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Point
・同じドナーから臓器の提供を受けた5人のうち4人が死亡。うち3人がドナー由来のガンが原因とされる
・生き残った1人にもガンが見つかるが、摘出手術等により現在は完全寛解を果たす
・通常移植の際には厳格な適格検査が実施されるため、このようなケースは非常に稀であり、そのはっきりとした原因は分かっていない

これこそが「悲劇」というものでしょう。

ヨーロッパに住むあるドナーが、腎臓、肺、肝臓、心臓を、5人の患者に提供しました。めでたく移植手術は成功。しかし、後にそれが「普通の臓器」ではないことが分かります各臓器にはドナー生存時に検出されていなかった「悪性腫瘍」が含まれていたのです。そして、それにより4人が死亡するといった「最悪の事態」が起こってしまいました。研究結果はオランダドイツの医師によって、“American Journal of Transplantation”に掲載されています。

Transmission of breast cancer by a single multiorgan donor to 4 transplant recipients

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/ajt.14766

通常であれば、悪性腫瘍を持った患者はドナーとなることはできません。しかし、このケースのように、単に生存時には悪性腫瘍が「検出されていない」場合もあるのです。

今回ドナーとなった53歳の女性は、2007年に脳卒中により死亡。彼女のドナー・レポートにはレントゲンや超音波検査を含む検査を通過していたことが記されていました。もちろんそこには「悪性腫瘍」といった文字は確認できません。

それに基づき、彼女の死後に臓器提供が行われました。彼女から「心臓」の提供を受けた患者は移植の5ヶ月後に敗血症により死亡しましたが、これはガンとは関係がありません。

「肺」の提供を受けた当時42歳の患者は、移植の16ヶ月後に機能障害を起こし、検査の結果、上皮組織に腫瘍が検出されました。後にそれは体中に広がり、2009年にドナー由来の乳がんにより死亡しました。

その死を受け、同じドナーから「左の腎臓」の移植を受けた、移植当時62歳であった患者の検査が実施されました。最初の検査ではガンは発見されませんでしたが、その5年後の検査により、やはりドナーからガンを受け取っていたことが発覚。そして移植の6年後、彼女もまた亡くなってしまいました。

「肝臓」の提供を受けた当時59歳の女性の体にも、移植から4年後にドナー由来のガンが見つかります。それから3年間持ちこたえた彼女でしたが、移植から7年後についに亡くなってしまいます。

移植を受けて唯一生き残ったのは、当時32歳の男性でした。ドナーから「右の腎臓」の移植を受けた彼の体にも、2011年に癌腫が見つかります。その後摘出手術を行い、薬物治療を実施することで、2012年には完全寛解を果たします。2017年の検査においても問題が見つからなかった彼は、現在「二度目の移植」を受けることを望んでいるとのこと。

厳しい適格検査が行われるため、通常このように腫瘍が伝達するリスクは極めて低く、1回の移植につきおよそ0.01~0.05%の確率であるとのこと。そのため、一体どのようにして、このように「一人のドナー」の臓器から次々とガンが伝達していったのか、詳しいことは明らかになっていません。しかし、移植された臓器を受け入れやすくするために投与する「免疫抑制剤」が、検知されていなかったガンを広める手助けをしていたことが考えられています。

たった1人のドナーによって4人が死亡してしまったこの悲劇。善意によりドナーとなった提供者の心情を推し量れば、本当に無念としか言いようがありません。

 

目が覚めたら「5年連れ添った妻」が誰か分からなかった男性

 

via: sciencealert / translated & text by なかしー

 

1人のドナーの「臓器提供」によって4人が死亡した最悪のケース