インタビューシリーズアニメ・ゲームの“中の人”」第27回は、アニメーターの伊部由起子さん。伊部さんは「ななついろ★ドロップス」、「ジュエルペット てぃんくる☆」、「ちえりチェリー」、「鬼斬」、「魔法少女 俺。」のキャラクターデザインで、ファンから高い評価を得ている。また、「ソウルイーターノット」では2頭身キャラ(SDキャラ、ちびキャラ)のアイキャッチを全話描くという、一風変わったキャリアも持っている。もともとアニメ業界に入るつもりはなかったという伊部さんだが、彼女の心を変えさせたのは、師匠でアニメーション監督の山本天志さんからの熱烈なスカウトであった。「冒険遊記プラスターワールド」、「Φなる・あぷろーち」、「魔法先生ネギま!」、「鍵姫物語 永久アリス輪舞曲」、「護くんに女神の祝福を!」、「まかでみ・WAっしょい!」、「うみものがたり〜あなたがいてくれたコト〜」、「キューティクル探偵因幡」、「棺姫のチャイカ AVENGING BATTLE」などにも作画監督として参加した、伊部さんの仕事の流儀や今後の挑戦とは? 今回の独占インタビューでは、「ななついろ★ドロップス」と「ジュエルペット てぃんくる☆」のシリーズ構成・脚本を務めた、故・島田満さんとの思い出も語っていただいた。

 

描いた絵が「生きて見える」


─本日はどうぞよろしくお願いいたします。早速ですが、伊部さんがアニメーターをやっていてよかったと感じるのは、どんな時でしょうか?

 

伊部由起子(以下、伊部) 作画って、白い紙に鉛筆と色鉛筆で絵を描くわけじゃないですか。それがほかの方の手を通り動画になって、色がついて、声がついて、音もついて、映像になって。映像を観た時、自分が思っていたよりも「生きて見える」ことがあるんです。そうなった時、よしっ! やったぁ!って思いますね。


アニメーターには絵コンテしかないんですよ。監督さんや演出さんはアフレコに行ってらっしゃるんですけど、作画はずーっと室内にいるのでコンテを見ながら、「この時の声優さんは、こういうお芝居をされるんじゃないかな」って思い込みで描くんです。それがぴったり合ったら本当に絵じゃない感じになって、そういう時にはやる気がなくなっていてもあっさり復活します(笑)


─どんな作品に影響を受けましたか?


伊部 ちびキャラの影響は、やっぱりシールの「ビックリマン」ですね。初めて出たシールが頭の上に鐘をかぶった「鐘助(しょうじょ)」という女の子キャラクターでして、男の子向けのものだと思い込んでいたのに、そんなかわいらしいキャラクターが出たものだから、いきなり興味を持ってしまって(笑)。「ビックリマン」のキャラクターって、ありえないものが合成されて作られていて、裏書が物語にもなっていて、おもしろいんですよ。今は誰に引かれようが、好き好き!と言いまくっていますが、当時は学校で気づかれないようにこっそりと集めていましたね。「ビックリマン」の影響で、「ドラゴンクエストIV 導かれし者たち」とか「ドラゴンクエストV 天空の花嫁」とかも、ドット絵のちびキャラのほうを追いかけていました。本来の頭身も好きですけど。


ちびキャラ以外だと、「サクラ大戦2 ~君、死にたもうことなかれ~」を友達に借りてプレイした時に、レニ・ミルヒシュトラーセちゃんの笑顔のかわいらしさにときめいてしまい、ブラウン管にトレペを当てて模写していました(笑)アニメは動いちゃうから、そんなふうに思ったことはないですけど、ゲーム止め絵が多いじゃないですか。あれを見て以来、かわいらしい笑顔を描きたいなと思うようになりました。あと、コメディ表現は「ドラゴンクエスト 4コママンガ劇場」から学んでいますね。

 

ちびキャラとかわいらしいキャラが得意


─伊部さんの参加作品には、女性キャラが多い印象があります。


伊部 女の子は描きやすいですね。かわいらしく描いていいものは、どこまでもかわいらしくしますよ。女の子キャラ表を見ながら、キャラ表の範囲でできる限りかわいくできるんですけど、男の子はなかなかカッコよくできなくて……(苦笑)。だから、「魔法少女 俺」(2018)とかはとにかく原作を見ながら一生懸命描いていました。


─「かわいらしく」とは、より具体的にどう工夫されるのですか?


伊部 精神論なんですけど、かわいく描きたい!と思えばかわいくなるんです。


─伊部さんのちびキャラで外せないのは、やはり「ジュエルペット てぃんくる☆」(2010~11)のエンディングで元気に走るあかりミリア、沙羅ですよね。ファンの間でもすごくかわいいと好評でした。


伊部 ありがとうございます。ちなみにファンディスクだと、ちっちゃいアルマが増えております(笑)


─「ななついろ★ドロップス」(2007)でも、登場人物がちびキャラ化していました。


伊部 原作がそうなんです。原作はぺろさんがSDキャラを描かれていて、いとうのいぢさんとぺろさんの絵は結構違っていまして、アニメのほうはのいぢさんの絵をちっちゃくした感じに描き直させていただきました。原作のぺろさんの絵もすっごくかわいらしいので、原作ゲームプレイしてみてくださいね


─「鬼斬」(2016)第8話でも、「だっこできるアイドル」が活躍しましたね。


伊部 監督で師匠の山本天志さんが私のSDキャラを気に入ってくださっているらしく、私と組む時は、「SDを入れちゃえ」という感じになっています。ご本人的にはSDのルーツはもっと古い作品由来らしいのですが。だから、この作品のほかにも、山本さん監督の「いつか天魔の黒ウサギ」(2011)で、次回予告のSDキャラは全部担当させていただいて、山本さんから見れば、私は「SDの人」という感じなんだと思います。山本さんもいつの間にか私のSDを模写して、描けるようになっているんですけど(笑)


─「ソウルイーターノット!」(2014)のアイキャッチを全話数描かれているのも、SDキャラにお強いという理由からでしょうか?


