんとなく暴力の匂いが漂っている。知性と暴力とが両方備わった、現代の特殊部隊の隊員のような見た目に見える。確かに映画では割とアホな役も演じているが、例えば「英語とロシア語フランス語ができて、アラビア語も聞き取れて、基礎的な爆破と衛生の技術があり、戦闘に関しては一流で、イラクアフガンでの非合法作戦の経験がある」みたいな役を割り振られても特に不自然ではないように思うのだ。

そんなステイサム、元々はイギリスの飛び込みの選手である。それも生半可な成績ではなく、現役時代はナショナルダイビングチームのメンバーとなり、世界で12位という成績を残している。体格はいいが脳筋のバカにも見えず、実際に泳ぎもめちゃくちゃうまい……。でかいサメと肉弾戦をやる上で、これ以上の人選はないと思う。「今回はステイサムとサメでいきましょう!」と話をまとめた人はノーベル賞ものである。

独特な風貌かつ脛に傷持つステイサムが、因縁のある巨大な海棲生物と肉弾戦を繰り広げる……というストーリーに関して言えば、『MEG』はステイサムによる『白鯨』である。『MEG』の海洋研究所のスタッフが国籍も年齢もバラバラなのはピークォド号のクルーの人種がバラバラだったのに似ているし、最終決戦の地も西太平洋である。さらに言えば、1956年に公開されたグレゴリー・ペック版の『白鯨』は、『ジョーズ』など海洋パニック映画の元祖と言われており、『ジョーズ』の脚本にはサメ狩りのクイント1956年版『白鯨』を見てその内容を笑うというシーンもあったそうだ。「でかい海の生き物と、強そうかつ頭も切れそうなステイサムが戦う」というストーリーの奥底には、サメ映画のDNAと共にハーマン・メルヴィルの血が流れていたのである! 

21世紀の『白鯨』が、アメリカと中国とが協力することで完成したのかと思うとグッとくるものがある。基本的にはヘラヘラ笑って見られるモンスターパニック映画ながら、これだけの格調が漂ってくる(個人の意見です)のは、ステイサムの肉体と風貌があったればこそだろう。やはりステイサムという男は並のアクションスターではないのである。
しげる

【作品データ】
MEG ザ・モンスター」公式サイト
監督 ジョン・タートルトーブ
出演 ジェイソン・ステイサム リー・ビンビン レインウィルソン ルビー・ローズ ウィンストン・チャオ クリフ・カーティス ほか
9月7日より全国ロードショー

STORY
人類未踏の深海に調査に乗り出した探査チーム。しかしそこで巨大な生物の襲撃を受ける。レスキューダイバーのジョナス・テイラーは深海に取り残された潜水艇の救助に向かうが、そこで体長23mにも及ぶ巨大なサメ、メガロドンに遭遇する