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 新たな研究から、イルカは自分が学んだことを仲間同士で互いに共有できることがわかった。

 一時期、人間に飼育されて、テールウォーク(水上に垂直に立ち上がって、尾で水面をたたきながら移動するスキル)という複雑な技を覚えたイルカが、海に放された後、仲間や家族である野生のイルカ9頭にその技を教えたという。

 こうした知性の高さが気候変動による環境の変化から、イルカが生き残るのに役立つ可能性があるという。

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水族館で覚えたテールウォークを野生の仲間に伝えたイルカ

 この研究結果を発表したのは、エクセター大学とセントアンドリュース大学の研究者らによって運営されているWhale and Dolphin Conservation(WDC)だ。

 1988年1月、バンドウイルカビリー(メス)は、ひどく汚染された入り江から助け出された。その後ビリーオーストラリア、アデレードのイルカ水族館に移され、数週間のリハビリを受けた。

 そこで彼女は他のイルカがやっていたテールウォークを見て、その技を覚えたらしい。

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1980年代バンドウイルカビリーは、80年代に汚染された入り江から助け出され、イルカ
の水族館でしばらく過ごしてから野生に戻された。写真はテールウォーク中のビリー(左)
image credit:Whale and Dolphin Conservation

 テールウォークとは、尾で水面にまっすぐ立ち、後ろ向きに進む技で、水族館ではよく見られるが、野生のイルカがやることはめったにない。

野生のイルカの間でテールウォークが流行りだす

 その後、ビリーは野生に戻されたが、自分でこの技を続けていたようだ。

 群れの仲間の前でビリーがこのユニークなパフォーマンスを独自にやりはじめたところ、2011年までに、9頭の仲間たちが彼女の真似をしてテールウォークをやっているのが目撃された。

 だが時間の経過とともに、テールウォークをやる頻度は減っていき、研究者によると2014年までには2頭しかやらなくなり、その頻度もまばらになったようだ。

 テールウォークは群れの中での一時的な流行で、廃れていく運命だったようだと研究者は言う。

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テールウォークは、水族館ではおなじみだが、野生ではめったに見られない。
image credit:Whale and Dolphin Conservation

学習伝達能力が気象変動に対応しやすくなる可能性


 だがこの出来事からわかったことは、気象変動に対処しなくてはならないイルカたちにとって、非常に意味のあることかもしれないという。

 仲間がやっていることをすぐに真似ることができる能力は、自然淘汰よりも速く、新たな生き残り術に適応するのに役立つ可能性がある。

 これから数十年の間に周辺環境が変化するにつれ、新しい食糧や新たな狩りの方法を開拓するといったことが、群れのメンバー間で急速に広まることを意味することになるかもしれない。


Dolphins tailwalking - Port River, Adelaide | Whale and Dolphin Conservation

 セントアンドリュース大学のイルカスペシャリストルーク・レンデル博士は、この研究は、イルカの群れでのこうした模倣の役割について「明らかな洞察」を提供してくれるという。

 研究論文の共同執筆者フィリッパ・ブレイクスは、野生のイルカの集団の中で模倣が見られることは、種の保存のために重要な意味があるという。

 「その集団内での行動伝達をよく理解することは、さまざまな生き物が環境の変化にいかに対応するかを予測する助けになります。集団の中である行為を学んで素早く広めていくのは、自然淘汰による世代間プロセスよりもずっと速く機能する可能性があります。これは、伝達される行動のタイプによって、有利か不利かの違いが出てくる場合があります」

 この研究は、英国王立協会の専門誌『バイオロジー・レターズ』に発表された。

References:exeter / phys/ written by konohazuku / edited by parumo

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