伊部 そうですね。ボンズさんにはお世話になっていて、名前は出ていませんけど、他作品のSDキャラも結構描かせていただいています。


─「魔法少女 俺」のココロちゃんとハッピーちゃんも、伊部さんが得意なちびキャラと言えるのでしょうか?


伊部 2頭身になった時の絵を描くのは楽しいですね。

 

原作とキャラの目を大事にするデザイン


キャラクターデザインにあたり、気をつけていることは?


伊部 原作を読んで大切なところを拾い、最大公約数的なものを選ぶこと。あとは、やっぱり目ですね。人物って、最初に目に行くじゃないですか。だから、色がついた時に映える、きれいな目にしたいなと思っています。


─「ジュエルペット てぃんくる☆」のメインキャラクターは、伊部さんのオリジナルですか?


伊部 アレンジを含めると、オリジナルがほとんどです。もともとセガトイズさんのゲームがあって、その時のメインキャラもいましたが、まんまじゃなくてオリジナルにしてほしい、頭身を伸ばしてちょっと萌えも入れてほしい、といったお話がありました。


あかりちゃんのデザインは、相当紆余曲折あって、何案も何案も何案もラフを作って、その中から19番目の「S案」に決まりました。沙羅も結構迷っていますけど、ミリアは結構あっさりめに決まったと思います。


サブキャラクターについてはいかがでしょうか? 作品によっては、別のデザイナーを立てたり、1話のみの登場ですと、作画監督デザインすることもあるそうですが。


伊部 基本は宮川さんか私ですね。


─先代ジュエルスターで、魔法学校の鐘つき係であったジュディもそうなんですね。


伊部 この子モデルがいるんですよ。昔の実写映画の女優さんからニュアンスだけいただいて、デザインしました。


─衣装も伊部さんがデザインを? ジュエルストーンが増えると、変身後の衣装も豪華になっていました。


伊部 基本はそうですね。後づけで「学年上がると、服のデザイン変わるから」と言われて、聞いていませんよ?って感じでしたけど(笑)


てぃんくる☆」は、途中から宮川知子さんがガンガンに入ってくれて、ジュエルペットだけでも大変なのに、小物とかかわいらしいものもいっぱい作ってくださって。私だけの力じゃないんです。


─さまざまな作品で総作画監督を経験されて、何か思うこと、気になることはありますか?


伊部 各話作監に入っていれば、原画修正の時にポイントになる目とか耳とか顔の形とかをきっちり直せるんですけど、総作監をしていると、レイアウト修正までしか入れられないんですよね。だから、原画修正をきっちり入れている時に比べれば、ちょっと落ちるかもという時もあって……。そういう時には口惜しい思いをしています。


「総作監修を入れたものには、作監を入れちゃいけない」みたいな、業界の暗黙の了解があるらしいんです。そんなこと言ってないで、原画さんが描き忘れているところを描き足したり、目のところが間違っていたら直したりしてよって思うんですけど、修正なく動画に行っちゃったりするので、悲しくなることがあります。そういう時は後でデータをもらって、RETASレタス)(編注:アニメーション編集ソフト)で直しちゃうんですけど(苦笑)。

 

手癖で描かない


─そのほかにお仕事で気をつけていることは?


伊部 あまり手癖で描かないようにしています。私は疲れてくると、だんだんキャラが幼くなってくるんですよ。もともとの絵が2~3頭身なので。あまりにも幼くなっていたら、「伊部さん、疲れているな」と思ってください(笑)。作監さんでも自分の手癖で描いちゃっている人がいるんですけど、大体リテイクになっていますね。


─伊部さんの参加作品ではありませんが、原作やキャラデザからは想像できない、ユニークな表情が出てくる作品もありますね。


伊部 皆さんが得意な作品スタイルだったら、枠を外して描いてくださればいいと思うんですけど、今リテイク直ししながら思うのは、外してギャグ顔を描いてくださっているのがフルリテイクになっているので、やっぱりオリジナル的にやられ過ぎるのは困るなと(苦笑)。


─作品参加の基準はありますか?


伊部 あまり人に迷惑をかけないですむ仕事ならという感じで受けていますけど、ここ数年は知り合いの方に誘われた仕事で埋まっちゃっています。正直に言うと、あまりエグイものは描きたくなくて、アクションとかリアルものは得意ではないので、そっちはあまり勧めないでほしいです(苦笑)。


─少女向けアニメに参加したいという、女性アニメーターも多いみたいですね。


伊部 やっぱりそういうほうがいいですよね、やさしくて、かわいらしくて。でも、自分のところに来た仕事は責任をもって、自分の中では最大限いいものにしたいと思っているので、そこは区別なくやっています。


─現在は、ぴえろプラスの仕事が中心なのでしょうか?


伊部 「鬼斬」と「魔法少女 俺」がぴえろプラスさんだったのでそこに机があるだけで、ほかの仕事が入ったら、そっちに移動しますフリーランスなので、家で仕事をしている時もありますよ。


─お忙しく、長期休暇は取りづらいと思いますが、息抜きは何をしていますか?


伊部 ゲームが好きなんですよね。今はスマホゲームの「ファイアーエムブレム ヒーローズ」をちまちまやっていて、できればもっとゲームをやりたいんですが、日曜日はずっと寝ていますね(苦笑)。買うだけ買って、やっていないゲームが結構あります。

 

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アニメーター・伊部由起子 ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人” 第27回)