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 腸は第二の脳とも言われているが、研究が進むにつれ、感情や気分、対人コミュニケーションにまで腸が関与している可能性も浮上してきた(該当記事)。

 人の腸には約3万種の腸内細菌が存在すると言われているが、その中には発電するものがあるのだそうだ。

 発電する細菌「起電性細菌」自体は特に新しいものではない。湖の底のような、私たちが暮らすところから遠く離れた場所でならすでに見つかっている。

 しかし腸内にそれがあるとはびっくりだ。

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発電する細菌の発見

 米カリフォルニア大学バークレー校の微生物学者ダニエル・ポートノイ氏らは、リステリア・モノサイトゲネスという食品媒介性病原細菌の1種で口にするとリステリア症の原因になる細菌を培養した。

 リステリア症は汚染された乳製品や食肉などから感染し、免疫が弱った人・妊婦(流産の原因になる)・高齢者にとっては危険な食中毒として知られている。

 この細菌を電気化学チャンバーに入れて、電極で電子を捕捉できるか試してみたところ、それらが電流を作っていることが判明したのである。

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リステリア・モノサイトゲネス image credit:Elizabeth White

発電に使用される遺伝子が特定される

 細菌が発電する理由は、代謝によって生まれた電子を取り除くためなど、いくつかある。しかしポートノイ氏によると、主な目的はエネルギーを作ることだという。

 しかしリステリア・モノサイトゲネスは、ほかにも酸素を使ってエネルギーを作るという技も持っている。

 そのため発電は、腸内の酸素が低下したなど、あくまで特定の状況で使う補助的な手段だと考えられるようだ。

 また発電に使われる遺伝子も特定された。それは発電をする際に重要となるタンパク質の情報を持つ遺伝子だ。

 タンパク質は発電された電子を保持するもので、湖底に住むほかの起電性細菌に比べるとかなりシンプルなやり方である。

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image credit:UC Berkeley

 これまで知られていた起電性細菌のほとんどはグラム陰性菌――つまり、外部と内部を隔てる細胞壁が2層で構成される細菌だった。

 しかしリステリア・モノサイトゲネスはグラム陽性菌で、細胞壁は1層しかない。したがって、電子が外部に出るために越えるべきハードルが1つ少ない。

 だが電子が細胞の外に出た後、どこに行ってしまうのかはよく分からない。腸ではない場所にいる起電性細菌は、一般に電子を鉄やマンガンのような環境中の鉱物に流す。

 研究では、リステリア・モノサイトゲネスが発電した電子は電極に流された。しかし実際の腸の中では、おそらく鉄のような様々な分子がそれを引き受けるのだろうという。

 細菌が生きるためにフラビンタンパク質を必要としていることも明らかになった。

 フラビンはビタミンB2の一種で、腸内には豊富にある。さらに周囲の環境に遊離フラビンがあると、発電が活発になることも分かった。

遺伝子の特定により腸内の起電性細菌を複数発見

 リステリア・モノサイトゲネスの発電に使われる遺伝子が特定されたので、これを手がかりにして、研究チームはほかにもそのシンプルな発電方法を使う起電性細菌をたくさん見つけることができた。

 多くは腸内に潜む細菌だが、ヨーグルトの発酵に重要な役割を果たすものや、善玉菌として食べられているものの中にも起電性細菌が確認された。

 なお研究には参加していないイリノイ大学のラティ・カフーン氏は、腸内に電気を帯びた細菌がいるとは「ショック」とコメントしている。

細菌を利用した発電テクノロジーの開発


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image credit:UC Berkeley

 将来的には、起電性細菌を利用した発電テクノロジーの開発も可能かもしれないそうだ。

 事実、ゴミ処理施設などに集められた有機物を利用して発電しようという細菌型燃料電池の研究はすでに始まっている。

 今回発見された細菌は、シンプルな発電方法を利用していることから、その応用のチャンスも大きいようだ。

 この研究は『Nature』に掲載された

References:news.berkeley/ written by hiroching / edited by parumo

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