こんにちは。プログレアイドル・xoxo(Kiss&Hug) EXTREME(キスアンドハグ エクストリーム。通称・キスエク)の一色萌(ひいろ・もえ)です。 暑さも落ちつき、すっかり秋気分の今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。 出会いと別れの春を経て、眩しい太陽のもと大型アイドルフェスが数多く開催され、嵐のように駆け抜けて行く夏が過ぎ、秋冬は比較的ゆっくり……なんてこともなく、アイドル現場は今日も今日とてどこかで元気に開催されています。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ある日、いつもどおりにライブを楽しんだ後、地下のライブハウスから階段をのぼって人や車の行き交う通りに出た途端、さっきまでの熱狂の場にいたことが嘘のように街の中に溶け込んでいる自分に気がつき、自分はいままでこの日常と切り離された物語の中にいたんだ、という感覚になりました。 というか、”日常”って、“物語”ってなんなのでしょう。 アイドルのライブに足を運ぶことは私にとっては日常だけど、外に出たらそれが日常ではない人がたくさんいて、でもライブハウスの中には私と同じような日常を送る人たちがいて、でもその人たちにも私の知り得ないまた違った日常が絶対にあって。 ある”日常”の話を別の”日常”に持ち出した場合、別の世界で起きたその出来事は”物語”に昇華されるのでしょうか。 だとしたら、同じ空間でありながら分断された世界とも言えるステージとフロアの間には、それぞれの日常と同時に異なる物語が存在しているとも言えるのでしょうか。 アイドルもファンも、運営さんもイベンターさんも、ライブハウスの外にいる時間の方が基本的には長いわけで、それぞれの日常が存在します。また、毎日のように開催されているライブ現場にも、異なる潮流の日常が存在しています。 しかし少なくともそこでライブが行われている間、その場にいる人々はステージの上で繰り広げられる物語を共有します。たくさんの人が同時に見て、聴いて、感じる物語です。 それは小説かもしれないし、童話かもしれないし、ドキュメンタリーかもしれません。ジャンル分けできるほどはっきりは見えていないけれど、アイドルの数だけ、たしかに物語がそこにあります。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 私は普段からアイドルが好きであることを特に隠さず、私服でもグッズのTシャツやパーカーを着て過ごしていることが多いので、友人やアルバイト先の上司、親戚など……アイドル、とりわけ地下アイドルという分野にあまり詳しくない方から「アイドルのライブってどんな感じなの?」と、質問されることがけっこうな頻度であります。 そんな時、どう答えたらよいものかいつも少し困ります。 話し相手である私が「アイドル好き」であることが明確な状態での問いかけである場合、最初から嫌悪感丸出しでその話題を振ってくる人はそうそういませんが、同様に最初からポジティブなイメージをもっている人もまた少ない、ということは、なんとなく今までに感じてきた雰囲気でわかります。 とりあえず自分が知らないことについては話しようがないので、実際に足を運んで見て感じた具体例を出して可能な範囲で説明します。 あわよくばそのままアイドルに興味を持ってもらえたらいいな、なんて思いながら答えていると、だいたい熱が入りすぎて相手が求めている以上の情報量をぶつけてしまい、後で反省することになるのですが……。 私の説明が質問してくれた人にとって納得いく答えになっていたのか、求めていた程度の情報に収まっていたのかはここでは置いておくとして、最終的にはライブの開催されている頻度や会場に渦巻くものすごい熱量、一般的にイメージされているアイドル像とは少し違った形のアイドルも広く活躍しているということなどについて、何かしら驚いたリアクションが返ってくることが多いです。 驚く、ということは、私の話したアイドルについての話がきっとその人の日常ではあまりないエピソードだったということで、その時、逆に私は何の気なしに話したことが”驚かれたこと”に対して驚いていたりする場面も多々あります。そういった些細なことからも、誰かの日常と自分の日常がまったく別物であるということを感じます。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 私はアイドルを見る時、どんな視点で見ているんだろう?もしくはアイドルを見ているまさにその時、今どこを見ていたんだろう?と、よく自問自答します。 歌、ダンス、容姿、衣装、楽曲、照明、応援しているお客さん……アイドルのライブには色々な要素がありますが、いつも最後に頭に残るワードは”物語”です。 この連載でも、”物語”という単語は何度か登場していると思います。 音楽がよくて、パフォーマンスがいい。それだけでライブは十分に楽しめるのですが、アイドルをアイドルとして味わおうとするとき、私はどうしてもその前後にあったことや取り巻く状況、メンバーさんのキャラクターが気になってしまいます。なので、初めて見るアイドルさんについてはライブに集中できるよう、事前にある程度調べてから会場に向かいます。ながら、なかなか面倒くさいこだわりを持ったものだと思います。 (念のため明記しますが、これはあくまで私個人の価値観で、アイドルやライブの楽しみ方はもちろん人それぞれでよいものです。押し付けるつもりはありませんので、どうぞ気楽に読み進めてください。。) 思えば私の特に好きなアイドルさんたちは、何も知らない人に一から説明するのはちょっと苦労するような経緯のある子たちが多いような気がします。 涙が出るようなつらいことを乗り越えて、血の滲むような努力をした上で、笑顔でステージに立つ。 既視感のあるシナリオでも、実際に人生をかけて真剣に取り組む姿を目にしたら応援したくなってしまいます。 そしてその物語がドラマチックに展開するほど、アイドルさんは生身の人間のイメージから離れてマンガやアニメのキャラクターのような愛らしい存在に見えてくるのです。