日本競馬にとって凱旋門賞制覇は、届きそうで届かなかった、まさに“悲願”である。そして今年、三冠馬オルフェーヴルが満を持して決戦に臨む。

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■現地フランスでの評価は真っぷたつ?

今度こそ、今年こそ、待ち望んだ歓喜の瞬間がやってくる。

10月7日フランスロンシャン競馬場を舞台に行なわれる凱旋門賞(GI)は、芝のレースでは世界最高峰に位置づけられる。そして、今年で91回目となるこのレース、実はヨーロッパ以外で調教された馬の優勝はこれまでに一度もない。

日本の調教馬は1969年スピードシンボリ(着外)以来、これまでに延べ12頭が挑戦しているが、エルコンドルパサー(99年)とナカヤマフェスタ(2010年)が接戦の末に2着に敗れ、最も期待を集めた06年のディープインパクトも3位入線(その後、禁止薬物検出で失格)と、あと一歩のところまで迫りながら、いずれもヨーロッパ勢の分厚い壁に阻まれてきた。

そして、いよいよその壁を乗り越えそうなのがオルフェーヴル(牡4歳)だ。

オルフェーヴルといえば、泣く子も黙る昨年の三冠馬で、年末の有馬記念(GI)も制した現役最強馬。だが、今年は初戦の阪神大賞典GII)でまさかの大外逸走2着。続く天皇賞・春(GI)でも不可解な大惨敗。ようやく6月の宝塚記念(GI)で今年初勝利と、やや不本意な上半期を過ごした。

敗れたレースはいずれもオルフェーヴルの持つ気性の激しさに起因したものだったため、環境が大きく変わる海外遠征について疑問視する声も少なからずあった。

しかし心配の必要はなさそう。

8月25日フランスに渡ると、順調な調整を経て、9月16日、本番と同コース同距離の前哨戦フォワ賞GII)に出走。5頭立てと少頭数だったこともあるが、単勝オッズ1.7倍という断然の支持を集めると、道中はスローペースを嫌う素振りを見せながらも、初コンビのクリストフ・スミヨン騎手との呼吸もピッタリ。最後の直線でインから抜け出し、地元フランスのGI馬ミアンドル(牡4歳)に1馬身差をつけて快勝したのだ。

この勝利を受けて、大手ブックメーカー凱旋門賞のオッズは、昨年の覇者デインドリーム(牝4歳・ドイツ)と並ぶ1番人気に急上昇。一気に世界中から注目を集める存在となった。

ところが、現地フランスでは、この前哨戦の評価は意外にも真っぷたつに分かれているという。

「正直なところ、『もっと強いと思っていたので、フォワ賞の内容に拍子抜けした』という意見は少なくないです」

そう理由を教えてくれたのは、フランスの女性競馬ジャーナリスト、イサベル・マシュー氏だ。

「まず期待されていたのは、日本で見せるような圧倒的な勝利でした。2着のミアンドルは昨年の凱旋門賞では離されての6着。それを相手に1馬身差というのは物足りないということ。また、この日の馬場コンディションを考えれば、勝ちタイムの2分34秒台は平凡以下。スローペースだったことを差し引いても、レースのレベル自体に疑問を持たれているようですね」(マシュー氏)




確かに、これまでのオルフェーヴルは圧倒的な後半の爆発力で後続を突き放して勝ってきた。また、同日に同距離で行なわれた古馬牝馬(ひんば)GI、ヴェルメイユ賞を勝ったシャレータ(牝4歳・フランス)のタイムは、オルフェーヴルの勝ちタイムよりも約5秒も速い。

やはり、オルフェーヴルのパフォーマンスは物足りないものだったのだろうか。管理する池江泰寿(やすとし)調教師に聞いてみると、

「状態としては、同じ休み明けだった昨年の神戸新聞杯GII)(1着。2着に2馬身半差の完勝)と同じくらいの内容。まずは勝ててホッとしました。ただ、今日のままでは本番はダメ。残り3週間あるので、ここから調子を上げて臨みたい」

と、部分的には認めつつも、あくまで本番は先であり、まだまだ上積みがあることを強調した。

前出のマシューもこうつけ加える。

「ネガティブな見方はやっかみみたいなもので、有力馬ほどあるものです。それだけオルフェーヴルが有力とみられている証拠。どちらかといえば、ライバルとの力関係のほうが重要でしょう」

■最大の課題である気性面も不安なし!

連覇を目指すデインドリームは、今年の日本ダービーディープブリランテが出走したイギリスのGI、キングジョージ6世&クイーンエリザベスS(ステークス)を勝ち、返す刀で地元ドイツのGI、バーデン大賞も勝ち、目下GI2連勝中。前述のとおり、オルフェーヴルと並んで1番人気に推されている。そして一昨年、昨年と来日し、鮮烈な差し脚でエリザベス女王杯(GI)を連覇したスノーフェアリー(牝5歳・イギリス)も人気の一翼を担っている。

また、過去10年で8勝を挙げている3歳馬からは、フォワ賞と同日に行なわれたニエル賞GII)を勝った今年のフランスダービー馬サオノワ(牡)や、出否は未定ながら、今年のイギリス二冠馬キャメロット(牡・アイルランド)も出てくれば怖い存在だ。

しかし、能力的にオルフェーヴルが下ということはないし、追い風となる要素もある。

ひとつは、日本からの帯同馬アヴェンティーノ(牡8歳)の存在。

「(フォワ賞で)あのスローペースのなか、行きたがる素振りを見せながらも我慢できたのは大きい」

と、池江調教師が振り返るように、オルフェーヴルにとって最大の課題である気性面がクリアできたことは大きな収穫。そして、その陰の立役者がアヴェンティーノだった。

1頭では集中力を欠き、テンションの上がりやすいオルフェーヴルだが、フォワ賞ではアヴェンティーノの後ろにいたことで平常心を保てた。本番もフルゲート(20頭)割れは確実で、格下のアヴェンティーノもまたエスコート役として出走できる見込みだ。

そして、もうひとつはオルフェーヴルが勝ったフォワ賞は、日本調教馬にとってはエルコンドルパサー以来のヨーロッパでの中距離重賞勝利ということ。本番では惜しい2着となったエルコンドルはこの時点でGIを国内外で計3勝。一方、オルフェーヴルは現在までにGIを5勝している。エルコンドルに足りなかった半馬身差を埋めるのに、GIが2勝あればおつりもあってよさそうなものだ。

オリンピックイヤーの今年、ロンドンではメダルラッシュで多くの日の丸が掲げられた。次はロンシャンで掲げられる番だ!

(取材・文/土屋真光)

■週刊プレイボーイ42号「オルフェーヴル凱旋門賞制覇、ほぼ確定の根拠!!」より