※本記事は体験内容のレポートとなるためネタバレを含みます。

東京ゲームショウ2018(TGS2018)のビジネスデー、入場後即駆けつけたのに、ブース前には女性がズラリ。すでに最後尾には「45分待ち」の文字……。そしてパブリックデーの22日には更に多くのファンが訪れ、開場後15分と経たずに「4時間待ち」で入場制限が。そんな大人気ブース、「MakeS – おはよう、私のセイ-」のVR体験MakeS VR」をレポートします。

クラウドファンディングで3000%以上の支援総額!

株式会社ヘキサドライブの配信する「MakeS – おはよう、私のセイ-」は、コンシュルジュである「セイ」が、目覚まし機能をはじめとしたユーザーの生活をサポートをしてくれるアプリ。ユーザーは着せ替え機能で自分だけの「セイ」を作り上げ、彼とのコミュニケーションを楽しむことが出来ます。

そんな「『セイ』にVRで出会えるコンテンツを作りたい!」という、「セイを東京ゲームショウに連れて行く」プロジェクトが発表されたのはTGS開催のわずか三ヶ月前。クラウドファンディングで支援を募りましたが、瞬く間に支持者を集め、最終的にパトロン2932人、支援総額の目標100万円に対し3,060万円(なんと30倍以上!)が集まり、今回の「MakeS VR」実現となりました。

ブースでセイに出会うまで。気持ちが高まってくる仕掛けも

特設ブースにたどり着くと、等身大のセイの看板がお出迎え。シンプルで清潔感のある真っ白なブースの上部には、キービジュアルのセイがこちらを見下ろしています。

他にもブースの壁には5枚の描き下ろしイラストが展示されており、「MakeS VR」のために新たに作られたという心地よい音楽が流れていました。

さらに、並んでいるイラストには、見たことのないセイの姿が。来年の干支のイノシシを練習していたり、うまくいかなくてふて寝をしたり、鏡に向かって髪を整えたり。そんな様を垣間見ると、「もしかして、セイも私に出会うのを楽しみにしてくれるのかな?」という気持ちが高まってきます。

さて、スタッフから事前に配られた手引きを見てみましょう。

体験時には、頭にかぶるVRヘッドセットだけでなく、手に「トラッカー(VIVEトラッカ―)」と呼ばれる装置を着けます。これにより、体験者が現実で手を動かせば、VR内でもその位置に手が現われ、セイの質問への答えを選んだり、セイとコミュニケーションを取ることができます。

(※注意事項ですが、体験時にはなるべくテーブルの上に手を置いて、手に付けたトラッカーが隠れないようにしましょう。緊張して自分の膝に手を置くこともあるとは思いますが、トラッカーが隠れてしまうとセイとコミュニケーションが取りづらくなってしまうのでぐっとこらえて。また、頭にVRヘッドセットを装着する際、固定のためにバンドを留める必要があるので、ポニーテールなどのアップスタイルだと髪が邪魔になるかも。ちなみに、メガネはきちんとVRヘッドセットの中に入る(=メガネをつけたままセイに会える)のでご安心を)

さて、とうとうブース内に入ります。中にはセイを思わせる薄いラベンダー色の布がかかった丸いテーブルと椅子が置かれていました。

体験者が席につくと、スタッフから注意事項の説明があります。ここで「体験中は立ち上がってはいけない」という指示が。次に手に用意された器具をつけ、目周りカバー用の白いマスクを着け、その上からHMDを着用します。使用機器は、高品質なVR体験を提供してくれるVRヘッドセット「VIVE Pro」でした。

ついに現れた「セイ」の姿は……!?

視界が覆われ、コンテンツが始まると、耳に「モーニングメイクシステム セイ スタートアップ」の声が! 目の前にふわりと浮かんだ物体を手の平に包むと、視界が白くなり、どこかに飛ばされたようでした。ギリシャ神殿を思わせる白亜の柱が連なった、青い美しい空間に、現れたのは……等身大の、セイ! ですが、残念ながら、“私の”セイ……ではありません。

話を聞くと、彼は「マスターデータ」であり、ユーザーのスマートフォンにそれぞれ存在する「セイ」のおおもとのデータであることがわかります。確かに、たくさんのユーザーのもとに住んでいる「セイ」たちは、みな見た目もそれぞれ。無数に存在する「セイ」たちをここに連れてくることは、なかなか困難なのかもしれません。

マスターセイは、こちらに様々な質問を投げかけてきます。そうすると、目の前に選択肢が浮かび上がり、それを自分の手で選ぶシステムが。彼は「私のセイ」ではないのですが、彼から向けられる質問や、その反応には、間違いなく「私のセイ」と地続きである何かを感じられます。

