私の在籍している博報堂生活総合研究所は、1981年の設立から現在に至るまで、「生活者発想」に基づいて生活者の行動や意識、価値観とその変化を見つめ、さまざまな研究活動を行っています。

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 本コラムでは、世の中で生じている事象に対して、研究所に蓄積された研究成果やそれらに基づく独自の視点により考察を加えてまいります。読者の皆様にとって、発想や視野を広げるひとつのきっかけ・刺激となれば幸いです。

男女双方が「自分たちは割を食っている」と考える日本

 ここ数回のコラムでは博報堂生活総合研究所の「家族調査」を基に、30年前との時系列比較の観点から、日本の家族の今を考察してきました。本コラムでは切り口を変えて、海外比較の観点から、日本の家族にまつわる意識の特徴を見ていきたいと思います。

 生活総研では長期時系列の「家族調査」に加え、「家族に関する4カ国比較調査」として、日本と中国、タイ、スウェーデンの4カ国の男女1600人に家族観や夫婦の役割分担意識などを聴取しました(調査詳細はコラム末尾に記載)。ここからいくつか、特徴的な調査結果をご覧いただこうと思います。

 まずは「家庭生活における男女平等意識」について。

「あなたの家庭生活では、男女の地位は平等になっていると思いますか? それとも、男性、女性のどちらかが優遇されていると思いますか?」との質問を行い、「どちらかといえば女性が優遇されている」「ほぼ平等になっている」「どちらかといえば男性が優遇されている」の3択から答えてもらいました。その回答がこちら。

日本では「平等」50.8%、「女性が優遇」23.5%、「男性が優遇」25.8%。
中国では「平等」63.0%、「女性が優遇」が4カ国で最多の29.0%、「男性が優遇」8.0%。
タイでは「平等」73.0%、「女性が優遇」16.8%、「男性が優遇」10.3%。
スウェーデンは「平等」が4カ国で最多の76.0%、「女性が優遇」11.0%、「男性が優遇」13.0%
 

となりました。

 海外と比べると日本は、男女平等になっているという意識が比較的低く、かつスコア的には「女性が優遇」と「男性が優遇」、両方のバランスがとれた形になっています。日本では家庭によってタイプにバラつきがあるのかな? と思いきや、どうもそういうわけではなさそうです。

 各国の回答を男性・女性別にブレイクダウンして見てみると、結果は以下のようになりました。

 日本の結果に着目すると、

男性:「女性が優遇」31.5%、「平等」54.0%、「男性が優遇」14.5%
女性:「女性が優遇」15.5%、「平等」47.5%、「男性が優遇」37.0%
 

 日本の男性は「女性が優遇されている」と感じており、反対に女性は「男性が優遇されている」と感じている人が多いという、なんとも微妙な結果となりました。男性も女性も双方が、「自分たちは割を食っている」と感じている度合いが強いのが日本の家庭の状況です。

 実際の状況がどうであれ、夫婦それぞれの認識が食い違っているというのは、好ましい状態とは言いづらいのではないでしょうか。他の3カ国ではここまで男性と女性とで意識差がなく、かなり特徴的な傾向と言えます。

家事分担の理想と現実の差が大きい日本

 もうひとつ、家庭内の平等意識について、家事などの役割分担の面から聞いた調査結果をご紹介します。

「家庭における夫婦の役割について、あなた自身の理想に最も近いのは次のうちどれでしょうか」との問いかけに、

「妻は家事や子育てなどの家庭内の役割を、夫は仕事などの家庭外での役割を担う」(伝統型)
「家庭や子育て、仕事、日々の買い物などについて、夫婦で平等に分担する」(平等型)
「家事や子育て、仕事、日々の買い物などは、夫婦のうちその時にできる方がやる」(柔軟型)
「夫は家事や子育てなどの家庭内の役割を、妻は仕事などの家庭外での役割を担う」(逆転型)
 

 以上の4つの選択肢から当てはまるものを選んでもらいました。その回答がこちら。

日本では「柔軟型」が最多で36.9%。次いで「伝統型」35.1%、「平等型」25.1%、「逆転型」は少なく2.8%。
中国では「平等型」が最多で39.0%。次いで「柔軟型」38.3%、「伝統型」22.4%、「逆転型」0.3%。
タイでは「平等型」が過半数の51.3%で最多。次いで「柔軟型」29.4%、「伝統型」18.8%、「逆転型」0.5%。
スウェーデンは「平等型」が最多で48.2%。「柔軟型」34.0%、「伝統型」14.7%、「逆転型」3.0%。
 

という結果となりました。他国と異なり日本の理想は「柔軟型」が最も多く、また「伝統型」も比較的高いため、その分「平等型」の割合が低いことが特徴となっています。

 ではこの理想、実際にはどの程度叶っているのでしょうか。同様に役割分担の“現状”について聞いた調査結果を見てみましょう。理想についてのスコアと照らし合わせる形で現実のスコアを見ると、

