2016年、「金田一少年の事件簿R」エンディングテーマ「決意の翼」でデビュー後、「実験品家族クリーチャーズ・ファミリー・デイズ」「銀の墓守りガーディアン)」「青の祓魔師 京都不浄王篇」といったアニメの主題歌を担当。

毎回、力強い歌声を聴かせてくれるシンガー・暁月凜さんが、アキバ総研に久々の登場!
“謎”の新人アニソンシンガー、暁月凛に会ってきた!

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2018年8月8日には、初のフルアルバム「Time Capsule」もリリースし、さらなる活躍が期待される彼女に、デビューに至るまでの足跡からアルバム「Time Capsule」収録曲、そして今後の活動についての展望などをうかがった。

 

人がたくさん死ぬようなアニメが好きでした(笑)

――久々のアキバ総研登場ですね。前回は「謎の新人」という形でのインタビューをさせていただきましたが、現在は「謎の」部分が外れているみたいですので、改めてプロフィールを教えていただけますか?

 

暁月凜(以下、暁月) 私は中国の山西省生まれなんですけど、山西省って北京の隣の隣の省という北国なんです。海がないところなので幼い頃から海が憧れで、いつか海を見に行きたいなと思っていました。その後、アニメが好きになって、まさかの海のある国にやってきました。

 

――中国出身だったんですね。日本語を完璧に使いこなしているので、最初はわかりませんでした。

 

暁月 ちゃんと勉強もしたんですけど、アニメを観たのが大いに役立ちましたね。中国語吹き替え版もあったんですが、(現地で放送される)日本のアニメの数自体が増えて、吹き換えしきれなくなったせいか、そのまま放送されるようになったのを観て日本語を覚えました。

 

――ちなみにどんな作品を観ていたんですか?

 

暁月 いろんな作品を見ていたんですが、最初に観たのは「名探偵コナン」で、次に観たのが「コードギアス 反逆のルルーシュ」。それから「神無月の巫女」とか「XXXHOLiC」、「空の境界」などを観てました。人がたくさん死ぬようなアニメが好きでした(笑)。

 

――そんな暁月さんですが、2014年に開催された3000人を超える大型オーディションでグランプリを獲得し、歌手デビューのチャンスをつかみました。オーディションにはどういった経緯で参加されたのでしょうか。

 

暁月 すごい合理主義なんですけど、絶対に歌手になりたいとか芸能人になりたいとかは実は考えていなくて、その時はできるだけアニメ業界に近いところで仕事をしたいと思っていたんです。一番やりたかったのが歌なんですが、仮に歌手になれなかったら、たぶん日中を往来する通訳のような仕事を目指していたと思います。

 

――歌は元々好きだったんですか?

 

暁月 はい。アニソンだけでなく歌謡曲も好きです。実は中国の歌とか洋楽はあんまり聴かないんですよ。12歳頃からほぼ日本の曲しか聴いてません。中国の曲にもいいものはたくさんあるんですが、ラブソングしかないっていう問題があるんですよ。私、中学校の時に反抗期というか、周りのものが全てダサく見えちゃったんです。

自分から遠いもののほうがいい。自分の国のものじゃないほうがおしゃれに見えたんです。「愛してる」とか「好きだ」とかうるさい!って思ってて(笑)、日本の「運命」とか「生まれ変わっても」みたいな少し変わった題材の歌が好きでしたね。

 

――それでアニメという別次元の世界を歌う日本のアニメソングがいいと。そういう話を聞くと、中二病は日本も中国も同じですね(笑)。

 

暁月 本当にそう思います(笑)。

 



どちらかというとアニメキャラのほうに共感してしまうことが多いので

――グランプリ受賞後、2016年に「金田一少年の事件簿R」エンディングテーマ「決意の翼」で、アニメソングシンガーとしての第一歩を踏み出しました。先日リリースされた1stアルバム「Time Capsule」はデビュー以降に発表したアニメソングを全て収録した、現時点での集大成ともいえる1枚になりました。リリースからしばらく時間が経ちましたが、今はどんなお気持ちですか?

 

暁月 「Time Capsule」というアルバム自体が私の人生の記録のようなものですから、デビューから今までの道のりを振り返って、これから先にどんなことが待っているんだろうなって楽しみにしている感じですね。

「Time Capsule」というタイトルは私が考えたんです。デビュー以降のシングルが全部入っているというのもありますけど、私が子どもの頃から好きな「朧月」という曲が入っていますし、何より私がアニメ、アニソンが好きで、オタクとして生きてきた道のりの集大成のような1枚なんです。コンセプトはあまり考えてはいませんが、歴史、過去を記念しつつも、未来に希望を託すという気持ちはあります。

 

――今、改めて聴く「決意の翼」はどんな印象ですか?