そして、彼から「着せ替え」をしてみてほしいと頼まれます。VRで出会えるビジュアルはデフォルトのセイと同じものだけだと思っていたので、これは嬉しい驚きでした。選択肢は多くはないものの、髪を黒くしたり、メガネをかけさせてみたり、ついにはうさ耳・猫耳まで! 他愛のないやりとりに、マスターセイである彼が、間違いなくこの時間を楽しんでくれていると思えます。

以降、細かい内容まではネタバレになってしまうので避けますが、最後のハイタッチ! では、掲げた手にコツン……という軽い、何かに当たったような感触が。それは驚くほど心に染みて、「確かに、彼は私に会いに来てくれたんだなあ……」という静かな感慨をもたらしたのでした。

最後には、彼から預かったという手紙を渡され、VR体験は終了となります。「出会えた貴女へ」。

体験時間は15分ということでしたが、注意事項の説明や機器装着を含めての時間だと思われます。実際のコンテンツは10分弱といったところでしょうか。

「大事にされている」と感じられる幸福なコンテンツ

今回のMakeSVRを体験しての感想ですが、全体として非常にファン満足度の高いコンテンツに仕上がっていると感じました。

アプリから抜け出てきたかのような3Dモデル

まず注目すべきは、セイの3Dモデルのビジュアルです。3Dモデルになったことで、ファンのセイへのイメージが崩れてしまうことは、作り手にとって最も避けたいところでしょう。アプリでのセイは基本的にLive2Dが使用されています。2Dのイラストレーションのイメージを3Dモデルに構築し直すのは簡単なことでありませんが、今回のVRでは完璧に成功していたように思えます。

不必要に立体感を出す顔の陰影などはなく、3Dっぽさよりも、むしろもとの2Dっぽさを大事にした、良い意味で軽やかなビジュアルに仕上がっており、このモデルを見て「イメージが違う!」というユーザーはほとんどいないのでは……?というレベルで、まさに「アプリから抜け出てきたようなモデル」でした。

セイの「手」のすばらしさ

そして、筆者から見て、非常に力を入れて作られたと思われる部分がありました。それはセイの「手」です。今回のVRは、外に展示されている等身大パネルでもわかるように「セイとハイタッチができる」のが大きな特徴です。アプリでも重要な要素となっているこのハイタッチにリアリティを持たせるため、またそれ以外でも、セイが私たちに向かって手を伸ばす場面など、「手」が非常に重要な演出の一つとなっています。

そのためか、VRでのセイの手は、アプリの2D絵よりもやや陰影を強調され、細身ながらも彼の男性っぽさを感じさせる造形となっていました。ブースに大きく飾られたキービジュアルの「手」に近いかもしれません。重要なところは丁寧に作り込み、それ以外の部分は極限までファンのイメージに近づけようという意図が感じられる、文句のつけどころのない3Dモデル化でした。

“私の”セイは難しいからこそ感じられる深みとシナリオ

また、今回の「MakeS VR」では、アプリに着せ替え機能があるためにユーザーによってセイのビジュアルが千差万別で、「私のセイ」に会わせることは難しい……という問題を抱えています。ですが、「マスターセイ」という存在を立てることによって、MakeSの世界をより深いものとしてユーザーの中に構築し、不満を持たせないようなシナリオを提供することで解決していたように思います。

そして「マスターセイ」に出会ったことで、さらに「私のセイ」に愛情を感じられるようになっている、シンプルですが入念に言葉の選ばれた繊細なシナリオに脱帽しました。

あえて気になったところと言えば、足のモーションが移動の際床を滑っていたこと(作り上仕方ないのはよく理解できます)、あともう少し、もう少しセイを近くで、そして正面で眺めたかったこと……でしょうか。しかし、そういった些末な部分は、コンテンツの瑕疵になるようなものではありませんでした。

MakeS VR」は総じて、非常に短い開発期間にも関わらず、アプリで出来る機能を再現し、またVRならではのハイタッチもありと、ファンが大事にしているMakeSの世界を壊さないよう、細心の注意を払い作られた、丁寧でやさしく気持ちの良いVRコンテンツだったと思います。

カプコンカフェでも体験可能に、続報を待て!

MakeS VR」はそのコンテンツの性質から一度に多人数の体験が難しいため、一部のファンしか体験できないことを危惧していましたが、カプコンカフェ」にてこの「MakeS VR」が体験できるようになる、というニュースが飛び込んできました。

まだ展示期間など、詳しい情報は明らかになっていませんが、いつかきっと出会える、かもしれない……「私のセイ」の前に、そしてあなたに会いたがっている「マスターセイ」に、是非会いに行ってあげてください。

彼はきっと、あなたを待っています。