 日本では役割分担の“現実”は、

「伝統型」が最多の56.2%。「柔軟型」23.3%、「平等型」17.2%、「逆転型」3.3%
 

となりました。この特徴は何と言っても、「理想と現実のズレ」に尽きるでしょう。

・理想トップの「柔軟型」では、理想と現実の差は約14ポイントと、4カ国で最も差が大きい
・理想では「柔軟型」+「平等型」が過半数だが、現実で過半数を占めるのは「伝統型」
 

・・・など、他の3カ国では理想と現実のスコアがそこまで乖離していないのに対して、日本は理想と現実の差がだいぶあることが、グラフからも視覚的にお分かりいただけるかと思います。

日本の家族が抱える2つのズレとその背景

 以上の調査結果をまとめると、中国、タイ、スウェーデンと比べて日本は、

・家庭内の平等意識について、男性と女性の間でズレが大きい
・家庭内の役割分担について、理想と現実の間でズレが大きい
 

と、2つの意味でズレが生じているのが、日本の家族の特徴だと言えそうです。この状況、何が背景にあるのでしょうか。

 以前のコラムでもご紹介したように、1988年から2018年の30年間、日本では共働き増加など女性の社会進出が進んだことなどを端緒として、家庭内における女性の決定権や発言力は徐々に強くなっていきました。

 女性の社会進出は同時に「夫ももっと家事や育児に参加すべき」という男性側の意識変革にも着実につながってはいくのですが、いかんせん仕事の多忙さや家事スキルの問題もあり、実際には家事分担の比重は妻側に大きく偏っている。これにより家事分担意識は高いものの行動が伴わない、「意識だけ高い系」の夫たちが増えている状況も生じています。

 男性側では、家庭内で徐々にパワーを増していく女性たちを見て「女性優位(=どんどん強くなっていくな・・・)」の認識が強まっている。かたや女性側では、理想はさておき現実の暮らしは相変わらず「伝統型(=家事分担比重が大きいのは結局自分たち)」という状況に対して、「男性優位(=いいわよね、あなたたちは・・・)」の認識を強めている・・・。こんな双方の心の動きが、調査結果の背景にあるのかもしれません。

 一方の海外について。最も男女の平等意識が高く、役割分担では伝統型が少なかったスウェーデンを例にとると、1970年代という比較的早い時点から女性の社会進出、男性の家事参加を促すような制度が整備されたことが上記結果につながっているようです。

 所得税を世帯別から個人別に課税する方式に変更、夫婦で所定日数の育児休暇取得を義務化、幼児期の子がいる親には6時間勤務を認める・・・など、政府や民間企業の協力を経てさまざまな制度改革を行った結果、女性の専業主婦割合はなんと2%に(2015年時点。同年の日本では38%)。結婚後・出産後も女性は働き続け、男性も家事・育児を分担することが当然という意識が定着しているようです。

 日本でも「一億総活躍社会実現」の掛け声のもとでさまざまな制度改革が進められていますが、まだまだ道半ば。単純に「日本もスウェーデンを目指すべき」と主張したいわけではありませんが、平等意識の男女ギャップや役割分担の理想と現実ギャップが比較的小さいことは好ましい状況であり、スウェーデンケースは日本にとっても参考になるのではないでしょうか。

家族のズレを埋めるのは「第三の選択肢」?

 最後にひとつ、こんなデータを紹介します。

 家族や家事のあり方についての意識で、「家事は外部のサービスにゆだねず、家族でやることに意味がある」と思うかどうか尋ねたところ、

日本:33.3%
中国:60.0%
タイ:73.5%
スウェーデン:62.3%
(4カ国全体平均:57.3%)
 

となりました。「家事は自前でやるべき」という保守的な考え方は日本でも根強いのかなと思いきや、4カ国比較では日本が最も低く、家事のアウトソース化にも受容性があるようです。

 近年ではさまざまな事業者が家事代行サービスに乗り出し、提供プランや料金にもバリエーションが出てきました。また企業でも福利厚生の一環として、従業員が家事代行サービスを利用した際に費用負担を補助する動きも増えてきています。

 家事分担に起因する形で生じた家族内のズレ。これを解消してくれるのは、「どっちが、何を、どれだけやるか」のような夫婦ふたりの綱引きという袋小路を抜け出すこと・・・。すなわち、思い切った家事のアウトソース化という「第三の選択肢」なのかもしれません。

○「家族に関する4カ国比較調査」概要
調査地域:日本、中国、タイ、スウェーデン
調査対象:20~59歳の男女
※対象条件として、以下の(1)(2)の少なくとも一方に該当する男女
(1)同居するパートナーがいること(法律婚に加え、事実婚・同棲を含む。相手の性別不問)
(2)同居するパートナーはいないが、同居する子どもがいること
調査人数:1600人(1カ国400人×4カ国)
調査手法:インターネット調査
調査時期:2018年2月28日3月20日

○参考情報
「家族30年変化」研究紹介サイト(https://seikatsusoken.jp/family30/

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