 

暁月 デビューした時の気持ちを思い出します。デビュー当時は顔を出さなかったんですけど、その時の希望と不安と焦燥感が混じった感情は今でも鮮明に覚えていますね。当時は本当に自信がなくて、顔を出す勇気もありませんでした。

その時は本当に余裕がなくてそんなにうまく歌えないところもあったんですが、今は少しは考えながら歌う余裕は出てきたかな。

 

 

――「マモリツナグ」は、原作コミックが中国でも人気の「銀の墓守りガーディアン)」のオープニングテーマでした。

 

暁月 この曲は最初に聴いた時、美しい、きれいという印象を受けました。こんなに高い声が出るかなと言う心配はあったんですが、ちゃんと出ましたね(笑)。歌いながら鍛えていったという感じです。もともと歌ううえで余裕なんてなかったんですが、この曲も手探り、ちょっと不安を抱えながら歌った記憶があります。

 

 

――「青の祓魔師 京都不浄王篇」のエンディングテーマ「コノ手デ」は、シリアスな世界観の楽曲になっています。

 

暁月 「青の祓魔師」は、私も高校2年生の時に観てはまっていた作品なんです。そんな作品の主題歌を歌えるなんて感動です。なんて人生だ、とちょっと不思議な気持ちでしたね。

このアニメは第1期に比べてちょっと闇がかっている感じなので、曲もダークな面があるように思います。雪男(ゆきお)っていうキャラクターが大好きで、そのキャラの心の闇とか痛みを想像しながら歌っていました。すごく自分の気持ちと共通している部分がありますので、私自身の感情表現もできたと思います。

 

――アニメソングを歌う際、作品の世界観は意識されますか?

 

暁月 そうですね。アニメソングはポップスと違って、世界観、表現の幅をアニメと影響しあって、互いに広げられるのがいいと思ってます。その意味で、アニメソングはアニメ本編から独立してはいけないと思いますし、そこはすごく意識しています。

それと自分ってあまり感情が普通じゃないというか、三次元な感情がないんです。どちらかというとアニメキャラのほうに共感してしまうことが多いので、それも歌う時に役立っているのかなと思います。中二病でよかったなって思います(笑)。

 

――3次元よりも2次元のキャラと友達になりたいみたいな。

 

暁月 私ならこのキャラを理解してあげられる、と思ったりしますね。

 



私は人の傷を癒やしているのと同時に、自分の傷も癒やしているのかも

――「実験品家族クリーチャーズ・ファミリー・デイズ」オープニングテーマ「Early Days」は、アキバ総研の投票企画「今期のダークホース鬼太郎」OP、首位奪還なるか? 「2018春アニメOPテーマ人気投票」結果発表!【アキバ総研公式投票】」で1位になりました。

 

暁月 この曲を最初に聴いた時は爽やかだな、ポジティブなのに闇が入っていて、説得力があるなと思いました。「アキバ総研」で1位になったのは本当に嬉しいんですけど、こんな私がまさか、という感じですね。あんまり実感がないというか。

 

 

――アプリゲーム「WILD ARMS Million Memories」主題歌の「Million Memories」は、まさにゲーム主題歌らしい壮大な楽曲ですね。

 

暁月 この曲はほかの曲と比べて、よりコアな王道アニソンという感じです。中二病の頃の自分の好みに近いかも知れません。その時にこういう曲をけっこう聴いてたんです。具体的にはSound Horizonとか梶浦由記さんとか、そういう幻想的な世界観に近いんじゃないかなと思います。歌詞も幻想的ですし。

特に中国では、Sound Horizonの「美しきもの」っていう曲が人気でした。メロディラインが美しくて、中国的な美的感覚にも近いのかもしれません。私もこの曲が大好きです。

 

――確かにそういう世界観に通ずるところのある曲ですよね。どういう気持ちで歌われましたか?

 

暁月 こういう曲を歌えるんだ!という楽しみがありました。やはりポップスは感情を具体的に形容するのに対し、アニソンはシチュエーションを説明せずに感情だけを抽象的に歌う傾向があるように思います。だから私にとってアニソンは、純粋で理論的で、感情を表現するのに効率がいい音楽だと思います。

 

 

――ここまでアルバム収録のタイアップ曲を振り返っていただきましたが、アニメソングゲームソング歌ってみて改めて気づいたことなどはありますか?