これはスポ根マンガの享楽に近い感覚だと思っています。 ところで、私がアイドルの物語に対して展開やパフォーマンスに至るまでの過程にひりつくようなドラマを求めてしまうという嗜好は、ほぼ間違いなく、物心つく以前から親と一緒に『ASAYAN』を見ていた幼少期に培われたものです。 なのでもしアイドルへの導入が違っていれば、こだわるところも違っていたのかもしれないと思うと、これも一人のアイドルファンの物語と言えるのかもしれません。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ HAMIDASYSTEMというアイドルさんが、現在『物語プロジェクト』という画期的な試みをしているのをご存知でしょうか。 HAMIDASYSTEMは東京を中心に活動をしている、「メロディック・エレクトロニカ」がテーマの4人組のアイドルです。 独特な世界観に引き込むステージングや個性豊かで魅力的なメンバーさんに加え、次々と打ち出される目新しい展開で色々な角度から楽しむことができる、今もっとも注目されているアイドルグループのひとつです。 先述の『物語プロジェクト』とは2018年の4月から始まった、小説と楽曲とリアルイベントをリンクさせてしまおうという企画です。 メンバーさんをモチーフとして書かれた小説をもとにして、その世界観に沿った楽曲を発表し、小説の舞台となった場所でファンとの交流イベントやミュージックビデオの撮影を行う、といったものです。 【参考リンク:HAMIDASYSTEM物語プロジェクト 小説の中では、メンバーの4人は同じ学校に通う女子高生として登場し、それぞれの日常を生きる中で徐々に出会い、関わり合っていきます。 登場するキャラクターはあくまでメンバーさんがモチーフであるというだけで、その物語はフィクションなのですが、名前も同じで、姿形や話し方、趣味も実際に近い設定で描かれています。 そのため読み手の頭の中では意識せずともメンバーさんの声、姿でシナリオが再生されます。 そしてそのイメージを楽曲とミュージックビデオが補完し、強固なものにします。 この企画はメンバーさんをほとんど自然体のままキャラクター化することに成功しているので、マンガやアニメが実写化する時にありがちな「イメージと違う」という摩擦を生じさせる隙がありません。 また、小説・音楽・リアルイベントの全てを完璧にリンクさせることで、どのコンテンツから興味を持った人でもストレスなく他ジャンルを行き来して楽しむことができるという点でも、素晴らしい試みだと思いました。 私はリアルイベントに参加できなかったのですが……小説の登場人物として目の前に現れたメンバーさんはファンの皆さんの目にどのように映ったのでしょう。 小説のキャラクターとして映ったのか、HAMIDASYSTEMのメンバーとして映ったのか?……参加した方、ぜひ感想を聞かせてください。 アイドルというコンテンツを通して、日常と物語を見事に交差させたこの企画は、”アイドルの物語”に強烈に惹かれる性質の私にとってとても魅力的で、その仕掛けが見えたと同時にいたく感動しました。 この企画のクライマックスは、2018年9月29日に行われる東京キネマ倶楽部でのワンマンライブという位置付けになっています。 しかし、このワンマンライブの開催は企画が発表された2018年4月よりもっと前の、2017年の12月に発表されたものでした。となると、この企画はいつから、どのくらいの時間と情熱をかけて作られてきたのでしょうか。 現実世界で半年という長い時間をかけて完結させるという企画は、今日明日で状況が変わっているかもしれない現在のライブアイドルの世界において、非常にチャレンジングな挑戦に映りました。 半年、もしくはそれ以上の期間の間に、アイドルとファン、それぞれの日常と非日常の間にはたくさんの物語が生まれたに違いありません。 あまり喜ばしくないニュースが多く、終わってしまう物語にばかり注目が集まる今のアイドルの世界でも、確かに新しい物語は紡がれています。 この世界で次はどんな物語を見ることができるのか、今も新鮮な気持ちでワクワクできることに一人のアイドルファンとして、幸せを感じています。 【プロフィール】 一色 萌(ひいろ もえ) ニックネーム:萌ちゃん、萌氏、誕生日:5月27日、出身:東京都血液型:A型、趣味:アイドル研究、特技、アイドルについて話すこと WALLOP放送局「キスエクのギュッと!プログレッシヴ!」レギュラー出演中(2018.4〜) https://twitter.com/hiiro_moe https://twitter.com/xoxo_extreme Email : contact@twelve-notes.com 【グループプロフィール】 xoxo(Kiss&Hug) EXTREME(キス・アンド・ハグ・エクストリーム 通称:キスエク) 楠 芽瑠・一色 萌・小日向 まお・小嶋 りんの4名からなる、プログレッシヴロック(略:プログレ)の楽曲を中心にパフォーマンスしているアイドル。プログレとは、曲調がよく変わる・曲が長い・変拍子…等が特徴の楽曲です。 2017年に、発売したシングル「えれFunと”女子”TALK〜笑う夜には象来る〜」に対して(キング・クリムゾンエレファント・トーク」オマージュ元キングクリムゾンエイドリアン・ブリューがその動画に「I like it!」とコメントで絶賛。 ライブ活動の他、ディスクユニオン新宿プログレ館で一日店員を務めたり、プログレファンの聖地である吉祥寺シルバーエレファントに、アイドルとして初出演。 2018年にフランスを代表するプログレバンドMAGMA公認カヴァー曲の「The Last Seven Minutes」を初披露。その動画がyoutubeにアップされると、カヴァーを公認したMAGMAが、公式Facebookで紹介したこともあり、一日で2000以上の再生数を得て話題になる。 同年2月4日に記念すべき初のワンマンライヴを鹿鳴館にて開催。プログレッシヴロックを知っている人も知らない人も楽しめるLIVEと評判。