9月30日のRIZINで激突する那須川天心(左)と堀口恭司。総合格闘家の堀口にとっては初のキックボクシングルールの闘いとなる(c)Susumu Nagao
9月30日RIZINで激突する那須川天心(左)と堀口恭司。総合格闘家の堀口にとっては初のキックボクシングルールの闘いとなる(c)Susumu Nagao

9月30日RIZINさいたまスーパーアリーナ大会にて、"キックの神童"那須川天心と"総合格闘技メジャーリーガー"堀口恭司が激突する。日本格闘技界最高のカードとの評判が高く、チケットは飛ぶように売れているという。対戦実現に至る経緯、そして試合予想を、関係者やプロ格闘家に聞いた――。

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そもそも、この試合は年末のRIZINキックボクシングトーナメントで組まれると言われていたが、早々と実現することになったのはなぜなのか? RIZIN公式パンフレットの編集を手がけるなど、周辺事情に詳しいライターの"Show"大谷泰顕氏は舞台裏をこう語る。

「この一戦は、まず昨年末の段階で堀口側がメディアを通じて提案し、天心側の意向も加味した上で実現のタイミングを見計らっていたものです。9月に行なわれることになった理由は、ひとつは天心がエースとして活躍するキックボクシングイベントRIZEが11月に両国国技館という大会場での開催を控えていること。もしそこで天心がケガなどのアクシデントに見舞われた場合、年末での実現が白紙になる。

また、RIZINは前回のテレビ視聴率が6%と、ここ1年、視聴率の微減が続いてきたため、今回は旗揚げ当初からの目標だった10%に少しでも近づけるカードを組みたかった、という思惑もあり、年末を前にキラーカードを切る判断をしたのでしょう」

試合は3分3R(延長1R)のキックボクシングルールで、6オンスのボクシンググローブを着用(58kg契約)。MMA(総合格闘技ファイターの堀口にとっては初めてのルールで、キックの頂を極めた那須川の土俵に乗る形になるが、ルール設定で紛糾することはなかったという。

「交渉が比較的スムーズに進んだのは天心、堀口双方の器のデカさに加え、両陣営の懐の深さでしょう。堀口は、師匠の山本"KID"徳郁がキックルールで魔裟斗と対決した試合(2004年大晦日)を念頭に置き、自分もあれをやればいいという認識。もちろん堀口にとってはKIDの死が、この試合に臨むモチベーションにそれなりの影響を与えると思います」

では、試合の展開はどうなるか? 2010年のK-1 WORLD MAX日本王者で、MMAの試合経験もあるキックボクサー長島☆自演乙☆雄一郎は、那須川、堀口の戦力をこう分析する。

「天心選手はオールラウンダー。トータルバランスが最高な選手で、全てが秀でている。堀口選手は伝統派空手出身だけに間合いが他の選手と違う。天心選手よりもパワーがあると思う。首相撲になったときにパワーを使って天心選手を削れるはずです(※ルール上、首相撲からの打撃は1回のみ)」

ボクシンググローブとMMAのオープンフィンガーグローブは、どんな違いがあるのか?

ボクシンググローブだとあんこ(拳の部分に詰める綿)が大きい分、打ち込まずに当たるだけでも効く。脳に響くんです。だからキックとMMAではインパクトが変わる。MMAで使うオープンフィンガーグローブだと、衝撃というよりも痛さがダイレクトに伝わる感じです」

長島は2010年の大晦日、DREAMライト級王者(当時)の青木真也とのミックスルール戦(1Rがキック、2RがMMA)に挑み、見事これを制した経歴を持つ。慣れないルールに臨むときは、どのような難しさがあるのだろうか?

「いつもなら勝つことしか考えずにリングに上がるのに、あの試合(青木戦)だけは違った。結局、リングに上がったら開き直って『もうどうなってもええわ』という気持ちになって。2RのMMAになってからはヒザ蹴りだけを狙っていこうと思ったら、実際にそれがヒットして勝てたんですよ。ただ、試合前は怖さとの闘いに悩んでいました。ルールの違う試合に向かうのは、それだけ怖かったことを覚えています」

では、那須川×堀口戦はどんな展開になる?

「ポイントは距離感。天心選手からすると、誘って堀口選手を動かしてジャブ、ストレートを打って、相手が仕掛けてきたときにカウンターを打つ戦略ですね。だから天心選手はミドルレンジ。逆に堀口選手からだと、距離を取りながらそれをキープして、タイミングを見ながらインファイトで勝負じゃないかな。ロングレンジというか。やっぱり距離の取り合いでしょうね」

ズバリ、勝つのはどっち?

「もし堀口選手が勝つなら前半勝負。KOで決まると思います。逆に天心選手は後半勝負で、そこまで引っ張れたら、パンチ、ヒザ、キックのどれでも引き出しが多すぎる天心選手やから、KOでも判定でも確実に勝つでしょう。

那須川天心の学習能力はハンパやないから、彼が堀口選手の戦法を掴み切るまでの間に、いかに堀口選手は天心選手を仕留められるか。天心選手は、過去に日本拳法出身の中村優作選手とも対戦し、そこで武道やポイント競技の距離感を攻略している。その点でも天心選手にアドバンテージがあると思う。結果としては、やっぱり天心選手有利かなと思いますね」

ちなみに自身が両者と闘ったら?

「堀口選手とは距離の取り合いになるでしょうけど、天心選手とやったらロープを掴んでドロップキックをしてやりたいですね(笑)」

那須川×堀口戦は日本格闘技界にとって大きな起爆剤になり得ると、前出の大谷氏は熱弁する。

「格闘技界には『21年周期の法則』があります。1997年10月11日にPRIDEで高田延彦×ヒクソン・グレイシー戦が行なわれましたが、その約21年前にアントニオ猪木×モハメド・アリ戦(76年6月26日)があり、さらに約21年遡ると力道山×木村政彦戦(54年12月22日)がある。いずれも物議を醸した他流試合であり、現在も"世紀の一戦"として語り継がれている。そして高田×ヒクソン戦から約21年後の今年、那須川×堀口戦が行なわれるのです。

堀口にとってはいわばキックデビュー戦ですから、もし天心が不覚をとったら相当のダメージを負う。しかし、堀口が負けた場合も『そら見たことか』という声が上がるのは確実。キックとMMAを背負った者同士がクロスオーバーする、ジャンルをかけた他流試合になるわけだから、堀口の肝っ玉の強さをまずは讃えて、それを受けた天心の心意気にも最大級の評価が与えられるべき。結果がどうなろうと、格闘ロマンを追い求める両者の闘いには、勝敗以上の価値があると思います!」

■『RIZIN.13』
9月30日(日)/さいたまスーパーアリーナ/13:30開場 15:00開始 その他の対戦カードなど詳細はRIZINオフィシャルサイトにて 

9月30日のRIZINで激突する那須川天心(左)と堀口恭司。総合格闘家の堀口にとっては初のキックボクシングルールの闘いとなる(c)Susumu Nagao