 

暁月 私の曲には「勇気」とか「希望」とか「翼」とか、ポジティブな歌詞と同時に、「闇」とか「傷」とか「涙」といったネガティブなキーワードも入っています。今まで私が聴いてきた曲って、ポジティブな要素よりもネガティブな要素のほうが多かったんですけど、表現者の立場で何を伝えたいというと、もちろん闇も伝えたいんですけど、その闇を乗り越えた先に希望もあるんだよと、ということを伝えたくて、そこは歌いながら自分にも語りかけている思いもあります。その点で、自分も少しは成長している部分もあるのかなと。私は人の傷を癒やしているのと同時に、自分の傷も癒やしているのかも知れません。

 

オリジナル曲でも、アニメの画面を想像しながら歌っているんです

――アルバムにはタイアップ曲だけでなく、オリジナル曲も収録されていますね。

 

暁月 今まではシングルのカップリング曲でしかオリジナルはなかったんですが、今回は一気にたくさん歌いました。それぞれ違う世界観なんですけど、自分の表現の幅が広がって新鮮でした。

実は「Time Capsule」の曲順は、1日の時間帯の順で考えていたんです。最初は静かな夜更けから徐々に朝になって、昼になり、そしてRock nightになってというストーリーを考えています。最初の2曲は、その夜明け部分です。

 

――「Far from home」「夜のとばりの中で」の2曲は、確かに雄大な風景が広がるような、徐々に世界観が描かれる楽曲ですね。ところで今回のオリジナル曲のクリエイターは、アニメソングを手がけられている方も多いですよね。「砂時計」の藤末樹さんは、「THE IDOLM@STER」「ラブライブ!!」「とらドラ!」などに楽曲を提供されています。

 

暁月 この曲は本当に王道アニソンという感じで聴いた瞬間、何かの魔法少女アニメのオープニングになれる曲だと思いました(笑)。歌詞も魔法少女感がありますね。オリジナル曲でも、アニメの画面を想像しながら歌っているんです。ここはクレジットが出てくるぞ、監督は誰だれみたいな。

 

 

――「CHOICE」は、シンガーソングライターの佐々木恵梨さんが作詞を手がけられています。

 

暁月 この曲はアルバムの中で唯一アニソンっぽくないなと思ったんです。私は脱毛サロンCMソングっぽいなって。歌う時も、10代の女の子の悩みを想像して歌いました。歌詞も「輝く」とか「女子」とか「人生」みたいな感じですから(笑)。

 

――脱毛サロン(笑)! ただ、歌詞を読むと「世界の常識に対する反感」というか、暁月さんの現実に対する反抗心みたいなものも見え隠れするような。

 

暁月 確かに。私は大人の言うことをきかない子どもだったので、こういう反抗心は今でもあります。「本当はメイクしないほうが若く見えるよ」とか、「こういう服を着たほうがいい」とかアドバイスしていただくことがあって、それはそれでありがたいんですが、それでも自分の好きなほうがいいんだと思うこともあるし、それで老けて見えてもいいかなって。

 

――「Let Me Freak」は、flip SideやVALSHEさんの楽曲の編曲でも知られる齋藤真也さんが書かれたダンサブルな楽曲です。

 

暁月 この曲を聴いた時は本当に踊れると思いました。ちょっとわかりにくいかもしれないですけど、リズムがしっかりしてて、金属的でちょっと冷たい感触で、私の好きな闇もあって、でも意志があってみたいな。

 

――「in the night」は、ボカロ曲で知られるLast Note.の作詞・作曲・編曲です。

 

暁月 本当にボカロ感のある曲ですね。Last Note.さんは私のデビューシングルのカップリング曲「クラベル」も書いてくださってて、本当に親近感のある方なんです。この曲もLast Note.さんの曲らしくBPMが200もあって、私の中では挑戦的な曲でした。ちょっとロックな感じもあり、ドキドキしながら歌いました。

 

――最後にボーナストラックとして、流星Pさんのボカロ曲「朧月」のカバーが収録されています。

 

暁月 最初に、アルバムにカバーを1曲入れようかなという話になった時に、まっさきに思い浮かべたのがこの曲なんです。なぜかというと小さい頃にこの曲がすごく好きで、デビュー前に「歌ってみた」動画をやっていた時にこの曲も歌いたかったんですが、オケがなくて私だけでなく誰も歌えない状態だったんですよ。それで今回、無事にアニソンシンガーになれて、アルバムを出せる機会に何か曲をカバーしたいと思った時に、ぜひ「朧月」を歌いたいと思ったんです。

 

――「朧月」にはどういう思い出がありますか?

 

暁月 一番中二病がひどい時に中国で流行ってたんです。歌詞が本当に大好きで、「逃れる術を探すばかりの孤独な星」という歌詞が一番刺さりましたね。その時はもう普通に日本のコンテンツに触れている時期で、「これは日本の曲だから私には関係ない」というような距離感はなく、自然に聴いていましたね。

 

 

――初のアルバムの仕上がりには満足していますか?

 

暁月 満足とか不満足はそんなに考えてないんですけど、一番の感情がデビューからの2年弱の道のりを振り返ることができたのと、今後どんなことをやろうかなと未来に思いを託すことができたのが大きいですね。

 

――今後やりたいことのイメージは、すでに具体的になっていますか?

 

暁月 今までは高くてテンポの早い曲を歌ったりしていたんですが、これからは表現の幅を広げて、ファルセットを活用するようなエモーショナルな歌を歌いたいと思います。

 

オタクがやさしい人たちだと証明してみせるから、みんなもがんばれ!

――そういえば、まだワンマンライブは開催してはいないですよね?

 

暁月 そうですね。実はまだワンマンをする勇気がないんです。イベントとかにはたくさん出していただいているんですが。

歌っている時は楽しいけど、ステージに上がる前の時間がもう不安と焦燥でいっぱいで。あまり自信のある人間じゃないので、ひとつ大きなことをやる前は必ず不安になるんです。ただ、いざやり始めたら楽しいですし、応援してくださる皆さんの顔も見えるので楽しくなるんですが。だから早くその不安を克服したいですね。

 

――暁月さんにとって、アニメソングの魅力は何ですか?

 

暁月 素直なところだと思います。ポップスだとこんな曲が流行ってるとか、こんな曲が決まり、みたいなところがあるんですが、アニメソングって歴史的にけっこう馬鹿にされてきたところがあって、でも歌う人、作る人、聴く人たちそれぞれに、周りからいくらダサいって言われても、「これがかっこいいものだ!」という気持ちがあると思います。その素直な感情がそのまま言葉になったり、シチュエーションの描写がなくてもそのまま感情の表現になったりして、純粋かつ素直なジャンルだと思います。

 

私は子どもの頃は中国にいたので、あまり「オタクかよ」って馬鹿にされることはなかったんですが、ネットで日本の掲示板とか見てると、オタクってあまりよく思われない一面もあるんだと知ったんです。それを見て、「いやそうじゃないでしょ」「オタクってすごくやさしくて繊細な人たちでしょ」と思うようになって、じゃあ私ががんばってアニソン歌手になって私がオタクがやさしい人たちだと証明してみせるから、みんなもがんばれ! みたいな気持ちがその時に芽生えてきたんです。今考えると生意気かもしれないですけど。

 

――いや、すごく力強い言葉だと思います。近年は日本から中国まで歌いに行くアニソンアーティストも増えてきていますが、中国出身で日本のアニメソングを歌っている方はまだまだいないですよね。

 

暁月 はい。中国本土で「歌ってみた」動画をあげたり、中国のアニメの曲を歌っている方はいるんですけど、中国出身で日本で活動しているアニソンシンガーは、私しかいないと思います。なので使命を感じますし、前例のないことをやっているのですごく不安もあるんですけど、それでもやはり中二心というか、私ががんばって世の中に証明するんだという気持ちで乗り切っています。

 

――中二病もそこまで貫くと、もう生き様になりますね。

 

暁月 かなり重傷ですよね(笑)。やばい人間だと思います。

 

――世界的なロックスターとかでも、人間的にはちょっとマッドな人もいるじゃないですか。でもその生き様を貫くことでヒーローになっている。だから暁月さんも信念を持って突き進めば、それは自分のスタイルになって、人々から憧れられるものになるんじゃないでしょうか。

 

暁月 憧れられるかどうかはあまり考えてないんですよ。むしろこう行動しなくて、どうやって生きていくんだよという意識があります。私としては現実に順応して大人達が言ういい子になって、普通に就職してお見合い結婚をして、というビジョンが自分の中に1ミリもなかったんです。

人には天命というものがあると思っていて、一見、自分の選択のように見える選択も、運命かもしれないって思っています。

私としては、これからも自分の天命をかなえていきたいですね。


>> 中二病は国境を越える!? 日中をアニソンでつなぐ歌姫・暁月凜インタビュー! の元記事はこちら
中二病は国境を越える!? 日中をアニソンでつなぐ歌姫・暁月凜インタビュー!